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第47話 司教は奴隷を飼う

私は大聖堂前に並ぶ者たちを見て思う。


聖典は言う「人は罪の奴隷」だ。

誰でも罪を犯す者は罪の奴隷なのだ。


だから、人とはもともと奴隷であることが自然な形なのだ。


「さあ、神の恵みを受け取るがいい」


「ああ、司教様なんとありがたい」


人を集めるのは簡単だ。

貧しい者に金を配ればいくらでも集まる。


「司教様お恵みを」


「さあ、受け取りなさいこれは神の恵みだ」


「ああ、これでまた賭けをする種銭ができました。ありがとうございます」


「そうかそうか、では幸運のお守りを買って、天の神に祈って行くといい。お守りは銅貨二枚だ。買えば、幸運が手に入る」


「ありがとうございます!」


金を集めるのも簡単だ。

金を配り、使わせ、配った以上の金を回収すればいい。

賭場はいい資金回収の手段だ。


聖典の教えにより、公には教会は賭場は開けない。

だが、奴隷を使えばいい。

奴隷に賭場を開かせ、集めた金を教会に献金させればいい。

献金は教会で推奨される行為で誰も文句は言えない。

税金もかからない。


「司教様、魔素を防ぐ聖法術具が壊れて、息子が魔素中毒になり、食事もできず死にそうなのです。どうか、助けてください!」


「ああ、なんてかわいそうに。教会の聖治癒師が浄化してあげましょう。教会の医務室に連れて行きなさい。新しい聖法術具も買って行きなさい」


「夫が賭けで負けて、浄化に払えるお金も、聖法術具を買うお金もありません」


「ああ、なんということだ。仕方ありません。今回は無料で浄化してあげましょう。聖法術具も分割払いで売ってあげましょう。お金ができたら、少しずつお返しなさい。その代わり教会の奉仕活動に参加しなさい。街の清掃作業をするのです」


「ああ! ありがとうございます! 喜んで清掃作業をいたします」


正統神聖教会は「聖」と名のつく法術具の売買にマージンがかけられる。

このマナエルはそんな教会にとって良い街だ。


濃い魔素のせいでみな浄化の法術具を身に着けなければ生きていけない。

聖治癒師は幾人もいる。

浄化の費用をただにしても、懐は痛まない。

教会は民衆の命を握っているのだ。


また、街を綺麗に保つのも理由がある。

この貧民街は私の所有する家畜小屋だ。

だから、清掃作業をし、家畜どもの健康を維持しなければならない。


「浄化が済んだら、息子さんを教会の食堂に連れて行きなさい。食事を取って息子さんを元気づけておあげなさい」


「ああ、なんて慈悲深い。ありがとうございます。ありがとうございます」


彼らは大切な家畜だ。

生きていなければ意味がない。

奴隷として出荷するまでは健康でいさせる必要がある。


王国では公共奴隷以外は闇奴隷とされるが、私の飼う奴隷は王国にはバレない。

公共奴隷には法術で奴隷紋が刻まれ、精神が縛られるが、私の奴隷には奴隷紋が無く、肉体を縛るのだ。


「司教様、私にもお恵みを!」


「さあ、受け取るがいい」


「ありがとうございます。これでまたお酒を飲んでぐっすり眠れます」


「ああ、日毎の労苦を一時忘れ、友と語り合い、よく眠るがいい」


人を闇奴隷にするのも簡単だ。

酒を飲ませ、情報を吐き出させ、奴隷に情報を集めさせ、弱みを握ればいい。


酒は奴隷たちを使って作らせ、少量の「暴露草のエキス」を混ぜて、安く売ればいい。

「暴露草のエキス」はエルフの秘薬で人体には無害だが心に秘めた秘密を暴き出す。


酒を飲んだ者たちは自らの秘密を語り出す。

そして、一度寝れば翌日には何をしゃべったか記憶には残らない。


「ああ、司教様、神のお恵みを」


「お前はちょっと来なさい」


「ど、どこに⋯⋯」


「懺悔室にです」


懺悔室には遮音の法術具があり、何を喋っても外部には漏れない。


「あなたは罪を犯しましたね」


「な、何のことでしょう」


「神は何でも知っておられるのですよ。あなたは、勤め先の商会の金を不正に使い込みましたね」


「な、何故それを!?」


「神の目は誤魔化せません。罪を告白しなさい」


「ああ、お許しください。賭場で借金をして、魔素中毒になった娘の浄化費用が払えなくなって、商会の金を横領しました!」


「よく告白しました。あなたが正直に答えたので、娘さんの魔素中毒は特別に無料で浄化してあげましょう。使い込んだ金も教会で立て替えてあげましょう」


「ああ!なんとありがたい!」


「その代わりに、教会の奉仕活動に参加しなさい。あなたは罪を犯しました。罪には罪の代価が必要です。あなたはこの種をあなたとあなたの家族に飲ませなさい。そして、家族全員で街の清掃作業をするのです」


「この種は何でしょうか?」


「この種はあなたの罪を取り除く種です」


この種は「宿り木の種」と言い、エルフの国の奴隷使役に使う種だ。

これを飲んでしばらくすれば、種は胃に定着し、「宿り木の枝」を持つ者に服従する様になる。


街の清掃作業は種を定着させるにはいい時間稼ぎとなる。

一度種が定着すれば絶対に取り出せない。


「清掃作業が終われば私の所へ戻ってきて、あなたの妻と子供は聖地巡礼の旅に出るのです」


「ああ、妻と子供と離れ離れになるのはお許しください!」


「駄目です。あなたの妻と子供はあなたの罪の赦しのために聖地巡礼の旅をする必要があるのです。これは家族の試練です」


「ああ、なんてことだ!」


「妻と子供の旅支度は全て教会が用意しましよう。心配することはありません。あなたが良い働きをすれば、聖地巡礼に出た家族とまた一緒に過ごせるでしょう」


「⋯⋯⋯分かりました。私はどうすればいいのでしょうか?」


「不正を働いたので、あなたは今の商会には居られません。だから、教会があなたの仕事を見つけてあげましょう。ちょうど、知り合いの商会長が天に召されました。そこにあなたを推薦してみましょう」


「ああ、働き口を与えていただき、ありがとうございます。不正がバレてたら家族全員どうなっていたか分かりません。ありがとうございます。ありがとうございます」


これで、バルターの穴は埋められる。

奴の始末は政庁に潜り込ませた二重奴隷に、食事に紛れ込ませた紐を持ち込ませた。これで十分だ。


まさか公共奴隷に私の奴隷が紛れ込んでいるとは、公爵も思うまい。


「安心して、家族一丸となってこの試練に挑みなさい。私に従って良い働きをすれば、きっとあなた方はまた一緒に暮らせます」


「はい、ありがとうございます。ありがとうございます」


これでまた私に忠誠を誓う奴隷が増えた。


家族がいると人は家族を守るため、世間の目を気にして、大胆な行動ができなくなる。

独り身にすればその縛りが外れて、人は何でもできるようになる。


伝統貴族派の連中は貪欲な者ばかり。

妻や子供の奴隷の出荷先は幾らでもある。


「あなたには商人として、神に仇なす者たちに罰を与える役目をしてもらいたいのです。働きに大いに期待しています」


「分かりました。神に逆らう者たちに後悔をさせてやります」


あの忌々しいフォートラン商会をどうにかして潰さねばならん。

あの商会は結束が強く奴隷どもを潜らせることもできない。


必ず将来、私の障害になる。


先日もあんな剣を仕入れてきて、儲け話がつぶされた。

バルターが流す不良品の剣で負傷した冒険者たちを癒して冒険者ギルドから金を集める計画が阻止された。


ゴブリン殲滅戦の前金は受け取り、聖治癒師の派遣自体はつぶされてない。

サイロスにはあの剣の出どころを探らせてる。


公爵の娘の弱みを握ろうと、娘に付いた教官に「暴露草のエキス」入りの酒を飲ませていたのが正解だった。

娘が持っていたと言う美しい剣と言うのがフォートラン商会の剣の出どころを探し当てる鍵だろう。


サイロスに貸し出した奴隷を使ってギルドの教官に酒をもっと飲ませ秘密を聞き出させよう。

飲めば飲むほど秘密をしゃべりたくなる。


剣の作成者の情報はすぐに手に入るだろう。

出どころさえ手に入れれば、後はその作成者の弱みを握って、奴隷にし、剣を作らせれば良いのだ。


そうすれば継続して冒険者ギルドから金を集めることができる。


私が教皇になる日は近い。

教皇庁の連中への賄賂もあらかた配り終え、連中の周りに送った奴隷たちを通して情報も十分得た。


枢機卿に指名されるのは確実。

教皇庁に入れば、得た情報で選挙に勝てるだろう。


「さあ、今日も家畜を育てましょう」



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