5話 素直な気持ち
「──琥珀ちゃん、琥珀ちゃんしっかり!」
「……王子、さま……?」
「よかったぁ!目を覚さないからどうしようかと思ったよ!」
「!?」
鵜久森にぎゅっと抱きしめられ、琥珀は顔を真っ赤にして身を強張らせた。
そんな2人を綺羅々は面白くないといった表情でじとーっと睨む。
綺羅々の視線に気付いた鵜久森が、琥珀から離れてももう遅い。
「ち、違うんだ綺羅々ちゃん!」
「なーにーがー?」
綺羅々は不機嫌そうにぷいっとそっぽを向く。
そんな3人をバルコニーから見つめるましろは安堵のため息を溢す。
「はぁ……。とりあえず、物語を回収して元に戻れてよかったよ」
「……今回、私は貢献出来ず……。申し訳ございませんわ」
隣にいる来夢が浮かばない顔をして頭を下げた。ましろはゆっくりと首を振る。
「ううん。ボクも髪飾りだったし。今回は殆ど鵜久森さんのお手柄だよ」
『今回の物語の粒子もまずまずだね。ディナー前だけど、僕はお腹いっぱいだ』
一件落着とみたゲージの中にいるラプスが、寝る体制に入った。
「──さて。ボクらはディナーをしにレストランに行こうか!」
「そうですわね」
「私もご一緒します」
客室を出て行くましろと来夢の後を林檎が追う。琥珀と綺羅々に挟まれ右往左往している鵜久森を素通りして。
◇◇◇
「ふぅ。高級感溢れる綺麗に盛り付けされたスイーツも素敵だったね」
「ましろさん、メインディッシュを食べずにスイーツのフルコースを頼んでぺろりと平らげてましたものね」
「ただ、いつもより量が物足りない気はするなぁ」
「まぁ。あれだけ食べておいて、まだ足りないなんて……」
客室に戻る最中のましろと来夢の会話。
右隣の林檎が、少し残念な表情を作る。
「バーもカジノも、未成年だから寄れないのが残念ですよね」
「カジノは少し興味があるなぁ」
「ましろさんはポーカーフェイスが得意な方ですからね。案外いいところまで稼げるのでは?」
「あ……」
ましろは前方を見て足を止める。
廊下で綺羅々が1人悶々としていた。
「綺羅々さん」
「ぅわっ!?」
ましろが綺羅々に近寄って声を掛けると、綺羅々はびっくりして飛び跳ねた。
綺羅々が見ていた先には、夜のバルコニーで会話をしている鵜久森と琥珀の姿。
「鵜久森さんが何を話してるか、気になるんだ?」
「べ、別にー……。ただ、あたしと接する時ともクラスの女子相手に話してるのとも違うから……」
「相手は財閥のお嬢様だもんね」
「……ねぇ、ましろ。西園寺琥珀はうぐのこと……」
「どうやら好きらしいね」
「そんな、他人事みたいに」
「他人事だけど?」
「ましろの意地悪!」
「あはは。ごめんごめん。少し揶揄いすぎたね」
「……うぐは、西園寺琥珀のこと……、どう思っているんだろう……?」
◇◇◇
「──鵜久森様」
「なんだい?琥珀ちゃん」
夜風に帽子が飛ばされないよう、そっと押さえながら、琥珀は鵜久森を見る。
「好きな方は、いらっしゃいますの?」
「!?」
ストレートに聞いてきた琥珀に対し、鵜久森は息を呑む。琥珀はふふっと微笑んだ。
「その反応で、答えとして十分です」
「──琥珀ちゃん、僕は……!」
琥珀はしっ、と人差し指で口を閉ざす。
「まだ実ってない恋なのでしょう?なら、まだまだこれからですわ」
「えっ!?」
「鵜久森様の淹れたコーヒー、飲みに行きます。毎日行きたいくらいですが、シフトがあるのでしょう?教えてくださらない?」
◇◇◇
「電話番号、交換してるね」
「むー!!」
ドアの隙間から部屋を覗いていたましろと綺羅々。
どうして断らないのと言いたげに、綺羅々は頬を膨らませた。
「鵜久森さん、優しいからなぁ……」
「女の子だよ!女の子の番号増やすんだよ!もうちょっと考えるじゃんフツー!」
「うーん。確かに……、僕だったらもうちょっと考えるかも……」
すみれに電話番号を聞かれた場合を想像し、ましろは頷く。
「もー!!うぐったらしーらない!!今度からましろをゲームに誘うんだからね!!」
「ええ?ボク、ゲームは得意じゃないんだけどなぁ」
「やる時間増やせば上手くなるって!」
「増やすのはシフトだよ。ボク、スイーツを買う為のお金を貯めなきゃ」
「こういう時は無言で「付き合うよ」って言うもんでしょー!ましろのバカー!!」
「あいた!?ボクは何もしてないのにー」
遠目からましろとましろをポカスカ叩く綺羅々を見ていた来夢は肩を竦める。
「綺羅々さんにもやれやれですわ」




