26話 番外編スイーツ
「ーー」
ラプスによる物語の粒子回収が完了した。
意識を保ったまま現実に戻ったましろたちの周りに、近衛を始めとする行方不明になった人々が意識を失ったまま倒れている。
ましろのスマホの着信音が鳴り響いた。
『ーーああ、やっと繋がった。物語の回収に成功したんだね、ましろくん』
「アーバンさん」
『匿名で警察には連絡しておいた。もう時期到着する頃合いだろう。面倒事になる前にそこを離れたまえ』
「わかりました」
短い会話を切り、ましろは来夢と鵜久森に声を掛ける。
3人と1匹は時計塔の麓を離れ、近くの森の中の茂へと移動する。
『♪♪♪』
「ご機嫌だねラプス」
『そりゃあそうさ。こんなに満足のいく食事は何年振りだっていうね』
「行方不明になった人たちの物語内の記憶もちゃんと回収してくれた?」
『ああ。抜かりはないよ』
「よかったあ……」
鵜久森は西園寺琥珀がアーバン・レジェンドまで押し掛けて来ないかが、1番心配していた部分だった。心配が解消され、鵜久森はほっと胸を撫で下ろす。
ましろは樹の茂みから遠くで倒れている近衛と寧々子を見つめる。
『まぁ、今回はメンバーの追加に至らなかったのは残念だったね』
「良いではありませんか。ちゃんとまともな物語狩りが出来たのですもの。報酬のスイーツも豪華なものがーーましろさん?」
「ーーうん?帰ろっか」
来夢に問い掛けられ、ましろは振り向いて生半可な返事を返す。来夢と鵜久森は首を傾げて顔を見合わせた。
◇◇◇
本部から送られてきた豪華なスイーツはかぼちゃで出来たものだった。ロールケーキ、プリン、パンプキンパイ、カスタードの黄金タルト。
一流のパティシエの手で作られたそれらをアーバン・レジェンドのみんなで食べながら、ましろはぼんやりと別のことを考えていた。
決して用意されたスイーツが不味いわけではない。ないのだが。
◇◇◇
「らっしゃいませー」
ましろはよく通っている近場のコンビニに足を運んだ。自動ドアを開けると気さくなコンビニ店員が挨拶してくる。
「ーーん、今日はやけに多くないですか?」
店内に用意された小さな籠いっぱいにスイーツを詰め込んで、レジに来たましろに、コンビニ店員は驚いている。
「はい。いいんです。今日はたくさんコンビニスイーツを食べたい……。そんな気分だから」
◇◇◇
コンビニからの帰りがけに、見知らぬーーこちらが一方的に見知っている私服の学生とすれ違った。
「あっ」
すれ違い様に、耳に付けていたイヤホンがズレ、ましろと私服の学生は偶然顔を見合わせる。
「……これ、食べます?」
「へ?」
すれ違った人物にいきなりミント味の板チョコを差し出され、私服の学生はキョトンとした。
「……いらないなら」
「別にいらないってわけじゃないけど、お裾分け」
じゃあね、と私服の学生にミント味の板チョコを手渡したましろ。
一部始終をだんまりと見ていたラプスは、ましろに歩調を合わせる。
「ーー本当に、何も覚えてないんだなぁって思ってさ」
『そりゃあそうだよ。彼らの記憶は僕が物語粒子と一緒に回収したんだから』
自分用の板チョコの銀紙を捲りながら、ましろはラプスに問い掛けた。
「近衛さんと天乃さんが物語内の出来事を思い出す可能性は?」
『ゼロだね。ましろは僕をポンコツだと思っているのかい?』
ましろはチョコにかぶりつき、パキンと折った。口の中でチョコが溶ける。
「そっか。そんなに甘くないか」
『ましろは変なことを聞くね。そんなに彼らを仲間にしたかったのかい?』
「……」
自分たちだけが覚えてて、彼らは何も覚えてない。
奇妙な違和感に慣れず、ましろは肩を竦めた。
「今後もこんなことがあるのかなぁって」
『物語狩りを続けてたら、そりゃああるだろうさ。奇妙な違和感に慣れなよ、ましろ』
「まさか小動物に言われるとはね」
『僕は人の心が全てわからないわけではないさ』
「正解したご褒美にチョコレート1ダースをあげよう」
笑顔で言うましろにラプスはふるふると首を振る。
『いらない。それより、今回みたいにもっと物語を狩っておくれよ』
「夜闇鴉の風邪も治る頃だろうし、今回みたいには上手くいかないだろうね」
『そこをなんとかするのがましろだろう?』
それはどうかなぁ、とましろはチョコレートが溶けるのを味わいながら言う。
「ーーさあて。今日はみんなにスイーツを振る舞おう!」
『手作りじゃなくて、コンビニスイーツだけどね』
ましろと1匹は足取りを軽く、アーバン・レジェンドに向かって歩き出した。




