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第88話 聖剣士たちは死中に活路を求める

「何このモヤ!?」


私たち第一班がゴブリン集落の周辺に到着しようとした時、突然私たちを囲むように、地下からの扉が開き、黒いモヤが周辺に立ち込めた。


「ミオ、これは魔素ですわ!」


「魔素!?」


黒いモヤはあっという間に広がり、第一班の冒険者たちを覆い尽くした。


「まずいですわ! この魔素濃度では私たち聖属性の者は大丈夫でも、主力の中級冒険者たちは動けなくなりますわ!」


キャサリンの言葉通り、私たちの周辺の中級冒険者たちが次々と咳き込み、膝をついていく。


「ミオさん、キャサリンさんあれを見てください!」


メイさんが叫ぶ。


メイさんが指さす先を見ると、魔素が湧き出す穴から、次々とゴブリンジェネラルが這い出してくるのが見えた。


「キャサリン! 動けない冒険者に浄化をかけて、移動させよう。ゴブリン集落内は大した敵がいないから、突破して第一班を集合させよう」


「そうですわね。このまま分散した状態でいれば各個撃破されますわ。私とミオで浄化をして回り、第一班全てを集落内で合流させ、戦力集中を図るべきですわ」


「じゃあ、私は右回り、キャサリンは左回りで。メイさんは魔素の影響は大丈夫?」


「はい、この聖属性剣のおかげで大丈夫なようです」


「じゃあ、キャサリンの護衛に付いてください」


「了解しました」


私たちはゴブリン集落の外周に沿って、動けなくなった冒険者たちを浄化によって救出し、戦力の立て直しを図る行動に出た。


浄化ピュリフィケーション!」


咳き込み苦しんでいた冒険者たちが、浄化を受けて正常な呼吸に戻る。


「助かった!」


「ありがとう!」


「聞いてください。第一班は今、集落の外周に沿って分散配置されています。このままだと、各個撃破されます。ですから、集落側の敵を突破して戦力の集中を図ります。協力してください」


私の呼びかけに、立ち上がった冒険者の一人が答える。


「了解した。周辺の冒険者に呼びかけ、集落へ突入する」


「よろしくお願いします」


私は次のグループへと向かった。


その次のグループには第一班の班長であるゴーリキーという名前のギルドの教官がいた。


ゴーリキー教官は上級冒険者のようで、魔素の影響を受けていないようだった。


「しっかりするのである! 聖石を使って体から魔素を抜くのである」


ゴーリキー教官は周辺の中級冒険者たちの浄化を、獲物浄化用の聖石を使って浄化している最中だった。


「ゴーリキー教官! 私が浄化します!」


「君は聖剣士のミオ君だったな。助かるのである」


浄化ピュリフィケーション!」


「おお、凄い効果と範囲なのである!」


「ゴーリキー教官、勝手に進めて申し訳ございませんが、今、私とキャサリンで魔素の影響で動けなくなった冒険者を浄化して回っています。加えて、ゴブリン集落側の敵を突破して、集落内で戦力の集中を図ろうと思っています。承認いただけますか?」


それを聞き、ゴーリキー教官は、


「良案なのである。その作戦に完全に同意なのである」


ゴーリキー教官は浄化を受けた冒険者たちを率いて、ゴブリン集落に突入した。


その後、私はキャサリンと合流し、ゴブリン集落へと入った。


「ご苦労だったのである」


「皆さん無事ですか?」


私が尋ねると、ゴーリキー教官は頷いた。


「無事なのである。というか、ゴブリン集落に敵はいなかったのである」


「いなかったって、どういうことですか!?」


「見えていたゴブリンはすべて幻影だったのである」


「そんなことが……」


「それよりも、今後の作戦を立てるのである」


ゴーリキー教官がそう言うと、キャサリンが前に出てきた。


「私の推察と対策を聞いていただきたいですわ」


キャサリンは石を地面において現在の予想される戦力配置を示してくれた。


「私たち冒険者は分散進撃でゴブリン集落を奇襲しようとしましたが、これは完全に裏目に出ましたわ。この戦術は敵にすでに察知されて、今私たちは、魔素で弱体化された上に既に敵に包囲され、それぞれの班が孤立してしまっていますわ」


「確かに、その通りなのである」


「しかし、現状私たちの班が襲撃を受けていないのには理由がありますわ。敵の狙いは戦力の分断、そして別働隊による各個撃破ですわ」


「それは、現在見えているゴブリンジェネラルの軍団は包囲用の軍で、突入し敵を撃破する軍団は別にいるという意味であるか?」


「その通りですわ」


「別働隊はどこから攻めてくるか分かるのであるか?」


「おそらく、森の奥の渓谷側から攻めてくると思いますわ」


「なぜであるか?」


「私たちの主力を構成している中級冒険者たちは現在、魔素によって無力化されていますわ。ですから、各班はどうにか包囲網を突破してこの魔素の霧から逃れたいと思うはずですわ。その時、私たちが突破する方向が、森の奥の渓谷側になると敵は予測していると思いますわ」


「なるほどである。森の奥の渓谷側は北に抜けるよりも距離が短く、道も分かるのである。魔素の影響を受けながら、道の分からない北側に向かうより、魔素の影響から早く抜けられる渓谷側を突破するのが普通なのである」


「それを見越して、突破してきた者たちを迎え撃つ戦力を渓谷側に配置すると思われますわ。そして、その別働隊の第一目標は冒険者ギルドの指揮所ですわ」


「敵は我々の頭を潰してから、我々を各個撃破していくつもりなのであるな」


「その通りですわ」


「では、この敵の思惑を外すためにはどう動けば良いのであるか?」


「私たち第一班だけを脱出させるなら北側に進路を取り、包囲網を突破し、領軍が待機している草原に向かうのが一番だと思いますわ。しかし、これでは助かるのは第一班だけになりますわ」


「その通りなのである」


「ですから、ここはあえて森を脱出しないルートを行くのが敵の裏をかける方法ですわ」


「すると、我々の第一目標は第二班がいる集落であるな」


「その通りですわ」


「でもキャサリン、それだと魔素の影響を受け続けるから浄化をかけ続けなきゃいけないよ」


私が心配な点を聞く。


「そうですわね。でも、戦力の集中を図らないと、各個撃破されますわ。私たちへの負担は大きいですが、ある程度の戦力を集めて、渓谷側へ突破するのが被害を抑えられる方法だと思いますわ」


「どの程度の戦力を集中させるのであるか?」


ゴーリキー教官の質問に、


「少なくとも半分ですわね」


とキャサリンは答えた。


「了解したのである。通信士、指揮所との連絡はどうなのであるか?」


「魔素が濃すぎて法力通信が使えません」


ゴーリキー教官のそばに控えていた通信士が答える。


「仕方ないのである。第一班単独で作戦を開始するのである」


ゴーリキー教官はそう言うと、第一班全員に説明を開始した。


私たちは今、森の一番西側、大渓谷グランドリフトに近い集落にいる。


これから東に向かって敵を突破し、まずは第二班と合流を図る。


「ミオ、可能な限りスキルは温存して突破しますわよ」


「分かってる。聖属性剣があるから、スキルはあまり使わないで済むと思う」


「私も杖をしまって、聖属性剣で戦いますわ」


「分かった。でも無理しないでね」


「分かりましたわ」


「メイさんも大丈夫ですか?」


「大丈夫です。キャサリンさんはさすがですね。戦術論がしっかりとしていて、迷いがないと感じます」


メイさんがキャサリンを褒める。


「………迷いが無いわけではありませんわ。ただ、私は迷いを見せないよう教育されてきただけですわ」


「そうですか。でも、キャサリンさんになら付いていけると思いました」


「ありがとうメイさん」


「メイさん、サイロスさんが帰りを待ってます。敵をさっさと片付けて工房に帰りましょう」


「はい! 渓谷側にはシド様がいます。シド様ならもしかすると敵を簡単に屠ってくれるかもしれませんね」


「ハハハ、そうかも」


シドのことを考えたら、少し重苦しい雰囲気が和らいだ。


「準備が整ったのである。先頭は君たちに任せるのである。私は最後方で敵の追撃を食い止めるのである」


「お一人で大丈夫ですか?」


私が尋ねると、


「ゴーリキー先輩なら大丈夫ですよ。なんせ、先輩はあの厄災戦の生き残りですから」


と、メイさんが答えた。


「後ろは気にせず、ただ前に向かって進むのである」


「「「了解しました(ですわ)」」」


私たちが行動を起こそうとした時、東側で戦いの雄叫びと、渓谷側から悲鳴のような叫び声が聞こえた。


「どうやら、強行突破を図った班があるようですわね」


キャサリンが分析を語った。


「急ぐのである。渓谷側の悲鳴から、既に敵の主力が渓谷側に現れたようなのである」


私たちは互いに頷いた。


「突破しますわよ! 突撃!!」


キャサリンの号令で、私たち第一班二百名は東に向けて突撃を開始した。



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