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第8話 結界師は本気を出すと約束する

「うん…(もぐもぐ)…なかなか…(もぐもぐ)…やめられない…(もぐもぐ)…止まらないだね、この干し肉…(もぐもぐ)」


「ええ…(もぐもぐ)…試験前に…(もぐもぐ)…少しだけって…(もぐもぐ)…思いましたが…(もぐもぐ)…すごく美味しいですわ…(もぐもぐ)」


「二人とも何やってんの?」


「ああミオ、試験終わったかい?」


「お疲れ様ですわ。この干し肉なかなかいけますわよ……」


「そう……私は模擬戦闘前に少しかじったけどあまり好みじゃないかな……やっぱり肉は肉汁があふれたジューシーな方が好きだなぁ……まあ、非常食と思えば全く食べられないわけじゃないけど……」


「で、模擬戦闘はいかがでしたか?ミオ」


「え? ああ、スラッシュ一発で終わっちゃったよ」


「スラッシュ一発で?! すごいですわね!」


「なんか、若い試験教官が打ち込みを受けてみろって言ってきたんだけど……なんか人を見下しているような気がして、無視して地面ごとふっ飛ばしちゃった」


「それにしても、地面ごと人を吹っ飛ばすというのは、すごい威力ですわね…… 」


「ミオ、それって借りた木剣折れたんじゃないか?」


「え? あ~、そ、そうね……折れちゃった……なんだか係の人もぼーっとしてたから、そのまま折れた木剣をわたしてきちゃったけど……後で弁償しろって言われないかな?」


「まったく……剣のキャパを確かめずに適当に法力を込めたんだろ?」


「そ、それはぁ……わたし細かい操作が苦手だから、ふ、ふぃーりんぐでなんとかなるかと思って……」


「はぁぁ、相変わらず、法力の出力操作が下手というか、雑と言うか……。間違って直接相手の体に当たってたら大怪我じゃあ済まないかもしれないぞ!」


「だ、だから足元の地面を狙って打ったんじゃん!」


「ミオ、帰ったら法力操作の特訓、いつもの二倍ね」


「シ、シドぉ!! それだけは、それだけは許してぇぇぇ……」


「あ、あのぉ……私、二人の話題についていけないんですけどぉ……ミオは聖剣士でしたわよね? 聖属性の法力はほとんど物理的な作用はないと思いますが……剣圧だけで地面ごと教官を吹っ飛ばしたのですの?」


「いや、ミオはまだ成りたての聖剣士だから、体内の無属性の法力を聖属性の法力に変換する効率が悪くて、出力された余剰の無属性の法力が大量に剣に滞留してしまったのさ」


「そんなことが⋯⋯」


「ギルドのレンタルの木剣は刃の部分が法力を蓄積できる法鉄で覆われてるけど、所詮は初級剣士用の木剣でミオが出力した法力を支えきれずに法鉄がマテリアルブレイクしてはじけ飛んだのさ」


「マ、マテリアルブレイク!?」


「教官が地面ごと吹っ飛んだのは多分そのマテリアルブレイクの衝撃波だと思う。おそらくその教官、衝撃波を受けただけでなく、大量の無属性の法力にあてられて、衝撃波と法力酔いで失神したんじゃないかな?」


「初級剣士用とは言え剣の法鉄をマテリアルブレイクさせるほどの法力を注いでミオは大丈夫でしたの?! それに、衝撃波を至近で受けて怪我とかないですの?」


「うん、平気だよ」


「ミオは同じような失敗をこれまで繰り返してきたから、慣れてるんだよ。衝撃波も多分、無意識に自分の前面に無属性の法力を集めて防御したんじゃないかな?」


「そ、そんなことが……それにしても、そんなに大量に法力を消費してミオは大丈夫なんですの? 法力酔いとか法力切れはありませんの? よければ私の法力ポーションをお分けしましょうか?」


「え? ああ、大丈夫、大丈夫。意識ははっきりしてるし、そんなに法力は減った感じしないから平気だよ」


「そうですの? ミオの保有法力は結構多いのですわね……。でも、この後はホーンラビット狩りですから、無理だと思ったら遠慮なく言ってほしいですわ」


「うん、ありがとう。それにしても、こんなことになるんだったら家から木剣持ってくるんだったなぁ~。あれなら慣れてるから、こんなことにならなかったよぉ……」


「ミオはこれから冒険者として刃の付いた真剣を使わないといけないんだから、剣に合わせた出力操作を覚えなきゃだめだろ!」


「え? いいよ、私は木剣のままで。シドが作ってくれた木剣、すごく使いやすいから~」


「ミオの木剣はシドがお作りになったのですか?」


「そうだよ~。シドがトレント材から作ってくれたんだ~」


「え? ミオの木剣はトレントの木剣ですの? わたしの杖もトレント製ですのよ。シドはミオのためにずいぶん高級な贈り物を贈ったのですね。わたしの杖は亡くなった母の形見ですのよ。父が私が成人して法術師になったら使えるよう、大切に保管しておいてくださいましたの……」


「へぇ~。ずいぶん立派な杖だと思ってたけど、お母さんの形見だったんだぁ。お母さんもキャサリンが聖法術師になってきっと喜んでるよ! お母さんは何の法術師だったの?」


「私と同じ聖法術師ですわ。父曰く、とっても名の知れた、優秀な聖法術師だったそうですわ……」


「そうなんだ……。きっとキャサリンもお母さんと同じように優秀な聖法術師になれるよきっと!」


「……ありがとう、ミオ。私、頑張りますわ……。ところで、シドは工作が得意ですの? トレント材は堅くて削りにくい素材でしたでしょう?」


「ああ、ミオの木剣は切削加工品じゃないんだ」


「そうそう、シドは木工職人の店からトレント材の切れ端をもらってきて、それを自分の法力で変形させて木剣を作ったんだよ!」


「え? 切れ端から? そんなことができるのですの?」


「ああ、でもあまりそのことは外では語りたくないから、帰ってから教えてあげるよ」


「本当ですか、嬉しいですわ。それにしても、シドはずいぶんと器用なことができるのですわね。トレント材が法力で加工できるなんて知りませんでしたわ」


「ああ、俺は学校に通いながら木工職人の家で清掃の仕事をしてて、たまたまトレント材の切れ端が捨てられてたので、手に取って法力を流してみたら何かできる様な気がしたんだ」


「シドの法力操作はドン引きするくらいの変態級だよね……」


「変態とは失礼な! ミオ、帰ったら法力操作の特訓、いつもの三倍ね」


「うえぇぇぇぇぇん! ごめんなさぁぁぁい! かんべんしてぇぇぇ!」


「そんなにすごいのですの?」


「シドの法力操作は自分の回りだけでなくて、他人の周りにある法力も操作できちゃうんだよ」


「え?! え?! ど、どういうことですの?!」


「ミオ、それは誤解を招く言い方だ。俺だって遠距離から他人の法力を遠隔操作できるわけじゃない」


「だってシド、離れた所から相手の法力を操作するの得意じゃん」


「どういうことですの?」


「説明するよりやった方が早いか……。キャサリン、今から君の法力を操作して見せるので俺から少し離れてくれないか? 距離は模擬戦闘の時に教官と対峙したくらいの距離で」


「え? ええ、いいですわよ……これくらいで良いですわよね……」


「ああ、大丈夫。では、いくよ!」


「はいっ!っって、あ、あ、あれ? おかしいですわ、き、急に立てなく……え? え? 足に力が入らないですわ……いったいどうなって……」


「操作を切るよ。はい」


「え? あ、力が入って……立てますわ……一体何が起きたのでしょうか?」


「俺の足元から法力を伸ばして、キャサリンの足に俺の法力を注いだり、抜いたりしたのさ」


「そ、そんな……そういえば、さっきシドの模擬戦闘の試験の時、急に教官が座りこんで、泣き出しておられましたが……あれもシドが……?」


「え? もしかしてシド、模擬戦闘で法力操作使ったのぉ? 反則だよそれぇ」


「職業の固有スキルを使ったわけじゃないから反則じゃないよ。まあ、相手が付与術師の教官だったからちょっと興味がわいてやっちゃったんだよ。その後で交代した代理の教官とは普通に模擬戦闘したぞ……」


「そう、その代理の教官の時も、シドはほとんど動かないで教官の打ち込みを避けたと思ったら、急に教官の武器が飛んで行ってしまったのですわ……。ミオご自慢のシドの剣術が見られなくて残念でしたわ……」


「キャサリン、それはシドの十八番の武装解除の剣術だよ……とっても地味だから誰も剣術だと思わないけど……」


「え? あれが剣術ですの? だってシドはほとんど動いておりませんでしたわよ?」


「ほとんど動いてないように見えたのは剣術の歩法を使ったからで、体が触れるくらいに最小限の動きで攻撃をかわして、すれ違いざまに相手の剣の柄にひじ打ちを入れて剣を飛ばして武装解除しちゃったんだよ」


「あんな一瞬でそんなことを……相手の教官も何が起きたのか分からないって顔をしておられましたわ……。シドのオリジナルの剣術ですの?」


「いや、俺たちの卒業した平民学校に基礎剣術、基礎体術と法力鍛錬を教えてるエルって名前の爺さん教師がいるんだけど、その人が俺の師匠でその人に習ったんだ」


「なるほど⋯⋯」


「さっきの法力操作も爺さんが剣から無属性の法力を飛ばして相手を転ばせたりしてたんで、それを真似しようとしたんだけど、俺はあんまり法力を放出するのは得意じゃないから、地面に沿って法力を細く長く伸ばして相手に法力を流し込むようにアレンジしたんだ」


「アレンジ!? もはやアレンジとか言うレベルでは⋯⋯」


「まあ、届くのはせいぜい剣の間合いの三倍くらいだし、動いている対象にはうまく法力が流せないから、使い勝手の悪い技だよ。武装解除の方も、本職の熟練の剣士には通用しないと思う。あの教官は後衛の法術師だったみたいだから、できるかなぁ……と思って使ってみたんだ」


「でもシド、キャサリンも見落としたように、その武装解除の技が地味すぎて、ひょっとしたら試験を評価してた審査官も、シドは戦闘らしい戦闘もしないで、単に教官側の問題で不戦勝したって思われてんじゃない?」


「え? そ、そうなのか……? そうか……う~ん、でもそうだったら、それでも良いよ……」


「なんでよ!」


「まあ、俺が模擬戦闘で勝っても負けても結局は結界師の職業で試験をパスできないだろうから……」


「もう! そんな弱気でどうするのよ! 私たち明日からパーティを組んで討伐依頼を受けるんだからね! そうだ! この後のホーンラビット狩りで、エル爺から習った百連撃を使ったらいいんじゃない?!そうすれば、目立ってシドの評価も上がるわよ!」


「あのなぁ、ホーンラビット相手に百連撃なんてオーバーキルすぎて、ホーンラビットの素材がずたずたになって買い取ってもらえないだろ! ちょっとは考えて物を言えよ!」


「なによ! 目立たないと評価されないじゃないのよ!」


「まあまあミオ、ホーンラビット狩りは戦闘力より、より良い素材を効率よく納品できることを評価されるはずですわ。シドが質の良いホーンラビットをギルドに提出すれば、良い成績を取れますわよ。シドも頑張って良い成績を取ってくださいですわ」


「ああ、分かった」


「本当に頑張るんだからね!」


「じゃあ、本気出して、討伐数で一位を取ってやるよ」


ミオとキャサリンが互いに顔を見合わせる。


「 一番って……すごい自信ですわね……」


「キャサリン、今、その亜空間バッグの中に水はどのくらい入ってる?」


「ええっと、シドの持ってる革袋の水筒で二十個くらいですわ」


「おお、さすが亜空間バッグだね。じゃあ、後で十個くらい使わせてもらっていいかな? 家に帰ったら満タンにして返すから」


「ええ、いいですわよ。でもそんな大量の水、何に使うのですの?」


「後のお楽しみだよ」


「まあ、何をするか知らないけど、シドが本気出せば、討伐数一位くらい簡単よ。でもシドの本気なんてめったに見れないから、シドが本気なのかどうかなんて外から見てて分からないけど」


「それじゃあ、まるで俺がいつも本気じゃないみたいじゃないか!」


「だって、シドが本気出してるところなんて、エル爺との戦闘訓練の時ぐらいなんだもん……。って、あ! そうだ、そういえばキャサリンの模擬戦闘の結果は?」


「キャサリンの圧勝だったよ。開始直後、剣を教官の目の前で落として見せて、目がそれた瞬間に後ろに回り込んで絞め技で意識を刈り取ってた。すごく流麗な体術だったよ」


「へぇ~、キャサリンは体術が得意なんだぁ~」


「え? ええ、私は幼少の時に母を亡くして、伯母夫婦の所で育ちましたの。その伯母夫婦が体術を教えてくださいましたの」


「へぇ~なんだかシドに似てるねぇ」


「父は健康な方で風邪一つひかない方でしたが、とっても忙しい方で家を空けないといけないことが多くて…、伯母がそれじゃあ私がかわいそうだからって、自分が面倒を見るって父に提案して、私は伯母夫婦の所に住むことになりましたの」


「それで、今は?」


「今は成人する少し前に父の家に戻ってきて、父と一緒に住んでおりますわ」


「そうなんだぁ。お父さんも喜んでるんじゃない?」


「ええ、ちょっと過保護な所がありますが、私も父も毎日楽しく暮らしておりますわ」


「ねえねえ、今度キャサリンにお家にお泊りに行っていい? 私の家にもお泊りに来てよ!」


「ええ、いいですわよ喜んで! 私もミオのお家へのお泊り楽しみですわ」


「ま、まさかミオ、あの汚部屋にキャサリンを…って、い!いてて! 蹴るなよ!」


「ちゃんとキャサリンが来る前に片付けるわよ! 余計なこと言わない!」


「ははは、三人ともなんだか楽しそうねぇ~」


「フィーネ先輩、お疲れ様です」


「お疲れ様ですわ」


「フィーネさん、周辺警戒はもうおしまいですか?」


「ええ、そろそろ模擬戦闘が終わるので、元の組に戻ってホーンラビット狩りのフィールドへ移動する準備をするようにって指示があったので戻ってきたの」


「そうですか。干し肉のアドバイスありがとうございました。おかげで、みんな緊張せずに無事に勝てました」


「そう、それはすごいわね! 例年、教官に勝てる子なんてめったにいないのに、三人とも勝っちゃうなんて、きっとすぐに高レベルの冒険者になるよこのパーティー」


「ありがとうございます」


「じゃあ、そろそろ移動なんで………はい、スコップと紙と魔物除けポーション」


「え……、それって」


「まあ、出なくてもいいから、慣れのためにも行っておいでよ。キャサリンは自分の持ってたよね? それはミオと一緒に使って、これはシド君が使えばいいよ」


「は、はいですわ。い、いよいよですわねミオ……」


「う、うん。覚悟を決めなくっちゃね……」


「ありがとうございます。フィーネさん……」


「…………私、ホーンラビット狩りよりこちらの方が緊張して、な、なんか出そうにありませんわ……」


「………そ、そうだね……わたしも……」


「そうそう、大事なことを言い忘れちゃった。この草原にはイビルモールというモグラの魔物が穴を掘っていて、時々その穴に落ちる冒険者がいるの。特に用足しの時に茂みに入って穴の上の薄くなってる地面を踏み抜いちゃうことがあるから、気をつけてね。用足しはあまり遠くに行かず、声を出してパーティメンバーに救助してもらえる距離でするのが冒険者の心得だよ」


「えええええぇぇぇぇ、している音が他人に聞こえちゃうじゃないですかぁ!」


「私、家に着くまで我慢したくなってきましたわ……」


「穴に落ちたら声を出して助けを呼ぶこと。スコップで横穴を掘って出る人もいるけど、時間をかけているとイビルモールと鉢合わせするからね」


「してる時に落ちて鉢合わせしたらどうするんですかぁぁぁぁ!」


「お嫁にいけない体になったらどうしましょうですわ……」


「はいはい、時間が無いからさっさといってらっしゃ~い」


「「「い、行ってきます」」」



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