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甘党探偵月影ましろ〜ブラックorスイートライフ〜  作者: ツキノ
10章 犬探し 異界の猟犬〜猫琉羅斗の依頼〜
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37話 犬探し 異界の猟犬(後編)

気を取り直して翌日の昼頃。ましろがマンションの住人に聞き込みを行ったところ、どうやらティロは最上階に住む人間に飼われている可能性が浮上してきた。


「うーん……。厄介なことになってるなぁ」

『事情を話して、大人しく受け渡ししてくれるかどうかだね』


ましろがインターホンを鳴らすと中年の男性の声が応答する。


「へーい。どちら様ですかー?」

「あ、すいませーん。貴方が飼っている犬の件でちょっと聞きたいことがあって……」


ガチャリと扉が開けられ、その部屋の住人が姿を現す。


「こ、近衛さん……!?」

「ん?何で俺の名前……って、コンビニ常連のスイーツ男子くん?」


意外な人物を目の当たりにし、ましろは驚きを隠せない。近衛昴このえすばるは、立ち話もなんだから、部屋に入るように誘導する。


「お、おじゃましまーす……」

「はは。コンビニ店員がこんな良いマンションに住んでて不思議だろ?このマンション、事故物件が複数あってさ、家賃4万で安いわけよ」

「じ、事故物件……」

「ほら、ポチこいよ」


ポチ、と呼ばれた犬のような生物はフローリングに敷かれたクッションの上で寛いでいた。ぴくりと耳を立てると近衛のところまで歩いて行き、抱きついてくる。


「だいぶ懐いている……」

「ポチは最近近所で拾ったんだ。夕方ぐらいに寂しそうにひとりで歩いててな。朝シフトで帰りの時に俺たちは出会ったんだ」

「へ、へぇ……」


よくもこの外見の犬を飼おうと決めれたものだと、ましろは感心する。


「こ、この子、の名前は本当はティロって言うんです。飼い主が捜索願いを出していて」

「ふぅん。本当の飼い主がいるわけか……」


ドッグフードを与えながら、近衛は考え込む。


「どうしようかねぇ。ペット系動画でバズった後だし、おじさんポチと別れるのは辛いよ……」

「バズったって」

「ほい。この動画だぜ」


テーブルに置かれていたパソコンを弄り、近衛は一件の動画をましろに見せる。【野良犬拾いました】再生数約10万回。


「リスナーと話したけど、ドーベルマンと何かのミックス犬かなぁこいつ」

「あはは……違うと思います」


ましろが流れるコメントを見ていると、ある一部のコメントに目が止まった。


:そいつはティンダロスの猟犬じゃないのかい?

:架空の生物がいるわけないだろ

:腹空かせて弱って異常に痩せて見えてるだけだって


「ティンダロスの猟犬……」


ましろが呟くと、ポチがドッグフード を食べるのを止め、ましろをジッと見つめるようになる。


「んー……。少年よ、少し時間をくれないかい。具体的に言えば3日ほど」

「長いですね」

「良い年してこんなに別れるのが辛いなんてな……」


近衛がポチの喉元をくすぐるとポチがグルルと鳴き声を出す。近衛が居なくなれば、今すぐにでもましろに飛びかかりそうな雰囲気を醸し出している。


「──わかりました。もう暫く近衛さんに預けておくことにします」

「物分かりの良い少年で助かるぜ」

「それじゃあボクはこれで。お邪魔しました」


ましろは立ち上がると玄関へと向かう。あまりおもてなしできなくてすまんね、と近衛が言った。

バタンと扉を閉めると張り詰めていた空気が軽くなり、ましろは肩の力を抜く。


「架空の存在……ティンダロスの猟犬か……。近衛さんに預けたままにしといて大丈夫かな?」

『少なくとも近衛には懐いているみたいだからね……。問題はましろさ。ましろは嫌われてるみたいだよ』

「あはは……だよねー。部屋の空気からしてそんな感じだったよねー。近衛さんがいるから襲わないぞっていう……」


ましろはふぅ、と息を吐く。


「……帰ろっかラプス」

『うん。今日のところはひとまずね』



◆◆◆



「じゃあな、ポチ。バイト行ってくるから。大人しくしてるんだぞ」


ポチに見送られ、近衛はコンビニバイトに出勤する。寂しそうな鳴き声を出すポチに別れを惜しむ表情の近衛。ドアはバタンと閉められ、ガチャリと鍵がかけられた。



◆◆◆



「今日はホールじゃなくてキッチンのシフトかぁ」


今日のホール担当は来夢。キッチン担当はましろとなっている。

ましろは三角巾とエプロンを付け、厨房に立ちスイーツの仕込みに専念していた。


「クッキングシート……クッキングシートっと」


クッキングシートを小さく切る為、キッチン用のハサミを持ち、刃を広げたその瞬間だった。


「え?」


鋭角から黒い煙が吹き出し、「ソレ」は頭から徐々に実体化する。


「う、うわぁ……!?」


突如現れたポチ──ティロが口を大きく開ける。ましろはハサミを放り出して逃げ出した。


「ま、ましろさん!?」

『ましろ!どうしたんだい!?』


キッチンから大急ぎで出てきたましろを見て来夢が驚く。ホールでマスコットとして鎮座していたラプスが走ってましろに追いついた。


「ちょ……!走りながらの会話はムリ!」

『ポチじゃないか!何でアーバン・レジェンドに?!』


ラプスは走りながら振り返る。ポチは目をぎらつかせながら涎を垂らしてましろを追いかけていた。


「かっ、噛まれたら死んじゃいそう……!!」

『うん。わかる。少なくともポチに噛まれたらただじゃすまないだろうね』

「グルル……!!」


街中をエプロンと三角巾を付けたまま疾走するましろ。追いかけるポチは速度を緩めることはなかった。飛びかかってきたポチを方向転換してかろうじてかわす。


『追い払うにしても、街中じゃマズい!』

「はぁ……!!も、森の方に逃げよう!!」



◆◆◆



「き、木登りなんて初めてだけど、や、やれば出来るもんだね……」


街外れの木の上。頑丈な枝にましろは縋り付いている。全力疾走したせいで息が荒い。木の下ではポチがガリガリと木に爪を立てていた。


『──ポチから物語ソネットに似た気配を感じるよ』

「と、ということは、ポチはクトゥルフなのかな……?」

「いやあ、元気そうで何よりだよ。ティロ」


穏やかそうな声と共にパチパチと拍手をして歩み寄ってきたのは、猫琉羅斗ねこるらとだった。


「……猫琉さん」


ましろは息を整えて猫琉羅斗と対峙する。エプロンの中に入れていたマドラーを杖代わりに構えて。


「よしよし。いい子だね……」


ましろに警戒されていることを露知らず、猫琉羅斗ねこるらとはポチーーティロに近付いた。ティロは怯えているのか後退りする。

猫琉羅斗ねこるらとは手にしていた赤い首輪をティロに嵌めた。するとティロの姿がふさふさのしば犬へと変化する。


「……貴方は一体……」

「僕かい?僕は飼い犬に逃げられた、ただの飼い主さ」


赤いリードを軽く引っ張り、猫琉羅斗はにこりと微笑む。


「少なくとも、今はそう言うことにしておいた方がいい筈だよ。もちろん、君の為だよ」


そう言って猫琉羅斗は懐から茶封筒を取り出す。


「はい。これ。約束通りの報酬だよ」

「……」

「おやおや。木に登って降りられなくなったのかい?じゃあこっちの子に渡しておくよ」


猫琉羅斗は身を屈めると、側に居たラプスに茶封筒を咥えさせた。


「──いつかまた会う日が来ると思うよ。月影ましろくん」



◇◇◇



「もう!いきなり厨房から飛び出したと思えば、とことこと帰ってきて!一体なんなんですの!?」

「はぁ……。それはこっちが聞きたいよ」


三角巾をぐしゃりと握りしめて、ましろはアーバン・レジェンドに帰ってきた。エプロンのポケットには茶封筒──15万円。欲しかった筈の報酬を手にしても、新たな謎が気になり、手を合わせて喜べない。


猫琉羅斗ねこるらと──。一体何者なんだろうね』



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