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第59話 モグラ狩りは誇りを取り戻す

「「「「「だ、騙された……」」」」」


五人は声を揃えて呻いた。


俺たちがシルビア嬢に連れてこられたのは地下訓練場だった。


そこには、腕組みした細マッチョと太マッチョの教官二人。


シルビア嬢は「お連れしました。よろしくお願いいたします」と言って去って行ってしまった。


「よく来たな。モグラ狩りの冒険者はお前たちで最後だ。やはり、モグラ狩りにはシルビア嬢だな」


細マッチョはA級冒険者のジュノー教官。


「諸君、筋肉が足りていないようである。吾輩と一緒に筋トレに励むのである!」


太マッチョはこちらもA級冒険者のゴーリキー教官。


背後には、訓練に汗を流す俺たちと同じモグラ狩りの中級冒険者たち。


「あ、あのう⋯⋯、今日はちょっと胃腸の調子が⋯⋯」


逃げようとしたところ、ジュノー教官にガシッと肩をつかまれた。


「お前らは狩り穴の中にいたから知らないかもしれないが、四日前、王命で南の森のゴブリン集落の殲滅戦を行うことが決定された。これは、中級冒険者以上への強制依頼となる」


「「「「「きょ、強制依頼!?」」」」」


「それに加え、領主様からお前たちモグラ狩りの冒険者たちに短期の特別クエストが出された。軍の布陣に備え、モグラ穴の埋設をモグラ狩りと同時並行で進める。喜べ! このクエストは高額報酬クエストだぞ!」


「「「「「ヤッタ~!」」」」」


「だが、三日後の開戦に向けて、お前たちの再訓練も同時に実施する! 今日から殲滅戦まではギルドで宿泊し、ギルドの厳格なスケジュール管理の下、クエストと訓練に集中してもらう! いいな!」


「「「「「は、はい⋯⋯」」」」」


五人とも一気に酔いがさめ、最高のテンションから一気に急降下し、どん底にたたき落とされた。


「さあ、さっそく訓練なのである。仲間が待ってるのである」


「ちょ!」


「き、筋肉で潰され⋯⋯」


「ああ、シルビア様ぁ」


「お、俺は吹き矢の練習ぅ⋯⋯」


「ね、眠い」


俺たちはその後、数時間みっちりと筋トレをさせられた。



「ハアハア、も、もう動けん」


「ああ、筋肉の悪夢を見そうだ⋯⋯」


「おお、シルビア様が川の向こう岸で手を振っている⋯⋯」


「お、俺は吹き矢のぉ⋯⋯」


「寝る⋯⋯」


「これしきで音を上げるとは、普段から筋トレをサボっている証拠なのである」


確かに、モグラ狩りを始めてから、筋トレをサボり気味であったことは認めるが、急にこれだけの筋トレをしたからと言って、筋肉が急につくはずはないと思っていた矢先、俺たちはここが地獄の底でないことを知った。


「終わったか? さあ、木剣を取れ。今からは俺が剣術の指南を行う」


信じられないことに、次に待ち構えていたのはジュノー教官の剣術指南だった。


「ちょっと休みを⋯⋯」


「い、今動くと吐き気が⋯⋯」


「シルビア様、俺もそこに行きます⋯⋯」


「頼むから吹き矢を⋯⋯」


Zzzzズリズリ


その後、みっちり素振りと、模擬試合をさせられた。



「う、腕が上がらん⋯⋯」


「ああ、筋肉と木剣が襲ってくるぅ⋯⋯」


「ハハハハ、シルビア様ぁついにお側に……(ガク)」


「も、もう吹き矢を吹く筋力も⋯⋯」


「ベチャ⋯⋯ドロ⋯⋯」


ここ数年、まともな剣術を使う戦闘を行っていなかったことも災いして、もはや俺たちは死に体になっていた。


「ほれ、飲め!」


ジュノー教官が回復ポーションを手渡してくれた。


下級のポーションだったため、疲労は全回復しなかったが、少しまともな思考ができるようになった。


「ジュノー教官、俺たちがいくら剣術の稽古をしても、今の俺たちの剣じゃあどうしようもありませんよ」


俺は言いたくなかったが、現実をジュノー教官に突きつけた。


俺たちはみなうつむいた。


すると、ジュノー教官は目を上げ、訓練場全体を見渡して言った。


「周りを見てみろ。お前たちと同じ境遇にあるモグラ狩りの冒険者たちを」


俺たちは目を上げた。


そこには信じられない光景があった。


俺たちと同じ境遇にあったモグラ狩りの冒険者たちが真剣な目で、一心不乱に剣術の稽古に励んでいた。


「どうしてだ? どうして、みんなこんなに真剣に剣術に向き合える?!」


彼らは俺たちと同じはずだ。


どれだけ一生懸命剣術の稽古をしようとも、使える剣が無いはずだ。


俺たちの様に刺突用のミスリルの短剣を持っているだけのはずだ。


「付いてこい」


俺たちはジュノー教官の先導について行った。


そこは、もう一階下の地下の武器庫だった。


そこにはギルド専属鍛冶師のジルさんがいた。


「おお、来たか。こいつらが、モグラ狩りの最後のパーティーか?」


「そうだ。頼めるか?」


「ちょっと待ってろ」


ジルさんは武器庫に入って行き、しばらくすると一振りの剣を持って出てきた。


「お前たちはギルドの強制依頼に参加するのは初めてか?」


「はい、正式な参加は今回が初めてです。マナエルの撤退戦の時はまだ駆け出しで、非常時招集で参加しましたし、奪還戦の時は、義勇軍に志願したので、ギルドの強制依頼は受けたことがありません」


「そうか。ギルドの中級冒険者向けの強制依頼の場合、ギルドから武器が貸し出される」


「それって!?」


俺たちはジルさんの持つ一振りの剣に注目した。


「その貸し出される剣はミスリルの剣ですか!?」


「そうだな。本来はそうなる予定だったが、お前たちには鉄の剣が貸し出されることになった」


ああ、期待して損した。


俺たちの様な半端者のモグラ狩り冒険者には、ミスリルの剣なんか貸してくれるはずがない。


俺たちは武器転換に失敗した冒険者だ。


おそらく、任務中に壊れることを前提に法鉄製の剣を貸し出されるに決まってる。


俺以外のメンバーも意気消沈してしまった。


「まあ、そんなにがっかりするな。この剣を抜いてみろ」


ジュノー教官はジルさんから剣を受け取り、俺に剣を差し出した。


「⋯⋯⋯地味な剣ですね」


率直な感想として、見た目は非常に地味だ。


おそらく、中身も普通の法鉄の剣だと思いつつ、俺は剣を鞘から抜いた。


「「「「「な!?」」」」」


俺たちはその剣を見て絶句した。


その剣は実に美しく、これまで見てきたどんな剣よりも優美でありかつ力強さに満ちていた。


「これは本当に法鉄の剣ですか!?」


「いや、法鉄の剣じゃない」


「じゃあ、一体これは!?」


ジュノー教官に代わり、ジルさんが答えた。


「それは『鉄製の無属性剣』だ」


「無属性剣?」


「ああ、それは国宝と同じ部類の属性剣だ。ただし、込められている法力に関しては無属性だ」


「「「「「国宝!?」」」」」


俺たちはそれを聞いて思考が停止した。


なぜ、『国宝』なんて言葉が出てくるんだ?


「混乱するのは仕方ない。だが今回、ギルドはお前たち五人にこの剣を貸し出す。これは決定事項だ!」


「ど、どういうことですか!? 何が何だか分かりませんよ!」


俺ははっきり理解できないことを伝えた。


「お前たち、フォートラン商会は知ってるか?」


「知ってます。排魔草の茶を買って飲んでますから」


「そうか。そのフォートラン商会と冒険者ギルドは剣のリース契約を結んだ。そのリースされる剣がこれだ。お前のみならず、上で訓練をしているモグラ狩りの全員に今回、この剣が貸し出されることとなった」


(国宝級の剣をリース契約? 一体、どんな高額な値段で貸し出される剣なんだ? 俺たちモグラ狩りの冒険者全員に貸し出すなんて、ギルドは破産するのではないか?)


「ギルドは一体いくらで剣を借りたんですか!?」


「剣一振り、年間大金貨一枚だ」


「年間大金貨一枚!?」


なぜそんな安値で国宝級の剣が借りられるんだ?


「どうしてですか? なぜそんなに安く借りられるんですか!?」


「⋯⋯⋯俺たちにも分からん。だが、真実だ。そして、ギルドはゴブリン殲滅戦の後についても、この剣をお前たちに貸し出すことを決定した」


俺たちはそれを聞いて口を開けて放心状態になった。


「そ、それって⋯⋯」


「ギルドはお前たちモグラ狩り冒険者たちに年間小金貨三枚でこの剣を貸し出す」


「なぜですか? 貸し出し料は大金貨一枚なのではないのですか!?」


「小金貨一枚分はギルドからお前たちに対する償いだ」


「償い?」


「そうだ。ギルドはお前の様な武器転換に失敗した冒険者たちに何も打つ手を講じられなかった。ヴァン支部長からの伝言だ『これまで助けてやれなくてすまなかった。そしてよく耐えてくれた』」


俺たちは溢れる涙をこらえきれなかった。


これまでの苦労の日々が走馬灯のようによみがえる。


(ああ、辛かったが、歯を食いしばり耐えてきて良かった……)


「ゲイル、こりゃ反則だぜ⋯⋯」


ハンクが俺の肩をつかんで耐えきれなくなって号泣し始めた。


チャック、ベン、ヨハンも肩を抱き合って泣いている。


「ゲイル、加えて支部長からお前に指示が出ている。アマンダさんの所でお前の目を治療してもらってこい」


「アマンダさんのところへ? 行って良いんですか!?」


アマンダさんは最高の聖治癒師だが、普段は大混雑の原因となるため、冒険者の利用をギルドが禁じている。


「ああ、許可は下りてる。心配するな。支部長はお前に万全の状態で殲滅戦に参加させろと命じられた。だからゲイル、お前の前歯も再生してもらってこい」


「な!?」


もはや、俺は立っていられなかった。


目だけじゃない。


諦めていた歯の再生も―――


俺は膝をついて号泣した。


そして、俺は決意した。


(俺はもう逃げない。これからは、決して仲間を見捨てない。どんなことがあっても、誇りにかけて仲間と共に生き抜いてみせる!)


俺は両手に持った剣を頭の上にかざし続けた。


俺の流す涙で錆びつかせないように。


俺の錆びついた人生は、この時から輝く剣のように光を発し始めた。




【あとがき】

読者の皆さん、本小説をお読みいただきありがとうございます。作者はこの三話のモグラ狩り冒険者の話を、特に私と同じロスト・ジェネレーションの皆さんへ捧げる気持ちで書きました。私も皆さんと同じく、暗い穴蔵からインターネットという窓を通じて届かぬ空を見上げるだけの存在でした。しかし、長い期間の忍耐の中で得たものを、この様な小説という形で発表する機会を得ました。どうか、皆様の人生も輝きを放ち、与えられた人生に生きる意義を見出すことができますよう、祈念しております。

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