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第十三章 血の海

情報局の照明は、

長く居座ることを想定していない光だった。


明るすぎず、

暗すぎず、

ただ“作業ができる”だけの白。


エリカは、椅子に深く腰を下ろしていた。

治療を受けた身体は、まだ重い。

それでも、目だけは冴えている。


「……ここ」


小さな声。


ユリとレオナが、同時に顔を上げた。


エリカの指先が、

一つのファイルを示している。


《回収不能領域/仮称:BLOOD SEA》


「……血の海」


ユリが、ゆっくりと口にする。


言葉にした瞬間、

胸の奥が、嫌な音を立てた。


「仮称、ってことは……」


レオナが続ける。


「正式名称を付ける前に、

 触れられなくなった場所ね」


エリカは、頷いた。


「記録が……

 意図的に削られてる」


星図が表示される。


いくつもの航路。

だが、その中心だけが、

ぽっかりと空白だ。


「……近い」


エリカが、そう言った。


ユリは、首を傾げる。


「近い?」


「場所、じゃない」


エリカは、

自分の胸に手を当てる。


「感覚が」


「……レイが、

 近くにいるときと、同じ」


レオナの視線が、

一瞬、揺れた。


「……確かに」


彼女も、

何かを感じていた。


説明はできない。

だが、

ここが“行き先”だと、

もう分かってしまっている。


ユリは、

静かに息を吸った。


「……ユリ」


レオナが、呼ぶ。


「これを、

 見つけたってことは……」


その先は、言わなくても分かる。


政府が探している。

軍が欲しがっている。

ブラッドフォードが、命を賭けてまで追っている。


それを、

先に見つけてしまった。


「……怖い?」


ユリが、エリカに聞く。


エリカは、

少し考えてから答えた。


「……怖い」


正直な声。


「でも……」


一拍。


「行かなきゃ、

 終わらない気がする」


その言葉に、

ユリの胸が、静かに熱を持つ。


「……レイは、

 ここにいると思う?」


エリカは、

はっきりと頷いた。


「いる」


理由は、言わない。

理由は、要らなかった。


レオナが、立ち上がる。


「決まりね」


彼女の声は、

もう揺れていない。


「行く」


「血の海へ」


ユリは、

最後に画面を見る。


空白。

削除された記録。

無数の“未回収”。


「……終わらせよう」


それは、

復讐の言葉じゃない。


破壊の宣言でもない。


連鎖を断つための言葉だった。


そのとき。


エリカの胸の奥で、

あの声が、微かに響いた。


――おわらせて。


今度は、

逃げなかった。


エリカは、

小さく、頷いた。


「……分かった」


誰に向けた返事かは、

分からない。


だが、

一歩は、もう踏み出している。


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