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17話 とびきりのスイーツ

  赤ずきん役として取り込まれていた女の子をサービスエリアに預け、両親の元へ送り届けた後、熱い視線×3に押し負けたましろと鵜久森うぐもりは、別のアトラクションやパーク内の買い物に連れ回された。

荷物持ちでHP0、くたくたになったましろは、ベンチの上でぐったりとしている。鵜久森うぐもりはまだ体力が残っているらしく、まだまだ平気そうな顔をしていた。


 「……女の子って、なんでこんなに買い物が好きなのかなぁ……」

 「まあ、今は特別仕方ないんじゃない?パークのチケットの有効期間は明日の15時なんだし。もうすぐ20時だから急いでホテルにチェックインすることになるだろうけど」


 ましろは荷物持ち休憩時間の合間に、アーバンに今回の報告をした。ラプスが今回回収した粒子の量もざっくり測定してもらったところ、お手柄と言えるほどの量はあるらしい。

 アーバンの折り返しの電話で、ましろにとっては嬉しい知らせが届いた。


 『ホテルの豪華スイーツを解禁にしたそうだ。これでましろくん御一行様は好きなだけ高級スイーツを食べられるよ』

 

◇◇◇


 ホテルのレストランのスイーツには、今が旬の時期の苺やメロンを使ったものが多く提供された。期間限定で肉とチョコレートを使用したビュッフェも注文できた為、試しに食べてみる。


 「ましろくん、チャレンジャーだね」

 「いえ、そんなことないですよー。以外にチョコとお肉って合います」


アーバン・レジェンドで口にしたことがない料理がずらりと並ぶ中、ましろは鵜久森うぐもりに率直な感想を述べる。


 『これでダイエットしなくても太らないからいいよね、ましろは』

 「え!?これだけ甘いもの食べても太らないんですか!?」


 ペットゲージの中にいるラプスがさらりと言った一言を、聞き間違いかと思い、林檎りんごが目を丸くする。


 『うん。そうだよ。ヘンゼルとグレーテルの物語で、魔女はヘンゼルを太らせて食べようとしたけど、ヘンゼルは太らなかっただろう。だから、ましろはそういう体質になったものだと僕らは解釈してる』

 「なんて羨ましい……」

 「まあ、私はあまりスイーツが好きというわけではありませんが……。女子としてその体質には羨ましいものがあります」

 「ダイエットしなくていいなんて、ズルいよねー」


 ましろの体質を羨ましがる女子たちを他所に、本人は次々とスイーツを平らげていく。ホテルスイーツ全メニュー制覇を目指して。


 「明日、ボクは今日食べれなかったパーク内で販売しているスイーツの食べ歩きをしようと思うんだけど……」


 少し食べる手を止めて、ましろは鵜久森うぐもりに目配せする。


 「来夢らいむ林檎りんごもどうかなぁって?」

 「そこ、なんで疑問系なんですの?」

 「いや、まだアトラクション周りたいのかもしれないし。一応聞いてみたんだ」

 「私、食べ歩きでもいいですよ」

 「なっ!?」


 即答で返答した林檎に来夢は驚きを隠せない。林檎は悪気の一切ない顔で問い掛けた。


 「来夢さんも、よければ一緒にどうですか?」

 「わ、わかりましたわ!私もそちらに同行しますわ!!」

 「決まりだね」


明日の予定が決まったましろたちを見て、鵜久森はよし、と意気込むも、ギクシャクした表情で綺羅々に声をかける。


 「あ、あー、えっと、じゃあ僕は綺羅々ちゃんと今日乗れなかったアトラクションとかを中心に周ろうかな!」

 「……うぐと?」

 「……嫌、かな?」

 「……ううん。別に。付き合ってくれてありがと」


 綺羅々《きらら》に御礼を言われ、鵜久森うぐもりは他白いだ。ここまで上手く事が運んでいいのだろうか。ましろには感謝しかない。


◇◇◇


 「ましろさん」


 夕食を済ませた後、部屋に帰る前に来夢がましろを呼び止める。


 「少しお時間、いいかしら?」

 「……何?来夢らいむらしくないなぁ」


 成長して昔と少し性格が変わったのだろうか。再会してからの来夢は、何故かやたらと自分に話かけてくるようになった気がする。


 「あ」


 返事を待つ前に、来夢らいむは強引にましろの手を取り、ホテルの廊下を突き進んだ。途中、エレベーターに乗り込み、目指した先は。


 「ねぇ、綺麗でしょう?」


 ホテルの屋上から見る、ライトアップされた夜景と満天の星空だった。


 「うん。夜空も夜景も、両方とも綺麗だね」

 「感想はそれだけですの?ーーーでしたら、もう少し楽しんでみましょうか」

 「え?」


 来夢はスペルカードを顕にして箒を取り出す。箒を優雅に手にした来夢らいむは、上機嫌でましろの手を引っ張った。


 「今夜は特別に、私の後ろに乗らせてあげますわ」




 来夢のスペルは星属性の為、星が出ている場所でのコンディションは抜群だ。万が一ましろが箒から落ちたとしても、猛スピードを出して拾い上げることが出来る。


 「夜空で食べるお菓子は最高だね」


  余った綺羅々のポーションクッキーを、疲労回復も兼ねて2人で分け合った。

風も穏やかで心地良い。


 「もう。貴方はいつもお菓子、お菓子とお菓子のことばかり。何か他に感想は?」


 お菓子以外のことを聞かれ、ましろは少し考え込む。


 「うーん……。久々に来夢と会えて、こうして忙しないけど一緒に過ごせて、案外良かったなって思うよ」

 「へっ!?」


 箒が5メートルほど急降下して、ましろが箒から落ちそうになるが、なんとかバランスを整えた。顔を赤らめバクバクと心臓が高鳴っている来夢らいむを他所に、ましろが眉を顰める。


 「危ないからもう言わないね」

 「い、いえ!その!今のは偶々手が滑っただけで!」

 「来夢はボクがそういうこと言うと、すぐ不安定になるんだから」


 そういうところは昔と変わってないなと、ましろはため息を吐く。


 「自覚ありですの!?」

 「自覚って何のこと?」

 「惚けてますの!?」

 「惚けるって何のこと?」


 来夢はましろの自然な笑顔が、作り笑顔に戻っていることに気付いた。逆に言えば、先程のは本心だったのだ。


 「もう、はぐらかしてばかり……。こんなのズルい、ですわよ」

 「あはは。ごめんね」


 足元に広がる夜景と満天の星空の間で食べるクッキーは、なんだか不思議な味がする、とましろは改めて感想を述べた。


◇◇◇


 ホテルで迎える朝はなんだか特別な気分になる。


 「おはよう、ましろくん」

 「ん……、おはようございます、鵜久森さん」


 居候中のアーバン・レジェンドではない為、朝食を用意しなくてもいい筈だが、日頃の体内時計によるものだろうか。ましろは自然と目が覚めた。

 同室の鵜久森は既に着替えて、部屋のTVを小音でつけている。


「今日の天気も一日中晴れだって」


天気予報を見ていた鵜久森が、ましろの方に振り向いて声をかけた。

 ましろがベッドから降りて着替えて、洗面台で歯を磨いている時だった。インターホンの音が鳴り響く。


 「ましろさん、食べ歩きの用意はできましたか?」


 鵜久森がドアを開けると、準備万端の林檎が立っていた。それから少し経って、来夢が慌ててましろたちの部屋を訪れた。


 「あれ。遅かったね、来夢らいむ。夜更かしでもしたのかな?」

 「よ、夜更かし??……まあ、夜更かしに入るかもしれませんが、昨日はなかなか、その、寝付けなくて」


 ましろに笑顔で問い掛けられ、貴方のせいですわよ、と言いそうになるが、来夢はなんとか呑み込む。


 それからホテルの部屋を出て、ましろ、林檎、来夢の3人でパーク内の出店やレストランで食事をした。夢のような7つのテーマパークのチケットの有効期限は、本日の15時までだ。


 「はあ……。結局、アリスのテーマパーク以外は外観だけ見ることになりましたわね」

 「別にいいんじゃないかな。またの機会があれば、その時は他の場所も見て周ろうよ」


 水色の縞々柄のパラソルの下、アリスをモチーフにしたカフェのテーブルで、3人はクレープやアイスを食べて寛いでいた。


 「またの機会、あるといいですね!」

 「またの機会……。今回はチケットをもらったきっかけは新人加入でしたし、また新しく誰かをスカウトするかーーわたくしが皆さんのチケット代を出すか辺りでしょうかね」

 「或いは、また別の物語ソネットが顕現して仕事で来るか、だね」

 『林檎に纏わりついていた赤ずきんの物語ソネットの粒子はカードに変化したから、外部要因もなくなった。安心していい』

 「はいはい。胡散臭いラスプを今日は信用するとしてーーボクとしては、今日も幸せだなぁ」

 『普段では食べれないテーマパークスイーツばかり注文してるからね』


 それぞれのテーマパークの登場キャラクターや舞台をモチーフにしたデコレーションスイーツは、とてもではないがアーバンや鵜久森が時間をかけて作れるものではない。材料からして、揃えるのがとても難しい。


 「ーーましろさん、ありがとうございます」

 「ん?」

 「私もアーバン・レジェンドの一員に入れて、とても嬉しいです。能力も、今はまだ不安定ですが、これから頑張ってサポートできるようになれたら」

 「いや、こちらこそ。慣れない力を使わせてごめんね。今回は助かったよ。ありがとう林檎」


 ましろから御礼の言葉を聞き、林檎は記憶を消すことを選択し、普通の高校生に戻らなくて良かったと益々思う。

 2人の会話を聞いていて、複雑だったのは来夢だ。胸がざわつき、なんだか心が落ち着かない。まるで、林檎とましろが話すこと自体を嫌悪しているかのような。

ましろのサポートなら自分1人でもできるーーと言いかけたが、来夢はかろうじで言葉を引っ込めた。

 もやもやしている来夢と、にこにこしている林檎を他所に、ましろはちょっと行ってくるねと立ち上がり、近場の列に並んだ。少し経って帰って来たましろの手にはカラフルな風船が3つ。


 「食べ歩き、付き合ってくれたお礼。うーん……。丁度風船が目に付いたから買ってきたけど、やっぱりキーホルダーとかそういう後でも残せる系がいいかなぁ?風船は萎んで消えちゃうし」

 「いえ。お礼なんて……、一緒に居させてもらっているだけで、十分ですよ」

 「へ!?ちょっと林檎さん!?それってどういう」

 「?普通の意味ですよ?」


 林檎が首を傾げ、ひとりで動揺した来夢がガタガタと椅子を震わせ、ましろが椅子に括り付けた緑色の風船がゆらゆらと揺れる。つられてましろの黄色い風船と、林檎の赤い風船も揺れた。心地良い風が、ましろの黄色い風船を青空へ持って行く。


 「あ……。ーーーまぁいっか、風船だし。それよりも……2人とも、喧嘩は駄目だよ。ボクが居ても居なくても、仲良くしてね」


 林檎にはああ言われたが、やっぱりパークを訪れた記念や仲良しの印として、キーホルダーか何かを買っておこうかと思ったましろであった。

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