第十四章 同じ方向
航行は、安定していた。
星々が、
静かに、流れていく。
エンジン音は低く、
一定で、
船内に余計な振動を残さない。
ユリは操縦席で、
数値を確認していた。
異常はない。
航路も、問題ない。
それでも――
胸の奥が、ざわつく。
理由は、分からない。
「……」
レオナが、突然、立ち止まった。
誰も呼んでいない。
何かを見たわけでもない。
ただ、
空気が変わった。
「……来てる」
小さな声。
ユリが振り向く。
「何が?」
レオナは、答えない。
答えられない。
彼女は、
ゆっくりと呼吸を整え、
目を閉じた。
その瞬間、
胸の奥に、
重い感情が流れ込んでくる。
言葉じゃない。
映像でもない。
ただ、
はっきりとした感覚。
――怒り。
――悔しさ。
――守れなかったという痛み。
そして、
それ以上に強いもの。
一緒にいる、という確信。
レオナは、
思わず、歯を食いしばった。
「……レイだ」
名前を口にした瞬間、
その感覚が、さらに深くなる。
エリカが、
そっと立ち上がる。
「……そこ、
誰かいるの?」
レオナは、
目を開けないまま、頷いた。
「言葉は……ない」
「でも……」
喉が、少し詰まる。
「怒ってる」
「すごく……
私たちと、同じくらい」
ユリは、
静かに聞いている。
遮らない。
「それから……」
レオナは、
自分の胸に手を当てる。
「……ここにいる」
「同じ船」
「同じ方向を、
向いてる」
エリカの指が、
わずかに震えた。
「……レイ?」
返事は、ない。
でも。
エリカは、
確かに感じた。
拒絶されていない。
レオナが、
ゆっくりと目を開ける。
「私には……
言葉にならない」
「でも……
伝えなきゃいけないことは、
分かる」
ユリが、
低く問いかける。
「……何を?」
レオナは、
はっきりと言った。
「行け、って」
「木星へ」
「止めろ、って」
「終わらせろ、って」
その言葉に、
エリカの胸の奥で、
あの声が、微かに重なる。
――おわらせて。
「……同じだ」
エリカが、呟く。
「私が聞いた声と」
レオナは、
静かに頷く。
「怒りだけじゃない」
「……選んでる」
「私たちが、
どうするかを」
ユリは、
操縦席で前を向いたまま、言った。
「……じゃあ」
「一緒に行こう」
「戻れなくても」
「終わらせるために」
返事は、ない。
でも。
レオナは、
胸の奥が、少し軽くなるのを感じた。
伝わった。
それだけで、
十分だった。
船は、
木星へ向かって進み続ける。
四人は、
同じ場所にいる。
形は違っても、
同じ方向を向いて。
言葉は、
もう、必要なかった。




