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第78話 モグラ狩りたちは戦い抜く

<イ、イビルホークが現れ、オーガに襲いかかりました!>


俺の思考は予想外の事態に混乱した。


(ど、どうしてだ!?………いや、角笛か!)


しかし、混乱は数瞬で、すぐに原因に行き着いた。


(まさか、本物が現れるなんて……いや、今は深く考えるな!)


俺は前方のコボルトへの攻撃にもう一度、意識を向けた。


「スイッチ!」


合図と共に俺は再びコボルトの前に出た。


<イビルホークは今、オーガの殿しんがりの十人に襲いかかり、オーガはそれに応戦しています!>


フィーネさんの報告を聞きつつ、敵を引き付け、


斬撃スラッシュ


攻撃を加え、素早く後方に回ろうとした時、唸るような声が階段付近から聞こえてきた。


「来た! オーガだ!」


俺はコボルトの断末魔と予想外の報告に気を取られ、オーガの接近音を聞き逃してしまった。


「ど、どうするゲイル……」


チャックが心配そうに尋ねてくる。


(ほぼ隠し通路内にコボルトの死体を撒き終わった。タイミング的には後退してHZ82との接点の天井を崩落させて通路を封鎖してしまう場面だが、オーガの殿がまだ外にいる………)


「ゲイル! オーガが来るぞ!」


チャックが叫ぶ。


俺は決断した。


「オーガの殿がまだ十匹ほど外にいるそうだ。ここでオーガを迎え撃って、時間を稼ぐ!」


「何だって!? 正気か!?」


「ベンとヨハンたちを信じるんだよ!」


(時間を稼げば、ベンとヨハンがイビルホークをどうにかしてくれる!)


俺は剣を構え、オーガが近づいてくるのを待った。


(オーガ側の足場はコボルトの死体と油でまみれている。足場が悪く踏ん張れない。そして、この通路の狭さではオーガは二匹同時に攻撃できない。この一匹だ! この一匹をこの場で足止めできれば時間が稼げる!)


俺は剣を上段に構えた。


天井が低く鉄製の棍棒を振り上げられないオーガは、苛立ちを隠せないでいた。


しかしすぐに意を決したように俺を睨みつけ、棍棒を持った腕を後ろに引く。


どうやら、上から叩き潰すのではなく、真っ直ぐに突いて攻撃してくるつもりのようだ。


一瞬の静寂、冷や汗が滴り落ち、床に雫が落ちた、その瞬間―――


「ガァァァァァァァ!」


雄叫びとともに棍棒が突き出される。


「ウォリャァァァァァ!」


俺はあらん限りの法力を込めて剣を振り抜いた。


その瞬間、高い金属音と共に棍棒とオーガの腕が切り落とされた。


そして後ろから、


「スイッチ!」


という合図が聞こえたので、俺は反射的に後方へ移動した。


斬撃スラッシュ!」


すかさず、次の剣士が攻撃を加えたと思ったら、


「スイッチ!」


再度、先頭が素早く後退し、


斬撃スラッシュ!」


続けざまに二発のスラッシュがオーガに叩き込まれた。


オーガは大きな断末魔を上げて絶命した。


その時、「ピィー、ピィー、ピィー、ピィー」と四連続の角笛の音が響いた。


この合図は『こちらの状況に関わらず、作戦を実行せよ』という意味だ。


<ゲイルさん、隠し通路の入り口付近の冒険者全員が、オーガとイビルホーク両方に攻撃を仕掛けるようです!>


「何だと!? あいつら無茶しやがって!」


「どうした、ゲイル!?」


チャックが尋ねる。


(猶予はない。あいつらの決断を無駄にはできない!)


「第二段階終了! 後退して通路を封鎖する!」


「ピィー、ピィー」


俺は勢いよく角笛を二回吹いて、


「走れ!」


と命じ、一斉に後退した。


<第二段階終了を確認! 炎法術師、準備せよ!>


フィーネさんが叫ぶ。


俺たちが後退するのを見て、オーガたちは先頭で座って死んでいる仲間を押しのけ、俺たちを追撃しようとするが、通路が狭く上手く抜けられない。


五人とも全速力で走り、俺が一番最後にHZ82の接点を通過したその瞬間、


「崩落させろ!」


と叫んだ。


四人は二人ずつ二本の柱に括りつけられたロープを引き、柱を抜いた。


すると、柱に支えられていた天井が抜け、一気に土砂が接点を塞いだ。


土砂の向こうではオーガが雄叫びを上げているのが聞こえる。


俺は再度、


「ピィー、ピィー」


と勢いよく角笛を吹いた。


南側のハンクからも同じく「ピィー、ピィー」という合図があった。


<合図を確認! 第三段階開始! 炎法術師、点火せよ! 炎障壁フレイムウォール!>


通路の十カ所に突き出た杖の先端から一斉に炎障壁フレイムウォールが放たれ、通路全体に火が放たれた。


これでコボルトの死体と床に流れ出た油に火がついたはずだ。


オーガの雄叫びは一気に悲鳴に変わった。


<第二射放て! 火球ファイヤーボール!>


フィーネさんが第二射のファイヤーボールを放つ。


これは油が入った樽を破壊するファイヤーボールだ。


すると悲鳴がより大きく甲高くなった。


「おい、行くぞ!」


俺は四人に声をかけ、急いで、土管が挿してある場所まで走った。


そして、


「ブロアーを起動しろ!」


と命じた。


このブロアーは地上に出ている管から地下に空気を送る、地下で仕事をする俺たちにとって重要な法術具だ。


そのブロアーの先端を五本の土管に直結し、法術を起動。


大量の空気を通路に送り込んだ。


その途端、通路内の悲鳴はより大きくなり、壁を叩く音が地下に鳴り響いた。


<丘の上の入り口から煙が上がりました!>


フィーネさんが状況を説明してくれる。


俺は安堵する間もなく、フィーネさんの所に走った。


「フィーネさん、奴らは無事か!?」


望遠監視の法術具を覗くフィーネさんに声をかけた。


「はい! イビルホークを今、撃ち落としました!」


「撃ち落とした!?」


(あんな巨鳥、どうやって落としたんだ!?)


「複数が一気に吹き矢で攻撃して落としたようです!」


(吹き矢って、ベンが持ってた強化版の吹き矢を使ったのか!? なんて威力だ!)


「オーガにも吹き矢で攻撃してます! 目を狙って、見えなくなった所を半包囲してスラッシュで各個撃破してます!」


俺はその光景を想像しながら、ツバを飲んだ。


「すごい! 棍棒を真っ二つにしました!」


(それはさっき俺もやったが、凄まじい切れ味だった……)


「最後の一匹を仕留めました! 作戦成功です!!」


フィーネさんが俺に向き直って、


「ヤッター! やりましたよ!!」


と言って跳んで抱きついてきた。


「お、おい!?」


フィーネさんの歓喜の声は横穴全体に響き渡り、左右から大歓声が上がった。


フィーネさんは抱きついたまま俺を見つめ、


「おかえりなさい。ゲイルさん」


と言ったかと思ったら、俺に口づけをした。


俺はその瞬間、何が起こったのか分からず、目を見開き、棒立ちになってしまった。



その後、俺は合流したモグラ狩りの男たち全員から、


「やったな、ゲイル!」


と言われ、背中を盛大に叩かれた。


俺は無傷で作戦を終了したが、作戦後、背中に負傷を負う結果となった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――


丘の上の隠し通路の入り口がよく見える大木の上、一人の魔族がモグラ狩りたちの決死の戦いを監視していた。


「これで終わりか。ずいぶんとあっさり負けたものだ。だが、この状況は使える……」


その魔族は右耳にはまった赤い魔石に魔力を流した。


「……リリス様、ネロです……はい、はい……予定通り、オーガの精鋭二百が通路に入りました。はい……はい……ありがとうございます。リリス様の成功は目前かと思います。……はい……分かりました。では失礼いたします」


通信が終わると、今度は左耳にはまった青色の魔石に魔力を流す。


「……キマリス様、ネロです。……はい……はい。予定通りコボルトとオーガの罪人奴隷、計二百名が壊滅しました。……はい……はい、少々予定より早かったですが、これで問題なくリリスの責任を追及できます。はい……はい……了解しました。引き続き、情報局にて情報収集します」


二件目の通信が終わると、その魔族は声を上げて笑い始めた。


「愚物どもめ。己が目で事を見定めなくなった時点でお前たちの時代は終わってるんだよ。人間どものあの剣と吹き矢、確実に脅威になる。だが、人間どもには頑張ってもらって、愚物どもを引きずり下ろしてもらわなければならない」


魔族は木から飛び降りた。


「活躍を祈っているよ。私の愛すべき敵、人間どもよ」


魔族は闇に包まれ、その姿を消した。



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