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第71話 モグラ狩りは作戦を提案する

時を遡ること一日、シドとミオがデートに出かけている時、その裏側でゴブリン殲滅戦に向けて着々と準備する一団がいた。


「ゲイルさん、この穴ってそうじゃないでしょうか?」


東の丘陵地帯、その頂上の森との境付近にその穴はあった。


「ここがオーガとコボルトが出入りしていた穴か?⋯⋯」


「ゲイルさん、中を索敵しますか?」


「頼みますフィーネさん」


熱感知サーモディテクション


「どうですか?」


「穴のかなり奥の方はイビルモールと思われる個体がいますが、オーガ、コボルトの反応はありませんね」


「了解しました―― おい、ハンク周辺の足跡はどうだ?」


「バッチリ残ってるぞ。これはオーガとコボルトだ」


「じゃあ、ここが奴らの侵入経路だな」


俺たちは領主様からの依頼で、ゴブリン殲滅戦の主戦場となるフィールド周辺のイビルモールの横穴を調査し、埋設作業を行っていた。


そんな折、ある冒険者から「不自然な場所でオーガとコボルトを見かけた」という通報が入り、領軍の将軍の命でその周辺を調べに来たのだ。


領主様はイビルモールの横穴を使ったオーガとコボルトの奇襲を受けたらしく、その敵奇襲部隊の侵入経路があるんじゃないかと探したところ、この穴に行き着いた。


「それにしても、何でこんな丘の上に入り口を作ったんでしょうね。平地でも良かったんじゃないですか?」


フィーネさんが質問してくる。


「それは多分、イビルモールに通路を荒らされたくなかったからじゃないかと思います」


「どういうことですか?」


「イビルモールは斜面には穴を掘らないんですよ」


「ああ、なるほど」


フィーネさんは答えに納得がいったようだ。


「はぁ~それにしても、コボルトですかぁ~」


フィーネさんが何かを思い出したように、ため息交じりにつぶやいた。


「コボルトに何か嫌な思い出でもあるんですか?」


「え!? お気遣いさせてしまって、すみません。炎法術師にとってコボルトは相性の悪い敵なんですよ」


「コボルトはE級上位の魔物でさほど強くありませんが、何が問題なんですか?」


「燃えちゃうんです。毛が」


「毛が燃える?」


「そうなんです。コボルトって、寄生虫予防のためか、習性で油を身体に塗りたくる性質があるみたいで、私たち炎法術師が攻撃すると、すぐに油に火がついて全身に火が回って素材が全部だめになっちゃうんです」


「なるほど、問題は強さでなくて相性ということですね」


「はい、いい思い出がなくて……」


そのようにフィーネさんと会話していると周りから冷たい視線が注がれる。


「おいゲイル、イチャイチャを切り上げて、いい加減に進むぞ」


ハンクが棘のある発言をする。


「別にイチャイチャしてねぇぞ」


「お前がそうでも、周りからはそう見えるんだよ」


どうやら、この内容に長くとどまらないほうが良いようだ。


「分かったよ。おいチャック、地図との照合と描き込みを頼む」


「分かった。ああ~シルビア様にまたお呼び出しされたいな〜」


「仕事に集中しろチャック!」


「何を言うゲイル! シルビア様のファンクラブ会員であるお前が他の女性とお付き合いするなど言語道断だ!」


「バカ! フィーネさんはギルドの要請でモグラ穴の調査に協力して下さってるんだ! 失礼なことを言うな!」


「え? 私はゲイルさんと仲良くなりたいですが⋯⋯ダメですか?」


(その上目遣いは反則だ!)


「フィ、フィーネさん⋯⋯俺みたいな中年の穴蔵暮らしに冗談はよしてください」


「冗談じゃないですよ。私、年上趣味なんで」


(そ、それって脈アリなのか!? 目と前歯の治療をして、ギルドの風呂で念入りに体を洗った甲斐があったぜ⋯⋯)


俺が内心そう思っていると、


「お〜い、そこの枝にカメレオンバードがとまってたんで、吹き矢で仕留めたぞ!」


と、ベンが報告してきた。


「ベン! 狩りに来たんじゃないぞ!」


「ベンさん、よくカメレオンバードなんて識別できましたね。索敵能力、私たち法術師並みですね」


「いや、仕留めたのは俺だけど、見つけたのはヨハンだ」


「何か変な感じがしたんで⋯⋯ふぁぁ、眠い」


「獲物はギルドで借りた亜空間バッグに入れとけ! 穴に入って調査するぞ!」


穴からは緩やかだが向かい風が吹いている。


(空気の流れがあるから、火を点けても大丈夫だろう⋯⋯)


俺たちはランタンを点け、その穴に下って行った。


中はオーガが立てるくらいの高さがあり、硬化された、なだらかな階段があった。


「足元に気をつけてくださいフィーネさん」


「私、夜目が利く方なんで大丈夫です」


「ゲイル、紳士のふりしてもメッキがはがれるだけだぞ」


「お前が先頭なんだから、黙って前方警戒してろハンク!」


「前方警戒と言っても一本道だからなぁ」


「一応、探査を再度しておきます。熱感知サーモディテクション


フィーネさんがすかさず、探査の法術を使う。


「さっき探査した時のイビルモール、こっちが近づいて行ったら逃げたみたいですね」


「奴らは鼻が利きますから、冒険者が近づくと逃げるんですよ」


「追いかけて、狩ったりしないんですか?」


「奴らはあれで結構移動速度が速いんですよ。それに奴らが慌てると新穴しんけつを掘って逃げますから、それを追うと崩落の危険性があるんですよ」


「新しい穴と古い穴なんて見分けができるんですか?」


「古い穴は、モグラ狩りたちが補強し、地図に描き込んでパーティーの頭文字と番号を付け、現場に印としてその頭文字と番号を掘った石を埋め込んでいます。それが無い穴は新しい穴です」


「地道な作業をされているんですね」


「まあ、それがないと迷子になるので、おいそれとは穴には入れませんよ」


その後しばらく一本道の階段を降りて行った。


そして、距離にして三百メルトくらい進むと変化があった。


「おいゲイル、横穴が見えてきたぞ」


先頭を歩くハンクが声をかけてきた。


この横穴は補強がされているので、モグラ狩りが補強したなら印を刻んだ石があるはずだ。


「みな、目印の石がないか探せ」


俺たちは三人ずつ、左右二手に分かれ、しばらく横穴を左右にたどっていき、目印の石を探した。


俺とフィーネさんとハンクが右、チャックとベンとヨハンが左だ。


「石ってどんな石ですか?」


フィーネさんが質問する。


「形はまちまちですが、埋める位置はだいたい人の目線の位置と決められています」


しばらくすると、行き止まりになっていた。


「おかしいな。なぜ塞がってる?」


俺たちが思案していると、


「お〜い」


俺たちが進んだ逆の方向からチャックが呼ぶ声がした。


俺たちは急いでそちらに向かった。


「石が見つかったか?」


「いや、その代わり今掘ったばかりの新穴が見つかった」


(そういえば、さっきフィーネさんがイビルモールの気配があるって言ってたな⋯⋯)


「この新穴はさっきフィーネさんが感知したイビルモールが開けた穴だろう」


「だろうな。だが、この穴は風が通っている。この穴は別の穴につながっているぞ」


ハンクが分析する。


(確かに⋯⋯)


「おい、お前らが向かった先はどうなってた?」


「行き止まりだった」


チャックが答える。


(てことは、行き止まりだった所は見つからないよう穴が閉じられていたと言うことか?)


「行き止まりは偽装のために塞がれた可能性がある。お前らはもう一度さっきの場所に行ってくれ。俺たちはこの新穴の先を調べて、お前らのいる場所とどこで繋がるかを確認してみる」


「分かった。おいベン、ヨハンを起こせ!」


「おいヨハン行くぞ」


「眠い⋯⋯」


三人は通路の先に進んだ。


俺たちは慎重に新穴を進んだ。


すると間もなく、違う横穴へつながった。


「おい、ハンク」


「ああ、間違いない。HZ82だ」


「HZ82?」


フィーネさんが尋ねる。


「HZ82は、今は領主の下で奴隷剣士をしているハザエルと言う男のパーティーが見つけた横穴で、通称『交差点』と言われる東西南北の横穴につながる有名な場所の北側につながる横穴のことです」


「へぇぇ、82ってことは八十二箇所目ってことですよね? たくさんの横穴を見つけられた立派な方なんですね。でも、奴隷剣士になられたなんて残念ですね」


(フィーネさんはモグラ狩りにも偏見を持ってない人なんだな⋯⋯)


「彼のパーティーは過去最高数の横穴を発見したんですよ。数は⋯⋯」


「百八十八だ。パーティーメンバーはハザエル、ルザン、ジバル、ジェフそして女冒険者のバレリーだ」


ハンクが正確な数とパーティーメンバーを教えてくれた。


「すごい方々だったんですね」


「会うことがあったら褒めてやってください」


「はい、そうします」


俺たちは、HZ82を北へ進んだ。


すると横壁の音の反響が違う箇所があった。


よく見ると、土の色も若干異なっている。


「ここの壁、音の反響が変だ」


「ゲイルさん耳がいいんですね」


「まあ、俺の特技なんで⋯⋯」


俺は大きな声で呼びかけてみることにした。


「チャック、ベン、ヨハン聞こえるか?!」


俺が声をかけると、


「おお、聞こえるぞ!」


チャックの返事が聞こえた。


「通路の番号は分かったか?」


「ああ、HZ82だった」


「オーガども、また、有名な横穴に通路を通したもんだな」


「奴らには分からないさ。それにこの横穴は少し天井が高くなってるから、通りやすかったんだろうさ」


「とりあえず、反対側も調べるぞ」


「了解した」


俺たちはその反対側も同じ横穴につながっていることを確認し、報告のために領軍司令部に帰還した。



領軍司令部は今、イビルモールの横穴対策を指揮している南の平原の野営陣地にあった。


「レイモンド・ヴァンディミオン将軍、ただ今戻りました」


「ゲイル殿か。わしのことはレイモンドで良い。して、どうだった?」


「はい、予想通りオーガとコボルトの侵入経路が見つかりました。あのポイントから地下に入ったと思われます」


「そうか。よく見つけてくれた。地図を確認しよう。ナイル、カイル広げてくれ」


「「はい!」」


ナイル将軍とカイル将軍が大きな地図を広げる。


そこには俺たちモグラ狩りたちが持っている地下通路の全情報が書き込まれていた。


俺はチャックが印を付けた地図を参照して、大きな地図に印を付けた。


「敵はここから入り、HZ82の横穴に入り込んだと思われます」


「なるほど。入り口は東の丘陵の上、森との境だな。HZ82を南下すると『交差点』から各方面へ行くことができるな」


「はい、この交差点から南ルートを通りその後、西へ進むのが、南の平原への最短ルートと思われます」


「そうじゃな。このルートを通り、我々の背後から現れるというのが現実的じゃ」


「では、この東の丘陵から下る階段通路のみを閉じてしまってはどうでしょうか?」


ナイル将軍が発言する。


「そうですね。現在、領軍の全戦力でモグラ狩りと、南側の横穴を埋める作業を実施しておりますが、とてもではありませんが、東側の横穴までは追いつきません。限定した箇所を閉じるくらいしか手が無いと思われます」


カイル将軍が補足する。


「じゃが、その通路を塞いだとしても、丘陵地の地上を通って降りてこないとも限らんのではないかの?」


「横穴を諦めて地上を進んで我が軍の後方に攻撃するということですか?」


ナイル将軍がたずねる。


「その可能性はあるじゃろ」


「確かに通路が埋まっていれば、我々に気づかれたと思い、奇襲を捨て堂々と地上を進軍してくる可能性があります」


カイル将軍が答える。


「後方に警戒線を敷き、地上を進んできたオーガとコボルトを騎兵で迎撃する案はどうでしょうか」


ナイル将軍が提案すると、


「いや、オーガは地上に出ると移動速度が早く厄介じゃ。少数でも突破を許し、後方支援部隊に突入されると蹂躙される可能性がある」


と、レイモンド将軍が答える。


「「どうすれば⋯⋯」」


将軍たちは手詰まり感を出している。


「一つ作戦を提案しても良いでしょうか?」


俺は将軍同士の話に割って入るのに気後れしていたが、勇気を持って提案してみることにした。


「ぜひ聞かせてくれ」


レイモンド将軍が答える。


「コボルトはともかく、オーガにとっては横穴は戦うにせよ進軍するにせよ体格の問題があり不利な地形となります。我々はこの利点を捨てるべきではないと思います」


「ふむ、そうじゃな」


俺は奴らの地下階段を利用した作戦を説明した―――。


「なるほど、面白い作戦じゃ。必要物資は領軍で用意しよう。じゃが、その作戦を実施するのはどの部隊を使うんじゃ?」


「我々、モグラ狩り冒険者たち五十人と、炎法術師の冒険者たち十名ほどで実施します」


「それは、冒険者ギルドを説得せんといかんのう」


「お口添えいただけますか?」


「口添えはやぶさかではないが、法術師は希少じゃからなぁ」


レイモンド将軍がそう言うと、ナイル将軍が意見する。


「いえ、法術師でも炎法術師は、火災を起こす危険性から森林内では十分な能力を発揮できません。それに暗い森の中では炎は目立ちます」


「なるほど」


「今回の冒険者ギルドの奇襲戦では炎法術師はむしろ足を引っ張る可能性があります。それよりかは、ゲイル殿の作戦に参加させる方が有意義です」


「ふむ、一理あるのぉ。では、その線でわしからヴァン支部長に進言しよう。もちろんこの別働隊の隊長はゲイル殿で」


「わ、私が隊長ですか!?」


「おぬしが立てた作戦じゃろ。最後まで面倒を見んとな」


「⋯⋯分かりました。よろしくお願いします」


つい口出ししてしまったことで、俺は重大な責任を負ってしまった。


だが、マナエルの未来のために俺たちは今度は逃げない。


この責任は最後まで果たしてみせる。


俺は決意を胸に仲間たちの所へ向かった。



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