35話 女神の企み
「んー、出てくる気配が全くないねインフィニティ」
「どうやら綺羅々さんの読みはハズレみたいだね」
一行は王都の宿屋に来ていた。スイーツを筆頭に豪華な食事がテーブルにずらりと並んでいる。エンディングになると思いきや、そうはならず。目的の女神に会えずじまいで、とりあえず食事をするのに勤しんでいた。
「ラプス──いや、アルパイン・グリーンに聞いてみようかな」
『確かに、この世界では僕よりその聖剣の方が有能なのはわかるけど』
「ねぇ、女神インフィニティの居場所はわかる?」
ましろが仕込み杖に尋ねると、仕込み杖は南東の方角を示した。
「あれ?この場所って──」
◇◇◇
「戻ってきました魔王城に」
「うーん。ここに女神インフィニティがいるって本当?」
ましろが再度尋ねると、仕込み杖は答えるように光輝いた。
『女神インフィニティは、魔王城最上階の隠し部屋にいます』
「隠し部屋だと?そんなもの俺は作った覚えはないぞ」
元魔王の鴉は魔王城の構図を理解しているが故の発言だ。
『最上階にワープします』
「おっと。助かるよ」
聖剣アルパイン・グリーンの放つ光に包まれた一行は一気に最上階へと辿り着いた。
『皆さん下がって。バリアを張ると同時に、ここをなんかすごいビームで破壊します』
「技名とかないのかなそれ」
みんなが下がり、ましろが石壁に近付きゼロ距離で仕込み杖からビームを放つ。崩れた外壁の中で、お茶とお菓子を摘みながら空中に浮かぶ画面を見つめている女神インフィニティの姿があった。
「こんにちは。女神インフィニティさん」
「?!あ、貴方がた!何故この場所がわかったのです!?」
ましろが声をかけると女神インフィニティは慌てて椅子から飛び退く。
「何故って、この聖剣が教えてくれたよ」
「何で女神の貴方がこんな場所にいるのか説明してもらいましょうか?」
来夢に突き詰められ、女神インフィニティは杖を呼び出す。杖にはジャラジャラとペンライトのようなデコレーションがされていた。女神インフィニティは慌てて杖を一振りし、デコレーションを消した。
「──ここは、私が勇者の推し活をする場所」
「今なんて?」
聞き間違いかと思い、鵜久森が再び聞き直す。
「魔王と戦う勇者の推し活をする間です」
「推し活」
「そうです。私の趣味は魔王に立ち向かい、苦難を乗り越える勇者を見ること。その為に事故にあう寸前の人間を転移させて救い上げ、勇者と、必要あらば魔王に仕立て上げています」
女神インフィニティは杖の先を夜闇鴉に向けた。
「貴方は魔王に相応しいそうな名前なのに優しすぎました。私はもっと殺戮と混沌に満ちた世界が見たかったのに、貴方ときたら挑戦してくる勇者を追い返すばかりで……。私の人選ミスです。次の魔王は冷徹な計算高いインテリ男を選ぶつもりです」
「聞いてないからそういうこと」
「フン。優しくしたつもりなどないんだがな……」
「それと、貴方も。なんですかその聖剣は。私、チートとか許した覚えがないのですが。一体それをどこで手に入れたのです?」
『──どこって、水妃の森ですが何か?』
「うわっと。普通に喋れるんだね、アルパイン・グリーン」
聖剣の宝石部分がチカチカと光っている。
『ましろよ。私はアルパイン・グリーンではありません。水妃ファイナイトといいます。今はアルパイン・グリーンを通して会話をしています』
「え。もしかして、泉で出会ったあの女性ですか?」
『そうです。そしてそちらの女神インフィニティと対になる存在……になる筈だったのですが本来は』
ありえない、という顔で女神インフィニティは聖剣を見る。
「ファイナイトは予算の問題で消され筈じゃ……!?」
『ところがどっこい。ゲーム内のバグとして私は残っていたのです。──さて、女神インフィニティ。今すぐその悪趣味をやめるというのであれば、見逃してあげましょう。ですが、やめないというのであれば、私は貴方を封印せねばならないでしょう』
「今更やめられるわけないじゃない!」
『わかりました。では──』
仕込み杖がましろの手元を離れ、宙に浮かびながら話す。
『短い間でしたが、貴方と冒険出来て楽しかったですよ、ましろ』
「ちょっと待って!ボクのスマホはどうなるの!?」
『女神インフィニティを封印する為に必要なので諦めてください』
「そんなぁ!9万くらいしたんだよ!」
『そちらの世界の金銭感覚はわかりませんが、約9万で永遠に殺戮と混沌に満ちた世界になることを回避できるとは、なかなかリーズナブルな話でしょう』
別れが近いのか、聖剣から溢れる光が隠し部屋を包み込んだ。
『さあ──貴方たちは元の世界へ戻りなさい』
「待って!他にも空間転移した人たちは──」
『何名かはこちらの世界でスローライフを希望しているようですが、そちらも踏まえてきちんと元の世界へ帰しますよ。もう突然の転移を心配することはなくなるでしょう』
「それはそれで残念がる人はいるような」
「試験がない平和な世界でスローライフが出来たら文句ないのに~!」
『長話もここまでです。皆さん、お元気で』
「くっ……!いつかきっと私の封印を解いてくれる人物が訪れる筈……!お、覚えてなさいよー!!」
◇◇◇
「──朝?」
チュンチュンと窓の外から雀の鳴き声が聞こえる。朝日が差し込む綺羅々の部屋で、ましろたちは意識を取り戻した。
テレビのゲーム画面はスタッフロールが流れている。
「今回は女神と戦わずに済んでよかったですわね。ゲームの物語とは言えど、強さが未知数でしたし」
『封印か……。僕としては粒子回収が出来なくて残念でならないよ』
ラプスは不満気にぺしぺしとしっぽで床を叩く。
「私はもう少し向こうで猟師をしていたかったのですが……」
「ミニドラゴンやら魚のモンスターやらを楽しそうに狩ってたもんね……」
赤ずきんの猟師の呪いか否か、林檎は狩りを楽しむようになっている。
「はぁ……。ボクとしては大事なものを引き換えにしちゃったから、もうゲームの世界はこりごりだよ」
ましろは何も入っていないズボンのポケットを軽く叩いた。
「新しいスマホを早く買う為には、カフェのバイトの時間を増やさなければなりませんわね」
「うん。前回に引き続き、散財続きだ……」
とりあえず、アーバンに今回の件を報告する為、3人と1匹は綺羅々の部屋から出る。
「ただいまー」
「ただいまー!急いで朝ごはん作るからちょっと待ってて!」
朝帰りになった綺羅々と鵜久森がキッチンへと向かった。
暫くしてコーヒーの香りとパンの香りが混ざり合い、上の階まで広がってくる。
「ふふふ。向こうの王都の宿屋も悪くなかったけど、やっぱりアーバン・レジェンドで迎える朝がボクらにはあってるね」
「そうですわね」
アーバンに報告が終わり、廊下に出たましろと来夢は違いに顔を見合わせて笑った。




