第九章 血の価値
「条件がある」
ブラッドフォードの声は、穏やかだ。
「血の海の情報をよこせ」
「研究所で知ったこと」
「母の話」
「行き先」
「座標」
「命が欲しければ、な」
レオナの拳が、震える。
ユリは、耐えきれずに叫んだ。
「……なぜだ!」
「なぜ、僕らなんだ!」
「血の海と、
僕らに、
何の関係がある!!」
一瞬、
ブラッドフォードの口元が歪む。
「……関係?」
「あるに決まっている」
彼は、静かに告げた。
「君たちの血によって、生まれた海だからだ」
空気が、凍る。
「爆発は、終わりじゃない」
「始まりだ」
「血が臨界を越え、
行き場を失い、
集積された場所」
「それが、血の海だ」
ユリは、言葉を失う。
「価値は、核以上」
ブラッドフォードは、淡々と続ける。
「改変すれば、都市を消せる」
「国家を、終わらせることもできる」
「しかも――
繰り返し、使える」
レオナの呼吸が、浅くなる。
「……人を、材料にして」
「そうだ」
否定は、ない。
その瞬間。
ユリの中で、
何かが、切れた。
「……ふざけるな」
声は低い。
だが、震えている。
エリカの血。
レイの爆発。
すべてが、
一気に胸を焼く。
「人を……
材料にして……!」
拳が、握られる。
血が、滲む。
「そんな力が欲しいなら!!」
その瞬間だった。
空気が、
重くなる。
ユリだけの怒りじゃない。
――重なった。
同じ方向を向いた、
もう一つの感情。
見えない。
触れられない。
それでも――
確かに、そこにいる。
「……何だ……?」
ブラッドフォードが、
初めて後ずさる。
圧が、落ちる。
銃が、床に転がる。
兵士たちが、
一斉に膝を折る。
「……っ」
ブラッドフォードの視界が、揺れ、
身体が崩れ落ちる。
静寂。
ユリは、荒い息のまま、立っていた。
――一人じゃない。
怒りが、
孤独じゃない。
「……レイ」
名前は、確認だった。
同じ場所に、
同じ怒りで、立っている。
エリカのかすかな呼吸が、
まだ続いている。
ユリは、
その手を、強く握る。
「……終わらせよう」
それは、祈りじゃない。
決意だった。




