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第33話 結界師は新しいビジネスを提案する

「場所を変えるのは良いが、あんた、昼食は食ったのか?」


「いいえ、まだです」


「俺もまだなんだ。少し遅いが、一緒に昼食でもどうだ?」


サイモンさんは俺を昼食に誘い、時間を作ってくれることとなった。


俺たちは商会の店内に入り、今日の指名依頼の達成確認を完了させ、昼食に出かけることとした。


報酬はギルドで受け取るが、後でもいいだろう。


「サイモンさん、昼食ですが俺に付いてきてもらえますか?」


「なに? お勧めの店でもあるのか?」


「はい、店もお勧めなんですが、見てもらいたいものがありまして……」


「あんたがそう言うんだから、期待しているよ。ギルドの報告の方はいいのかい?」


「後で支部に行きますので大丈夫です」


俺たちは一緒に歩き始めたが、その行く道が貧民街に近づくにつれ、サイモンさんの顔は怪訝な表情に変わっていった。


しかし、それでもサイモンさんは付いてきてくれて、最終的に俺たちは一軒の串焼き専門店の前に着いた。


「ここは……」


「すみません。ここは俺の家です」


「え?! ここはあんたの家なのか?」


「正確に言うと俺の伯父の家と店です。俺は両親を亡くしてまして、伯父夫婦が俺を引き取ってくれたんです」


「え?! あ! すまない」


「いいえ、気にしないでください。今は伯父夫婦と従妹と一緒に楽しく暮らしてますから」


「そうか。では、腹も減ったので入らせてもらおうか」


「ええ、どうぞ」


俺たちは一緒に店内に入った。


「いらっしゃいませ。あ! シドさん、おかえりなさい!」


「ただいま、ナナちゃん」


彼女は教会の孤児院に住んでいるナナちゃん。


俺とミオが成人するので、一カ月くらい前から店のお手伝いとして伯父さんが雇った女の子だ。


まだ成人ではないが、孤児院のためにここで働かせてほしいと訪ねてきたので、午前中に学校に通いつつ、午後だけ働いてもらうこととなった。


「ナナちゃん、学校は楽しいかい?」


「はい! 楽しいです! 勉強は面白いし、給食はお腹いっぱい食べれるし、エルのおじいちゃんにも剣術の授業で筋が良いと言われました! 剣術はシドさん、ミオお姉ちゃんが教えてくれたおかげです!」


「また店が閉まったら見てあげるよ」


「ありがとうございます! あ! シドさんのお友達ですか? いらっしゃいませ!」


ナナちゃんはサイモンさんを見て元気よく挨拶をした。


「おじゃまするよ。俺の名前はサイモン。シド君とはビジネスパートナーだ」


「びじねすぱーとなぁー?」


ナナちゃんはポカンと口をあけて首を傾げた。


「すまない、お仕事仲間と言うことだ」


「そうでしたか! 改めて、いらっしゃいませ! ここの串焼きは美味しいですよ! いっぱい食べていってください!」


「ああ、ありがとう」


「シド、帰ったか?」


奥の厨房から大声が響いた。


店内は昼食時を少し過ぎた時間だが、席は満席でガヤガヤしている。


しかし、伯父さんの声はひときわ大きくて、何人かの客が耳を手でふさいだ。


「伯父さん、ただいま。あんま大声出すとお客が逃げるよ」


「なに、みんな常連だから俺の大声なんて聞きなれてるさ。ガハハハッ!」


客の何人かは『勘弁してくれよ』とつぶやいているが、いつものことと苦笑いを浮かべている。


「おおシド、新しいお客を連れてきてくれたのか?」


伯父さんはサイモンさんを見てそう尋ねたが、サイモンさんは先ほどナナちゃんに挨拶したのと同じく伯父さんにも挨拶した。


「そうかい、歓迎するよ。ゆっくりしていってくれ。シド、昼食はまだか?」


「まだだよ。サイモンさんと昼食を食べながら仕事の話をするために帰ってきたんだ」


「そうか! じゃあ、今すぐ二人分焼くから皿を持って行って二階で食べるといい」


「分かった、ありがとう。伯母さんは二階?」


「今、出前の配達で出てる。上には誰もいないから、気にしないで話をするといい」


伯父さんは手際よくランチ定食を用意してくれたので、二人で皿を持って二階に上がり、昼食を食べ始めた。


「うまい!! こんなうまい串焼きは食ったことが無い! タレが絶品だ! 正直、こんな貧民街で商売をしている店だからと思ってそんなに期待してなかったんだが、心から謝罪するよ!!」


「それは良かった。伯父さんは元々、冒険者チーム付きの料理人だったんですよ。このタレはその時代にフィールドで採取できるいろんな食材を組み合わせて完成させたそうです。伯母さんはそのチームの冒険者で、伯父さんの料理に惚れ込んで結婚したらしいです」


「なるほど、伯父さんは冒険者ギルドから料理人ギルドに転籍したので、ギルド内で冷遇されて、こんな地区でしか開業許可が下りなかったと言ったところかな……」


「そうです。伯父さんがまだチームにいたころは非戦闘職でも冒険者登録できていましたから、料理人ギルドへは途中転籍となって苦労したそうです」


「まあ、どんなギルドでも下積みから成長したギルド員を重視する傾向があるからな。いくら腕が良いと言っても中途で転籍してきた名も知らない人物を厚遇していては軋轢を生むか…………」


「でも、伯父も伯母もこの地区の人たちが好きで、楽しく店をやってますから幸せですよ」


「そうだな。当人が幸せなら問題ない」


俺たちはその後、黙々と食べて互いに満足した。


「ごちそうさまでした。お代は今払おうか?」


「いえ、帰る時で結構です」


「そうか。じゃあ、あんたの提案ってのを聞かせてもらおうか」


「分かりました」


俺は席を外して、今朝仕上げた剣を持ってきた。


「これを見てください。俺が作った剣です」


「え? 鍛冶師でもないあんたが? これはロングソードだな。だが、明らかに品質が………」


そう言ってサイモンさんは剣を受け取り、剣を鞘から抜いた。


「こ!!………………………こ!!……………………………………………」


抜いた途端、目を見開き口を開けたまま固まってしまった。


しばらく待っていても固まったままだったので、声をかけてみることにした。


「サイモンさん。サイモンさ~ん!」


肩をゆすってみたら、目玉だけが俺の方を向いた。


「あ! あ! あんた何もんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


伯父さんといい勝負をするくらいの大声でサイモンさんは叫んだ。


「まあまあ、落ち着いてください」


「落ち着いてくださいじゃないだろ! 何で聖属性剣なんて代物がこんな所にあるんだぁ?!」


「やっぱり、この剣は聖属性剣だったんですね。特徴から聖属性剣だと思ってましたが、鑑定スキルのある知人がいなかったので、鑑定してもらえて助かりました。サイモンさんの職業は上級商人ですか?」


「そ、そ、そうだが、自分の目を疑ったのなんて初めてだ!! 俺は夢でも見てるのか?!!」


その後、しばらく興奮状態が治まらず、サイモンさんを落ち着けるのに半刻ほどかかった。


「すまん………。迷惑をかけた………」


「いえ、いきなりこの剣を説明なしに見せた俺が間違ってました。すみません」


俺はその後、この剣を作った経緯を説明した。


「あんた………、規格外にもほどがあるぞ…………」


その結果、サイモンさんが俺を見る目が完全に奇人を見る目になった。


「まあ、俺のことは置いといて、俺の提案を聞いてください」


「ああ、そういう話でここに来たんだったか。この剣を見てすっかり忘れてた」


俺は聖属性剣を作成した同じ要領で、高い法力容量を持った鉄製の剣を作成し、それを武器転換に失敗した剣士たちに貸し出す商売をサイモンさんに提案した。


具体的にはフォートラン商会が冒険者ギルドに剣をリースし、剣の貸し出し業務は冒険者ギルドが行う方式だ。


剣の修理が必要になれば俺が随時行う。


「………………そんなことが可能なのか?!! 確かにあんたの言った通りになれば、この街が抱える重大な問題が解決できるだろうが、正直、フォートラン商会だけで進めるには不安要素が大きい。とりあえず領主と冒険者ギルドに相談の上、政治上の保護を受けて進めなければ安心できない」


「そうですか…………」


俺たちが話し合いをしていると、下から何人かが階段を上ってくる音がして、リビングに入ってきた。


「ただいまぁぁ! シド」


「ただいま帰りましたわ」


「……………お、おじゃまします」


入ってきたのはミオとキャサリンとメイさんだった。


ミオとキャサリンは元気だが、メイさんだけやたらと疲労感をにじませている。


何かあったんだろうか?


「おかえり。随分と早い帰宅だな」


「そうよ! 聞いてよ! 新しい剣を試し切りしたくて、昨日と同じゴブリンダンジョンに行ったんだけど、途中でゴブリンが湧かなくなって、ダンジョンコアを見に行ったらコアが白くなってたのよ」


「あれは白化という現象ですわ。モンスターを一時期にたくさん狩りすぎると、供給魔力が枯渇してダンジョンコアが白くなると聞きましたわ。昨日も結構な数を狩りましたから仕方ありませんわ」


「枯渇って、どんだけ大量に狩ったんだよ…………」


「え? ええっと、スポーン時間が短い湧き部屋を見つけたから………いっぱい?」


「私も途中から数えるのが面倒になりましたので分かりませんわ」


「湧き部屋だろ? 三人で大丈夫だったのか? まあ、その様子から大丈夫だったんだろうけど………それだけあの剣の性能が良かったってことか?」


「そう!! スキル使わずにゴブリンを直接切っても、まるで素振りしてるみたいに切った感覚が無いんだよ!!」


「私も剣で戦いましたが、考えられない切れ味でしたわ!」


「キャサリンまで、法術使わずに剣で戦ったのか?! まあ、その様子だと余裕の戦いだったみたいだけど、その割にはメイさんだけやたらと疲れてそうなのはなぜ?」


「い! いえ!! だ! 大丈夫です!! ちょっと信じられない光景を見て気が動転して気疲れしているだけですので!!」


それは大丈夫なんだろうか?


「ミオ、俺の部屋を使っていいから、メイさんに休んでもらったらどうだ?」


「む! 休んでもらうのは賛成だけど、何でシドの部屋なのよ?」


「それはお前の部屋じゃぁ――グフゥゥゥ!」


言い切る前に腹パンが飛んできた。


「私の部屋が何だってぇ?! それに、メイさんだって男の部屋なんて落ち着いて寝られないよ!」


「シド、私も先ほどの提案は少々納得がいきませんわ! うらやましい……」


一番片付いている俺の部屋で休んでもらえればと思って提案したが、二人は反対のようだ。


まあ、メイさんも若くてモテそうな女性だ。


男の部屋で休むと言うのも外聞が悪いように思えた。


「すまん。俺が非常識だった。メイさん、ミオが案内しますので、ゆっくり休んでください」


「す、すみません………。きょ恐縮です……」


「さあ、行こ」


メイさんは縮こまってミオに付いて行った。


やっぱり、何か俺を恐れている感がある。


(悪いことをしたな。サイモンさんに頼んで気分が落ち着くお茶でも仕入れてプレゼントしようか……)


と、思っていると後ろから声がした。


「あ、あの」


「すみません! サイモンさん、 紹介が遅れました!」


サイモンさんと商談中だったのに気が逸れてしまった。


なんて失礼なことをしてしまったんだ!


「い、いや気にしないでくれ、それよりも……」


「えっと……、すみません、先ほど女性を案内していった女の子がこの家の娘で俺の従妹のミオ、案内されてた女性が冒険者ギルドの教官のメイさん、そして、ここにいるのが―――」


「あ、あなたはキャサリン様………」


(あれ? キャサリンのこととサイモンさんは知ってたのか?)


「ごきげんよう、サイモン様。《《ここ》》では私は《《ただのG級冒険者》》のキャサリンですわ。ですから、気楽になさってほしいですわ」


どうやら、サイモンさんとキャサリンは知り合いだったようだ。


それも、「様」を付けるくらいのお得意様のようだ。


キャサリンの家は相当裕福なようだから、大店の番頭のサイモンさんが知り合いでもおかしくない。


「きょ、恐縮です。ご挨拶が遅れまして大変申し訳ございませんでした。あまりにも予想外の場所でお目にかかりましたので、気が動転しておりました。改めまして、ご機嫌麗し―――――」


「サイモン様、先ほども申しました通り、ここでは私は《《ただのG級冒険者》》のキャサリンですわ。ですから、丁寧なあいさつは結構ですわ」


「分かりました。ところでキャサリン様はシド、いえシド君とどの様なご関係で………」


「彼は私たちのパーティーメンバーですわ。今は別に活動しておりますが、将来、私とミオと共にパーティーとして活動する予定ですわ」


「そ、そうでしたか。お教えいただき、誠にありがとうございます。あの……もう一つおうかがいしたいのですが、キャサリン様はこの聖属性剣の製造について関与されておられると理解してよろしいのでしょうか?」


キャサリンはチラッと俺を見て、俺に同意を求めた。


おそらく、これはキャサリンがこの剣の製造に関わっているか、俺が判断しろと言うことだろう。


俺は黙って頷いた。


「はい、私もこの聖属性剣の製造に関係しておりますわ」


「りょ、了解いたしました。実はシド君よりビジネスの提案を受けておりまして………」


「少しお待ちになって。サイモンさん、まずはシドとあなたの関係を聞いてもよろしくて?」


「それは俺から説明するよ」


俺はドブさらいクエストから生まれたサイモンさんとの契約について説明した。


「ハァハァ、し、シド、素晴らしいですわ! こんな短期間にこんな素晴らしい業績を―――」


何やらキャサリンの様子が変だ。


剣を作った時もこんな感じだったな。


「よろしいでしょうか? 話を戻しまして、シド君よりビジネスの提案を受けまして⋯⋯」


「サイモンさん、それも俺から説明するよ」


俺はサイモンさんに提案したビジネスプランを説明した。


「ハァハァ、し、シド、もうどうにかなってしまいますわ! 凄すぎますわ!」


サイモンさんはキャサリンの反応にやや引き気味だったが、再度キャサリンに問いかけた。


「キャサリン様、この計画を当商会としては前向きに進めたいと思いますが、キャサリン様とお家のご協力はいただけますでしょうか?」


質問を聞いた途端、彼女の雰囲気が変わった。


「はい当然、私の力の及ぶ限り協力し、必ず家の全面協力も実現してみせますわ!」


彼女は表情を一転させ、真剣な表情でそう断言した。


「了解いたしました。では、この計画を持ち帰り、商会長と協議して、早急に準備を整えたく存じます。シド君、計画を進めるにあたり、試作品の剣を準備してもらえないだろうか?」


キャサリンが協力すると宣言した後、急にサイモンさんの態度が変わった。


先ほどはフォートラン商会だけで進めるのには不安要素が大きいとか、領主と冒険者ギルドに相談の上、政治上の保護を受けて進めなければ、などと言っていたがどうしたことだろう?


キャサリンの家の影響力はそれほどに大きなものなんだろうか?


疑問に思う点はあるが、間違いなくこれは好機だ。


(全力で取り組もう!)


「分かりました。明日には渡せると思いますよ」


「あ! 明日?!! それはいくら何でも早すぎるのでは……………」


「そうでもありませんわよ」


そう言うと、キャサリンは俺が預けていた六振の剣を全部テーブル上に並べて見せた。


「これらの聖属性剣も、シドは実際に一日かからず作製して見せましたから」


「な!! い!!?…………………」


サイモンさんは驚きすぎて声も出ない感じで、完全に目を見開いて固まってしまった。


(こりゃ長くなりそうだ⋯⋯)


そう思っていると、キャサリンが俺に近づいてきて小声でささやきかけてきた。


「シド、お願いがありますわ。もし、今のところ用途が決まっておられなかったら、私が預かっている剣のうち、五振を我が家の家人に貸し出していただきたいのですわ。お礼はいたしますので、お願いいたしますわ」


確かに、キャサリンに預けている六振の内、彼女が使用している一振以外の五振の剣はまだ用途が決まってない。


それにキャサリンにはドロップ品の運搬や物品の預かりなどでお世話になっている。


その代金として用途の決まってない剣をキャサリンの家人に預けるくらい安いものだ。


「もともと、剣の材料を調達してきたのはキャサリンとミオだ。キャサリンにも剣を自由にする権利があるよ。それにキャサリンには亜空間バッグの使用でお世話になりっぱなしだ。そのお礼と言っては何だけど、ミオさえ同意してくれたら、剣はキャサリンの自由にしてもらってかまわないよ。お礼もいらない」


「そ、そうはいきませんわ! 当家の威信にかけてお礼はちゃんといたします!」


まあ、我が家とは違って、キャサリンの家のように威信を重視する家もある。


あまり固辞するのもキャサリンを困らせるだろう。


「そうか。だけど、この剣に関しては、金銭が関わると教会に目を付けられて介入されるから、礼は何か金銭以外のもので頼めるか?」


「了解いたしましたわ。今は思いつきませんが、金銭以外で何か用意させていただきますわ。あと、ミオはシドが望む通りで良いと言っておりましたわ」


「分かった。だったらキャサリンの望む通りにしてくれ」


「感謝いたしますわ」


その後、サイモンさんの回復を待って、見本の剣の受け渡し時に正式な契約をすることに決めた。


「さあ、今日も剣作りだ!」



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