第58話 モグラ狩りたちは女神からの呼び出しを受ける
「イビルホークの鳴き声だ。チャンスかもしれん」
イビルホークはイビルモールの天敵だ。
音に敏感なイビルモールはその鳴き声を聞くだけで、慌てて逃げ出す。
俺は耳を澄ませ、地中を進むイビルモールの動きを探った。
俺は視力が落ちてから耳が鋭敏になったように感じている。
「来るぞ! ハンク、ヨハンを叩き起こせ!」
「分かった!」
「チャック、お前の出番だ。モグラが来たらいつも通り空斬撃で足止め、モグラが縦穴で頭を上げたところを四人で仕留める。間違っても風斬撃を撃つんじゃねえぞ!」
「分かってる!」
モグラの移動音が大きくなってきた。
「来るぞ! 三、二、一、今!」
「空斬撃」
「ジィ! ジィゥゥゥゥゥゥ!」
チャックの一撃でモグラが頭を上げ、腹を見せた。
「今だ合わせろ! 」
「「「「刺突」」」」
「ジィァァァァァァァァ!!」
四人のスキルがモグラの腹を突き通した。
が、最後のあがきでモグラが暴れまわる。
この瞬間が最も危険だ。
俺たちは魔物の腹に肉薄している。
巨体が俺たちを周りの壁に押し付け、また、魔物の返り血に含まれる魔素が俺たちを汚染するのだ。
俺の目は返り血が目に入ったのが原因で視力が落ちてきたのだ。
みな、魔素汚染に耐えながら、目をつむり必死でこらえる。
「ジィ、ジィゥゥ⋯⋯⋯」
どうやら、最後のようだ。
モグラは絶命した。
「ハンク、チャック、ヨハン無事か!?」
「ああ」
「無事だ」
「大丈夫だ」
どうやら、今回は全員無事に討伐できたようだ。
「やったな! 今月は幸先が良い」
ハンクが来て俺の肩をたたく。
「ああ、シルビア様ありがとうございますぅ」
チャックがシルビア嬢を讃える。
チャックは常にこれだ。
「ふぁぁぁ、眠い」
ヨハンはいつもこの調子だ。
「おおぉい、大丈夫かぁ?」
縦穴の上から声がかかる。
「ベンか? 今仕留めた。フックを下ろしてくれ!」
「分かった」
休憩中のベンが穴の側にいてくれて助かった。
すぐにモグラを釣り上げて運び出せる。
俺たちはモグラを引き上げた後、返り血のついた服を脱ぎ、用意していた浄化水で血を洗い落とし、換えの服を着て狩り穴から出た。
モグラの血が染み付いたので、他のモグラは警戒してこの穴には近づかない。
だから、しばらくはこの狩り穴は使えないだろう。
「ベン、休憩中にすまんな。助かった」
「いや、ギルドにシルビア様を拝みに行ったら、面白いものが手に入ったんでな。試してみたくて、来たんだ」
「面白いもの?」
「ああ、これだ」
それは、角笛だった。
ベンがそれを吹くと先ほど聞いたイビルホークの鳴き声が響いた。
「おいベン、モグラ狩りをする前のイビルホークの鳴き声はお前が鳴らした笛の音だったのか!?」
「そうだ。効果あっただろ?!」
「おい、俺にも見せてくれ」
ハンクがベンに詰め寄る。
「焦るな。人数分買ってきた」
「いくらだったんだ?」
「この吹き矢と矢じり十個が付いて銀貨一枚だった」
「吹き矢!?」
チャックが吹き矢に反応する。
「ああ、この吹き矢もなかなかの性能だ。何やら子供たちが実演販売していて、見たんだが、イビルモールの柔らかい胴体部分になら十分刺さる威力だ」
「俺も吹き矢を吹いてみてもいいか?」
「ああ、これはチャックの分だ。矢じりがもったいないから、一度だけにしとけ」
チャックがさっそく、試してみる。
矢じりをセットし、勢いよく吹くと、的にしていた岩に矢じりがぶつかり岩に小さな欠け目ができた。
結構な威力だ。
ベンは一人一人に角笛と吹き矢のセットを配った。
しかし、ヨハンがベンの持っている吹き矢に違和感を覚え質問した。
「おい、お前の吹き矢だけ何か付いてるぞ?」
ヨハンはいつも眠そうにしてるが、妙に細かいことに気づく性格だ。
「え!? あ、その⋯⋯」
ベンが何か気まずそうにする。
「これは、風属性の法石がはめ込まれた高威力の吹き矢なんだ⋯⋯」
「高威力!?」
チャックがまた反応する。
「おい、それはいくらしたんだ?」
「銀貨十枚。でも、九枚分は俺自身の貯金から出した。パーティー資金には手を出してない」
「それも試させろ」
「だめだ。これは俺が買ったんだ」
「じゃあ、お前が吹いて性能を見せてくれ」
「⋯⋯⋯仕方ない」
ベンは先ほど的にした岩に向かって吹き矢を吹いた。
すると先ほどの矢じりの着弾とは明らかに違うかん高い音と共に、岩に穴が空き矢じりが深く突き刺さった。
「「「な!?」」」
あまりの威力に驚いた。
これなら、イビルモールの頭蓋も貫通するだろう。
「おい、お前だけずるいぞ! 銀貨九枚払うからそれと換えてくれ」
「駄目だ!」
ベンとチャックが喧嘩になった。
しばらくもめたが、結局、俺とハンクの吹き矢が未使用だったので、後でギルドに行った際に、法石付きの吹き矢に交換してもらうことにした。
俺たちはその後、仕留めたイビルモールを血抜きしていて、浄化作業を行ったが、俺には一つ作戦があった。
「聞いてくれ。作戦を考えた」
俺が声をかけると四人が寄ってきた。
「角笛と吹き矢を使ってもう一狩りしよう」
「はは、そう来ると思ってたぜ」
ハンクが説明する前から乗り気で笑う。
「ああ、イビルホークの鳴き声でモグラを追い込み、高威力の吹き矢で仕留める」
「いいぜ。人数はどう割り振る?」
「三人が追い込み役、二人が仕留め役だ」
「だが、高威力の吹き矢はまだ一本しかないぞ」
チャックが意見する。
「それは仕方ない。一人は普通の吹き矢で牽制して動きを鈍らせ、その後、もう一人は高威力の吹き矢で眉間を撃ち抜いて仕留める」
「仕方ないか」
「まあ、うまくいかなくても、モグラとの距離が離れているから最悪逃げられる」
「じゃあ、俺がヤバい時は空斬撃で時間を稼ぐ」
「分かった。じゃあ、俺とチャックで仕留める。三人は笛で追い込み役をしてくれ」
「ええぇ、ゲイルに俺の吹き矢を貸すのか!?」
ベンが自分の吹き矢の貸し出しを渋る。
「お前とチャックのコンビじゃ、モグラの攻撃タイミングを計れないだろ」
「はぁぁ、洗って返せよ」
「分かってる」
ということで、イビルモールの追い込み作戦を開始した。
俺とチャックはいつも通り、縦穴の窪みに潜む。
狩り穴は実験的にさっきモグラを狩った穴を使うことにした。
この狩りがうまくハマれば、狩り穴をいちいち変えなくても良くなる。
三人が角笛を一斉に鳴らした。
高く響き渡る音が付近一帯に満ちる。
そして、モグラの移動する気配を捉えた。
「いいぞ、こっちに来る」
「今さらだがゲイル、お前吹き矢の狙いはつけられるのか?」
「大丈夫だ。排魔草の茶のおかげで、視力が回復してきた。動きが止まったら、接近して仕留める。任せとけ」
俺はその時を待った。
そして、来た。
「チャック、やるぞ三、二、一、今!」
チャックが吹き矢を吹いた。
矢じりは真っ直ぐ飛び、イビルモールの眉間に刺さった。
「ジィァァァァァァァァ!!」
モグラの動きが止まった。
俺はモグラの正面に近づいて思いっきり吹き矢を吹いた。
矢じりはチャックの矢じりの至近を貫き、頭蓋骨を砕き、深々と刺さった。
「ジィァ!」
モグラは一瞬、断末魔を上げ、その後暴れることなく息絶えた。
「やったぞ! ゲイル! ああ、シルビア様ありがとうございます!」
チャックがいつも通りシルビア嬢に感謝を捧げる。
「おおぉい、やったかぁ?」
穴の上からハンクの声がする。
「やったぞ! フックを下ろしてくれ!」
俺たちはモグラを引き上げ、また血抜きと浄化を行った。
「おお、眉間に穴が空いてるぞ! それに、獲物がきれいだ!」
そう、吹き矢で仕留めたモグラは眉間以外には傷がなく、とてもきれいだった。
いつもの仕留め方だと、大量の血が噴き出て獲物は血だらけ、モグラが暴れるので、腹にも大きな傷が残る。
だが、今仕留めたモグラはこれまでで最高の品質だった。
「返り血も全く浴びなかったぞ!」
チャックが両手を開いて見せる。
そう、これが一番ありがたい。
いつもの仕留め方は、俺たちに大量の返り血がかかり魔素汚染がひどい。
浄化水もそれなりの金額がかかり、困ってた。
だが、吹き矢で仕留めれば、返り血を浴びずに獲物を狩れる。
俺たちに、大きな希望の光が差した。
その後、どうしてもベンがモグラを仕留めたいと言うので、もう一度、追い込み作戦を行った。
足止め役はハンク、仕留め役はベンだ。
さっきの様子から、風剣士のチャックは入らなくても大丈夫だろうと言うことになった。
ハンクは俺ほど耳が良くないので、タイミングを計るのに苦労したようだが、見事、同じ狩り穴でもう一匹、イビルモールを仕留めた。
俺たちは荷車を借りてきて、三匹の獲物を冒険者ギルドに納品した。
「「「「「乾杯!!」」」」」
俺たちは久しぶりにギルド併設の酒場で酒盛りをした。
「ハハハハ! 今日の獲物、一匹で大金貨一枚だぞ! 大金貨!」
ハンクが大声で笑いながら、俺の肩をたたく。
そう、最後の二匹は状態が非常に良いと判断され、大金貨一枚の値がついたのだ。
一匹目の獲物は小金貨一枚でいつも通りだったが、吹き矢のおかげで、今日の収入は大金貨二枚と小金貨一枚になった。
実に二人分の人頭税が一日で稼げたのだ。
「ああ、シルビア様ありがとうございます!」
いつも通りシルビア嬢に感謝を捧げるチャック。
「吹き矢を買ってきた俺のおかげだからな! 感謝しろよ!」
自分が功労者だと自慢するベン。
「眠い」
いつも通り眠そうにしてるヨハン。
(ああ、最高だ! この狩りの方法を続ければ、滞納していた人頭税も払える。そして、新しいミスリルの剣も買える。俺たちはもう一度、やり直せるんだ!)
「もう一度乾杯だ!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
俺たちが乾杯した時、俺の後ろから女性の声がした。
「あの、失礼します」
俺の前に座る、チャック、ベン、ヨハンが目を見開いて、口を大きく空けて、俺の後ろに立つ人物を凝視している。
あれだけ眠そうにしていたヨハンも目が血走っている。
俺はゆっくり振り向いた。
そこには俺たちの女神シルビア嬢が立っていた。
「あの、えっと。お邪魔してしまい申し訳ございません。C級冒険者のゲイル様、ハンク様、チャック様、ベン様、ヨハン様ですね? 急ぎお伝えしたいことがありまして、お時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
俺たちはみな、いったい何が起きたのか理解できずにみな固まった。
「あ、あの⋯⋯⋯」
そして、困った顔をしたシルビア嬢を見て、急速に脳が動き出し、一斉に声を上げた。
「「「「「喜んで!!」」」」」
ああ、何て最高の一日なんだ!
俺たちは最高の笑顔で肩を組んでシルビア嬢の後をついて行った。




