第31話 結界師は先輩冒険者を撃退する
俺は冒険者ギルド支部を出て、衛兵詰め所に向かい本日のドブさらいクエストの指定区域の割り当てをもらった。
その後、拾得物の件もあったので、フォートラン商会へ立ち寄った。
しかし、サイモンさんは留守で、代わりにエミリーさんと言う女性店員が対応してくれた。
エミリーさんは、サイモンさんからの言づてと共に麻袋と荷車を俺に貸し出してくれた。
どうやら、昨日の納品の多さから、逐一泥を運んでいては非効率だろうと言うことで、荷車を用意してくれたようだ。
言づてでは、昨日の納品量を一日の基準納品量としてほしいとのことで、荷車に乗っている麻袋の分だけ泥を納品すれば基準量となると説明を受けた。
今日からはギルド経由の指名依頼となるため、取り分一割を差し引かれ、一日銀貨二十七枚が俺の収入になる。
俺はエミリーさんに礼を言って、荷車を引いていき、指定区域でドブさらいを開始した。
荷車と、昨日のドブさらいの実績で衛兵からも信用され、チェックも簡略化されたため、昨日より効率良く作業がすすみ、半分の時間で昨日の納品量の泥を回収することができた。
区画は十三区画分だった。
昨日よりも多くの区画を半分の時間で終了させたため、衛兵から「ドブさらいマスター」の呼び名が与えられてしまったが、微妙な気持ちだ。あまり知合いに聞かせたくない。
昨日は十区画で規定量に達したが、今日は十三区画分。
クエスト報酬は銀貨十三枚となり、泥の納品代と合わせて、今日の収入は銀貨四十枚だ。
俺は回収した泥を納品するためにフォートラン商会へ向かった。
「やっぱり、付けてきているな……」
俺が店の裏手の路地に入ると、後方に何人かが路地を塞ぐように立っている気配を感じた。
「よお、新人。稼いでいるようだなぁ」
実は俺はギルド支部を出た後、何人かの男たちが俺の後を付けていることに気づいていた。
ドブさらい中は人通りも多く、また、衛兵が作業の完了をチェックしに来るのもあって、遠巻きに監視していただけだったが、人通りが少ない店の裏の路地に入った所をチャンスと考え、声をかけてきたようだ。
振り向くとボロボロの皮鎧に短剣をぶら下げた汚い恰好の五人組が立っていた。
「先輩方、こんにちは。こんな時間に皆さんお散歩ですか? クエストを受けないでも生活に余裕がおありなんですね。うらやましいです」
俺は少々嫌味を込めて返答した。
俺は事前に、こういう連中が一定数いることを知っていた。
だから、絡まれること自体に驚きはなかった。
「おお、俺たちほどの実力者になると後輩たちから指導料が入るんでなぁ。食うには困らないんだよ。今日はお前さんから指導料を徴収に来たのよぉ」
真ん中に立つ、前歯の数本抜けた目つきの悪い男が、あからさまに嘘と分かることをのうのうと言い放つ。
ギルド規約ではギルドを通さない直接的な冒険者間の指導で、金銭を授受することを禁止している。
これは過去、トラブルが多発した事例から設けられた規約だ。
連中は恐らく、新人を狙って金を脅し取っているのだろう。
それに、連中が食うに困っていないと言うのも嘘だ。
服も装備も質が悪く、野宿続きなのが一目で分かる汚れと臭いがあった。
連中は恐らく、安宿にも泊まれない街の外壁沿いに野営している冒険者たちだろう。
「はて、指導とは何でしょうか? 心当たりが無いのですが」
「お前、最底辺のH級冒険者のくせに今朝、シルビア様からお呼び出しを受けて、不遠慮に付いて行っただろ。そう言うのはルール違反なんだよ!」
ちょっと言ってることが分からない。
「受付嬢に呼び出しを受けて付いて行ってはいけないのですか? それでは、ギルドの業務妨害になると思うのですが」
「お前! シルビア様を単なる受付嬢と一緒にするのか!!? 厳しい指導が必要だな!!」
「そうだ、指導してやる」などと他の四人も口々に怒鳴り散らしている。
「身の程知らずのH級冒険者が、訓練も受けずクエストに出て、がっぽり稼いで調子に乗っているからこう言う目に合うんだ。自分の行いを悔やむんだな」
はて、先ほどはシルビアさんを他の受付嬢と一緒にして怒っていたのではなかったか? 意味が分からない。
「すみませんが、多忙なものでお相手している暇はありません。帰ってください」
「何だと! 調子に乗るな!!」
――話は、ここまでだ。
俺は会話している内に伸長させていた無属性の法力を、五人に流し込んだ。
「あ、あ、あ、ががががががががぁ!!!」
「お、ごごごごごごごごごぉ!!!」
五人は口々に言葉にならない苦悶の声と共に倒れ伏してしまった。
俺は先ほどまで喋っていた歯抜けの男に近づき、胸倉をつかんだ。
「先輩、もう一度言います。すみませんが、多忙なものでお相手している暇はありません。帰ってください」
俺がそう言うと、歯抜け男は涙目で首を激しく上下に動かして同意した。
俺は歯抜け男たちから法力を戻した。
「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
五人は悲鳴と共に走り去って行った。
俺が荷車へ戻ろうとしたところ後ろから声があった。
「やっぱり、あんたの実力は、H級じゃ収まらないと思うなぁ」
俺は声のする方へ振り返った。




