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第70話 結界師は配下を得る

「シド様、ご婚約おめでとうございます!」


朝食の席につく工房のみんなが声をそろえて祝いの言葉を述べてくれる。


昨日は一晩中、伯父さんと伯母さんがお客と飲んでたみたいで、俺は朝食は工房で取ることになったのだが、みな朝からお祝いムードだ。


「ありがとうございます」


「シドさん、これで私たち婚約者あり仲間ですね。おめでとうございます」


(婚約者あり仲間ってなんだ?)


「ありがとうございます。エミリーさんとは同門ですから最初からお仲間ですよ」


「いやはや、さすがシド様ですなぁ。剣技も婚約も神速。そう思いませんかドノバン殿」


ダンさんがおっちゃんに話を振る。


「おお、成人したてで婚約なんて、びっくりしたぞシド。俺も剣の仕上げがなきゃ、リカルドさんたちと飲み明かせたんだがなぁ」


俺とおっちゃんは連日『無属性剣』の仕上げに勤しんでいたが、無事にゴブリン殲滅戦に向けた目標数をクリアできた。


「おっちゃんのおかげで、十分な数が用意できたよ。ありがとう。お酒なら買ってくるんで、ダンさんと飲んでよ」


「よっしゃ、今晩は飲むぞ〜」


「おお〜!」


おっちゃんは五年前に奥さんを魔素中毒で亡くし、今は独り身だ。


奥さんを亡くしてからは家での晩酌の相手がいなかったため、今はダンさんが一緒に飲んでくれるようになって嬉しそうだ。


明日はゴブリン殲滅戦への出陣だが、この二人は留守番だから多少飲み過ぎても大丈夫だろう。



「シド、ミオとの結婚を一年伸ばして本当に後悔はありませんの?」


キャサリンが心配そうに聞いてくる。


実は、今朝ミオが俺の部屋に早朝入ってきて、昨日のプロポーズについて、結婚は自分がE級冒険者になってからにしてほしいと言ってきた。


ミオ曰く、


『シドは一人前の工房長だけど、私はまだ見習い冒険者でしょ。シドと結婚するなら一人前の冒険者になってからにしたいの!』


とのことだった。


このマナエルは危険な街なので、平民では結婚が決まれば即入籍という人が多い。


サイロスさんとメイさんもそうだったが、待っていては失われてしまう機会もあるからだ。


一方、組織の上に立つ人物は婚約を選ぶ。


サイモンさんはフォートラン商会の次世代を担う人物として、エミリーさんと婚約し、実力と実績を積み上げているのだ。


ミオは後者を取り、婚約を選んだ。


ミオは工房長である俺にふさわしい妻となることを覚悟したのだ。


俺としてはミオはもう十分にその資格があり、すぐに結婚できると思うのだが、ミオ自身の決断を無視することはできない。


俺はただ、そようなミオを精一杯応援するだけだ。


「後悔はないよ。俺はミオの決断を尊重する」


「わかりましたわ。でも、当の本人はまだ聖樹の所ですの?」


「そうみたいだ」


実は今朝、聖樹がミオに、聖法力を自分に流してほしいと語りかけてきた。


今日は出陣前日なのでダンジョン攻略はお休みとなったため、朝からミオはそのお願いを聞いて、今は注入の真っ最中だ。


「シド様、ミオ様の朝食は私が持ってまいります」


エルノートさんが気を利かせてくれる。


「では、お願いいたします」


早速、キッチンの方へ入って行った。


キャサリンに向き直ると、何か少し言いたいことがあるような雰囲気だった。


「どうしたんだキャサリン」


聞いた瞬間、少し躊躇った様子だったが、キャサリンが口を開く。


「⋯⋯シド、実はお願いがあるのですわ」


「何だ?」


「私と一緒に行ってもらいたい場所があるのですわ」


「どこに行けばいいんだ?」


「この貧民街にある庶民派の礼拝堂ですわ」


「礼拝堂? 何の用事なんだ?」


「実はシドに戦ってもらいたいのですわ」


「誰と?」


「ロキ神父様とですわ。それも無手で」


「キャサリン、それってどういうことだか分かって言ってる?」


「はい、重々承知しておりますわ」


ロキ神父は聖治癒師でありながら、拳法の達人だ。


無手の格闘専門職は拳闘士だが、彼らは近接戦闘で魔素汚染を受けるので魔物を拳法で倒さない。


ゆえに、職業成長が低い者ばかりだ。


一方、ロキ神父のような聖治癒師が自ら鍛えた拳法で魔物を倒すと、聖法力の解放で一切の汚染が無いばかりか、魔物特効で容易に魔物を屠れる。


だから、職業成長が上がり、ますます強くなる。


また、怪我をしても治癒師なのですぐに回復する。


あの礼拝堂に所属する聖治癒師は十二人だが、いずれも猛者揃いだ。


最近、居なくなってしまった北の貧民街の司教とその一派が南の庶民派に手が出せなかったのは、彼らがとんでもない戦闘集団だったからだ。


「重々承知してるって、もしかして⋯⋯」


「はい、私は負けましたわ⋯⋯」


キャサリンは新人試験でも見たが、無手の達人だ。


その彼女が勝てない相手と俺が無手で勝負するとか、何の冗談だろう。


「もうシドにしか頼めないのです。理由はここでは言えませんが、どうしても必要なことなのです」


キャサリンは俺の目を見て、真剣に訴えかけてくる。


彼女の様子から、よほど重要なことなのだろう。


「⋯⋯分かった。やれる範囲で挑んでみる」


「ありがとうございますわ」



俺たちは朝食を済ませ、礼拝堂に向かうことになった。


「キャサリン、ミオの様子を見てからで良いかな?」


俺は行く前にミオに挨拶をしてから行こうと思い問いかけた。


「ええ、私もミオに会ってから出かけたいですわ」


俺たちは空き地の聖樹の元へ向かった。


「ミオ、調子はどうだ?」


俺が話しかけるとミオが首だけで振り返った。


傍らにはサンドイッチが置かれていた。


これはエルノートさんが持ってきた朝食だろう。


「シド、聖樹ちゃんの要求、結構キツくって苦戦中⋯⋯」


どうやら、いつもの法力鍛錬と同じくらいのキツさのようだ。


「ミオ、明日はゴブリン殲滅戦ですから、無理は禁物ですわ」


キツそうにするミオを見て、キャサリンが心配する。


「大丈夫。これくらいは、いつものことだから明日には響かないよ」


「わかりましたわ。でもしっかり休養を取りながらなさってくださいまし」


「了解。それで、二人ともどこか出かけるの?」


「キャサリンのお願いで礼拝堂まで」


俺は理由は説明せずに行き先だけを告げた。


下手すると、ミオまで神父さんたちと戦うと言いかねない。


そうなれば、明日の戦闘に支障が出るかもしれない。


「ふ〜ん。キャサリン、決めたんだ」


「え!? あの、は、はいですわ」


何やら俺には分からない会話を交わす二人。


「シド、私はキャサリンなら大歓迎だから。彼女のことよく考えて答えてあげてね」


何やらよく分からないが、ミオはキャサリンのお願いに心あたりがあり、それに応えてほしいということみたいだ。


「分かった」


ミオは一瞬、複雑な顔をしたが、


「じゃあ、いってらっしゃい」


と、その後は笑顔で俺たちを見送ってくれた。


「行ってきます」


「ミオ、ありがとうございますわ。行ってきますわ」


キャサリンがそう言うと、ミオが手を振った。


俺たちは礼拝堂に向かった。



道中、何人かの知り合いに「早速浮気か?」なんて冷やかされたが、軽く事情を話しつつ歩いて行った。


行く道はよく見知っている道だったが、行き交う人たちはみな笑顔で、幼子たちも道端で遊んでいる平和な風景だった。


「シド、この平和な風景は間違いなくあなたのおかげですわ」


キャサリンがそう語りかけてきた。


「そうか? 聖樹を植えたのはミオだし、あれは偶然だったから、俺は何もしてないよ」


「いいえ、偶然であっても、シドがいなければこの光景はありませんでしたわ」


「そうかな」


「そうですわ。排魔草や属性剣のことも全てシドが行動してくれたおかげですわ。マナエル住民全てを代表して、お礼いたしますわ」


(マナエル住民全てを代表してとか、まるでキャサリンがマナエルの代表者のようだな⋯⋯)


俺はキャサリンの発言に少し疑問を持ったが、


「俺は自分がすべきだと思ったこと、自分のスキルを伸ばすために必要だと思ったことしかしてないよ」


そう答えた。


「それが、シドらしいところですわね。私はそんなシドのことを慕ってますわ」


(何か告白めいたことを言われたような気がするな⋯⋯)


昨日のミオとのデートで、恋愛について不完全ながら感性が回復した影響かもしれない。


そう思ったのだが、俺はキャサリンの発言に何も聞き返さないことにした。


「シド、ミオからシドのこと、よく聞いてますわ。だから、無理に言葉にしなくても良いですわ」


どうやら、キャサリンは俺の事情をミオから聞いているらしい。


「でも、これだけは覚えておいてほしいですわ。これからどんな事態が起きても、シドがどんなことを知っても、私の気持ちは変わりませんわ。いつも私はシドのことを愛しておりますわ」


やっぱり勘違いじゃなかったようだ。


出発前、ミオが言ったことはこういう事を言っていたのだ。


「俺は⋯⋯」


「シド、お願いですから、今は答えを出さないでほしいですわ。今はどうか、心の片隅に私の言葉をとどめておいてほしいのですわ」


俺はキャサリンに答えようとしたが、先ほどのミオの言葉を尊重してそれをとどめた。


俺は黙って頷いた。


「ありがとうございますわ」


俺たちは再び前を向いて歩いた。


「見えてきましたわね」


俺にとっては久しぶりの礼拝堂だ。


この庶民派の礼拝堂はとても小さく、北の貧民街にある大聖堂とは違い、周辺住民が一斉に利用はできない。


だから礼拝堂周辺の家族は、聖日は近所の家族と集まって、家庭で礼拝を行うのが習慣となっている。


「何か模擬戦をしているようですわ」


礼拝堂の前の広場でロキ神父と剣士が戦っていた。


「一対一じゃないな」


「シドも分かりますか? もう一人いますわ。暗殺者ですわね」


俺たちは模擬戦の様子からロキ神父が二人を相手に戦っていると感じた。


だが視覚的には一対一に見える。


「剣士もなかなかだね。対人戦に慣れた動きだ」


剣士はスラッシュを囮にし、素早く懐へ踏み込んできた。


だが、それは神父も承知しており、スラッシュを法力の当て身で相殺した後、懐に入り込んできた剣士の剣を側面から手の甲で逸らし、ボディブローを打ち込んだ。


そして、その隙を突くように暗殺者の男が現れ、背後から攻撃しようとしたところ、足で動きを止め、蹴りを入れた。


「さすがロキ神父様ですわね」


「ああ」


(ロキ神父の動き、隠しているようだが、あれはよく知った動きだ⋯⋯)


俺たちは模擬戦が終わったようなので、三人に近づいていった。


「おはようございます。ロキ先生」


「おはようございます、シド君、いや、今やシド様と言ったほうが良いのかな? ミオ君との結婚、おめでとうございます。子供たちも大騒ぎでしたよ」


「どうぞシド君のままで。ミオとは婚約して、結婚は一年後にしました」


「そうでしたか。今やシド君は責任ある身、慎重になられることは良いことです」


「ロキ神父、おはようございますわ」


「これはキャサリン様、おはようございます。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。本日のご用向きは先日と同じでよろしいでしょうか?」


「はい、今日は代理人をシドに依頼いたしましたわ」


「分かりました。では以前からの約定通りに実施いたしましょう。その前にこの二名をご紹介しておきます」


ロキ神父が先ほど戦っていた二名を紹介してくれる。


「こちらがザインさん、故あって今、当礼拝堂にて保護させていただいております。そしてザインさんの護衛のジンさん」


ロキ神父がそのように紹介すると、ザインと紹介された屈強な剣士が近づいてきて、俺の両手を取って握手してきた。


「ザインと申します。シド様、今は素性を隠して保護される身ですので所属は名乗れませんが、私はシド様に並々ならぬご恩を受けました。心より御礼申し上げます」


俺は一体、何について礼を言われているのか分からなかったが、この人が真に俺に感謝していることは伝わった。


「何に感謝されているのか分かりませんが、ザインさんのお役に立てたのなら幸いです」


「ありがとうございます!」


ジンと紹介された人物も近づいてくる。


「はじめまして、あっしの名はジン。エルノートさんの部下でやんす」


(エルノートさんの部下? そう言えば、エルノートさんは任務があってマナエルに来たと言ってたな。その任務を遂行するための部下なんだろうか)


「はじめまして、シドです。エルノートさんにはお世話になっております。エルノートさんはいつも私の工房で仕事をしてもらってますが支障はありませんか?」


「はいでやんす。今はザインさんの護衛だけでやんすから、問題ないでやんす」


「良かったです」


その後、二人はキャサリンにも挨拶したが、何やらとても緊張した感じだった。


「では早速ですが、ロキ神父、お願いいたします」


キャサリンがそう述べるとロキ神父が、


「では、立会人を呼んでまいります」


と言って礼拝堂に入って行った。


しばらくするとぞろぞろと中から屈強な聖治癒師たちが出てきた。


中には孤児院長のキセラ先生もいた。


「お待たせしました」


俺とロキ神父は広場の中央に向かい合った。


「シド、新人試験の時のような技は使わず戦っていただきたいのですわ」


キャサリンが心配そうな顔で声をかけてきたが、それは杞憂だ。


「キャサリン、心配しなくてもロキ先生にはその技は効かないよ」


そう言うと、キャサリンの目が見開かれる。


そう、俺がよく知っている人がロキ神父の師匠なら、遠距離からの間接的な法力操作は直ぐに対策されてしまう。


審判役が双方を見て、


「はじめ!」


開始の合図を発した。


「はぁぁ!」


先手はロキ神父で、聖法力が込められた、光る神速の右拳が繰り出される。


(派手だなぁ)


俺はその拳の側面から、無属性の法力を込めた右手で軌道を逸らし、懐に入り込み、ロキ神父の右腕を背負い込んだ。


同時に右足からロキ神父の右足に法力を流し込み、法力操作でジャンプさせ、背負投で地面へと叩きつけた。


静まりかえる立会人たち。


そして、


「⋯⋯しょ、勝者シド様!」


「うおぉぉぉぉ」と唸るような歓声が周りから湧き上がった。


俺はロキ神父に手を貸して起き上がらせた。


「参りました。シド様には見えておられたようですね」


「はい、隠されているようでしたが、エル爺伝授の身体強化を瞬間的に使用されてましたね」


「はい、エル様からも対人戦において無属性法力の身体強化は相手に悟られないよう瞬間的に使用するよう教えられましたので」


「そうですね。現段階ではそれが最善です。聖法力の派手さも無属性法力の身体強化から目をそらすためですね」


「ご明察です。逆にシド様の身体強化は私には一切感じられませんでした」


「これは次段階なのですが、身体強化部分を局所的でなく広く、そして、余分な法力が溜まらないようにするんです」


俺は身体強化し、正拳突きと中段蹴りを見せてみた。


「何と精緻な身体強化! 素晴らしいです! 逆にそのように見えるようになされると、対峙した者の戦意が砕かれてしまうかもしれません」


「それは考えたことはありませんでした」


俺は少し身体強化に使用する法力量を多くして、さっきと同じく正拳突きと中段蹴りを見せてみた。


周辺から「おおぉ」というどよめきが起こる。


「それを先に見ていれば、構えた瞬間、負けを認めておりました」


会話を聞いていたキャサリンが近づいてきた。


「見えるとか、見えないとか私には分からない境地ですわ」


「暗殺者の動きはとらえていたじゃないか?」


「暗殺者についてはスキルの特徴を伯父様、伯母様から叩き込まれましたから分かりますわ。でも、シドたちの戦闘の無属性法力による身体強化についてはさっぱりですわ」


「まあ、これは同門の人にしか分からないのかもしれないなぁ」


「でも、シド、出発前は自信なさげでしたわ」


「無手は練習量が少ないし、全く知らない技術体系だと手も足も出ないからね」


「釈然としませんが、よろしいですわ――ロキ神父様、これで条件は満たしましたわ」


「はい。約定通り、今回のゴブリン殲滅戦に私たち聖治癒師十二人、随伴させていただきます」


「では――」


「ただし、私たちが従うのはシド様です。命令はシド様を通じてお願いいたします」


「え!? 俺は今回の戦いには整備士として随伴するんですが⋯⋯」


「それは重畳。私たち聖治癒師は本来、後方支援ですから」


その様に話していると、ザインさんが近づいてきて、


「こりゃ、参りましたな。領主様から、この礼拝堂がこのマナエルで最も安全だって言われてここに居たんですが、聖治癒師の方々が戦場に行かれるのでは⋯⋯」


と、ロキ神父に話しかける。


「では、ザインさんもご一緒にゴブリン殲滅戦に随伴されればよろしいかと」


ザインさんがチラッと俺を見て、


「そうですな。シド様には大きな恩がありますから、私もシド様の指揮下で随伴いたしましょう」


「では、あっしも付いていかなきゃならないでやんすね」


「では、我ら十四人、シド様に従い、明日出陣いたします」


「ちょ、ここの孤児院の子たちはどうするんですか?」


「明日は聖日、周辺の家族がこの礼拝堂に集まります。我らは早朝に聖餐を済まし、後のことは集まる信徒の方々にお任せします」


「相談とか必要無いんですか?」


「聖日は子供たちにお肉を食べさせるために、よく信徒の方々に子供を預けて狩りに行きますので、いつものことなのです」


「そうなんですか⋯⋯ところで、約定って何ですか?」


「約定とはマナエル公爵との約定です。これまで、我々はこの貧民街で魔素の浄化に全力を注いできました」


「はい、そのことはよく知ってます」


「はっきり言いまして、ここの状況は私たちの手に余るほどの状況でしたが、一方で、マナエルでは従軍する聖治癒師の需要が高く、ご領主様から再三の要請があったのです」


「そんなことが⋯⋯でも」


「はい、私たちにはそれに応じる余力が全く無かったために、再三の要請を断るしか無かったのですが、何度もお断りするのは不敬であるとも思い、約定を結んだのです」


「まさか⋯⋯」


「そのまさかです。私に無手で勝つことができれば従軍すると、ご領主様と約定を交わしました」


(それって実質断ってるのと同じでは? 職業成長の乏しい拳闘士なんてロキ神父の相手なんて務まるわけがない⋯⋯)


「それで無手の達人のキャサリンが挑戦したってことか?」


「はい、父の推薦で⋯⋯」


「それで負けたと?」


「その通りですわ」


「でも、最近は魔素濃度の低下でロキ神父も余裕があったとうかがっていましたが⋯⋯」


「確かに、シド様、ミオ様のおかげで私たちの状況は考えられないくらい改善されました」


「じゃあ何で約定を解除しなかったのですか?」


「最高位の法力紋による約定で、期間が来ないと解除できない約定だったからです」


(ああ、そりゃ無理だ。肉体に刻む奴隷紋と同じだ⋯⋯)


「ですから、もうシドに頼るしかなかったのですわ」


「確かにミオでは、持久戦ぐらいしか勝ち目はなかっただろうね⋯⋯」


「それが⋯⋯」


「え? まさか」


「はい、ミオは既に何度も負けてますわ」


(いつの間に⋯⋯)


「我々もシド様が勝ってくださってホッとしました」


「それって⋯⋯」


「いえ、決して勝負に手は抜いてません。約定には全力勝負とありますので」


「そうですか⋯⋯」


(俺が勝ってなきゃ、聖治癒師無しで明日は行軍することになってたなんて⋯⋯)


「事前に聞いてたら、緊張して負けてたかもなぁ」


「そんなことは無かったと思いますよ。明らかにシド様の実力は私の遥か上でしたから」



かくして、俺は知らず知らずにマナエルの未来を救ったらしい。


(まったく、心臓に悪いよ⋯⋯)


俺たちは、また明日、出陣式で落ち合う約束をして帰宅した。


「ミオ、ただいまぁ」


「おかえりぃ」


そして、


「シド、わたし子供ができちゃった」


「え?」


俺は再び心臓に悪い報告を聞くことになった。



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