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第29話 付与術師は退路を断たれる

「はぁはぁ、や、やっとたどり着いた……」


(国宝を持ち歩くのが怖くて、身体強化全開で走ったけど、通行を乱して衛兵に追いかけられちゃった! 後で詰め所に謝りに行かないと……)


「どうしたのですか?! メイ教官。そんなに息を切らせて、キャサリンさんとミオさんたちと合流できなかったのですか?」


(助かった!! シルビアさんがいた! この人なら支部長にすぐに取り次いでくれるはず!)


「シルビアさん! き、緊急で支部長に報告することがあります! 急いで取り次ぎをお願いできますか?」


「お急ぎのようですね。分かりました!」


「そ、それと武器鑑定ができるギルド専属鍛冶師のジルさんにも同席していただきたいのですが!」


「ジルさんですか? それなら、ちょうど支部長は今、ジルさんと支部保有の武器について話し合いをしているところだと思います」


(わ、渡りに船だ!!)


「じゃあ、支部の鍛冶場に行けば会えますか?」


「いいえ、多分、武器庫だと思います。私も一緒に行きますので、付いてきてください」


「分かりました!」


(シルビアさんが居てくれてて本当に良かったぁ!!)


私たちは地下の武器庫へ急いで向かった。


武器庫は地下二階にあって、いつもならば鉄扉に複数の施錠がされているが、本日は扉が開かれていた。


シルビアさんが鉄扉をノックした後、中に声をかけた。


「失礼いたします! 支部長、メイ教官が急ぎご報告があるとのことでお連れしました。 専属鍛冶師のジルさんにもご同席いただきたいとのことです」


「メイ君が?! 入ってくれ」


(すぐに面会ができた!!)


中に入ると、武器防具類が棚に整理整頓され保管されていた。


「どうした? キャサリン君とミオ君に何かあったのか?」


(落ちつけぇ、私ぃ!)


「キャサリンさんとミオさんの安全上の問題ではありません。ご安心ください」


「そうか」


私と支部長が会話を始めたのを見て、シルビアさんはお辞儀をした。


「支部長、私はこれで」


シルビアさんが気を遣って退室しようとするが、支部長が呼び止める。


「いや、シルビア君にも聞いてもらおう。それで、緊急の報告とは何だ?」


(説明するよりも、先ずはこの剣を見てもらう方が良いか……)


「支部長、これをご覧ください。そして、ジルさんに武器鑑定をお願いしたいのですが……」


「これは……ロングソードだな。外見は何も変わった様子はないが……なっ!!」


支部長がロングソードを受け取り、それを抜いたところで絶句した。


「こ、これは何だ!!」


(支部長も固まってる! やっぱりそういう反応になるよね……)


「はい、鑑定はまだですが、キャサリンさんらが言われるに、これは聖属性剣とのことです」


「聖属性剣だと?!! ジル、見てくれ! ジル!」


(ジルさんも目を見開いて固まってる!!)


「す、すまん! 属性剣なんぞ見たのは遠目でシルバニア王の炎の属性剣を見たことがあるだけで、手に取って見るのはオレも人生で初めてだ!!」


「じゃあ、武器鑑定はできないのですか?……」


(ジルさんも初見なんて……初見の武器の鑑定なんてできるの?)


「いや、武器鑑定は上級の鍛冶師の固有特性だ。問題ない」


「で、どうなんだ?」


(支部長も興奮してる!)


「ああ、間違いなく、こりゃ聖属性剣だ。だが……」


「だが、何だ?!」


「ああ、だがこの剣の材質は鉄だ!!」


「鉄?!! ミスリルやアダマンタイトじゃなく、鉄?!!」


「鉄だと何か支障があるのでしょうか?」


すかさず、シルビアさんが質問する。


「支障はない、むしろ好ましい。剣を武器とする冒険者にとってこの技術は希望だと言っていい」


「どういうことですか?」


「事務職のお前さんには素材の特性なんか分からんかもしれんが、法鉄とミスリルの違いくらいは分かるだろ?」


「ええ、一般的に法鉄の方が安価で、ミスリルの方が高額で、上級の冒険者になるとミスリルの武器を所持される方が増えると言うことぐらいは……」


「間違ってはないが、なぜ、法鉄は安くて、ミスリルが高額なのかは理解できてない。法鉄は法力を蓄えるが、ミスリルの方が圧倒的に多くの法力を蓄える。ミスリルは素材として希少であるだけでなく、その法力容量からもミスリルは有用性が高い。中級から上級の剣士は法力出力が多いので、法鉄の武器だと、容量がオーバーして最悪、マテリアルブレイクしてしまう。だから、少なくとも中級中位以上の剣士は好むと好まざるとに関わらず、ミスリルの武器を使わざるを得ない」


「そうでしたか……浅学で申し訳ございません」


「まあ、事務職のお前さんが知らないのは仕方ない。話を続けるぞ。鉄は強度は高いが、高密度の法力を使用するのには向いてない。それは、鉄に均等に法力を分散させることが困難だからだ。どうしても、法力密度にむらができるから、局所的に法力の負荷がかかりすぎると言う問題が起こる。そして、負荷が限界値を超えるとマテリアルブレイクする」


「では、ミスリルの法力容量が大きいのは、斑なく法力が分散するからですか?」


「そうだ。全体に斑なく法力が行きわたることで、法力がスムーズに流れ放出される。だが、強度は鉄に劣るので、使い手の純粋な剣技の技量が問われる素材だ」


「だから、中級の剣士になるとみんな一生懸命剣技を磨こうとするんですね」


「そうだな。鉄の剣を持っていたころのように力任せで切ると、あっという間に使い物にならなくなる。ミスリルの剣は高価で、修理にも費用がかかる。強度の高いアダマンタイトはミスリルより十倍以上高価だ。上級冒険者でも買えるのはほんの一握りだ。だから、剣士にとって武器の更新は人生を左右する」


「勉強になりました」


「メイ教官、お前さんは無属性の付与術師だったな」


「え? あ、はい!」


「じゃあ、使用しているのは鋼鉄の剣か?」


「はい、亡くなった伯父が剣士で、実家に置いてあった鍛錬用の剣をもらいました」


「そうか。そりゃ運が良かったな。お前さんが持ってきた属性剣がミスリルの属性剣だったらこの剣を取り上げなきゃならん所だった。この鉄の属性剣ならお前さんの戦闘スタイルでも扱える」


(いや、むしろ取り上げてください!!)


「しかし、どうすればこれだけ斑なく法力を行き渡らせることができるんだ? こりゃ、この剣が国宝であるだけでなく、これを作った人物自体が国宝だ。今のギルドにとって喉から手が出るほど欲しい人材だ。この人物が協力してくれれば、今抱えている問題が一気に解消できる。ぜひ弟子入りさせてほしい。支部長どうにか探し出せんか?」


(国宝、国宝言わないでください!! そして、国宝級の人物調査なんて無理です!)


「ジル、無茶を言うな! 希少な技術を持った高位の技術者は大抵、権力者の庇護下にあって、名前や素性は秘匿情報だ。その情報だけでも持ち出せば首が飛ぶ。メイ君、この剣はどこで手に入れたんだ? まさか、剣の製作者から受け取ったわけではないだろ?」


「はい、実は……」


私はこの剣を受け取った経緯を説明した。


「そ……それはこの剣をマナエル家がメイ君に下賜したということか?!!」


「そ、そう思われます………」


三人とも難しい顔をして沈黙してしまう。


(だ、黙り込まないで!!!)


「そ、それでですが……この剣をギルドで管理していただけませんでしょうか? 私は現在、宿屋暮らしで、こんな国宝級の剣を保管できるような場所がなくて………」


(た、頼みますからギルドで預かってください!!)


「メイ君、すまないが、それはできない」


「え?! そ、それはどういう……」


(支部長ぉぉぉ!!!)


「メイ君、貴族が剣を下賜すると言う意味は、その貴族はその人物をその家の庇護下に置くということだ。そして、特に長剣の下賜はその人物を貴族家の戦力として見なすと言うことだ。我々はギルドに所属する冒険者なので、貴族も軽々に引き抜きをすることはしないが、それでも尚、冒険者個人が貴族家に属することをギルドは禁止できない。メイ君は下賜された剣をすでに受け取ってしまっている。だから、その剣はメイ君がマナエル家に属する証しとなる。そんな証しをギルドで預かるわけにはいかない」


(はぁぁ?!! 庇護? 戦力? ど、どどどどういうことぉぉ?!!)


「支部長、話は分からんではないが、そういう場合は剣に紋章を入れるもんじゃないか?」


(そ、そ、そうですよねぇジルさん。紋章なんて無いですもんねぇ。か、勘違いですよ支部長ぉ)


「紋章が無いのは冒険者ギルドに対する気遣いからだろう。メイ君は単なる冒険者でなく、ギルドの教官だ。そんな彼女がマナエル家の紋章付きの剣を持ち歩いていたとするら、マナエル家はギルドを蔑ろにして、教官を引き抜いていると取られかねない。しかし、マナエル家はキャサリン君を護衛するメイ君に報いたいと考えたのだろう。その証拠にこの剣の意匠は中身に釣り合わない地味さがある。この地味な外観ならメイ君が町中で持ち歩いても誰もこの剣が国宝級の剣であると分からない」


(そ、そ、そんなぁぁぁぁぁ!!)


「なるほどな。それにしても、この剣は外観も不思議な作りだ。特につかに巻いてあるひも。通常、法鉄の剣の場合、法力を手からブレイドに伝達するために柄の一部を露出させるものだが、この剣の紐は柄全体を隙間なく覆っている。しかしこの剣は、全く断絶感なく手からブレイドに向けて法力が良く流れる。これはこの紐が単なる紐でなく、法力が充填されている紐だということだ。こんな技術、そうそうお目にかかれるものじゃない。さすが、国宝級の剣を打つ鍛冶師の技術だ」


(紐さえ、ただの紐じゃなかったぁぁぁぁ!!)


「法力を通さない鋼鉄の剣を使用していたメイ君が、いきなり法力を通す剣を持って周りに怪しまれないための配慮だろう。この剣は出来合いの剣でなく、メイ君に合わせて調整されたということだ。ますます他の者が持っていい剣ではない」


(あぁぁぁぁぁぁ!! 退路が断たれたぁぁぁぁぁ!!)


「あ、あのぉ……支部長、ジルさん。メイさんが白目をいて立ったまま気絶してますが……」


「「え?!」」


その後、目覚めた私はゴブリンの魔石代とダンジョンボスの鋼鉄のグレートソード代を合わせて大金貨二枚と小金貨二枚という大金(追加攻撃)を持たされ、国宝級の剣とともにギルドを追い出されてしまった。


「ああ、孤立無援……、全部投げ出して田舎に帰りたい」


痛む腹を押さえつつ、お二人の待つ貧民街の家へと全速力で走った。


当然、また衛兵に追われたのは言うまでもない。




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