表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/55

第52話 結界師は従者を得る

「ミオ様、その調子でございます。はい、聖樹と同調して『聖樹の主が命じる、花よ咲き誇れ』と唱えてください」


「せ、聖樹の主が命じる、花よ咲き誇れ」


ミオが『祝詞のりと』を唱えると路地の雑草に「ポン」と花が咲いた。


どうやら、聖樹はあらゆる植物の頂点にいる樹木で、下位の植物に命令することができるらしい。


「わぁぁ、綺麗!綺麗! シド、見て」


ミオが習っているのは聖樹と契約したての子供が習う初級の祝詞で、植物の成長を促して開花させる効果があるらしい。


「お上手でございます。ミオ様」


ミオは浮かれてそこら中の路地の植物に祝詞を唱えに走っていってしまった。


あの様子だと、今日中には町内中の路地は花で一杯になることだろう。


「私が思いますところ、シド様には既に祝詞の必要は無いように感じます」


「分かりますか?」


俺は路地の雑草に思念を送って花を咲かせてみた。


「お見事でございます。オスカー様も祝詞を唱えることなく植物を操っておられました」


実のところ、俺の無属性の法力操作は祝詞の原理と非常に相性が良く、無属性の法力を流すように、聖樹から俺に流れるパスを自分を起点に他の植物に流すと自然に思った通りの動きを植物にさせることができる。


「それにしてもあの木の棒が聖樹だとは気づきませんでした」


以前から、何かにつながってるという漠然とした感覚はあったが、それがあの聖樹だとはっきりしたことで、聖樹からのパスがはっきり分かるようになった。


「我々、エルフの間でも前例の無いことですので⋯⋯」


エルノートさん曰く、トレントの木は元々、大聖樹との従属リンクの切れた子株が野生化した木だそうで、聖樹の因子を受け継いでいるとのことだ。


トレントを大聖樹の影響範囲に再度移植すると、大聖樹に従属する聖樹として再度営みを開始するらしい。


しかし、一旦木材となったトレントは死んでしまうため、大聖樹とのリンクは再度結べなくなり、従属関係が切れた状態になる。


普通はその状態で木材として使用され、一生を終えるのだが、俺が木剣にしたトレントは違った。


俺が無属性の法力で成形する際に、トレントの細胞が活性化し、さらに、ミオが法力を込めて土に刺したことで、新しい個体としての営みが開始されたようだ。


「一度木材になってしまった木が復活するなんてビックリですよね」


「はい、私も自分の目を疑いました。自慢ではありませんが私の目は少し特殊でして、生まれてこの方、この目を疑ったことなどございませんでした。それに一つの木にお二方が同時に主となるという例も聞いたことがありません」


エルノートさんの見立てでは、俺たちがいつも訓練している空き地は俺たちの放出する法力が充満しており、それをあの木剣が効率的に吸収して、根を張り、空き地を中心にしてご近所の土地にも根が伸び、地中には俺たちの法力が蓄積されている状態らしい。


普通はあんな訓練を聖樹の無い土地でしていると、ご近所さんが法力酔いを起こしてしまうため、あの空き地以外であんな訓練をしないよう釘を差された。


よく考えるとその通りで、返す言葉もない。


エルノートさんの考察では、あの木剣はミオが聖剣士になったことで完全な聖樹となったのだろうとのことだ。


それまでは半分トレント、半分聖樹の様な状態で、聖域の範囲も俺の家の両隣くらいだったのだろうとのことで、シャドウオウルはその聖域に突っ込んで落とされていたそうだ。


昨日のシャドウオウルは一区画離れた場所に落ちたので、昨日はその辺りまで安定した聖域が形成されていたようで、聖樹に木剣を吸収させたことでさらに聖域が広がったらしい。


「私もこんな魔境に聖樹の第一世代がお生まれだとは思いませんでした」


「エルノートさんは第二世代の木と契約しておられると聞きましたが、こんな遠くまで来てもリンクが切れてないんですか?」


「そうですね。シド様にはお見せしても良いでしょう」


そう言って、エルノートさんは肩掛けカバンから瓶を一つ取り出した。


その中には小さな木が植わっていた。


「これは私の契約している聖樹の枝を挿し木した木となります」


「挿し木ですか?」


「はい、エルフ聖樹国では、聖樹の挿し木による繁殖は禁じられています」


「なぜですか?」


「聖樹に対する信仰心の故、枝を折ることは忌むべきこととされているからです」


「じゃあ、エルノートさんはなぜ挿し木を?」


「私は十歳の時、我が家が代々受け継いできた第二世代の木と契約しました。しかし、私はうっかり枝を折ってしまったのです。その時、大人たちは誰もそのことを知らず、私はひっそりその枝を隠れた所で挿し木したのです」


「子供ながらの好奇心ってやつですか?」


「そうですね。その後も私はその挿し木をひっそり育て続けました。挿し木したこの苗は私の契約した第二世代の木と常にリンクし、他のエルフが聖樹とのリンク切れを起こす距離でも私は平気で木とのリンクを保ち続けました」


「今でもつながってるんですか?」


「さすがにこの魔境ではもうつながっていません。今はこの挿し木の聖樹とだけつながっています。この挿し木は大地とつながっていませんので、力があまり強くありません。そして、この木も徐々にトレント化が進んでます」


「エルフ聖樹国に帰ればもう一度、つながるんですか?」


「はい、それは大丈夫だと思いますが、一つ提案があります」


「何でしょう?」


「私の挿し木をシド様たちの聖樹に従属させて頂けませんでしょうか?」


「え!? それって⋯⋯」


「はい、私は本国の第二世代の木との契約を切り、新しくシド様たちの聖樹の第二世代としての挿し木と契約いたします」


「そんな事ってできるんですか? 通常なら聖樹の種から第二世代が生まれるんじゃぁ⋯⋯」


「通常ならそうですが、おそらく、シド様たちの聖樹はその制約は受けない可能性があると私の目が言ってます」


「エルノートさんの目って⋯⋯」


「私の目は精霊眼という特殊な目です。私の場合、見るだけでその場のことわりを読み取ったり、聖樹を通した千里眼の力が備わっています」


「ああ、だから俺の能力も⋯⋯。でも、エルノートさん、昨晩眼鏡をかけておられましたよね?」


「はい、あの眼鏡は視力を補正するためでなく、魔素から精霊眼を守るためにかけていた浄化の眼鏡でした。あまりにも目の力を強く使ったせいで、割れてしまったようです。今は聖域の中ですからこの眼もよく機能しますが、ここしばらくは、街に充満する魔素のせいで眼鏡をかけても力がうまく発揮できなくなっておりました」


「そうなんですか。本国の第二世代の木と契約を切って精霊眼に影響は無いんですか? それに、エルノートさんは長老とお聞きしましたが⋯⋯」


「はい、この眼は私の家に遺伝している特性なので影響ありません。それに、身分については、私には弟がおり、第二世代の木の主が空位になれば、弟が代わりに契約し、長老となりますので問題ありません」


「なぜ身分を捨ててまで⋯⋯」


「実は私には託された重要な任務があり、本国には今戻れません。それに、せっかくお生まれになった聖樹の第一世代とその主に従者が一人もいないというのは、エルフ的にも看過できません」


「従者って⋯⋯」


「まあ、ご負担ならミオ様の養育係とでもお思いください」


「⋯⋯まあ、それなら有難いですが」


「それにこれから、シド様もミオ様も冒険者としてご不在になることもあるかと思います。その際に聖樹の守役がいるのといないのとでは、安心感が違うと思います。私が従者となれば、第二世代の木を経由して、第一世代の木の聖域の管理もできるようになります」


「聖域って何か管理が必要なんですか?」


「はい、時として必要になります。特にこのマナエルは常にスタンピードの恐れのある地域。敵の侵入時にはどのように聖域を維持するかは管理者の腕の見せ所となります」


「なるほど。今の俺とミオではそれは難しいかもしれません」


「シド様ならば、すぐにでも使いこなせるようになりますよ」


「いえ、俺は特殊な目を持ってませんから、視界を使った索敵などはできないと思います」


「この目は我が家に代々伝わる能力ですが、これも聖樹との関わりで獲得した能力です。いずれはシド様やミオ様、あるいはお二人のお子様が何か能力に目覚めることがあるかもしれません」


「そうなんですか?」


「はい、人間の間にも精霊眼を持つエルフ一族の血が混ざった結果、特殊な目が備わった者が生まれる場合がございます。ましてやシド様、ミオ様は第一世代の木の主。そのお子様に能力が与えられることは不思議ではございません」


「そう言えば⋯⋯」


「何か御心あたりが?」


「まあ、一人だけ⋯⋯。本人が来た際に、その人が了承するなら分析してみてください」


「了解いたしました。では、契約については⋯⋯」


「エルノートさんが良いのであれば、お願いします」


「はい、喜んでお仕えいたします」


「あの⋯⋯あまり俺に対しては主従関係を強く出さないで頂ければ助かります」


「御心のままに。ミオ様にはご相談なさいますか?」


「⋯⋯いや、ミオの性格からして、説明してもしなくても、エルノートさんがこれから先一緒にいてくださると聞けば喜んで賛成すると思いますので、大丈夫です」


「では、契約をお願いできますでしょうか」


そう言って、エルノートさんは聖樹の挿し木の入った瓶を俺に差し出し、ひざまずいた。


俺は聖樹に意識を向け、パスを挿し木の方へ向けて心に浮かんだ言葉を唱えた。


契約コントラクト


すると、挿し木が光り、聖樹との間にパスが通じる感覚を感じた。


「ありがとうございます。やはり、シド様は聖樹の能力を感覚で扱えるご様子ですね」


「みたいですね」


そう言ってるとミオが駆け寄ってきた。


「なになに今の感覚!?」


「ミオも感じた?」


「ええ、何かブワって何かが広がった感じがしたんだけど」


「今、エルノートさんの木と俺たちの木が繋がったんだよ」


「そうなんだ。見せて」


「ミオ様、こちらに」


「うわぁ、ちっちゃくてかわいい~」


「ミオ、これからエルノートさんは俺たちの側に一緒にいてくれることになったんだけど嫌か?」


「嫌なわけないよ! とっても嬉しい! これからもいっぱいいっぱい祝詞を教えてよ!」


「はい、承知いたしました」


「それで、エルノートさんはどこに住むの? 昨日のようにシドの部屋で寝起きするの?」


「いえ、昨日は流れで泊めて頂きましたが、これからずっとという訳にも参りません。当面は近くの宿に泊まります」


「ええ〜、一緒に住めばいいのにぃ」


「ミオ、あまり無理強いは良くないよ。エルノートさん、ここらへんは借家も安いので、長期間なら借家の方が良いと思いますよ」


「御心遣いありがとうございます。実は今、抱えております任務が終わりましたら、一度、王都へ赴かなければなりません。借家はその後にいたします」


「そうですか」


そう話していると、何やら表通りが騒がしくなった。


「何だろう?」


俺たちは店の入り口に回った。


すると、そこには大きな馬車が停まっていた。


そして程なく、中からよく見知った顔の少女が出てきた。


「おはようございます。すがすがしい朝でございますわね」


そこにはいつもの冒険者の格好ではなく、ドレスを着たキャサリンが立っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ