13話 シミュレーション
「それじゃあ、気を付けて行ってらっしゃい」
一週間後、テーマパークのチケットの期限が迫った日は快晴だった。休業日の看板を掛けたアーバン・レジェンドの前には、居候の5人それぞれが私服姿で集合している。
「こうして一列に並ぶと、何だか遠足みたいだね」
「ふん。もうあの頃ではありませんのよ。私達は高校生ですし、保護者は必要ありませんわ」
「実質、鵜久森さんが保護者みたいになっちゃってますけどね」
林檎が眼鏡のレンズを光らせ、人差し指で掛け直す。背の高い鵜久森は生徒ではなく保護者と見間違えられる時も今までにある。
「うぐ、本気で保護者みたいにうるさい時があるからなぁ」
外へ出掛ける為、普段は据え置きゲームをメインでしている綺羅々は、今日ばかりは携帯ゲームやスマホゲームを弄っていた。
「携帯ゲームだとコントローラーないし、あたし以外にスマホゲームやってる人いないからゲーム内で会話とか対戦とかできないし、ちょっとつまんなーい」
「これから実際に面白い場所に行くんだから、今日くらいゲームは置いてたほうがいいような」
不満あり気に頬を膨らませる綺羅々を鵜久森が宥める。
「ほら、向こうには3Dメガネで物語の中に居るような体験ができるアトラクションだってあるって書いてーーー」
「それ、物語で経験済みすぎてて、面白いって言えるのかなぁ」
ゲーム好きの綺羅々の気を引こうとして、ましろにつっこまれ、敢えなく肩を落とす鵜久森。林檎は腕時計で今の時間を確認する。
「あっ!皆さん、そろそろ電車が来る時間です!」
「店前でだべってたら乗り遅れますわよ!」
「ラプスは入れた?!」
『ましろの肩に乗るからペット用籠には入れないでほしいんだけど』
「あー、後でね!今は急がないと」
「本当にっ!気を付けて行って帰って来てね!」
バタバタと走って遠のいていく集団を見て、今更ながら自分が保護者としてついて行くべきかと思ったアーバンであった。
◇◇◇
「……なあに?興味あるの?」
「えっ?」
休日の早朝の為、電車の中はそこそこ空いていた。鵜久森以外は全員椅子に座っている。綺羅々が携帯ゲームをしていたので、林檎が少し覗いてゲーム画面を見ていた。
「興味あるなら自分のアカウント、作ってこっちでもフレンドになってよ」
「あ、私もゲーム全然してなくて……」
「この2人は全然じゃなくてあんまりしないだけ。ましろはゲーム全般が下手だし、うぐはモンハンとかは得意だけど、パーティゲームは苦手だし」
「綺羅々さんがゲーム全般強すぎるだけじゃないかなぁ。僕ってそんなにゲーム弱い?」
「うん」
肩を落としてがっかりするましろを他所に、綺羅々に一部のゲームが上手いことを褒められて鵜久森は胸を張った。
「そんなワケで、2人は普段からあんまりゲームしないの。興味があるならやろ。初心者でもOKだよ」
「うーん……」
「やろーよやろーよ」
「……じゃあ、手始めにスマホゲームから」
「来夢もやろーよ」
「私は結構ですわ。毎日やるゲームは疲れますもの。海外ではそうしたゲーム類はあまり流行ってませんし……」
「そなの?」
「ゲームならスポーツがありますし。わざわざゲームの中でしなくても」
「僕もそれには同意見かなぁ。ゲームはソネットゲームだけでもう充分だよ。ーーあ。そうそう、この前の回復ポーションありがとうございました。まさか被害者に襲われて使うとは思わなかったけど」
「この前ってーー」
林檎はましろと初めて出会った時のことを思い出した。あの時、林檎はパニックになっていて、帰り道で恐る恐るましろに誤ったのだ。
「確か、綺羅々さんは回復系のスペルや道具製作ができるそうで。本部から聞いてますわ。なかなか貴重な人材ですわね」
「綺羅々さんは医療系に進学しようとしてるからかな」
「い、以外ですね……。失礼ですが、外見的にそうは見えないような……」
電車内でも綺羅々の白黒のツインテールは目立っている。
「寧ろ林檎のほうが医療系と言われた方が自然だよね」
『もし、能力が目覚めるとしたら回復だとありがたいね。ゲーム風に例えるなら、前衛がおうじーー』
「さて、そろそろホテルに着く頃だし、先に渡されたパンフレットでも見ておこうかな!」
ラプスが鵜久森の名前を言ってしまったので慌ててましろは話題を逸らす。
鵜久森とは厄介な約束をしてしまった。紬が副職(?)上、部屋に籠ることが多く同行もしていない現在、一番鵜久森の名前を呼ぶ確率が高いのはラプスである。
今日から暫くの間、来夢や林檎とラプスが同じ時間を過ごす日が増えてしまうのは約束をした時のましろの予想外の誤算だった。
「ましろさん、他の方々も。ホテルの食事のパンフレット以外も見ておいてくださいね。いくらパスがあろうとも、後からここに行きたい、あれに乗りたいだのと言われるのはこりごりですので。時間ロスにはなるべくならないように」
「はーい」
来夢の忠告に、綺羅々《きらら》が元気よく返事をした。
◇◇◇
「……」
隣の車両に、ましろたち御一行を目で追っている人物がいた。
「……そんなに見たって、ガラス越しなんだから、ましろくんたち気付かないって。ウチらも変装がてら、オシャレしてるんだし」
伊達メガネを光らせながら、ファッション雑誌を読んでいた榴姫が、横で車両違いのましろに眼を飛ばす鴉を宥めている。
「フン。今回は月影ましろを見てたわけじゃない。ウチの鼻の良いラプスが勘付いたあのメガネ女子だ」
『……』
クォンタム社のラプスは真っ黒の個体を揺らして頷く。無口であまり喋らないところが、社長にそっくりである。
「ましろくんが物語を中途半端に狩ったから、物語はまだ完全に終わってない」
「そうだ。万が一、物語再演した場合を考えて、粒子回収を先に越されないように見張っておく必要がある。断じてアイツらだけズルいなオレたちもテーマパークでエンジョイしたい……という思いはないからな!」
「はいはい」
鴉の方は黒のサングラスにコート、帽子……変装のしすぎで不自然なほどに真っ黒な姿だった。
「ウチの社長、気前が良いんだか、放任主義なんだか。テーマパークのパスチケットも悠々2人分くれたし。これで収穫なしとかのパターンも考えてるんだか……」
一番最悪なパターンは、物語の再演があっても粒子を向こうのラプスに回収されてしまうこと。更にこれだけ物語狩りに気合いを入れている連れがいるのだ。それだけは避けたい。
「でも、メガネっ子が能力なしにしてもウチら4対2になるんだけど」
「その辺りは気にしなくていい。1人は回復だから邪魔者には含まない。前衛のをオレが即座に倒し、月影ましろを倒せば粒子回収を邪魔するヤツはいなくなる」
「あの金髪の方はアタシに任せた前提で話してるワケ?」
「そうだ」
「……はぁ」
「どうした?何故溜息を吐く?」
相方の雑な戦闘シミュレーションにツッコミをせずにはいられない榴姫であった。




