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第34話 聖法術師は決断する(前半)

「おかえりなさいませ。キャサリンお嬢様」


「ただいま帰りましたわ、ウォルター」


私が預かっている聖属性剣の活用について、シドとミオから了承を取り、我が家での使用を進めるべく、本日私は家に戻ることといたしましたわ。


本来なら今日もシドと共に剣の作成に携わりたく思っておりましたが、聖属性剣の活用は我が家にとってとても重要。


緊急の必要があると判断し、泣く泣く本日は我慢いたしましたわ。


私はミオの家を出た後、剣を作成した鍛冶場へ再度向かい、本日ゴブリンダンジョンで獲得したこん棒、ナイフ、短弓を運びましたわ。


シドが『おっちゃん』と呼ぶ中級鍛冶師の男性は名前をドノバンさんとうかがいましたが、シドは彼に対し再度こん棒を対価に鍛冶場を貸してほしいと交渉いたしましたら、彼はとても喜んで予備の鍛冶場をしばらく使用して良いと申し出てくださいましたわ。


それは、ゴブリンのこん棒がとても良い高級炭の材料となると分かったからとのことでしたわ。


マナエルは魔境の中にある街でも、西側は平坦な穀倉地帯で、領軍と冒険者たちの活動によって強い魔物のいない、安全に暮らせる領域となっていますわ。


しかし、まとまった森林は南と東の魔物が跋扈する領域にしかなく、木材の調達は危険を伴いますわ。


木材の伐採時は大規模な護衛が必要となるため、木材のコストが高くなってしまいますの。


西側の大渓谷を橋で渡った先にある隣領は、傾斜地が多くて木材が取れますが、木質が比較的柔らかい樹種で、鉄を溶かすための高密度な炭を作るのには向いておりませんの。


ですから、マナエルの鍛冶師たちは炭の調達が一番の問題となっておりましたの。


そこに現れたゴブリンのこん棒は、密度が高く高級炭の素材として最適とのことで、鍛冶師たちにとって希望の光となると言っておられましたわ。


これまで冒険者ギルドはこん棒を武器としてしか見ず、こん棒の買い取りは無かったとメイさんから聞きましたわ。


しかし、今後は炭の材料としてこん棒の高価買取が期待できると思いますわ。


私たちがこん棒、ナイフ、短弓、牙や角を回収していたのは、狩りと魔石の回収の邪魔になるからでしたが、ドロップ品にこんな使い道があるなんて、これもシドの発想の転換のおかげですわね。


シドのことですから、牙や角もいずれは使い道を考えてくれると思いますわ。



「お嬢様、亜空間バッグをお預かりいたします」


ウォルターは我が家の執事で、いつも私の亜空間バッグの中身の管理をしてくれてますわ。


本日も物資の補充のために、この様に申してくれていますが、今日は事情が少し異なりますわ。


「ウォルター、本日はお父様に見てもらいたい物があるので、亜空間バッグの補充はその後にしてもらいたいですわ」


「かしこまりました。では、旦那様に面会希望をお伝えしてまいりますが、お時間はいかがいたしましょうか」


「私はこの後、急いで湯あみをいたしますから、その後に参ります。それと、お父様には緊急につき、可能であれば、伯父様とも通信で話したい旨、伝えてほしいですわ」


「か、かしこまりました。急ぎ手配いたします」


そう言うとウォルターはメイドたちに指示を出し、段取りを開始しましたわ。


火急の件ではありますが、伯母様より家内では貴族として振る舞い、身だしなみについても注意するよう厳しく教えられておりましたから、湯あみは外せませんでしたわ。


私は急ぎ湯あみを終え、身支度を整えてお父様の書斎へと急ぎましたわ。


ドアをノックし、お父様からの返事を待って中へと入りましたわ。


「お父様、ただ今戻りましたわ」


「ああ、キャサリンお帰り。無事に戻ってきてくれてほっとしたよ。やはり、可愛い娘を冒険に送り出さなければならないのは、親として忍耐が必要だね」


お父様はお母様をスタンピード後の掃討戦で亡くし、私が冒険者をすることの心配をどうしてもぬぐえないご様子ですわ。


「ご心配をおかけし申し訳ございませんわ。でも、優秀なパーティーメンバーに恵まれ、一度も危機的状況には陥っておりませんわ。どうぞご安心いただきたいですわ」


「心配性な父ですまない。キャサリン」


<ジョセフ、そろそろ俺にも話をさせろ>


お父様と会話をしていると、法力通信機からよく知った声が聞こえましたわ。


その声は現シルバニア国王のエドマリス伯父様の声ですわ。


<エド、私にも話させてね>


この声は王妃のユリア伯母様の声ですわ。


「すまない。エド兄さん、ユリア義姉さん」


<キャサリン、元気か? 冒険者になったと聞いたが、怪我なんかしていないか?>


「ええ伯父様、お父様にも申しましたが、優秀なパーティーメンバーのおかげで、怪我一つありませんわ」


<キャサリン、冒険者となったからと言って、淑女のたしなみを忘れてはいけませんよ。貴女は好きなことになると夢中になって、はしたない姿を見せてしまう癖があるのですから注意なさい>


「は、はい伯母様。ち、注意いたしておりますわ………」


<貴女まさか……>


「い、いえ、だ、大丈夫ですわ」


ま、まずいですわ……。


シドの素晴らしさに興奮しすぎて我を忘れていたことを知られてはいけませんわ。


「ユリア義姉さん、法力通信機の使用はお金がかかるので、そのくらいで勘弁してやってください」


<分かりました。キャサリン、いずれ詳しく聞きますので心の準備をしておきなさい>


「は、はい。伯母様……」


一旦は助かりましたが、今後のことを考えると憂鬱ですわ。


「キャサリン、さあ、重要な話と言うのを聞かせてくれ」


「はい、お父様。先ずはこれをご覧ください」


私は聖属性剣の一振を亜空間バッグから取り出し、鞘から抜いてお父様に見せましたわ。


「こ! これは! こんなものをどこで!」


<どうしたんだ?! 何があった?! ジョセフ、わずかな時間で良い、通信機の映像送信機能を入れて見せてくれ!>


「分かりました、エド兄さん」


法力通信機は映像も送れますが、消費する法力が桁違いに多くなりますので、普段は音声のみの通信を行っていますわ。


お父様が映像送信機を立ち上げましたので、私は剣を映像送信機に向けてかざしましたわ。


<おお!! キャサリン、元気そうだな!>


<エド! そうじゃないでしょ!>


<そ、そうだった。すまん。キャサリンの顔を見れてつい……>


伯父様は剣でなく私の顔に注目したみたいで、伯母様にたしなめられましたわ。


<これは…………美しい!! 炎属性剣とはまた違った神々しさがあるな!>


<本当に美しい剣ですわね!>


「何という輝きだ………………」


三人とも剣の輝きを見て驚いている様子ですわ。


三人が見とれていると、通信機が警告音を発しましたわ。


「どうやら、法力残量が半分を切りました」


<分かった。映像を切ってくれ>


お父様は映像送信機を停止し、定位置に収めましたわ。


「キャサリン、いったいこの剣をどこで手に入れたんだい?」


「はい、実は――――」


私は聖属性剣の作成について、シドの名前と彼が剣を作成した経緯を全て説明しましたわ。


「この輝きからそうでないかと思っていたが、やはり聖属性剣だったのか。しかし、こんなことが可能なのか?! 私の研究でも魔物素材の無害化や魔石を法石に変える仕組みは分かってきたが、法力の安定した定着が難しい鉄を使って聖属性剣を作るなんて…………」


「お父様、実は剣は一振ではありませんわ」


私は預かっている全ての剣をテーブルに並べましたわ。


「ろ、六振もあるのか?!」


<な! それは本当か?! 属性剣は国宝だぞ! それが六振も!! キャサリン、その剣の製作者のシドとは、高名な鍛冶師なのか?>


「いえ、シドは結界師ですわ」


「<<結界師?!!>>」


「キャサリン、『シド』という名前は聞き覚えがあるなと思っていたけど、ひょっとして、そのシド君とはあのエルンスト・ハイドル卿の推薦の人物の一人かい?」


実は私が冒険者ギルドの説明会でシドとミオに声をかけたのは偶然ではありませんでしたの。


私は二人の名前を前剣聖のエルンスト・ハイドル卿から聞いて知っていたのですわ。


現在、卿には父の強い希望でマナエルの戦力増強のための後進の育成をしていただいておりますわ。


卿は王都における貴族社会での後進育成に行き詰まりを感じておられたため、このマナエルでは、平民それも貧民街の学校教諭となって、ご自身の剣技の後継者を見出そうとされましたわ。


そしてその結果、シドとミオという逸材を見出されましたわ。


そして私の成人に際し、卿はこの二人を将来のマナエルの戦力として推薦されたのですわ。


私は戦闘職を得れば、力の研鑽のために必ず冒険者となると決めておりましたから、冒険者になった際にはこの二人を探し出してパーティーメンバーにすることを決めていたのですわ。


「はい、お父様。そのシドですわ。私は今、卿の推薦されたシドとミオとパーティーを組んでおりますわ。シドとは現在別行動となっておりますが、ミオとは昨日からクエストを共にしておりますわ」


「そうだったのか。無事に卿の推薦した二人と合流できて良かった。だがまさか、卿の推薦したシド君が不遇職の結界師だったとは………。キャサリン、パーティーと言ったが、いくら卿の推薦とは言っても不遇職では彼は冒険者としてはやっていけないのではないのか? 今からでもシド君には所属ギルドを変えるか、我が領の研究所の職員になってもらってはどうだろう?」


まあ、お父様の反応は予想はしておりましたが、結界師への偏見ゆえにシドが不当に低く見られるのは看過できませんわ。


「お父様、伯父様、シドは結界師ですが、同じくエルンスト・ハイドル卿から推薦を受けた聖剣士のミオより強いですわ」


「な!!」


<そ、そんなことが!>


<キャサリン、それはそのミオと言う女の子が聖剣士となる前のことなの、それともなった後のことなの?>


「伯母様、なった後のことですわ。私はこの二日間、ミオのお家に泊めてもらいましたが、シドとミオは就寝前に必ず剣の稽古をしておりましたわ。稽古は実戦形式の模擬戦でしたが、ミオは剣士としてのスキルと身体強化をフルに活用しておりましたが、一度としてシドに勝てませんでしたわ」


「キャサリン、それはミオ君が聖剣士としてまだ未熟だからじゃないのか?」


「いいえ、彼女にミスリルの剣を貸して戦闘後に返してもらいましたが、傷もへこみも一切ない状態で返してもらいましたわ」


「それは大した技量だね」


「はい。加えて、これまでお父様が見てきた剣士たちに、一度のスラッシュで百体以上のゴブリンを屠れる剣士はおりましたか?」


「ひ、百体?! それはミオ君の実力か?」


<近衛の隊長格でもその数では苦戦を免れないぞ?!>


<エド、エルンスト・ハイドル卿が推薦すると言う意味をもっと重く受け止めるべきですわ。あなたが近衛の隊長格の選定をする際、エルンスト・ハイドル卿の推薦を得られた騎士はおりましたでしょうか?>


<そ、それはいないが……、だが、成人したての聖剣士が……>


(まだ信じていないようですわね。では、物証を出すまでですわ)


「伯父様、お父様、昨日と本日、私はミオとギルドの教官であるメイさんと共にゴブリンダンジョンを攻略し、ダンジョンコアを白化させてきましたわ」


「<<白化?!>>」


「ちょ! ちょっと待ってくれ。キャサリン、ギルドの教官が付いているとは言え、女性三人でゴブリンダンジョンを攻略なんて、危険すぎるだろ?!」


「お父様、私は申しましたわ。優秀なパーティーメンバーに恵まれ、私は一度も危機的状況には陥っておりませんわ」


「だけど………」


「お父様、これをご覧いただきたいですわ」


私は亜空間バッグから未使用の野営用のテントの布を出し、床に敷いて、その上に昨日から集めたゴブリンの角と牙を取り出し、山積みにしましたわ。


「こ! これは! ゴブリンの角と牙か?!」


<何?! 何があったのだ?!>


「もう映像を映すだけの法力が残っていませんので見せられませんが、ゴブリンの角と牙があります。数は数え切れませんが優に数万はあります………」


「お父様、これが証拠ですわ。ミオは私たちの前衛としてこれらのゴブリンたちの約八割を屠りましたわ」


「信じられん………だが、信じるしかないな………キャサリンとギルドの教官が加わったとしても、これほどの数のゴブリンを殲滅したとなれば、その実力は間違いない」


<見られないのは惜しいな。また私たちにもその角と牙の山を見せてくれ。わたしたちの愛するキャサリンのパーティー初戦果がゴブリンダンジョンの白化と言うのは、とても誇らしい>


<頑張りましたね、キャサリン。とても嬉しいわ>


「ありがとうございます、伯父様、伯母様。この戦果は映像記録機にて撮影し現像しておきますわ」


「キャサリン、私も嬉しい。そして、マナエル家当主としてとてもありがたい。ゴブリンダンジョンが白化したとすれば、ゴブリンのスタンピードはしばらく考えなくていい。あのダンジョンは小規模なスタンピードを繰り返して、周辺の森林にゴブリン集落を多数形成している」


(そう、マナエルにとってゴブリン集落は大きな問題ですわ)


「供給元が断たれた今、周辺の集落を一掃すれば隣接地域の安全性が高まり、次に起こる大規模スタンピード戦の敵戦力を大幅に削ることができる。よくやってくれた!」


「ありがとうございます。お父様」


<ジョセフ、王命をもって命じる。マナエルは我が国の資源を支える重要な街である。ただちに国王権限で冒険者ギルドマナエル支部に下命、領軍と冒険者で討伐軍を編成し、ゴブリン殲滅戦を実施せよ! 当然、 王家からも資金と人員を出す!>


「ご下命承りました! 直ちに各所に通達し、明日の午後には討伐隊の編成会議を行います!」


お父様が目くばせをすると、ウォルターが素早く出て行きましたわ。


おそらく、行き先は領軍司令部、法術師大隊司令部と冒険者ギルドでしょう。


(さて、ミオの実力はこれで証明できましたわ。 次はシドの番ですわね⋯⋯)



私はシドについての自分の決断を語る覚悟をいたしましたわ。




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