28話 恋する乙女の物語(後編)
「ーーましろ先輩っ!い、一緒にお弁当、食べませんか……?」
「へ?」
次の日の昼休み。購買の菓子パンを買って、軽く昼ごはんにしようと教室を出た矢先、ましろは諸星すみれに呼び止められた。
「お、お弁当っ!先輩の分も作ったんです!!」
ずいっとましろの分のお弁当箱を差し出すすみれ。ありがとう、と言い、ましろはお弁当箱を受け取った。
「ここじゃあアレだし、今日は晴れてるから屋上にでも行こっか」
「……はい!」
◆◆◆
(お弁当かあ……。感想どうしよう……)
甘いもの以外の味覚が無いことを伝えるべきか。ましろは迷うが、諸星すみれの笑顔を見た途端、その考えは引っ込めた。
「ーーどうですか、お味のほうは」
「……うん。美味しいよ」
ありきたりの言葉しか思いつかない。味のことよりも見た目に関して言った方が良さそうか。
「肉と野菜をバランスよく入れて作ってるね」
「ええ!偏った食事は身体に毒なので!」
ほぼ毎日偏った食事でごめんなさいとましろは心の中で謝った。
「ましろさん、ここにいらしたんですの?」
「来夢」
お弁当を丁度食べ終えた頃、来夢が屋上の扉を開いて上がってくる。手にはバスケット。
「食後のデザート、如何かしら?」
「デザート?」
ましろが手渡されたバスケットの布を捲ると、こんがり甘い匂いがするマフィンが出てきた。
「わぁ……。ありがとう、来夢。……うん。昔と違って粉っぽくない。腕を上げたね」
「一言余計なお世話ですわよ!」
「あ、あの……」
美味しいとマフィンを食べるましろを、複雑な表情で見つめるすみれ。何か聞きたいことがあるようだ。
「昔って、一体……」
「ああ。ボクと来夢は幼なじみなんだ」
「幼なじみ……!?」
「今は一つ屋根の下で一緒に住んでてね」
「一緒に住んで……!?」
「おっと、大丈夫?」
クラクラとめまいを起こして倒れるすみれをましろがキャッチする。ましろと幼なじみで一つ屋根の下に住んでいるなんて羨ましい&妬ましい。
「ましろ先輩!!」
「うわっと?!何?」
「こ、今週の日曜日……空いてますか!?わ、私と一緒に出掛けてほしいです!!」
顔を真っ赤にし、スカートの裾をギュッと握りしめ、思い切って言い放つすみれ。ましろは一瞬困った表情を浮かべるが、何かを思いついた表情に変わる。
「それじゃあ、1日付き合ったらあの動画は削除してくれるかな?」
「……!!せ、先輩が、そういうのなら……」
「決まりだね」
強引にも動画を消す方向にありつけて、ましろは安堵する。
「マフィン食べる?美味しいよ」
「それ、私が作りましたのよ」
「……いただきます」
ましろに勧められたものを食べないわけにはいかない。諸星すみれは望月来夢に嫉妬しながらも、手作りマフィンを口にした。
◇◇◇
日曜日。ましろは約束通り早起きをし、ラフな私服に着替えてアーバン・レジェンドを出た。
「ええと、待ち合わせは御伽公園でよかったよね」
待つこと10分程。所謂ゴシックロリータ服に身を包んだ諸星すみれがやってきた。
「お、お待たせしてしまい、すみませんでした……!」
「いや、ボクが待ち合わせ時間より10分早かっただけだよ。気にしないで。さぁ、行こうか」
「ぁ……!?」
ましろに手を握られ、すみれは小さく息を呑む。
『ましろ、昔より女の子のことをよくわかっている気がするなぁ』
「ましろさん、手を握るなんてこと、軽々しくする性格だったかしら!?」
ましろの後を付け狙うは、動きやすい服装に束ねた髪を帽子に入れ、サングラスをかけた来夢。ましろに置いて行かれたラプスも同行している。来夢は双眼鏡を握り締め、ましろたちの足取りを追った。
アクセサリー屋に寄り、見るだけで店を出る。服屋に寄って、一着買って店を出る。ぬいぐるみ屋に寄り、うさぎのぬいぐるみを買って店を出る。アイスクリーム屋に寄り、5段アイスを注文して、施設内にあるベンチで一休みする。
(はぁ……。バイト代がこんなに早くすっからかんになるなんて……)
心の中で思いつつ、ましろは1番上の段にあるチョコミントアイスクリームを食べる。キッチンカーの中の店員さんが、まだ驚いた表情をこちらに向けていた。
「あの、先輩……」
「ん?何?」
アイスクリームを食べるのに忙しいましろは、生半可な返事をする。
「私……、行ってみたい場所が、あるんです……」
◇◇◇
「気を付けてお乗りくださーい」
諸星すみれの行ってみたい場所。それは小さな遊園地に聳え立つ観覧車だった。
「わぁ……。夕日が綺麗だね」
「え、ええ……。本当に……」
時刻は5時半過ぎ。ゆっくりと高度を上げていく観覧車の中で、ましろとすみれは揃って外の景色に心を奪われた。
「ねぇ、動画撮ろうよ」
「!?ええっ?」
ましろに言われ、すみれは慌ててスマホのロックを外し、録画操作をする。
「あはは。隠し撮りよりこうした思い出を残した動画の方が、ずうっと良いよ」
海に溶け込む夕日を背景に、暫く肩を寄せながら動画を撮影した。
撮り終わった後、すみれは例の動画を削除する。
「……ご、ごめんなさい、ましろ先輩」
すみれは顔を真っ赤にし、俯きながら、手を弄る。
「脅すなんて卑怯な真似をして、ごめんなさい……」
「すみれちゃん……」
「は、はいぃ……」
反省と共に込み上げてくる涙と、ましろが下の名前で呼んでくれた喜びとが綯交ぜになり、すみれは顔を更に沸騰させた。
「ま、ましろ先輩が魔法使いかどうかは、聞かないほうが、いいんですよね……?」
「うん。そうだね。聞かないほうが助かるよ」
「そ、それはもう、肯定しているのと、同じでは……」
「さぁ。それはどうかな?」
ましろは肩を竦め、すみれと向き合う。
「ず、ズルいです、ましろ先輩……」
「あはは。みんなによく言われるよ」
「……私は、その、「みんな」の中に入れないんですね……」
「……うん。ごめんね」
自分だけじゃない。ましろを魔法使いだと知る人間が他にもいることを悟り、諸星すみれは肩を落とした。
「事情があるから、オカルト研究会も幽霊部員になると思う」
「そう、ですか……」
「でも、たまには顔を出すからね。ちょっと気になっていることもあるし」
「そうしてもらえると、嬉しい、です……」
ガコン、と自動で扉が開き、2人だけの短い時間が終わりを告げる。
「ふふ……、今日は楽しかったねぇ」
物語が絡むと思いきや特にまだ反応もなく、ましろは久々に羽根を休めることが出来、観覧車から降りた途端、満足げな笑みを浮かべた。
「そう思って頂けたのなら、私もう、嬉しいですっ!!」
勇気を振り絞って、諸星すみれはましろの服の裾を掴んだ。ましろはそれに気付いて、すみれの小さな手を握る。
「ぇ!?」
「あはは。帰ろっか。送っていくよ」
「な、なんということですの……。物語が現れることもなく、ただデートするだけで終わってしまうなんて!?」
『ま、たまにはこういう終わり方でも良いんじゃないのかい?君たち人間にしてみれば』
来夢の帽子の上に乗りながら、ラプスは残念そうにため息を溢した。
◇◇◇
「ーーというわけで、動画の件はなんとかなったよ。お騒がせしました」
お詫びに、とましろは食堂に集まってくれたみんなに手作りの苺のシフォンケーキを配る。普段は食べ専のましろが作る側に回るのは珍しいことだった。
「んーー。ましろくん、美味しいよこのケーキ」
「お褒めに預かり光栄です」
パクパク食べる鵜久森にお礼を言うましろ。
来夢はシフォンケーキを一口食べると、ましろをじっと見つめる。
「?どうしたの、来夢」
「別に。私よりお菓子作りの腕が良いからって、嫉妬していませんことよ」
「そうなんだ。あはは……」
でも、作るのは時間がかかるし、どうもお菓子作りは苦手なんだよねー、とましろは愚痴を溢す。
「オカルト研究会のほうも、幽霊部員でなんとか済みそうだし」
『ましろが普段している怪しい場所への巡回とか、オカルト研究会の活動と丸かぶりじゃないか。今までよく彼らと出くわさなかったね』
「そうなんだよね。すみれちゃんには釘を刺したけど、大丈夫かなあ」
『まだ設立して1ヶ月も経ってないんだろう?今後、物語に関わる可能性も踏まえて行動しないとね』
「あれ?ラプス、それって遠回しにボクに当分学校通えって言ってる?」
『うん』
「ましろさんが幽霊部員でいられるのは、まだ先の話のようですわね。まぁ、私もお付き合いしてもよろしくてよ」
オカルト研究会の部員届けにサインをした用紙を見せ、来夢は澄まし顔をする。
「とほほ……。一難去ってまた一難か」
「ちょっと!それってどういう意味ですの!?」
カツカツとブーツを鳴らしてましろに歩み寄った来夢は、その胸ぐらを掴んでゆらゆらと揺らす。いつもの日常風景。
ましろは揺られながら深いため息を吐いた。
10万字(小説一冊分)になったのでブラックorスイートライフは完結です。読んで下さりありがとうございました!
(次回から甘党探偵月影ましろはそのままで、サブタイトルを一新しての不定期更新になります)




