12話 タイムチケット
「ーーーそうして、ボクは彼女の言う通りにした。彼女が物語を顕現展開させていた役にすり替わっていたから、物語に攫われたボクらがあの空間から出るにはそれしか方法がなかったんだ」
「ーーーそ、そんな……。じゃあ、ましろさんは」
では、目の前で食事をしているましろは、仕方無しとは言え人殺しをしてしまった人物ーーー林檎は息を飲み込む。
「うーん……。当時の状況を上手く説明出来ないところなのは分かり切ってるんだけど……。『自ら魔女役になっていた彼女は蘇りました。』ーーーで、事実上魔女が死んだからめでたし、めでたし。それでボクらはヘンゼルとグレーテルの物語から解放されたんだ」
「???」
クエスチョンマークを並べている林檎に、来夢がわかりやすく説明する。
「その女性は本部から派遣された『不死能力』を以前の物語から得た、もとい呪いで手に入れてしまった女性だったのですわ。つまり、本部はヘンゼルとグレーテルの物語を回収する為に、適切な人材を派遣していたということですの」
「あのー、とりあえず食事中にするような話じゃないよね。いや確かに食は絡んでるけどさ」
既にましろから聞かされ、話の内容を知っていた鵜久森から嘆きの声が上がる。
「ましろさん、甘いものが好きなのかなって思ってましたけど、まさかそんな事件が関係してたなんて……」
「はいはい。このお話は今はとりあえず終わりってことで。せっかく作った料理が冷めちゃうよ」
鵜久森は料理好きの為、料理は美味しく食べてほしいが故の声だった。
途切れ途切れ説明されたましろと来夢の関わった過去の事件を聞いて、改めて林檎はまた思わぬ危険が迫ってくるかもしれないことに、自ら関わることを決意したのだと実感した。
「……」
ましろは林檎に何か言いたそうな表情をしたが、首を振る。
また鵜久森にうるさく言われて中断されるのが目に見えている。またの機会に言おうと決めた。
気を取り直してましろは砂糖を多めに甘く煮込まれたロールキャベツを口に入れた。
「まぁ、別に甘いもの以外の料理が食べれないわけじゃないんだ。甘いもの以外は食べた気がしなくなるだけで」
「でも、それだけではありませんわよね」
「言霊の火力のこと?確かに甘いものを食べれば威力が上がるけど、みんなそういう気分的なものじゃないの?」
「私は甘いものを食べてもスペルの威力は上がりませんわ。……ですが、何かイメージ的なものが必要と言われれば、その通りですけど」
「じゃあボクはそのイメージするものが甘いものってことかもね。どうせならお菓子が出る能力だったらよかったのに。火の能力だから、お菓子を一から作らないとダメなのが面倒だなぁ」
「こらこら。料理には作る楽しさがあるんだ。食べるのが専門だからって、それは聞き捨てならないな」
「うっ……、すみません」
料理好きの前で少し本音を言い過ぎたと思い、ましろは鵜久森に謝った。
普段、アーバン・レジェンドでたまに出るまかないスイーツは鵜久森から貰っている為、鵜久森の機嫌を損ねてまかないスイーツが貰えなくなるのはましろにとっては重大なことだった。
ほぼ食べるのが専門なましろにとっては料理をする楽しさがイマイチわからないことは、取り敢えずおいておこう。
「その……、言霊とやらはもしかして私も使えたり……?」
「うーん、どうなんだいラプス?」
おずおずと林檎が疑問に思っていたことを、ましろから振られた小動物はキリリとした表情かどうかもわからない眼差しを林檎に向けた。
「うん。林檎からは最低限しか物語粒子を全く感じない。つまり何の能力も覚醒とかする予兆はまだないよ」
「そうなんですか……」
(なんとなくそう言われる気はしたけど、つぶらな瞳でそうはっきり言われると何か残念……)
という本音を隠し、林檎は薄らと笑う。
「じゃあ、とりあえず物語に関わることよりも、カフェのお手伝いから、ということですね」
「そうなるね」
「今日は引っ越して来たばかりで疲れていただろうに、カフェの手伝いをさせてしまってすまないね」
アーバンが食器を片付ける最中、林檎と来夢に謝る。
「いいえ。これから住まわせてもらうには、これくらいのことはしないと」
「このくらい、物語退治に比べればなんでもありませんわ」
今日の夕飯をアーバン・レジェンドの宿舎に住む人々が一緒に集まって迎えるようになったのは、「ここに住むからには体に良い食生活を」という来夢や林檎の呼びかけによるものだった。
本来は鵜久森がする筈だったカフェの接客を来夢と林檎が変わり、綺羅々と3人ですることでましろはまともな夕飯にありつけた。鵜久森はましろの甘党事情を知っている為、ましろの分の料理だけ砂糖を加えて甘めに味付けしてある。
それに加え、鵜久森がまだ何かを用意しているような素振りで話し始めた。
「ふっふっふっ。今日接客を変わってもらったからさー、久々に僕が買い出しに行ったら、なんと夕張メロンが半額になってたんだ!」
「な、なんだって……!」
ましろの目の前に鵜久森特製デザートのメロンパフェが置かれた。
「みんなにはこっち。初めて作ったけど、組み合わせは悪くない味だね」
そう言って鵜久森は丸くて広い皿にシュークリームをたくさん乗せて運んでくる。先程の前振りからして中身は生クリームでもカスタードでもなく、メロンクリームだろう。
「わあ。ありがとうございます」
「貴方……、女子顔負けの料理の腕をお持ちのようで。羨ましい限りですわ」
「うぐが料理を始めたのは、アーバン・レジェンドに来てからなんだってさ。いつの間にかアーバンさんより料理が上手くなっちゃって、今じゃレシピを渡せば何でも作ってくれるよ」
もしゃもしゃとシュークリームを頬張りながら、綺羅々が言う。
「客に提供する料理と夕飯メニューの豪華さが入れ替わったのは今日だけだ。一応、林檎くんが仲間に増えたのはましろくんのお手柄だからね」
「わあ。ありがとうございます」
既にメロンパフェに手をつけているましろをやれやれ、と肩をすくめながら見つつ、アーバンはスマホを取り出した。
「あと、本部からもましろくん、と言うよりもましろくん達にプレゼントがあるんだが……」
「え?」
アーバンがみんなに見せたスマホの画面には、近場にあるテーマパークのパスチケットが表示されていた。
「林檎くんの両親が経営していたホテルは、改装して本部の拠点のひとつにすることは話したね。その御礼がこのチケットだろう。テーマパークに行く歳でもない私の分は断ったが、親睦会も兼ねてみんなで行ってくるといい。来週から有効のものだから、それぞれ予定を空けておくように」
「テーマパークかぁ。どんな甘いものがあるんだろう……」
「ましろさんはそればっかりですわね。仕方ないのは分かり切ってますけど。もっとこう……いろんなものがあるでしょうに」
ホテルや専用レストランで出るスイーツのことをもう考えているましろに、来夢は冷ややかな目線を送る。
「あ、あの、お店の方は!?」
「カフェの方は2日ほど休業日にしようと思ってるよ。夜のバーは元々ひとりで殆どやってるから営業するが……。なあに、物語退治屋の一員になったからなんて気にすることはない。折角本部がくれた機会なんだ。普通の学生気分で楽しんでおいで」
「……はっ!」
アーバンの目配せで林檎だけでなく、自分にも言っているのだと気付いた鵜久森は綺羅々を見る。
綺羅々はゲームのやり過ぎか、寝不足のようにぼんやりしているが、先程のアーバンの話は聞いていたようで、ほんの少しだけ微笑んでいる。断るような気配もないから、彼女もテーマパークに行くのだろう。
「来週かぁ……!楽しみだなぁ」
テーマパークに行く人数は5人。
『勿論、ペットの同行はOKなんだろうね』
訂正すると、5人+1匹となった。




