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第八章 捕獲

宇宙に出た瞬間、

音が消えた。


エンジンの振動だけが、

船体を通して、かすかに身体へ伝わる。


地球は、すでに遠い。

だが、逃げ切れたという感覚は、

どこにもなかった。


「……追跡、切れてない」


エリカの声は、短く、硬い。


計器の縁で、

警告灯が脈打つ。


次の瞬間、

船体が横から叩きつけられた。


「――被弾!」


レオナが叫ぶ。


視界が揺れ、

制御が奪われる。


拘束フィールド。

強制減速。


逃げ場は、消えた。


ハッチが開く。


白い光の中に、

一人の男が立っていた。


軍服ではない。

だが、軍よりも確かな支配の匂い。


整えられたスーツ。

余裕のある立ち姿。


「久しぶりだな、レオナ」


低く、よく通る声。


「……養父さん」


エドワード・ブラッドフォード。


彼は、娘を見るような目ではなく、

価値を測る目で、レオナを見た。


「随分と、面倒な道を選んだ」


視線が、ユリとエリカへ移る。


「君たちが、

 “残り”か」


ユリは、無意識にエリカの前へ出た。


その仕草を見て、

ブラッドフォードは、小さく笑う。



「動かないでくれたまえ」


そう言いながら、

彼は銃を抜いた。


ためらいは、ない。


「やめてください!」


ユリの声が、船内に響く。


「撃つ理由はない!」


ブラッドフォードは、首を傾げた。


「理由はある」


銃口が、

エリカに向く。


「……見せしめだ」


乾いた音。


銃声。


エリカの身体が、

弾かれたように跳ねた。


「……っ!」


腹部。


赤が、

無重力の中で、ゆっくりと広がる。


血が、球になって浮かぶ。


「エリカ!!」


ユリが、叫び、抱きとめる。


軽い。

あまりにも。


「……あ……」


エリカの視線が、揺れる。


「……ごめん……」


声が、細い。


ユリの喉が、詰まる。


「喋らないで……!」


指の隙間から、

温かい血が流れ落ちる。


生きている証拠が、

残酷だった。


ブラッドフォードは、

銃を下ろす。


「致命傷は外した」


「治療すれば、助かる」


その言葉に、

ユリが顔を上げる。


「……お願いします」


それは、交渉ではない。

祈りだった。


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