2話 甘党探偵
「というわけで、今日こそは物語退治及び粒子回収について、もう少し説明しないとね」
『君が記憶を消す方を選んだら教えることはなかった部分だ』
少し長い話になるからと、3人と1匹は店のカウンターからテーブル席に移動している。
今が旬のいちごのショートケーキをデザートに、林檎はましろ達の説明に耳を傾けた。
「うーん……。とは言え、物語自体を知らない人に説明するのは久々だからなぁ。どこから話そうか……」
「知ってる人には説明したことがあるんですか?」
『うん。知っている人は他にも数多くいるよ。一応、物語の粒子回収は一種の『競争』でもあるからね』
「競争?」
「ボクは競争とか1番とか2番とか決めるような事に参加するのはあまり好きじゃないというか、出来れば避けたいんだけどなー。さっきも言ったように小学生の時にそこの小動物に騙されて」
ましろが小動物の愚痴を語り始めるのをアーバンが咳払いで止め、ラプスがましろを遮って説明する。
『物語が人知れず現れて人間の生活を脅かすようになったのは、人類史にAIが現れて活発に使用され始めた頃だ。初めて観測された物語は2000年』
「その頃の物語はまだ顕現能力も弱くてね。私のように能力自体があまり強くない人材でも、どうにか退治出来る程度の強さだったんだがね」
林檎がアーバンの能力を聞いたところ、上手い具合にはぐらかされてしまった。ましろが言うにはか「まぁそのうちわかるから」、とのこと。
今は重要ではない上、林檎も仲間になったばかりの部外者だ。今はそれ以上は聞かないことにした。
『話を続けよう。物語と呼ばれているものは、現代では忘れ去られかけられている御伽話や伝承の類いがとても多い。それらはその話が生まれた土地で怪異を発生させやすいが、土地から離れたーーーー例えば君が出会した物語、赤ずきんのように国や人種を越えて人々に認知された物語になった場合、違う場所で粒子を構成することもある』
「キミがこの前出会したのは物語未満のものだよ。時間経過で物語は成長するから放置するのは危険なんだ」
ましろは2杯目のグレープフロートを飲みながら真面目な表情で付け加えた。
『ーーーーと、ましろは言うけれど、物語を研究し始めてあまり年数が経ってない組織としては、街になるべく被害がないように、成長したての物語を退治して研究サンプルを手に入れたいところなんだ』
「ましろくんは面倒事が嫌いだからね。ライバルには甘党探偵なんて呼ばれてるのにね」
「ライバル……?探偵……?」
真面目な表情でグレープフロートを飲んでいたましろは眉を顰めた。
「たまたま、彼に初めて出会した時に着ていた服が探偵衣装だっただけの話だよ」
「衣装……?」
林檎が再び首を傾げる。
「今日は不在だけど、アーバンさんのように組織本部から派遣されて来た衣装作りが趣味の女性がいるんだ。ボクは探偵でもなんでもない。彼が勝手に付けたただのあだ名でしょう。ボクが探偵だなんて大袈裟だなぁ」
ましろはばつが悪そうに、ストローを押してグレープフロートをかき混ぜた。
ラプスはてくてくと歩き、テーブルの端に身体を落ち着かせて語る。
『アーバン・レジェンドみたいに物語に関与する人間が集うこのカフェのような場所は、世界各地に存在する。組織の目的は未知なる物語の研究だ。つまり、組織の研究の為なら誰が物語粒子を回収しても構わない』
ましろは添え付けのマドラーを軽く振りながら説明をする。
「御伽街も複数の物語回収集団が存在するよ。ボクとしては厄介なことに、その内の一組とよく物語をどちらが回収するかで度々争いが起きているんだ」
アーバンにより運ばれてきた、しっとりしたバニラとチョコのミックスワッフルを、ましろはナイフで斜めに切る。
アーバンはその様子を壁にもたれかかって腕組みをしながら見ていた。
「その現象……ではなく、組織間でよく起きる小競り合いを組織は、物語闘争と呼ぶようになったというワケさ」
ましろはミックスワッフルを口に運びながら林檎に話す。
「だから、この先キミは非戦闘員でありながらも物語闘争にも巻き込まれる可能性があるんだ」
『でも、自分が所属する集団以外を倒すことが目的じゃないから、その面は安心していい』
「どこの集団が1番とか2番だとかのボクが好きじゃない争いはしてるというか、巻き込まれてるけどね」
「……因みに、このカフェの人たちは御伽街で何番目になってるんですか?」
普段から学校でテストやらで競い合っている身としては気になるところ。これから自分が所属するーーーー派閥のようなものなのだ。林檎はこくりとりんごサイダーを飲み込んだ。
「……この競争嫌いなましろくんが、一応我々のリーダーとなっている、とだけヒントをあげよう」
アーバンが語る様子で林檎は察した。
今日から自分が所属する組織は、御伽街で最下位のギルドなのだと。




