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扉の先に俺が見たものは──湖だった。
直径五十メートルくらいの湖が白い空間に囲まれている。
水龍の姿は見えない。
湖の中にいるのだろう。
俺は湖の上に立つのをやめて、潜る事にした。
水の中に潜るの実に九ヶ月ぶりである。
そこには気持ちいいという感覚は無く、気持ち悪い。
水中を見渡してみると──何もいない。
──どういう事だ?
──汝、何を求めに来た──
水は喋った。
しかし水龍は見当たらない。
──答えよ──
俺は頭がパニックになって来た。
敵が見つからない。
そのまま俺が硬直していると、
俺を中心とした渦巻きが発生した。
「えっ!?」
俺は驚いているだけで何も出来なかった。
身体がドンドン底に向かって沈んでいく。
なにが起きているんだ?
とりあえず考えよう。
水龍は水の龍だ。
だがそんな物は見当たらない。
次に、水について考えよう。
水は液体で特に決まった形は無い。
ただ、水が龍の形をすればそれは水龍になる。
──つまり。
この湖全体が水龍って事になるんじゃないのか──?
そして俺が今いる場所は。
水龍の体内。
そう考えると鳥肌が立った。
どうりでHPが減ってくわけだ……。
「ウンディーネ!力を貸してくれ!!」
水龍相手なら水の根源であるウンディーネに任せれば問題ないはずだ……。
そう考えた俺はウンディーネを召喚した。
ウンディーネが姿を現す。
すると俺を中心に発生した渦が消滅する。
──これで水面に上がれる。
しかし今ので俺のHPはイエローゾーンに突入した。
一応回復アイテムは持っているが、木の実は使う前に食べるために時間が生じるのだ。
正直ソロで使うのは無理がある。
もう少しやりくりしないと……。
ウンディーネと共に俺は水面に上がる。
すると正面に見える水が水龍に変化した。
やはり俺の考えは合っていたか・・・・・・。
水龍は水ブレスを口から吐き出す。
──速過ぎる。
回避が間に合わない──
──そう思った時、ウンディーネが手をかざした。
すると、水圧の暴力だった水ブレスはウンディーネの前で勢いを失った。
そうか、水属性攻撃を無効にするんだった。
てなると、この勝負楽勝じゃね?
──俺が考えたそう瞬間。
ウンディーネは消えた。
──どういうことだ!?
俺の思考でも読み取ってるのかよ!
とか考えていたが、理由はいたって簡単な話だった。
俺のスタミナが、底をついたのだ。
召喚魔法は召喚する時と召喚維持にスタミナを必要とする。
それは召喚する対象が強ければ強いほど消費が激しいのだ。
ましてや、精霊クラスになると──
どれだけスタミナがあろうとものの数十秒で尽きるだろう。
召喚魔法はゆえに極意を習得しなければ話にならないのだ。
極意を習得すると低燃費で維持が出来るようになれる。
──練習しとけばよかった。
時間はたんまりあったのに。
こんな理由で俺が死んでしまったら一生悔やむだろう……。
そうもたもたしてる間に水龍は俺に向かって咆哮をしながら突進をしてきた。
──噛み付き攻撃。
その攻撃は至って単純。至極簡単だ。
しかしその単純さゆえに、最も殺意が剥き出しなる攻撃。
食らえば一溜まりもないだろう。
しかし今の俺に走ることは許されてない。
スタミナの自動回復を待つしかないのだ。
俺が動けない間に奴は凄い勢い距離を縮めて来る──。
──あと五メートル。
──あと四メートル。
──あと三メートル。
──あと二メートル。
──あと一メートル。
この瞬間──
俺は死を覚悟した。
人間が死を覚悟した時に時間が長く感じるというのは──どうやら本当らしい。
俺のこの過ごした二年間の思い出が頭の中で再生された。
──全てが終わって、全てが始まった日──
──アルとこの地に迷い込んだ事──
──木の実を取った事──
──イメトレの日々の事──
──ニートになった事──
──エリートニートになった事──
──アルと一騎打ちをした事──
──ウンディーネと出遭った事──
そんな事を思い出していた俺が最期に思い出したのは、
──家族の事だった。
そういえば雅と葵に謝ってなかったっけ……。
本当に悪い事をしたな……。
ごめんよ。こんな兄ちゃんで。
俺はもう──頑張ったから。
だから。
ここで終わっても──いいよね?
そう思っているはずなのに──
──なぜか俺の瞳からは涙が零れているのだった。
──死にたくない。
俺の心からの叫びはそれだった。
──その時。
俺の視界に存在する気力を表示するゲージが一割だけ回復した。
無理だ。
もう遅い。
奴との距離はわずか五十センチ程度だ。
避けられるはずがない。
俺はここで──死ぬんだよ。
そう思っているのに、
──絶対に──死ぬなよ……──
──あいつとの約束が頭に浮かんで来るのだった。
すると俺の頭はこの状況を打開する方法なんか考え始めやがる。
どんだけ律儀なんだよ。約束なんて破っちまえばいいのに。
俺の命は一秒後には尽きている。
残された時間は多く見積もって10フレームあるかどうか程度だろう。
それは秒単位にして──0.17秒。
逃げることは不可能。
攻撃は……
──その考えに至った時。
俺はさらに涙を零した。
常人なら不可能だ。どんなに速くてもスキルを発動の間にやられてしまう。
しかし俺はスキルを必要としないのだ。ニートだから。
俺だけは──攻撃が。
可能だった。
全てはこの時のための二年間だったと確信した。
ニートになりながらも毎日練習を積み重ねたあの日々は。
──この一瞬のために存在した。
大丈夫。
間に合う。
──俺の一閃はあらゆる物を──絶ってみせる──
──全ては一瞬。
腰の刀を握り。
刃を引き抜き。
目の前にある物を横薙ぎする。
瞬きを一回したら全てが終わっている位の速さだ。
この動作のあと──水龍は水に戻った。
そして水は俺に問う。
──今一度聞こう。汝、何を求める──
俺は答えるのだった。
「力だ。力があれば、全てを守れる──」
この瞬間。
俺の二年間は終わりを告げた。
-Quest Clear-
ようやく一区切りがついたのあとがき書いてみます。
あれこれ書こうとか考えていたのですけど、
いざ書き始めるとなかなか思いつかないものですね。
この小説一年前くらいに書き始めたものなんですけど、
途中で飽きてしまって、現在二章の終わりまでしか書いていません。
なのでこのまま投稿していくとあっという間に貯金が切れてしまうので
すこし投稿ペースを落とさせてもらうかもしれません。
かなり飛ばし飛ばしにクエスト中の出来事を書きましたが、
ミナト自身他にもかなり多くの体験をしています。
それらは気が向いたら何かしら書く予定です。




