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第66話 結界師はデートに誘う

「ゴブリン殲滅戦に剣の整備士として同行ですか?」


俺は泥と剣の納品のためにフォートラン商会に来た。


その際、話があるとサイモンさんの執務室に呼ばれた。


「ああ、領主様と冒険者ギルド両方から、うちの商会に依頼で、剣の整備士を出してくれと言われたんだが、それがどう考えてもあの剣の製作者であるシド君を指す言い方でね」


少し困った顔で俺に語りかけるサイモンさん。


剣の性能については俺も自信があるが、やはり初の実戦投入ともなると、未知のトラブルがあるかもしれない。


俺は製作者としての責任を果たすことを決めた。


「いいですよ」


「え? いいのか?」


「はい、ミオたちから使用感は聞いてますが、他の冒険者の方々からはまだ何も聞いてませんから。問題があれば直ぐに対応できる場所にいるほうが良いと思います」


「助かった。うちからも何人か鍛冶師を出すんで、よろしく頼むよ。依頼料は工房の口座に入れておくから」


「分かりました」


「あと、これは完全におせっかいなんだが、ミオ君の防具、何とかしたほうがいい」


「防具ですか?」


「ああ、彼女は今回の殲滅戦に参加するんだから、もっと良い防具を身につける方がいい。後でうちの商会に防具を見に来るといい。出発まであと二日だからオーダーメイドは無理だが、既存品で良い素材の防具を選ぶといい」


そう言えば、ミオの防具は学校の授業で使っていた安い革鎧のままだ。


本人もあまり気にしてなかったから、俺も見落としてたが、中級冒険者以上が参加する殲滅戦で、あまりみすぼらしい格好で行かせるのは良くない。


(さすがサイモンさん。よく見てるな⋯⋯)


俺が自作するという手もあるが、素材が問題だ。


法力を練った鉄では重くなるだろうし、トレントは今、素材がない。


ゴブリンの弓の木材はトレントほど強度は出せない。


殲滅戦まで日がないから、ここはサイモンさんの提案に乗ろう。


「分かりました。お金に余裕もありますから、俺からのプレゼントとしてミオに贈りますよ」


「男としていい判断だ!」



俺はフォートラン商会を一旦後にし、『聖樹工房』への帰路についた。


『聖樹工房』という名前は、工房立ち上げの日にエルノートさんがいの一番に提案し、それを採用した。


ミオたちは、キャサリンとメイさんが工房住まいになったおかげで、早朝からダンジョンに出かけることができるようになり、日も昇らない時間に朝食を持って出かけ、昼には工房に戻ってくるようになった。


だから鍛錬は、早めの夕食を食べ、夕方以降の時間にまとめてやるようになった。


最近、ミオは祝詞の練習も夕方にするようになった。


あまり花を咲かせて街中花だらけにしないよう、出力調整も指導する。



「そろそろ昼だしもう帰ってきてるかな」


昼食は工房住まいの人たち全員で取る習慣になってきた。


昼からはナナちゃんたちが合流して、みんなで工房の仕事をする流れだ。


サイロスさんのおかげで仕事も順調に増え、聖樹工房は設立したてとは思えない程に順調な経営ができている。


俺はまだミオたちのパーティーメンバーになることを諦めてないし、冒険者としてこれからも活動するつもりだが、一人の男としてはもう独立した家庭を持ってもいいだけの経済力を持った。


このマナエルは危険な街だ。


それだけに、ここに住む人たちは自分たちを守る『家庭』をとても大切にしている。


「俺も家庭を持つべきかな⋯⋯」


俺は工房へと荷車を引いて帰る途中にそうつぶやいた。





「デ、デデデ、デートォ!? はうはうぅぅ〜」


ミオが叫び、茹で上がってしまった。


俺は昼食の時に、ミオに今日デートしようと言った。


「シド、だめですわ! そういうのはミオと二人っきりの時に話さなければなりませんわ! デリカシーのない男性は嫌われますわ! でも⋯⋯うらやましいですわ⋯ゴニョゴニョ」


キャサリンが俺を叱るが、最後は何かゴニョゴニョ言っている。


まあ、我ながらデリカシーが無いとは思うが、タイミングが悪い。


殲滅戦まで日がないし、夕方の鍛錬までは二人っきりになれるチャンスが無いのだ。


「シドさんって、いつも淡々としてて、会話も無駄がないですよね。でも、無駄を楽しむのも恋愛なんですよ」


エミリーさんが経験豊富な先輩のように俺にアドバイスする。


実際にエミリーさんはサイモンさんの婚約者なので、恋愛の先輩に違いない。


エミリーさんの言っていることは尤もだとは思うが、俺は人の感情は現象として理解しているが、どうも俺自身の中では実感がわかないため『無駄』というものが何か分からない。


「エミリー様、無駄のない現実的な決断をする所がシド様の良いところですぞ」


ダンさんがエミリーさんに反論する。


だが、俺が現実的な選択をしてしまうのは、長所ではないような気がする。


俺は何かに欠けているから、現実的なのだ。


「シド様、ミオ様とのデート、素晴らしいお考えです。シド様は第一世代聖樹の主であり、この聖樹工房の工房長。この際ですから、ミオ様とご一緒にお召し物を見に行かれてはいかがでしょうか?」


エルノートさんは安定して俺の意見に従う人だが、提案も現実的で理解しやすい。


「そうですね。そうします」


俺はエルノートさんの提案を了承した。


これまで官庁への届け出、あちこちの業者への挨拶、対外的な交渉はサイモンさんに頼りっきりだった。


いつまでもサイモンさんに頼りきりではいられない。


きちんとした身なりで工房長として立ち回る必要があるだろう。


「シド様、ミオ様とのデート、ご英断です。お買い物の後は歌劇とご夕食はいかがでしょうか? ご夕食は政庁街に『昇陽亭』という高級店がございます。歌劇場と『昇陽亭』では、責任者に私の名と後ほどお渡しするメモ書きの言葉を言っていただけましたら、良い席を用意してくれるはずです」


「ありがとうございます、サイロスさん。俺もミオも歌劇なんて見たことないし、外食もしたことがないんで、楽しみです」


相変わらず、サイロスさんの段取りは素早く的確だ。


彼の言った通りの場所で用意された言葉を言えば、大抵、先方は良いように動いてくれる。


「シド様、ミオさんとのデート、私は何もできませんが、応援してます。どうぞ、工房のことは気にせず、楽しんできてください」


「メイさん、ありがとうございます」


メイさんは結婚後、俺のことをサイロスさんと同じくシド様と言うようになった。


前はおどおどした感じだったが、結婚して何か吹っ切れたようで、今は堂々とした感じだ。


「サイロスさん! 他人のデートプランだけじゃなくて、私たちのデートプランも立ててくださいよ! 結婚前に一回もデートしてないんですから、デートしたいです!」


「あ、ああ。そ、それじゃあ、明日にでも⋯⋯」


「ヤッタ~!」


何かメイさんがサイロスさんを尻に敷いてるような印象もある。



「はうはう〜」


ミオを見たらまだ回復してなくて、頭から湯気が立っている。


「ミオ、食べたら出かけよう」


「はうはう〜」


どうやら、返事がまともにできないらしい。


ナナちゃんたちが合流したら、俺もミオも興奮した女の子たちに取り囲まれてしまいそうなので、早く出たいのだが大丈夫だろうか。


結局、キャサリンとメイさんが風呂場にミオを連れて行って、身ぎれいにして、家からキャサリンが持ってきた服を着せて準備した。


俺は外行きの服なんて無いからそのままの格好だ。


「じゃあ、行ってきます」


「はうはう〜」


「「「「いってらっしゃい(ですわ)(ませ)」」」」


俺たちは工房を後にしフォートラン商会に向かった。



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