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第十章 治療

部屋は、白かった。


清潔で、無機質で、

それでも――

生かすために用意された白。


エリカは、ベッドに横たえられている。

腹部を覆う医療パネルの奥で、

淡い光が、規則正しく明滅していた。


「弾丸、摘出を開始します」


機械音声が、感情のない声で告げる。


ユリは、ベッドの脇から動けなかった。

エリカの手を、両手で包む。


冷たい。

それでも、確かに温度が残っている。


「……エリカ」


名前を呼ぶ。

返事はない。


心拍音だけが、

一定の間隔で鳴っている。


それが、

今のすべてだった。


医療アームが動き、

傷口に光が走る。


その間も、

エリカは声を上げない。


眉も、唇も、

ほとんど動かない。


レオナは、少し離れた位置から、その様子を見ていた。

腕を組み、背を壁に預ける。


表情は、いつも通り静かだ。

だが、視線だけは、逸らしていない。


「……泣かないのね」


思わず、口をついて出た言葉だった。


独り言に近い。

誰かを試すためでも、慰めるためでもない。


「痛いはずなのに」


ユリは、答えなかった。

エリカの手を、ただ、強く握る。


レオナは、少し間を置いて続ける。


「私だったら……

 たぶん、叫んでる」


自嘲でも、冗談でもない。

ただの、率直な感想。


「……強いのね」


エリカの指が、

ほんのわずかに動いた。


目は、まだ開かない。

けれど、

確かに、聞こえている。



「弾丸、除去完了」


「出血、制御」


「生命反応、安定」


三つの言葉が、

部屋に落ちる。


ユリは、深く息を吐いた。

肩の力が、少しだけ抜ける。


足が、わずかに震えた。


レオナは、何も言わずに近づき、

その背を、軽く支えた。


「……ありがとう」


ユリは、

誰に向けたのか分からないまま、そう言った。


そのとき。


エリカの指が、

はっきりと、ユリの手を握り返した。


「……」


ユリは、息を止める。


「……泣いてる?」


かすれた声。


レオナは、思わず視線を伏せる。

さっきの言葉が、胸に残っていたからだ。


ユリは、首を振る。


「泣いてない」



エリカは、小さく微笑った。


「……よかった」


「生きてる」


それだけで、

十分だと言うみたいに。


レオナは、

その表情を、はっきりと見た。


泣かない。

叫ばない。


ただ、

生きていることを、受け止めている。


「……本当に」


レオナは、心の中で呟く。


「強い子」


エリカは、

再び、ゆっくりと目を閉じる。


規則正しい呼吸。

安定した心拍。


白い部屋に、

静かな時間が戻った。


だが、

この静けさは、終わりではない。


次に来るもののための、

一瞬の猶予だった。


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