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甘党探偵月影ましろ〜ブラックorスイートライフ〜  作者: ツキノ
6章 シンデレラ〜近衛兵と人喰い靴〜
26/41

24話 シンデレラ(中編)

「いっただきまーす」

「はへー……」


ましろが近衛このえに連れて来られたのは厨房だった。物語ソネットに取り込まれたと思わしき中年夫婦が、2人をラーメンでもてなしている。


「まさかここでラーメンが食べられるなんて……」

「この夫婦もコンビニの常連さんで顔見知りなんだぜ。死ぬ前もラーメン屋で、こっちでもラーメン作ったらいつの間にか屋敷に行列が出来てたっていう」


ずず、と麺を啜って近衛は答えた。と、同時に食えよ、とましろに促す。


「まさかお前さん、甘いものしか食えないワケじゃなかろうに」

「……」


(まぁ、味がわからないだけで食べれなくはないけど……)


「な、美味いだろ!」

「ええ、美味しいです」


ましろは味のしないラーメンを食べて感想を言うのに些か罪悪感を感じていた。


「ところでみなさん」

「ん?」

「随分とこちらの生活に馴染んでいるようだけど、もし、あちらの世界に戻れるとすればどうされますか?」


近衛と夫婦はましろの質問に顔を見合わせる。現実世界と異世界。どちらで暮らしたいか。


「そうね……。向こうにも常連さんや子供もいて、どうなってるのか心配がないとは言えないわ」

「俺たちが居なくなってからか……。突然いなくなっちまったからケーサツとか来てTVで騒がれているんじゃないか?」

「やっぱりマズいんかなぁ。俺が居なくなってからのシフトとか、どうなってるんだろうとか、たまに思うけどよ」


ま、それでも気にするこたぁないさ、と近衛は答える。


「なにせ、この異世界から出る術なんてものはないからな。俺はしがない近衛兵。なーんの特殊な能力も持たねぇ。この2人だってそうさ。向こうの心配なんざしても仕方ないっていうか」

「そうですか……」


物語ソネットの中で馴染んで暮らしちゃってるってのは予想外だから、どのタイミングで話すべきかなぁ……)


ましろはからにした器のスープに映る、自分の姿を眺めながら考えた。


「そういやましろクンよ」

「はい」

「異世界転生者があともう1人居るんだけど、会いに行ってみるかい?」

「もう1人いるんですか?」

「ああ。なんでも集団行動するのが苦手だそうで。屋敷で引き篭もってるんだよなぁ」




◇◇◇




暗転から目が覚めると。ボロボロのスカートとエプロンを着ている自分がそこに居た。


「ーーまさか、これは」

「シンデレラ!今日のドレスを洗ってちょうだい」


ダンスパーティから帰宅した少女から来夢らいむに向かって投げられた豪華な黒いドレス一式。ああ、やっぱりそのようですわと来夢は心の中で頷く。


(シンデレラの物語ソネット……。わたくしがシンデレラ役……)


「何をボーっとしてるの?はやくしてちょうだい!次の舞踏会にもそのドレスを着て行くのよ」


黒い清楚なドレスに着替えている姉は、やけに彷彿とした表情を浮かべていた。


「ああ……。やっと愛しい愛しい王子様に出会えた!私の名前も覚えてくださったに違いない!背も高くて何より顔が最っ高に好み!最高ではなくって私!」

「それ、わたくしを目の前にして言うセリフですの??心の中で勝手に呟いてくださいまし」


シンデレラの姉はハッとした表情でシンデレラを二度見する。


「シンデレラ……、貴方、シンデレラなのね。初めて見たわ」


黒い扇子で口元を隠しながら、シンデレラの姉は呟く。


「初めてとは……、まさか、今までシンデレラ役がいなかったんですの?」

「……役、とは?まさか、私はシンデレラの意地悪な姉役?このままじゃ王子様と幸せになれない?嫌よそんなの!代わりなさいよその役!」

「ちょ……!?いきなりとっつかないでくださいまし!!」


物語ソネットに取り込まれた人間にして見れば、彼女は自我が強い。来夢らいむは混乱して迫り来る彼女をかわし、辺りを見渡した。

埃っぽい屋根裏。薄汚い鏡。散らかっている床。一刻も早く、この場所から離れたい。

そう思っていた来夢らいむの耳にドアを叩く音が微かに聞こえた。


「落ち着いてくださいまし、お姉様!来客ですわよ!!」

「客ですって?王宮からの使いかしら?」


埃を払い落とし、髪型を整えて階段を下りてゆく設定上の姉を見送り、来夢らいむはホッと息を吐く。


(ーー本当に、王宮からの使いかしら?わたくしも見てみなければ)


来夢らいむも姉の後に続き、階段を降りていく。


「きゃぁ!王子様ーー!!」

「や、やあコハク嬢。それに、来夢らいむちゃん……」


屋敷の玄関には豪華な馬車が止めてあった。中から出て来たのは王子姿の王子ーー鵜久森うぐもり

設定上の姉は王子と勝手に腕を組み、はしゃいでいる。


鵜久森うぐもりさん、貴方、王子役になりましたの!?」

「うん……、どうやらそうみたい……」

「ましろさんはどちらに?」

「ましろくんは僕の近衛兵の1人になってる。行方不明の人に会いに行くから席を外してるんだ」


ましろが王子役ではないと知り、来夢らいむの心がざわめき始める。

このままだとシンデレラ役の自分は、鵜久森うぐもりと結ばれてしまう展開になるーーー


「もー、街中の屋敷を探しまわって、ようやくここに辿り着いたんだ」

「私を探して?」

「いいや、僕が用があるのはそっちの子ーーシンデレラさ。少し話をさせてくれないか……って!?」


自分が目当てではないと知り、姉は大粒の涙を溢しはじめた。


「やっぱり、私よりシンデレラに一目惚れする展開なのかしら……!おのれシンデレラ!今すぐ役を代わりなさい!」

「泣きながら怒らないでくださいまし!!物語ソネットが割り与えられた役はそうそう簡単に変えれなくってよ!!」

「さっきから言ってる物語ソネットとは、一体なんのことかしら!?」

「どうする来夢らいむちゃん。彼女に話す?どうやらこの子が行方不明になっている財閥の娘さんらしいし」

「そうですわね。混乱していい部分もありますから、手短にお話ししましょうか」




◇◇◇





ましろが近衛このえに案内された場所は、郊外にある深い森の奥にある屋敷だった。


「こんにちはー。おじゃましまーす」


部屋にはパチパチと燃え盛る暖炉。それと何故か、こたつ。大きなこたつがそこにあった。


「ーー天乃寧々子さん?」

「んー?」


ましろが問い掛けると、こたつから髪の長い少女がぬっと現れた。手には携帯ゲーム。ましろがゲーマーに出会うのは実に3人目である。


「よっ。寧々子ちゃん、元気にしてるか~?」

「んー?近衛このえのおっさんじゃん。寧々子はこの通り、元気にしてるよー。こたつとゲームさえあれば元気だからー」

「な、なんでこたつとゲーム機がここにあるのかなぁ??」

「んー?誰こいつ??」

「異世界転生新人のましろクン」


天乃あまのはゲーム画面からチラリと目線を外してましろを見る。


「んー。容姿からしてイケメン。異世界転生するタマじゃないよねー、何かの間違い?」

「そーなんだよなぁ。現世イケメンで転生っつーのも珍しいもんだ」

「ま、立って話するのもなんだから、上がんなよ。お茶も出すし」


天乃がそう言うと、こたつの上に2人分のお茶が用意される。


「ねぇ、さっきから最も簡単に使ってるけど、それってーー」

「魔法だよ。ま・ほ・う。近衛このえのおっさんから聞いてないの?」

「いや、聞いてはいるけどーー実際に見るのとはやっぱり違うなって……」

「な!すげーだろ寧々子ちゃんは!俺と違ってこんなチートみたいな魔法の力を授かっちゃってさあ!!」

「チートみたいなっていうか、チートですね」

「ふっふーん。だが性格は引き篭もり体質、故にチートで世界を救うなんて大袈裟なことは出来ないのであった」


ぬくぬくとこたつに入ってあったまりながら言う天乃。


「で、なんか用なん?ましろくん」

「実はかくかくしかじかでーー」


ましろは物語ソネットに関して話すなら今だと思い、自分を異世界転生者だと思い込んでいる2人に、事情を説明した。


「な……、なん……だと……!?」

「転生……じゃ、ない……!?」

「はい。だからみなさん、物語ソネットを退治したら元の世界に帰れるんです」

「イヤだー!!帰りたくなーい!!」

「イヤだー!!帰りたくなーい!!大事なことだから2回言いましたー!!」


近衛このえ天乃あまのはこたつに潜ってガタガタと震えている。


「そんなこと言わずに……」

「だってよー!!ここはのんびり出来るし給料はいいし」

「チート魔法を手にして自由自在に使えて今がある!!これが言わずに居られるかっ!?」

「ご家族が心配してますよ、2人とも」

「……」

「……」


ましろに家族のことを口に出されて、近衛と天乃は推し黙る。


「……帰んなきゃなんねぇのか、リアルに」

「はい」

「はあぁーー。たった3日の連休、束の間の夢の世界だった……」


それで、とこたつの中から出て、天乃はましろを促す。天乃の頭に魔女帽子がボワンと出現した。


「寧々子は何をすればいいんだぁ?この魔法、大体のものは出せるけど、マジでそれだけだし、0時になったらいっぺんゼロにリセットされるんだけど」

「うーん……。とりあえず、ボクらと一緒にもう一度お城に来てくれますか。王子と話し合って情報交換しないといけないし」

「ーーわかった!」

「しょーがねーなぁ。束の間の日々にさよならする時間が近づいてるのか……。悲しいねぇ……」

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