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第十一章 声と怒り

眠りは、深くなかった。


エリカは、目を閉じたまま、

意識だけが水面に浮かんでいるような状態だった。


痛みは、もう鋭くない。

けれど、身体の奥に、

何かが引っかかっている。


――呼ばれている。


そんな感覚。


「……おわらせて……」


声は、音としてではなく、

直接、内側に触れてきた。


近い。

距離が、ない。


エリカは、息を吸おうとして、

静かに胸が上下するのを感じた。


「……だれ……?」


問いは、

言葉になる前に、溶けた。


「……おわらせて……」


女の声だった。


若いのか、老いているのか、分からない。

怒ってもいない。

命令でもない。


ただ――

疲れきっている。


エリカの胸が、きゅっと縮む。


この声は、

助けを求めている。


そう理解してしまった瞬間、

声は、ふっと遠ざかった。


エリカは、ゆっくりと目を開ける。


白い天井。

医療室。


現実に戻っている。

それでも、

何かが、確かに残っていた。



同じ頃。


レイは、怒っていた。


場所は分からない。

上も下も、距離もない。


それでも、

感情だけが、はっきりと存在している。


――撃った。

――利用した。

――兵器だと言った。


思い出すたびに、

怒りが、形を持つ。


「……ふざけるな」


声は、音にならない。

だが、圧として広がる。


自分は、爆発した。

それで終わりだと思った。


だが、終わっていない。


撃たれた。

泣かなかった。


それが、

どうしても許せなかった。


怒りは、

破壊衝動ではない。


守れなかったことへの怒りだった。


ユリが怒りを爆発させた瞬間、

自分も、同じ場所に立っていた。


同じ気持ちで。

同じ方向を向いて。


――一人じゃなかった。


レイは、意識を広げる。


ユリ。

レオナ。

エリカ。


三人とも、

まだ、生きている。


それが分かった瞬間、

怒りは、静かに燃え続けるものへ変わった。


「……次は、止める」


それは、誓いだった。


そのとき、

かすかな“声”が、意識を掠める。


女の声。


レイは、すぐに分かった。


――同じだ。


エリカが聞いた声と、

同じ場所から伸びている。


「……誰だ」


問いかけに、

答えはない。


だが、

確実に“何か”がいる。



エリカは、

ゆっくりと上半身を起こした。


ユリが、すぐに気づく。


「……起きてる?」


エリカは、頷く。


少し、迷ってから、言った。


「ねえ……ユリ」


「うん」


「女の人の声が、聞こえた」


ユリの表情が、変わる。


驚きではない。

拒絶でもない。


理解しようとする顔だった。


「……なんて?」


エリカは、はっきりと答える。


「終わらせてって」


その言葉が、

部屋に落ちる。


レオナは、無言で立っている。

だが、背筋が、わずかに強張った。


ユリは、しばらく黙ってから言った。


「……レイも」


「怒ってる」


エリカは、

ゆっくりと息を吐いた。


「……同じ、なのかも」


誰かが、

何かを、終わらせたがっている。


それが、

血の海なのか。

母なのか。

世界なのか。


まだ、分からない。


けれど。


この声を聞いたのは、

偶然じゃない。


三人は、

同じ場所に立ち始めていた。


見えないものを、

見ようとする場所に。


静かな部屋で、

次の選択だけが、

ゆっくりと形を持ち始めていた。


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