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甘党探偵月影ましろ〜ブラックorスイートライフ〜  作者: ツキノ
10章 犬探し 異界の猟犬〜猫琉羅斗の依頼〜
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36話 犬探し 異界の猟犬(前編)

「ふふっ。無事に帰って来れてよかったね。魔王サマ」

「フン。どうせならあのステータスの状態で現実リアル世界に帰してくれればよかったものの」

「まー、人生そんなに上手くいかないって。現実リアルでは物語ソネット狩って上手くやるしかないっしょ」


赤羽根榴姫あかばねるき夜闇鴉よやみあろうが制服姿で学校に通っている最中だ。2人は昨日経験したVRMMORPGインフィニティ・オンラインでの出来事について話していた。


「またしてもあの甘党探偵にやられた気分だ」

「運良くチート引き当てただけだと思うけど」

「──もしもし、そこのお方たち」

「ん?」

「アタシたちのこと?」


のんびりとした声に引き留められ、夜闇鴉よやみあろう赤羽根榴姫あかばねるきは足を止めた。


「今、探偵がどうのと言ってた気がしたのですが……」

「ああ。それがどうかしたのか?」

「実は僕、探偵を探してまして。教えてくれませんか?その人の居場所を」



◇◇◇



「ん~。今日は暇だなぁ」


来夢に林檎、綺羅々、鵜久森は学校に通っている時間帯。午後2時を過ぎたあたり。ましろはカウンターに寄りかかり背伸びする。

そこへ、カランカランと扉に付けられているベルが鳴り響いた。


「こんにちは」

「いらっしゃいませ」


ましろは慌ててカウンターから腰を離した。カフェに入ってきた人物は気にもしてない様子だ。


「君が甘党探偵、と呼ばれている月影ましろくんかい?」


男性に問い掛けられ、ましろは首を傾げる。


「貴方は一体……?夜闇鴉よやみあろうの知り合いですか?」

「僕の名前は猫琉羅斗ねこるらと。君のことを通りすがりの学生に聞いてね。依頼をしてもいいかな?」

「ええっと……」


探偵じゃないんです、とは言い辛い雰囲気。猫琉羅斗は気にせずテーブル席に腰掛けてましろを手招きする。


「君にある犬を探してもらいたくてね」

「犬探し、ですか?」


ましろが向かい側の席に座ったのを確認すると、猫琉羅斗は話を切り出した。


「これが、居なくなってしまった愛犬のティロさ」

「……」


テーブルに置かれた写真を見て、ましろは困惑する。写真に映る犬はどう見ても狼のようなものに見える。痩せこけて骨が露出しているような身体。長い針のような舌。全身が青い炎で燃え盛っているように見える。


ボクの手には負えないような案件の気がする──直感でそう感じたましろは、写真を突き返した。


「探してきてくれて、折角なのですが……」

「引き受けてくれないのかい?依頼料は弾むよ。これくらいで」


猫琉羅斗はメモ帳を取り出し、ボールペンで15万と書く。ましろは身を乗り出した。


「ほ、本当に!?依頼料15万円??」

「ああ。なんなら現物でも見るかい?」


猫琉羅斗が懐から茶封筒を取り出し、15万円を取り出して数える。


「や、やります!引き受けさせてください!!」

「ああ。よろしく頼むよ」


ましろと猫琉羅斗は両者とも笑顔で握手をした。



◇◇◇



「──で。この如何にも怪し気な犬を探すことになったと?」

「仕方ないじゃないか。探して捕まえれば15万だよ15万」


先日の件でスマホをなくしたましろにとって、今回の件は報酬に釣られてしまっても仕方がないことだった。


「まあ、確かに特徴的な犬ですし。御伽街内に居るとすれば簡単に見つけられるかもしれませんね」


猟犬でしょうか、と猟師の呪いが疼くのか、林檎は写真に映る犬に興味津々である。


物語ソネットとは関係ないことをポンと持ってこられてもね』


ラプスはやれやれという口調で不満そうにしっぽでぺしぺしと床を叩く。


「15万あれば新しいスマホがすぐ買えるしね!」

『聞いてないなましろってば』

「まぁ、15万って言ったら学生には大金だもんね。仕方ないよ」


鵜久森がコーヒーに砂糖を入れてかき混ぜる。


「飼い主さんによれば、昼型の犬で日中の散歩が好きみたい」

「こ、この姿の犬が日中出歩いてるの?こわ」


綺羅々が拾い上げた写真をはらりと落とす。


「とにかく、みんなも学校の登校途中や帰り道でもし見かけたら、ボクに連絡──あ、そうだった……。ボクに教えてね」

「ましろさんがスマホを持ってないのは、連絡する側も不便なので致し方ありませんが……」

『まあ、100歩譲って犬を探すのはいいとして。ちゃんと物語ソネットを探すように』

「うん。わかったよ。ラプスも犬探しに連れて行こう」

「ちょっと、ましろくん!?もうすぐ夕飯だよ!!」

「寝床を見つけられたらすんなり捕まえられるかもしれない……。すぐ戻るから安心してください」


外へ出ようとするましろの後を、ラプスがついていく。


「安心って、君、スマホ持ってないじゃないか!」

「やっぱ今の時代、スマホがないと不便だよ」


ましろを呼び止める鵜久森。スマホゲームをしながら肩を竦める綺羅々。


「……行っちゃいましたね」

「まぁ、ましろさんは一応護身術はありますし……。ですが、かと言ってこの前みたいに動画を撮られるようなことがあると厄介なんですけど」


目を合わせる林檎と来夢。アーバン・レジェンドの窓の外から、その光景を見つめる者がいた。


「昼間を待たずに夜に行動するか……。まぁ、厄介事は昼間より格段に減るだろうから、それも良しだね」



◆◆◆



『ねぇましろ』

「なんだい、ラプス」

『犬の寝床探しって、何か心当たりがあるのかい?』

「いや、全然。ただ特徴的な犬だから、写真を見せればすぐに見つけられそうだなぁって思って」


飼い主から手渡された5枚の写真をひらひらとさせ、ましろは歩いている。


『……』

「どうしたんだい?らしくもなく黙り込んじゃって」

『見つけやすい犬なら、どうしてわざわざ探偵を見つけて依頼なんてしてきたんだい?今回の件、話が美味すぎないと思わないのかい?』

「……言われてみれば、ラプスの言う通りかもしれないね」

『だろう?僕にしてはとてもまともなことを言ってるよね』

「でも、報酬の旨みには届かないかな」

『スイーツ以外の報酬に目を輝かせているなんて……、こんなのましろじゃない……!!』

「そうだね。ボクにしては珍しいことかもしれない」


ましろは胸元のポケットに写真をしまい、ソーダ味のチュッパチャプスの包装を破り始める。


「でも、みんなが言っていた通り、現代はスマホがないと不便なんだ。ボクはスマホをなくして、それを初めて知ったわけさ。今度買うのはiphone17のセージにするって決めたよ」

『僕は人間じゃないから、スマホを欲しがるましろの気持ちはわかんないや』


とてとてとついてくるラプスは足を早める。ましろの歩幅に合わせて歩くのは一苦労だ。


「すみません、ちょっと聞きたいことがあって──」


ましろが街を歩く人相手に聞き込みを始める。数十人相手に聞いてからだろうか。夜勤明けと思わしき女性が、首を傾げながらましろの見せる写真を見つめた。


「昼間の休憩時間に見たことがあるわ。……疲れが出て何かの見間違いかと思ったけれど……」

「ありがとうございます。その犬はどこに行ったかわかりますか?」

「確か、最近出来た風変わりなマンション辺りに逃げて行ったわ」

「風変わりなマンション……?」

「なんでも、螺旋状になっている建物らしくて……、風変わりな分、家賃もさぞかし高いんでしょうね」


ほら、あのマンションよ。と、女性が指差す方向を見ると、郊外に聳える立つ螺旋状の建物の上部が目に入った。


『どうするましろ?マンションとなると、聞き込みにまた時間がかかりそうだけど』

「うーん……。誰かに拾われて、飼われている可能性もあるのかなぁ?」


今日はもう遅いし、調査は明日にしようと、ましろは螺旋状のマンションに踵を返した。


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