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10話 ヘンゼルとグレーテル(中編)

らいむはヘンゼルとグレーテルの内容を知らないましろに、物語の序盤について詳しく説明してくれた。


 「ーーーええと、それじゃあこのままだと、ぼくたちはいつか、森の中に置き去りにされるってこと?」


 らいむの説明によれば、この木の小屋に住んでいる夫婦はお金に困っていて、小さな子供たちを育てられなくなっている。

 木こりの父親は、何かと理由をつけてヘンゼルやグレーテルを森へと連れ出し、置いて行く機会を伺っているが、母親には黙っている為、母親は子供たちを心配して森に探しに来てしまい、そのおかげで2人は森に迷わず小屋に無事に帰れている段階だと言う。


 「おとぎ話は言い伝えなので、バージョンがいくつかありますの。でも、この小屋の本棚で見つけた本の物語は、父親が子どもたちを森に捨てることになっていますの」


 らいむは本を抱きしめて、声を震わせましろに問いかける。


 「行く宛てがなくても、早くここからはなれて逃げたほうがいいと思って、そうしたこともありますわ」

 「ためしたんだ」

 「ですが、この森から出ることができなかったのです。母親か父親、どちらかに森の中で見つかって連れて帰られる……。それを繰り返して8回ほどでしょうか。そこで、ようやく変化が起こりましたの。あなたが現れたことですわ」

 「もとの、というか、それまでいたヘンゼルは?」

 「あなたと入れちがいで、出てこなくなりましたわ」

 「……」

 (異世界でないなら、幽霊か何かに化かされている?それとも本当に、本の中の世界にいる?)

 「それ、見せて」


 ましろはらいむから本を受け取ると、1ページから順に読み始めた。ページを捲る音が室内に響く。最後の内容まで粗方頭に詰め込んで、本をらいむに返す。


 「何かわかりましたの?」

 「いや、ぜんぜん。あ、ヘンゼルとグレーテルのおとぎ話は読んだことがなかったから内容はわかったけど」


 ましろは少し考え込むと、らいむにある提案をしてきた。


 「キミは最初から8回も森から出ようとしたの?」

 「もちろんですわ。ヘンゼルとグレーテルの話は読んだことがあって、すぐにここがあのおとぎばなしの中だとわかりましたの。急いでここからはなれようとーー」

 「じゃあ、今度は最後までお話しを続けてみよう」


 あっけらかんと言うましろに、らいむは口をぱくぱくさせた。


 「あ、あなた!本当にこの本を最後まで読みましたの?最後の部分だけ私が知ってるのとちがーー」

 「大丈夫。今度は2人いるんだから。怖くないよ」

 「そういう問題!?……いえ、そういう問題、ですが……」

 「同じ行動を繰り返して、何も変わらないんじゃ意味がないからね。……ぼくがヘンゼルとして来たことから、キミが8回目にそれまでとはちがう何かをしたってことじゃないかな?」


 ましろに聞かれたが、らいむはぷいっとそっぽを向いて答えなかった。何度も森を出ようとして、上手くいかないからと8回目でヘンゼルに泣きついたことは、プライドが高いらいむは今知り合ったばかりの男の子に言うことが出来なかった。


 「今日は置いて行かれそうなところを連れて来られたから、明日同じような状況になるってことかな。……とりあえず今日は寝よっか?」


 言うなり、ましろはランドセルを置いて用意されていたベッドに入るなり寝てしまった。らいむは1日目から父親や母親、ヘンゼルを警戒して、上手く寝付けなかったというのに。


 「た、たしかに少しは落ち着けましたけど……」


 (自分側から見れば)本の中の登場人物で、妹のグレーテルの頼りになる兄のヘンゼルでさえ信用出来ずにいたところ、自分と同じように本の中の世界に入り込んでしまった人物が来たことで、らいむの周りへの警戒心が少し緩む。

 らいむも本を置いてベッドの中に潜った。それでも少し不安だった為、ましろの手を握る。低体温なのか、少し冷たいが、鼓動を感じて心が落ち着き、らいむは久々に深い眠りについた。


◇◇◇


 「今日も子供たちに薪運びを手伝ってもらうことにした」


 朝になり、2人がベッドから起きて身支度を整えると、父親が木こりの仕事に行く用意をしていた。


 「お弁当は?」

 「いらん。子供たちの分もパンでも詰めて持って行く」


 父親はパンときのみ、そして水を食料を入れる袋に人数分詰めている。


 (いきおいでああいう風に言っちゃったけど、本当にぼくがどうにか出来るかなぁ……)


 異世界転生、というジャンルが好きなクラスメイトは「異世界転生をした主人公は何らかの特殊な力を持っている」と言っていたーー気がする。


 (ええと、ぼくがヘンゼルってことは、ぼくが主人公なわけだけど)


 ましろが不安に思っていることはただ一つ。『自分じゃなにも出来ないかもしれないこと(特殊な力を何も携えていないこと)』だった。

 らいむから借りた本を読んだ限りでは、ヘンゼル自体なんの特殊な力を持っている主人公ではなかった。


 (まぁ、これから先とか、危険が迫ってきた時に何か特殊な力に目覚めるかもしれないし……)


 これ以上、らいむを不安にさせない為にも、ましろは不安になるようなことを言わずに黙っておくことしか出来なかった。

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