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鳶渡の時  作者: 春日戸
第弐話【光の道】
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2-4

 トキは現行世界に帰化し、夜を感じた。

 つや子は看護師が寝かせたのか、仰向けで布団被り、疲れたように眠っていた。まだ19時ほどであったが、体力が無いつや子にとって、泣くということは相当な消耗となっていたようだ。

 トキはポリポリと頬を掻いた。


「なんだ、わざわざずらす必要、なかったのか」


 それだけを言い残し、つや子を起こすこともせず、トキは忍ぶように病室から出ていった。

 もうすぐ改変された過去が、現行世界に波及する。鳶渡の時が、始まる。




 それから三日後、トキはつや子の病室の前に居た。

 奥から明るい声が響き、外からでも幸せに満ち溢れた空間だと、肌に感じる。トキは気付かれないよう、そっと僅かにドアを引き、隙間から中を覗き込む。

 ベッドの周りを囲むように、あの時の太身の女性と子どもが2名、つや子と同年代ほどの女性2名、男性1名が居た。そして、見たこともない、満面の笑みを浮かべる生き生きとしたつや子が一人。


 第一印象から感じた負など何処へやら。今は幸せを噛み締めているか如く、生命に溢れた、奇跡のような笑顔が零れていた。

 トキの顔の筋肉は釣られるように綻び、笑顔を見出した。


「やっぱり、あんたの笑顔は相当なもんだ」


 囁いて、笑顔の余韻を残したまま、トキは去っていく。

 その間際に、足を止め、振り向き、こう放った。


「あんたの笑顔は、………。ま、それでいいか」


 恥ずかしがりながら、トキはポケットに両手を突っ込んで、廊下を歩いていった。


 つや子の知らぬ間に、鳶渡の対価は、支払われた。



 それから二日後。

 トキはつや子の病室を前にして、名札が入れ替わっていることに気付き、黙祷を捧げることになった。


 もう、死に顔は見なくとも、目に映る。



 人生という名の道のりを突き進み、その終着を知ってしまった者には、その果てが、どのように見えるのだろうか。暗鬱が立ち込める異業な姿か、或いは、見ているだけで笑顔が綻ぶ、恍惚な姿か。


 契機を終えた篠原 つや子は、狭間で何を見たのだろうか。

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