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第二章 花火

外気は冷たく、乾いていた。

施設の外に出たという実感が、遅れて身体に追いつく。


地球の夜空は、深く、暗い。

雲はなく、星は遠く、

人工の光が地平線を薄く縁取っている。


その向こうに、

街があった。


人が住み、

灯りが並び、

いつも通りの夜を過ごしている場所。


――まだ、壊れていない世界。


「……レイは」


ユリが口を開いた、その瞬間だった。


夜空が、裂けた。


一瞬、時間が止まったように見えた。

次の刹那、

爆発が“開く”。


光が、咲く。


赤だけじゃない。

青、緑、紫、白――

幾重にも重なった色が、

夜空いっぱいに広がっていく。


それは、確かに花火だった。


だが、祝うためのものではない。

終わりを告げるための、

あまりにも大きな花。


爆心から放たれた光は、

雲を照らし、

空を照らし、

そして――


街を照らした。


遠くにあるはずの街並みが、

輪郭を持って浮かび上がる。


建物の列。

道路の線。

窓に灯る生活の光。


一瞬だけ、

世界の裏側まで見えてしまったような錯覚。


遅れて、音が来る。


空気が潰れる。

骨の内側を叩く衝撃。

地面が震え、

夜が軋む。


熱が頬を撫で、

風が押し返す。


ユリは、声を失ったまま、

空を見上げていた。


エリカは、目を逸らさない。


あの場所に、

レイがいた。


自分たちを逃がすために、

立っていた場所。


追撃のライトが、

一斉に爆心へ向かう。


赤色灯が、

警告のように点滅する。


誰もが、

そこに「何か」が起きたことを理解した。


そして、

誰もが、あの光を忘れられなくなる。


花火は、

ゆっくりと消えていく。


色が薄れ、

煙が残り、

夜が、元に戻ろうとする。


だが、

元には戻らない。


ユリの喉が、

かすれた音を立てる。


「……行かなきゃ」


それが、祈りなのか、

現実なのか、

彼自身にも分からなかった。


エリカは、小さく首を振る。


「……今は、逃げる」


その声は、

夜よりも静かで、

爆発よりも重かった。


二人は、

背を向ける。


夜空の奥で、

花火が完全に消えるのを、

誰も待たなかった。


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