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第十ニ章 記録の向こう側

情報局の中枢は、

音が少なかった。


警備が気絶したままだからではない。

元々、ここは感情を置いていく場所だった。


無数の端末。

整然と並ぶ記録棚。

光だけが、規則正しく瞬いている。


「……多すぎる」


レオナが、低く呟いた。


画面に映るのは、

番号。

年齢。

処置内容。


名前は、ほとんど残っていない。


ユリは、無意識に拳を握った。


「実験体……」


エリカは、椅子に座ったまま、

画面から目を離せずにいた。


まだ、完全には回復していない。

それでも、

ここに来ると言ったのは、彼女自身だった。


「……爆発」


表示された文字を、

エリカが声に出して読む。


「臨界反応。

 肉体消失。

 遺体、未回収」


同じ文言が、

何十行も、何百行も、続いている。


「……レイだけじゃない」


ユリの声は、かすれていた。


「同じことが、

 ずっと……」


レオナは、別のデータを開く。


そこには、

地図のようなものが表示されていた。


星図。

航路。

そして――

途中で、途切れた線。


「……ここ」


レオナが指差す。


「行き先が、消えてる」


ユリは、息を呑んだ。


「……血の海」


口に出すと、

その言葉が、急に重くなる。


「政府は、

 これを“場所”として扱ってる」


レオナは、淡々と続ける。


「でも、

 座標がない」


「見つからないんじゃない」


エリカが、静かに言った。


「……隠してる」


ユリは、

画面の端に表示された注記に気づく。


《優先度:最上位》

《軍事転用:可能》

《倫理審査:非公開》


「……兵器」


声が、勝手に出た。


核以上。

ブラッドフォードの言葉が、

嫌なほど鮮明に蘇る。


エリカは、胸に手を当てた。


痛みではない。

違和感。


「……ねえ」


小さな声。


二人が、エリカを見る。


「この記録……」


エリカは、画面の一行を指差す。


《精神反応:未確認》


「……未確認、じゃない」


エリカの瞳が、揺れる。


「私は、聞いた」


「声を」


部屋が、静まる。


ユリは、

ゆっくりと頷いた。


「……“終わらせて”」


レオナは、

その言葉を、噛みしめるように繰り返す。


「終わらせる、か……」


彼女は、

もう一つのファイルを開いた。


そこにあったのは、

古い記録。


ほとんどが、破損している。


だが、

一文だけ、残っていた。


《母体:行動制限あり》

《妊娠・出産のみを繰り返す》

《処理未完了》


エリカの喉が、鳴る。


「……母」


ユリは、

はっきりと理解した。


「終わらせる、って」


「世界を壊すことじゃない」


「……この連鎖を、だ」


誰も、否定しなかった。


画面の奥で、

記録はまだ続いている。


爆発した子どもたち。

回収されなかった遺体。

行き先不明。


そして、

どこかへ集まっている“血”。


ユリは、

静かに息を吸う。


「……行こう」


「どこへ?」


レオナが問う。


ユリは、画面を見たまま答えた。


「終わらせて、って言った場所へ」


エリカは、

小さく、でも確かに頷いた。


遠くで、

レイの怒りが、

まだ、静かに燃えている。


だが今は、

それが、道しるべだった。

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