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第十五章 上空都市


木星は、近すぎるほど巨大だった。


窓一面を埋め尽くす縞模様が、

ゆっくりと回転している。

美しいはずなのに、

どこか、胃の奥が冷える。


「減速、入る」


ユリの声は低い。


船は、

木星上空に浮かぶ都市へと近づいていく。


金属と光で組まれた構造体。

都市というより、

要塞だった。


「……警備、厚い」


レオナがモニターを見る。


巡回艇。

索敵ドローン。

すべてが、規則正しい。


「正面突破は無理」


エリカが短く言う。


「……偽装、使う」


ユリが操作を切り替える。


船体の反応が変わり、

識別信号が、別のものに上書きされる。


政府軍。

補給部隊。


「……通用する?」


レオナが、息を詰めたまま聞く。


「通用させる」


ユリは、前を見たまま答えた。



通信が入る。


『識別コード、確認中』


一拍。


長い。


エリカは、

無意識に胸に手を当てる。


傷は塞がっている。

だが、

撃たれた記憶は、まだ生々しい。


『……確認完了。

 第七ドックへ進入せよ』


「……来た」


レオナが、かすかに呟く。


誰も、笑わない。


船は、

ゆっくりと都市内部へ吸い込まれていく。



ドック。


磁力ロック。


着艦。


「……ここからは、徒歩」


ユリが言う。


三人は、

倒した衛兵から奪った装備を身につける。


軍服。

ヘルメット。

無機質な仮面。


「……似合ってる?」


エリカが、冗談とも本気ともつかない声で言う。


レオナは、即答する。


「笑えない」


その一言で、

緊張が、逆に研ぎ澄まされる。


通路に出る。


白い床。

高い天井。

無駄のない構造。


足音が、やけに響く。


「……右」


ユリが、小さく指示する。


曲がり角。


向こうから、

二人組の兵士。


一瞬。


レオナの心臓が、

はっきりと跳ねる。


「……落ち着いて」


エリカが、

ほとんど唇を動かさずに言う。


すれ違う。


兵士の視線が、

一瞬、こちらを見る。


時間が、伸びる。


だが――

何も起こらない。


通過。


三人は、

曲がり角を越えてから、

ようやく息を吐いた。


「……今の、

 心臓に悪い」


レオナが、低く言う。


ユリは、答えない。


代わりに、

視線を奥へ向ける。


表示板。


免疫研究区画。


「……着いた」


エリカの声が、震える。


ここに、

答えがある。


終わらせるための、

何かが。


そのとき。


レオナの背中に、

ぞくり、とした感覚が走る。


――近い。


レイだ。


言葉はない。

だが、

強い警戒が流れ込んでくる。


「……待って」


レオナが、足を止める。


ユリとエリカが、同時に振り向く。


「……何かいる」


その直後。


通路の奥で、

警報が鳴り始めた。


低く、重い音。


「――まずい」


ユリが、即座に判断する。


「時間がない」


三人は、

顔を見合わせる。


誰も、迷っていない。


「……行こう」


エリカが言う。


「ここまで来た」


警報音が、

さらに大きくなる。


追いつかれる前に。


免疫施設の扉が、

目の前にあった。


その向こうに、

終わらせるための真実がある。


三人は、

一斉に、走り出した。

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