第9話 結界師は改めて装備の準備が重要であることを学ぶ
「……わたし……女の子として大切なものを失ってしまった気分ですわ……」
「わ、わたしも……」
「二人ともこれが大人の女になるってことだよ。いつまでも汚れなき少女じゃいられないのよ……」
「フィーネ先輩! 先輩も……」
「ええ、そうよ……D級冒険者になる時の必須クエストは一週間以上の護衛任務よ……分かるわね!」
「い、一週間も!」
「一週間も野外で護衛するのですの?! では、あれも……」
「そうよ、あれもよ! 私は既に護衛クエストを十回は経験してるわ……もう、私は……」
「フィ…フィーネ先輩……なんてこと……」
「あのぉ~、三人で雰囲気出してるとこ申し訳ないんだけど……そろそろ本部に武器を借りに行かないと……」
「なによ、シド! 私たち女の子にとって大切なものを失っちゃったんだからね!」
「いや、そんな大げさな……フィーネさんもそろそろ、ミオたちをからかうのを止めて移動しましょう」
「ははは、ごめんごめん。つい悪乗りしちゃった。てへ」
(まあ、これはフィーネさんなりの緊張のほぐし方なんだろうな……)
「じゃあ、三人とも武器と防具を借りに行こうか」
「「「はい!」」」
俺たちは本部脇にある武器、防具の貸出所へと向かった。
「……それは、お前さんにはちょっと重いな。こっちの軽い方にしときな。取り回しも良くなって、命中率が上がる」
「分かりました。ありがとうございます」
俺たちは先ず武器の選定から始めることにした。武器の貸出所には体格の良い中年男性が参加者の武器の選定を助けていた。
(たぶん、冒険者ギルドの武器の補修なんかを担当している鍛冶師の方だろう。これからお世話になるだろうから、挨拶はちゃんとしないとな……)
「こんにちは。俺の名前はシド、こちらがミオとキャサリンと申します。本日より三人とも冒険者ギルドでお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
「おお坊主、礼儀正しいな。オレはギルド専属鍛冶師のジルだ。よろしくな!」
「ジルさん、お世話になります」
「お世話になりますわ。私は聖法術師で自前の杖を使いますから武器の見立ては不要ですわ」
「了解だお嬢ちゃん。じゃあ、早速見立ててやるよ坊主、いや……シドだったな。シドはどんな武器が得意なんだ?」
「俺はいつもは剣ですが、今日は槍を使おうかと思ってます」
「ほう、槍か……。シドは槍を使ったことがあるのか?」
「はい、学校の教官から一通りは」
「そうか……短槍なら片手に盾を持って戦う奴らもいるが、初心者は両手で扱わないと槍がぶれてうまく獲物に刺さらないぞ。そのあたりの対策は何か考えているのか?」
「はい、大丈夫です。そのあたりのことはしっかり考えています」
「そうか、じゃあせめて腕にはめる小型のラウンドシールドだけでも持って行け。とっさの時にきっと役に立つ」
「ありがとうございます。じゃあ、さっそく槍を選びたいんですが……」
「ああ、こっちだ」
「ミオお先に」
「気にしないで。私は自分で見て選んでおくから……」
俺とジルさんは槍の保管場所に移動したが、槍の数は剣ほどには多くなかった。どうやら、新人冒険者で槍を使う参加者は少ないようだ。
「剣に比べ槍の数は少ないですね」
「ああ、槍は狭いダンジョンでは取り回しが悪くて、槍士はあまり冒険者になりたがらない。冒険者は一定以上の等級になればみなダンジョンに潜って活動するのが常識だからな。槍士はみな大体、領軍や衛兵に志願しちまうのさ」
「そうですか……槍はフィールドではそれなりに使える武器だと思うのですが、ダンジョンでは不利になるんですね……」
(俺も過去の資料を見て、冒険者で大成した槍士が少ないのを知っていたが、ダンジョンが問題だったのか……)
「で、シドはどの槍がいいんだ? すばしっこいホーンラビット相手なら、あまり重くない槍がいいと俺は思うが……」
俺は一通り見て、槍の中で一番長く細身で返しの付いていないシンプルな槍を選んだ。
「ジルさんこれにします」
「……シド、確かにその槍はホーンラビット専用の槍だが、お前さんその槍をどう使うか知ってて選んだのか?」
「ええ、前にギルドの資料室でこの槍のことを知りました」
「聞くのを忘れてたが、お前さんの職業は何だ?」
「俺は結界師です」
「う~ん……なるほど……その職業ならそいつを使った狩りもありだと思うが、下手をうって、ホーンラビットに正面に回られたら、さっさと槍を捨てて逃げるんだぞ」
「はい、分かりました」
「それにしても、ずいぶん古い文献まで読み漁っているようだな。今じゃあ非戦闘職はギルドに加入さえできないが、昔は非戦闘職の冒険者がよくその槍でホーンラビット狩りに出て行ってたもんだ。もう、ギルドじゃあそいつの使い方が分かる連中は少なくなっちまった。俺もそろそろその槍を持ってくるのを止めようかと思ってたから、今回持ってくる決断をして良かったぜ」
「そうですか、それは幸運でした……」
「ああ、さっき言ったラウンドシールドの件だが、シドがやろうとしている戦法では、できるだけ腕を軽くした方がいい。ラウンドシールドは止めておくか、持って行くなら背中に背負って持って行った方がいい」
「分かりました。今回は背中に背負って持って行きます」
「そうか、気をつけてな。じゃあ、次はお嬢ちゃんの方か……」
俺たちがミオのところに戻るとミオはなぜか木剣を振っていた。
「ミオ、まさか木剣でホーンラビットを狩るつもりか?」
「え? ダメかな? 私は軽い方がいいから、法鉄の重い剣より木剣の方がいい」
「お嬢ちゃん……ミオだったか。ミオの職業はなんだ?」
「聖剣士よ」
「ほう、聖剣士か。聖剣士ならスキル使用で木剣でもホーンラビットぐらいなら狩れるが、今後のことも考えて法鉄製の細身の剣を使ったらどうだ?」
ジルさんは軽い方がいいと言うミオの意見を聞いて細身の剣を勧めてきたが、これはまずいと俺は思った。俺は、事情を話してキャパが多い剣を選んでもらえるようお願いすることにした。
「ジルさん。細身の剣ではミオの法力出力に耐えられないかもしれません……」
「なんだって?! どういうことだ?」
「さっきの模擬戦闘でミオは木剣の刃に使用されている法鉄をマテリアルブレイクさせてしまったんです……」
「な! まさかさっき第一班から返却された折れた木剣はミオが折ったのか?!」
「ごめんなさい! 弁償しますから許してください!」
「いや、もともと木剣は訓練用の消耗品だから弁償はいい。だが、折れるにしても木剣の半分から先が無くなってるのはおかしいと思ってたが、マテリアルブレイクで吹き飛んじまってたのか……こりゃ初級剣士用の剣じゃあダメかもなぁ……」
「総法鉄製の剣はここにはないんですか?」
「総法鉄製の剣は中級下位までの剣士が使う武器だ。ここには初級剣士用の芯部に法鉄を使った剣しかない。法鉄の使用量はミオが折った木剣もここに並んでる初級剣士用の剣もさほど変わらない……困ったなぁ……完全に想定外だ……。どうにか法力出力を抑えてスキルは使えねえか?」
「すみません……。ミオは法力の調整が下手なんです……」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「いや……ミオは新人だから法力の調整が下手でも仕方ない。どちらかと言うと、こういった想定をしてなかった俺の責任だ……」
(これは俺のミスかもしれない……いや、明らかなミスだ。よく考えたら、ギルドで貸し出す剣なんて初級剣士用の剣だろうから、それを想定してミオには家から木剣を持ってこさせるべきだった。武器は貸し出すと言うギルドの情報を何も考えずそのまま受け取ったのは俺のミスだった……。責任は感じても代案はない……。どうすればいいんだ……)
「こりゃあ、壊れる前提でミオには木剣を持って行ってもらうしかねえな……」
俺は自分の責任を痛感していたが、代案が無く何も言えなかったが、ジルさんは苦渋の選択をするように提案をした。
「あ! ちょっとお待ちになって……確か……」
その時、キャサリンは何かに気づいたように亜空間バッグを確認し始めた。
「ありましたわ! 剣!」
「え? キャサリンは聖法術師でしょ? 何で剣を持ってるの?」
「この亜空間バックは今日、成人式に出発する前に家人から渡されましたの。ですから、私がもし剣士の職業に就いた際のことも考慮されていると思ったのですわ」
(本当に優秀な家人だな。いろんなことを想定して、万全な状態でキャサリンを送り出して⋯⋯、俺も見習わなければな。雑用専門のH級冒険者になるだろう俺は置いておいて、明日からのミオの装備は見直さなければだめだろうな……)
俺は改めて、冒険者にとって装備の準備はとても重要なことだと学ばされた。
「キャサリンと言ったか? ちょっとその剣を見せてくれねえか?」
「ええ、どうぞ」
ジルさんはそう言ってキャサリンから剣を受け取ると、ゆっくりと剣を鞘から抜いてチェックを始めた。するとジルさんの目が見開かれた。
「お嬢じゃない、キャサリン! こりゃ法鉄製じゃなく、ミスリルの剣だぞ!」
「「「え? ミスリル?! 」」」
「ああ、それも相当の業物だ。こんな剣を持ってるのはB級以上の上級剣士の連中だ。こんな剣を成人したての新人に持たせるなんて、お前さんの家人は何を考えてるんだ! この剣のキャパだと、新人剣士が使用するとすぐに法力切れを起こしちまうぞ!」
「お言葉ですが、その剣のキャパシティーは私の法力容量に合っているはずですわ。家人がこの亜空間バッグを私に渡した際に、このバッグの中の装備は全てわたしに合った装備でどの装備を使用しても問題なく使えると申しておりましたから」
「そ、そうかい……だがなぁ……ん? キャサリン、お前さんが持っている杖はもしかしてトレント製か?」
「ええ、そうですわ」
「その杖はもう法力を充填済みなのか?」
「ええ、父からこの杖を受け取った時にその場で法力を充填いたしましたわ……それが何か?」
「充填した時に気分が悪くなったり、気を失ったりしなかったか?」
「ええ、何の問題もありませんでしたわ」
「そうか……だったらキャサリンがこの剣を使用しても何の問題ないだろう。お前さんの家人を悪く言ってすまなかった。許してほしい」
ジルさんはそういうとキャサリンに頭を下げた。
「いいえ、頭をお上げください。分かっていただけたなら十分ですわ」
「ジルさん、なぜキャサリンがトレントの杖に法力を充填できたなら、その剣も大丈夫なの?」
「ミオ、トレントは法力をため込む性質があってな。その容量は同じ大きさのミスリルと同程度だ。キャサリンの持っている杖はこの剣と同じくらいの大きさだからな。キャサリンがその杖に法力を充填して法力切れしなかったということは、キャサリンがこの剣を使用したとしても何の問題もないということだ」
「そうなんだ……だったら、私もその剣を使っても問題ないね」
「どういうことだ?」
「私も普段はトレントの木剣で剣の練習をしてるから」
「なんだって? トレントの木剣で練習? それは法力を充填した状態でか?」
「そうだよ。でも最近、勢いよく法力を注ぎ込みすぎるとひび割れするようになっちゃって、その度にシドに怒られて……」
「おいおい、トレントの木剣にひびを入れるなんざ、相当にやばい法力容量だな……」
「じゃあ、その剣ではミオが使用するのに十分ではないということでしょうか?」
キャサリンが心配して質問する。
「いや、ミオの法力容量と出力がどの程度か分からねえが、多分この剣なら大丈夫だ。この剣には法石が埋め込まれてて、剣のキャパを超える過負荷な法力が加わると法石に余分な法力を貯める仕組みになってるようだ。よっぽど無茶な使い方をしない限り大丈夫だと思うぞ」
「そうですか、良かったですわ! ミオ、これで剣の問題はクリアですわ!」
キャサリンがそう言った途端、ジルさんが待ったをかける。
「待ちな。ミオ、このミスリルの剣でそこの巻き藁を切ってみてくれ」
「ええ、いいけど……」
少し怪訝そうな表情でジルさんから剣を受け取り、ミオはミスリルの剣で試し切り用の巻き藁を一閃した。
だが、巻き藁は微動だにせず立っていた。
俺にはミオの一閃が見えたが、ジルさんやキャサリンには見えていなかった様で、今度はジルさんとキャサリンが怪訝そうな顔になった。
「おい、巻き藁を……」
ジルさんがそう言った瞬間、風が巻き藁に当たって、巻き藁の上部がポトリと落ちた。 ジルさんとキャサリンは驚愕した。
「い、い、いつ切ったんだ!?」
「いつ剣を抜きましたの?!!」
ミオは平然と二人を見て、
「いつって、さっきちゃんと切ったでしょ? 見えなかった?」
と普通に答えた。 ジルさんは巻き藁の断面を見てさらに驚愕した。
「おいおいこの断面! どうやったらこんな繊維を傷つけず巻き藁を寸断できるんだ!?」
「本当! 綺麗にスッパリ切れていますわ!」
ジルさんとキャサリンは驚いているが、ミオは浮かれることなく断面を見る。
「これじゃあ、まだまだシドには追い付かないよ」
「これでまだまだなんて、シド、お前………」
ジルさんが驚いて俺を見るが、これ以上話すと長くなりそうなので話しを切ることにする。
「ジルさん、これでミオがミスリルの剣を使うのは問題ないかな?」
「え? あ、ああ問題ない。ミスリルの剣は鉄の剣より強度が落ちるから、技量が伴ってない奴がミスリルの剣を使うとすぐに使い物にならなくなる。だが、ミオの技量なら問題ない!」
ミオはそれを聞いてキャサリンを見る。
「キャサリン、 ほんとにほんとに良いの? この剣、高いんでしょ? わたしほんとに法力の出力調整下手で、壊しちゃうかもしれないよ?」
「キャサリン、本当にミオにこの剣を貸してもいいのか? 家人の人はキャサリンが使うために持たせてくれたんだろ?」
俺は念を押すようにキャサリンに質問したが、キャサリンは笑顔で返答した。
「ええ、かまいませんわ。ミオは大切なパーティーメンバーですから。それに、優れた剣でも、使われなければ存在意義はありませんわ。私はぜひミオに使ってもらいたいですわ」
「ありがとう! キャサリン、私この剣でホーンラビットを狩って狩って狩りまくるよ!」
「おいおい、あんまり無茶すると獲物の素材がダメになるぞ! シド、お前さんからも釘をさした方がいいぞ」
「分かってます! ミオ、帰ったら法力調整の訓練四倍な!」
「シドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! それだけは、それだけは許してぇぇぇぇぇぇ!! 四倍なんて、四倍なんて死んじゃうよぉぉぉぉぉ!!」
ミオはしばらく泣き叫んでいたが、なんだかんだで、俺たちは武器の問題を解決し、ジルさんに礼を言って、ホーンラビット狩りに出発するために、本部前に急いだ。




