序章 無音の檻
音が消えると、痛みだけが残る。
いや、痛みすらも残らない。残るのは――次が来るという確信だけだ。
白い天井。白い床。白い壁。
清潔であることが善だと信じている色。だが、この白は、善ではなく管理の色だった。
機械音声が一定の抑揚で告げる。
「被験体、呼び出し。準備を開始します」
名前は呼ばれない。番号だけが運ばれる。
僕――ユリ・ルクスは、そのたびに自分が人間であることを思い出す。呼ばれないからこそ、まだ“自分”を持てるのだと。
ガラスの向こうで、金属が擦れる音がした。固定具。針。消毒の匂い。
呼吸を薄くし、鼓動を小さくする。無駄な反応を減らすための習慣は、いつの間にか生き方にまで染みついていた。
隣の区画にいるエリカ・アズールは、いつも静かだった。
痛みを前にしても声を上げない。泣かない。表情さえ変えない。強い、のではない。強いという言葉が似合うのは、痛みを選べる者だけだ。彼女は、選べないまま耐える。
「……エリカ」
僕が呼ぶと、彼女はわずかに視線を動かした。頷くでも否定するでもない。ただ、今の情報が共有されたことだけが分かる。その距離感が僕らの会話だった。
その一歩手前で、いつも先に燃える声がある。
「ユリ。今夜だ」
レイ・プラゼ。
熱と行動をそのまま人にしたような男だ。口にする言葉は少なく、決断は早い。誰よりも早く動き、誰よりも早く傷つく。
「今夜?」
「警備が替わる。換気の流れが変わる。監視の死角が一つ増える」
レイが囁くと、エリカが小さく補足した。
「……三分。空く時間がある」
僕は息を飲んだ。
三分で何ができる。だが、ここでは三分が世界を変える。
「地球に抗体がある」
噂は、ただの噂ではなかった。誰かが残した情報だ。真偽は分からない。ただ――もし本当なら、それは“自由のみ”をくれるという。
抑制でも、鎖でもない。
生きるための自由。
レイは僕の顔を覗き込まなかった。説得もしない。命令もしない。
彼は、火をつけるだけだ。
「行くぞ」
その言葉の軽さが、逆に重かった。
みなさま初めまして
この作品は、私が夢で見た内容を小説化した作品です
内容はぐちゃぐちゃではありましたが、私なりにまとめてみました。
短い間になりますがお付き合いいただけると幸いです
ではお楽しみくださいませ




