第30話 結界師は美人受付嬢からの呼び出しを受ける
時間は少しさかのぼり、場所は冒険者ギルド支部。
俺は聖属性剣を完成させた後、本日のクエスト受注のために冒険者ギルド支部に来ていた。
「失礼いたします。シド様でしょうか?」
クエスト受注のため受付に並んでいたところ、後ろから声をかけられた。
「はい、シドですが……!!」
後ろを振り向いたところ、そこに美女が立っていたので驚いた。
「こんにちは。受付嬢をしておりますシルビアです。何度かお話しをしていますから、覚えておられるでしょうか?」
「は、はい!! 覚えております!」
シルビアさんから突然声をかけられ、俺は完全に硬直してしまった。
なぜだろうか、シルビアさんに声をかけられると緊張する。
そしてなぜだか、何か懐かしい気がする。
ミオが一緒ならまた叱られるところだ。 一人で良かった。
「シド様、実はフォートラン商会のサイモン様からの指名依頼と預かり物がありまして、少しお時間をいただけますでしょうか?」
「……! は、はい! 大丈夫です!」
俺は少し思考にはまって、つい返事が遅れてしまった。
「では、会議室までどうぞ」
「は、はい!」
俺は会議室と聞いてさらに緊張した。
ひょっとして、二人っきりになるのだろうか?
「ヒルダさん、シド様が来られました。あなたも会議室へ来てください」
そう思った矢先、シルビアさんは他の受付嬢に声をかけていた。
ちょっと残念だ。
どうやら、ヒルダさんと言う受付嬢は、昨日、俺のドブさらいクエストの受注処理をした受付嬢のようだ。
「りょ、了解いたしました!」
俺たちは昨日通された第一会議室に入り、それぞれ椅子にかけた。
そして、シルビアさんが先ず話をはじめた。
「改めまして、お時間をいただき、ありがとうございます。先ほど申し上げました通り、フォートラン商会のサイモン様より、シド様へ指名依頼がありました」
ああ、そう言えばサイモンさんがまたギルドに依頼すると言ってたな。
「はい、サイモンさんには何かあればギルドに依頼を出してほしいと私が言いました」
俺は二人に昨日の経緯を説明した。
「なるほど。それで、サイモン様はスライムの死骸と泥を追加で購入したい旨、依頼されたのですね」
「はい、昨日は直接サイモンさんから買い取り料を受け取りましたが、今後もその形式だと私がギルドの評価を受けられないと思われたのだと思います。昨日の取引はギルドから見て問題ありましたでしょうか?」
「いいえ、ドブさらいクエストの規則では、ドブからの拾得物は基本的にクエスト受注者に帰します。その拾得物をどの様にされるのも受注者の自由ですから問題ありません」
「そうでしたか。良かった」
俺としたことが、事前に規則を読んでおくべきだった。
(迂闊だったな⋯⋯)
「事情をうかがい、懸念が晴れました。実はギルドが受ける指名依頼は基本的にC級以上の冒険者に限定させていただいております。しかし今回、このヒルダが誤ってサイモン様からの指名依頼を受けてしまいまして、シド様に事情をお伺いする必要が生じました。ヒルダは新人で経験も浅く、大店のフォートラン商会様からの依頼とのことで焦ってしまったようです。大変申し訳ございませんでした」
二人とも深々と俺に頭を下げているが、俺としては特段二人が悪いとは思えない。
どちらかと言うと、サイモンさんに何かあったらギルドに依頼してほしいと言った俺の方に問題があったように思える。
「頭を上げてください。本件は何かあったらギルドに依頼を出してほしいとサイモンさんに言った私にも責任があると思いますので……」
「いえ、シド様の発言には全く問題はありません。それに、事情をお聞きし、この依頼はシド様にしか受注できないと確認いたしましたので、ギルドとしてはこのまま本依頼をシド様にお願いしたく思っております」
「いいんですか? 規則ではC級冒険者以上が対象とのことですが」
「大丈夫です。この規則には例外規定があり、特殊な技能を必要とする依頼の場合は、その特殊な技能を持つ冒険者が低級の冒険者であっても指名を受けられることとなっております。本件はその例外に当たります」
「そうでしたか。安心いたしました」
今後また受付嬢の方々を煩わせないためにも、今度じっくり資料室に詰めて各種規則をもう一度確認しておこう。
「あと、サイモン様よりこちらを預かっております。お受け取り下さい」
シルビアさんがヒルダさんから革袋が乗った銀のトレーを受け取り、俺に差し出してきた。
「これは……」
「はい、サイモン様からは昨日納品された泥から回収した拾得物とのことです。小金貨が三枚、銀貨が四十五枚、銅貨が三百二十五枚、それに指輪が一つ入っております」
「そ! そんなに?! いいんですか?!」
驚いて思わず大きな声が出てしまった。
「はい、回収されたサイモン様が権利はシド様にあるとおっしゃっておりますので、これらは全てシド様のものとなります」
「そ、そうですか……。それにしても、こんなに拾得物ってあるもんなんですか?」
「通常ですと無いと思われます。昨日のシド様のクエスト記録から考えますと、ドブさらいをした場所が良かったのと、尋常ではない量をドブさらいされた結果ではないかと思います。記録には残っていませんが、おそらくギルド史上初の依頼達成数だと思われます。素晴らしい成果です」
なぜかシルビアさんの称賛には破壊力がある。
彼女に褒められて、にやけ顔を見せてしまいそうになる。
(ニヤニヤしてると変に思われる。こらえろ俺!)
「あ、あの、き、昨日はうるさく訓練を勧めてしまい、申し訳ございませんでした。し、シド様ほどの実力があれば、H級冒険者でも十分に生活できるんだと知りました。安全で確実な収入を得て生活できるH級冒険者の方がおられるなんて思ってもみませんでした。こ、これからも、が、がんばってください!」
ヒルダさんがしどろもどろに声をかけてきた。
どうやら、終始無言で、硬い表情をしていたのは緊張してのことだったようだ。
「いいえ、ヒルダさんも心配して訓練を勧めてくださり、ありがとうございました。ギルドの訓練には参加しませんが、日ごろから個人での訓練は欠かさず行っておりますので、ご心配なく。これからもしばらくはドブさらいを中心にクエストを受注してまいりますので、よろしくお願いいたします」
「は! はい!」
言いたいことがやっと言えた様な安堵感を思わせる顔だ。
「シド様、中身の確認と受け取りのサインをいただきたいのですが、よろしいでしょうか? あと、確認させていただきますが、ここにある貨幣のみで本年の人頭税が払えることとなりますが、いかがなさいますか?」
人頭税は一年で大金貨一枚、すなわち小金貨で四枚、ここには小金貨三枚があって、銀貨が二十五枚で小金貨一枚となるので、人頭税が払えてしまう金額となる。
「いえ、成人したてでおそらく、色々と揃える必要が今後あるかと思いますので、今日はそのまま受け取ります」
「そうですね。年度が改まったばかりで、納税期日まではまだ一年近くあります。シド様の言われる通り、今は何かと物入りな時期ですので、納税はまだ良いかと思います。大変失礼いたしました」
「いえ、お気遣いいただきありがとうございます」
俺は革袋の中を確認した。
革袋の中身は金貨、銀貨、銅貨と指輪が入った麻袋に小分けにされていた。
俺は提示された数の貨幣が入っているのを確認し、その後、指輪を麻袋から取り出した。
「こ、これは……」
思っていたよりも大きな石が嵌った指輪が中から出てきた。
「はい、法石の指輪です。当ギルドの鑑定法術具で鑑定しましたところ、ステータス非表示機能が付いているようで詳細鑑定はできませんでした」
(それって、持ってると何か危ないような⋯⋯)
「見られる範囲のステータスによると大容量の法力を蓄積できる指輪のようです。その実用的価値だけでも大金貨百枚は下らないかと思います」
「「ひゃ、百枚?!」」
思わず、ヒルダさんと一緒に叫んでしまった。
ヒルダさんは指輪の金額を聞いてなかったようだ。
それにしても、とんでもない物を拾ってしまった。
一年の人頭税が大金貨一枚なので、人頭税百年分。
この指輪一つで一生分の人頭税を払ってもお釣りがくる。
ステータス非表示機能に指輪の価格、こんな指輪の持ち主なら、相当な実力者か権力者や裕福層だろう。
このまま使用するのは、論外だ。
落とし主が現れた時に盗んだと勘違いされてしまう可能性が高い。
では、どこかで売れば良いか、それも、落とし主に特定されて盗品を売ったと勘違いされても困る。
ここは慎重な対応が必要だ。
「シルビアさん、この指輪ですが、ギルドで持ち主を探して返却してもらえませんか?」
「え?! いいんですか?! 拾得物はシド様に所有権があって、この指輪はシド様のものですよ?!」
ヒルダさんが思わず叫ぶ。
「いいんです。こんな高価な指輪を所有している人は、おそらく相当な実力者か権力者、裕福層の方でしょう。そんな人に目を付けられるのは嫌ですから」
「……そうですね。変に盗んだと勘違いされることもあるかもしれません。分かりました。これはギルドが責任をもって預かり、所有者を探して返却いたします」
「ありがとうございます」
「シド様は新人冒険者とは思えないほど落ち着いておられますね」
またもや褒められて、にやけ顔を晒しそうになるがグッとこらえる。
(俺ってこんなに人に褒められて嬉しくなる性格だっただろうか? こらえろ俺!)
「いいえ、自分の身の丈を超える財を手に入れると逆に不幸になりますから。自分自身の成長と共に堅実に稼いでいきたいですから」
「そういう考え方も新人離れしていますね。冒険者は一攫千金を狙う方が多くいますから、新人は特にそう言った目立つ先輩冒険者に影響されて無茶なクエストを受けたがります。それを防ぐのが私たち受付嬢の役割ですので、ぜひシド様の様な冒険者を皆見習ってほしいですね」
ヒルダさんも無言でコクコクと頷いている。
自分でもこんなに感情が揺さぶられることに驚いてしまう。
ちょっと、にやけ顔を我慢するのが限界に近い、早く退散しよう。
「あ、あの、そろそろクエストに向かいたいと思います。その指名依頼と、昨日と同じくドブさらいのクエストを受注したいと思っているのですが……」
「し、失礼いたしました! 長くお引止めしてしまいました。クエスト受注処理はこちらで済ましておきますので、このまま現場へ向かっていただいて結構です」
「分かりました。あと、この拾得物の貨幣ですが、本日のクエスト報酬の受取時まで受付で預かっておいていただけますか?」
「はい、それも承りました。銅貨が多いようですが、ギルドで両替しておきましょうか?」
さすがシルビアさん、行き届いた気遣いだ。
「ありがとうございます。では、銅貨三百枚分を両替しておいてください」
「分かりました。銅貨三百枚を銀貨十二枚に両替しておきます。本日の報酬受け取りの際にお渡しします」
「ありがとうございます。では、俺はこれで失礼します」
「本日もご活躍を祈念しております」
「が、がんばってください!」
そう言うと、二人は俺にお辞儀をした。
「はい、がんばります!」
俺もお辞儀をして会議室を出た。
会議室を後にして、ロビーに出た時、やたらと男性冒険者たちから睨まれた。
(まあ、新人のくせに美人受付嬢の呼び出しを受けるとか、嫉妬の対象になって当然か……)
俺は近日、先輩冒険者からの呼び出しがあるかもしれないと覚悟した。
「まあ、黙ってやられるつもりは無いけどね……」
俺は急いでギルド支部を後にした。




