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現在の俺の状態を簡潔に述べよう。
手が後ろに縛られている。
俺を横で監視している人が二人。
全方位に俺を見下せるように作られただろう椅子が並べられ、
正面にはまるで裁判ではないのかと思わせる席が存在している。
というか──裁判だ。
なぜそうなっているのか、その前の経緯を説明しよう。
◇◇◇◇
勝負の後、俺はクライドに強制的に宿屋に連行された。
なぜだか良くわからない。
「お前ニートって言ったよな?」
その言い方は威圧的だった。
「……そうだけど?」
聞こえるか良くわからないほど小さな声で返答した。
「お前、ニート革命から随分の時が経つけど──その間はどうしてたんだ?」
良くわからん単語が出てきたぞ?
どういう事だ?
「ニート革命って……何?」
俺がその言葉を口にした瞬間──クライドは驚きを露わにした。
「ニート革命を知らないだと!?今まで何してたんだよ!!」
真面目に驚いてそういう言葉を口にしているのなんだか笑えてしまう。
「引き篭ってただけだけど?」
するとさらに彼は驚く。
「掲示板を見たことは?」
「一回だけかな」
どうやらクライドは驚くを通り越して呆れたようだ。
「ニート革命っていうのは、一年半前に起きた事件だ。
ニートの奴等が集まったギルド《NEETs》のギルドマスターが始まりの町の時計塔で、
俺達は怖くて何もしないんじゃない!!あえて何もしないんだ!!って叫んだのが事の発端。
それを聞いて怒り狂った奴が魔法で狙撃した後、町のニート達をPKし始めたんだ。
これはまずいと思ったトップギルドの《扉の守護者》がそれを食い止め、
残ったニート達を救済し、とりあえずニート達全員を職に就かせたのが一連の流れ」
ほう。
つまりニートはもう俺以外に居ないというわけだ。
「ここに途中で周りから変な目で見られたりしなかった?」
「すごい視線を浴びてた」
なんか少しずつ話せるようになって来たぞ!?
「今のこのゲーム内でニートは蔑まされる対象だから、それをどうにかしようと思う」
納得。
「どうしてくれるの?」
そう聞くと彼は満面の笑みで言ったのだ。
「──ちょっと着いてきて」
◇◇◇◇
──そして現在に至る
正直、これだけじゃ全くここに来る理由になってないのだが、
その後にクライドに大きな建物に連れて来られて、
ここに居るのだ。
全く訳がわからん。
──そんな中、裁判官の一人が切り出す。
「それでは第一〇八回異端審問議会を始める。議長の入場です──」
その後俺以外の全員が拍手を始めた。
俺は議長席のほうに合わせて視線を上にやった。
数秒後──
議長席の後ろにある扉が開き、議長らしき人物が登場したのだ。
──俺はその瞬間。
体中の芯までもが凍りついた。
見た目は魔法使い。
大きな杖を利き手であろう右手に持っている。
パッと見からして女性であろう。
綺麗な黒い髪の毛を揺らしていた。
顔を見ると、十中八九誰もが綺麗と言うであろう。
一人の美人が居た。
俺はその顔を忘れないだろう。
その綺麗な瞳から涙を浮かべていた事を。
決して忘れないだろう。
彼女の涙が悲しさか嬉しさなのかは良くわからない。
いろいろな要素が綯い交ぜになってその涙が造られたのだろう。
──俺はその涙を見た瞬間。
俺にも眼にこみ上げてくる物が来たのだ。
それを無理矢理に押し殺す。
彼女の事を俺は良く知っている。
二年経っても決して忘れなかった顔。
この顔をよく知っている。
俺の目の前に現れた彼女は──俺の妹だった。
「異端人に問う。この一年半もの間一体何をしていたの?」
どうやらここでは俺の事を異端人と言うらしい。
そして同じ質問を一日の内に二回もされるとは……。
「引き篭もっていた」
機械のごとく適当に答える。
ここは素直に質問に答えていた方がいいのだろう。
「あなたの職業は《ニート》なの?」
性格には《エリートニート》なんだけど……。
ここはどう答えるべきなのだろうか。
「大体、そんな感じ」
適当に誤魔化した。
レアジョブだし。明かさない方がいいよね?
「では異端人に判決を告げます──」
──えっ!?
早過ぎるな。
もしかして、ニート自体が有罪なのか?
「──有罪。」
この審議会ではニートは有罪らしい。
「異端人にはこれから転職を行ってもらい、ギルド《扉の守護者》に入ってもらいます」
トップギルドに強制参加か。
なるほど。
更正させて、育成するのがお前の方針なのか。
「もしも──従わない場合は?」
雅は無表情のまま言う。
「──殺すだけよ」
それはただの脅しだよ。
そんなのじゃ納得できない。
「そうか。じゃぁ、俺は従うしかないのか」
「そうなるね」
雅の表情は変わらない。
「それは嫌だな。だから──」
──この判決に異議を唱える。
そう言った。
会場内が騒がしくなる。
「何を今更言うの──一度決まった判決は覆らないわ!!」
基本的にはそうだろうな。
でも有罪となる前提条件がそもそも違っているんだよ。
ならば覆す事は可能なはずだ。
「俺が有罪になった理由は、職業が《ニート》だからだろう?」
そう聞くと、彼女は肯定した。
「でも俺は職業が《ニート》か?と聞かれて、大体そんな感じと答えただけで、ニートと公言したわけではない」
ここまでは大丈夫。
あとは前例があるかないかだけだ。
「では、あなたの職業は一体何だと言うの?」
「俺を部屋に引き篭もっている《ニート》共と一緒にするんじゃない──俺の職業は《エリートニート》だ!!」
騒がしかった会場は静まり返った。
やっちまったぜ……。
「ならば職業カードを見えなさい」
どうやら雅は落ち着きを取り戻したみたいだ。
俺は職業欄以外の項目を見えないように設定して彼女に見せる。
《エリートニート》:レアジョブ。
ここまできたらもうお仕舞い。
ニートを極めた者のみなることが出来る。
防具は重量1の物のみ装備可能
これ以上レベルが上がらない。というか上げないでください。
自身の全ステータス5倍。ただしニートには意味が無い。
雅の様子を見ると口が開いたままだった事から、
相当な驚きとショックがあったという事が容易に分かる。
「この場合だと俺の判決は一体どうなるんだい?」
「でもあなたがニートだという事には変わりはないでしょう?」
そうきたか。
「そもそも議長どのは何を基準にしてニートと決めるんだ?」
「それは、戦わなくて、ほかの生産系の事もしなくて、町に引き篭もっていて、何もしない奴の事をニートと呼ぶのでしょう」
「でも、このゲームではプレイを始めて一ヶ月の間にスキルを何もとらなかった者は《ニート》という職業を手に入れるんだよ。
その人達をこのゲームのプレイヤーはニート呼んだはずだ。
そのニートの大部分が戦わなくて、ほかの生産系の事もしなくて、町に引き篭もっていて、何もしない奴だっただけで、一部の人はモンスターと戦ってたりしたんだ。」
「つまり、あなたが言いたいのはその一部の《ニート》も職業的に《ニート》だから、私のいうニートの基準が間違っているという事かしら?」
「そういう事だ。」
若干自分の考えている事がこんがらがって分からなくなって来た……。
「では、話を変えてこの《エリートニート》の説明文にニートを極めた者のみなる事が出来ると書いてありますが、つまりこれはあなたが引き篭もってニートレベルを上げたという事ですよね?」
そこを突いてくるのか。
この部分は俺がニートだった証明にもなる。
つまり、この部分を防ぎきれば俺の無罪は近づいてくるはずだ。
「そうだな。一つ質問だが、今まで審議してきたニートの中でたった一人でもニートのレベルが一を超えた奴はいるのか?」
おそらく俺の予想が正しければ、この審議に勝てるはず。
ニートレベルを上げるにはただ単に町に引き篭もっていれば上がるものではない。
「一人も居ませんでした」
──やはりか。
この時を俺は職業の本当の意味を理解したのだった。
それと同時にこの審議での勝利を確信した。
「だろうな。職業の説明文には主に引き篭もるとレベルが上がると書いてあるが、これはある場所に引き篭もらないとレベルが上がらないんだよ」
「ある場所とは?」
俺が引き篭もっていた場所──
二年間も引き篭もっていたんだ。忘れるはずがない。
「──フィールドだよ」
フィールドとは町の外を意味する。
つまり、モンスターの出現する場所を意味するのだ。
そしてそこにどれだけ長く引き篭もるかによって、ニートレベルは上がる。
一度でも町に戻ってしまったらそれはもう引き篭もりではない。
そしておかしいとは思わないだろうか?
《ニート》なのに全ステータスが二倍になるなんて変な話だろ?
この事が意味するのは──
「職業は──どうしようもなく戦闘職なんだよ」




