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第27話 結界師は剣を完成させる

「おっちゃん、おはよう!」


「おお、シド来たか! おはよう!」


剣の様子が気になっていた俺たちは、皆いつもより早起きし、朝の鍛錬と朝食を済ませ、鍛冶場にやって来た。


「剣はどうかな?」


「ああ、この様子なら大丈夫だろう」


おっちゃんは俺たちが来る前から剣の様子を見ててくれたようで、問題が無いことを俺たちに告げた。


「じゃあ、最初に造ったものから、型から出していこう」


俺は無属性の法力を自分に戻してから、結界の上半分を変形させ、剣を露出させた。


念のために手のひらに無属性の法力の膜をはってから、手に取ってみると、ほんのり温かかった。


俺は剣をかざして見たが、キラキラと美しい輝きを放っていた。


「ねえ、ねえ、どうなのよ! 私も触らせてよ!!」


「私も手に取って見させていただきたいですわ!」


ミオもキャサリンも居ても立っても居られない様子だったので、持ち手に近くにあった布を巻いて、先ずはミオに手渡した。


その後、俺は二振目も同じく結界を開き、剣を取り出して、同じく布を巻いてキャサリンに手渡した。


「すごい奇麗な剣だね! 何だか内側から光ってるような感じだね」


「そうですわね。光を反射していると言うよりは、剣の内面から輝いている感じですわね」


確かに剣は神聖な光を放っているように光り輝いていた。


「法力を流すと、なんだか、私の腕が伸びて剣と一体化した感じがするんだけど……」


ミオがそう言うので、俺は三振目を取り出して、法力を流し込んでみた。 俺にはその心当たりがあった。


「ああ、これは俺が自分で作った木剣を使った時の感覚だな」


「そうなの?! シドはいつもこんな感じで剣を使ってたの?! ずるいよ!!」


「う~ん、私は法力を流してもそんな一体化した感覚はありませんわ。うちのミスリルの剣に法力を流した時の様な感じですわ」


「たぶん、それは俺とミオの法力がこの剣に練り込まれているからだよ。俺が法力で成形した木剣は俺が使う時に腕の延長の様に一体化した感覚がある。だが、ミオはそれを感じてない。それは、ミオと俺の法力の波長が違うせいだと思う。今回は俺とミオの二人の法力を使ったから、ミオも一体感を感じたんだと思う」


「素晴らしいですわ! この剣たちはシドとミオの二人の波長の法力が混ざり合ってできた、二人の子供たちのようですわ!」


「こ! 子供たち?! し、シドと私の?! シドと私の!! シドと私の!! シドと私の!! シドと私の!!―――――」


キャサリンの一言でまたミオのスイッチが入ってしまったようで、ミオは妄想の世界に行ってしまった。


「シド、そろそろ俺にも持たせてくれ!」


おっちゃんもしばらく俺たちの様子を眺めていて、居ても立っても居られなくなったようだ。


鍛冶師の魂に火が付いたような感じだ。


おっちゃんは下から上からじっくり眺め、驚いた様子で俺に話しかけた。


「おい、シド! こりゃもう刃物として完成しているぞ!」


「どういうことだ?」


「この剣は研ぐ必要なく、刃物としてちゃんと刃が付いていると言うことだ」


驚いたことに、この剣は研ぐまでもなく、刃が付いていた。


どうやら、刃先までを含めた形状を法力で制御していたせいで、自然と刃が立ったらしい。


「シド、これを切ってみろ」


おっちゃんは巻藁を用意してくれた。


俺は巻藁を軽く横薙ぎに振り抜いたが、切った感覚が全くしなかった。


そして巻藁は変わらず立っていた。


「なんだシド、空振りをしたのか?」


「おかしいな。確かに切ったつもりなんだが……」


と言って、俺が巻藁の上をつついたら、巻藁の上の部分がポトリと落ちた。


「え?」


「お、おい! 何だこの断面!」


おっちゃんが断面を見て叫んだ。


見ると巻藁の断面はとても滑らかであるだけでなく、何かキラキラと光っていた。


「これって、聖属性が巻藁に付加されたのか?!」


「シド、何かありましたの?」


「ああ、見てくれ」


キャサリンが何事かと思って、話しかけてきたので、切った巻藁の断面を見せた。


「これは完全に属性剣ですわね……。それも強力な聖属性を持った」


「キャサリンは属性剣を見たことがあるのか?」


「ええ、伯父の剣が属性剣で見せていただいたことがありますわ。その剣は炎の属性剣でしたので、法力を込めないでも切ったものを燃やす効果がありましたわ」


「それは、誰でも振るえば属性攻撃が可能と言うことだな」


「ええ、そうなりますわ」


「じゃあ、付与術師のメイさんでも属性攻撃が可能になると言うことだな」


「そうなりますわね。プレゼントとしてはとっても良いと思いますわ」


「おい、シド。俺は日用品作成が専門で、刃物は包丁や小刀、草刈り鎌なんかしか作らんから、その剣の正確な値段は分からんが、属性剣と言えば上級鍛冶師でも作れるやつは一握りだと思うぞ。それに、剣自体も相当な業物だ。そんな高価なものを人にプレゼントしちまうのか?」


「ああ、元々、ミオとキャサリンがお世話になっているギルドの教官にお礼がしたくて作った剣だから、どんな値段がついてもプレゼントするのは変わらない。それに、これがあれば、ミオやキャサリンの安全性が上がるなら躊躇する理由はないよ」


「そうか。まあ、お前たちがそれで良いなら俺はなんも言わん。ところで、そろそろ仕上げにかかってはどうだ?」


「そうだな。鍔は一体成型になっているからこれでいいが、握りと鞘は木材にするつもりだったんだけど、トレント材の端材の在庫が少なかったと思うんだよな……」


俺はしばし思案して、キャサリンが保管しているゴブリンの短弓を確認してみることにした。


「キャサリン、昨日のゴブリンの短弓を出してもらえるかな?」


「了解ですわ」


キャサリンは短弓を一張取り出した。


俺はそれを手に取って、法力を流してみた。


「ゴブリンの持ち物でもさすがはダンジョン産だな。トレントと同じく法力で成形できそうだ。それにこの弦は撚って紐にして、握りに巻きつけよう」


俺は方針を固めたので、キャサリンに短弓を全て出してもらうことにした。


「キャサリン、短弓を全部ここに出してくれるか?」


「分かりましたわ」


短弓も全部出すと結構かさばり、小山になった。


「キャサリンとミオは短弓から弦を外してくれるか? 弦も後で使うから、傷つけないようにしてほしい」


「了解ですわ。ミオ! 手伝いますわよ! ミオ!――――」


ミオはまだ妄想に浸ってたが、キャサリンが軽く頬をたたくと元に戻った。


「お帰りなさいですわ。さあ、シドを手伝いますわよ!」


「え?! あ、はい!」


二人が作業に取りかかると、おっちゃんが声をかけてきた。


「シド、先ずは鍔の部分にこの塗料を塗っておけ。錆止めになる」


「ああ、鍔の部分はいつも露出してるから錆びやすいからね」


「それが済んだら、鞘を先に作れるか?」


「ああ、できるけど―――」


「じゃあ、鞘の鯉口こいくちこじりの型枠を作ってくれ。ブロンズを流し入れてやるよ」


「ありがとう、おっちゃん」


「じゃあ、俺はブロンズを溶かしとくからな」


「分かった」


俺は結界の型枠に入った剣を全て取り出し、作業台に並べた。


その後、俺は鍔の部分に黒い塗料を次々と塗っていった。


塗料を塗り終わったら、キャサリンとミオが解体した短弓を手に取り、法力を流し込み、次々と融合していった。


そして、鞘に使用するくらいの量を融合した後、最初に取り出した剣を融合した木材で覆った。


そして、覆った木材の内部に剣の形状に沿って空間を設けていった。


内部の空間ができたら、外側の形状を整えた。


次に鯉口と鐺の形状を決めるために、先ずは融合木材で鯉口と鐺を成形してみた。


鞘に鯉口と鐺を仮止めし、剣を鞘に納め、抜き差ししつつ微調整を行った。


その後、剣を抜いて、鞘に取り付けた鯉口と鐺を外し、圧縮した無属性の法力で覆い、その上を結界で覆った。


その後、鯉口と鐺の木材を流動化して型枠から取り出した。


これを十振分行い、鯉口と鐺の型枠は完成した。


短時間だし、結界と接しているから、無属性の法力の自然放出は緩やかだろうと予想し、注ぎ口は解放したままにした。


「おっちゃん、できたよ」


「おお、こちらも用意できとる」


「型枠にブロンズを流し終えたら声をかけてくれ。結界を閉じるから」


「分かった」


「じゃあ、俺は握りを作るから、こっちは頼むよ」


「任せとけ!」


ミオとキャサリンは短弓の解体を終えていた。


「ミオとキャサリン、メイさんの手の大きさは分かるか?」


「ちょっと分からないなぁ」


「私も分かりませんわ」


「じゃあ、体格から予想するか。俺とそんなに変わらない感じだったよな」


「そうね。女性にしてはがっしりしていたから、シドくらいだったと思う」


「じゃあ、握りの太さは仮に俺の手の大きさに合わせておいて、後でメイさんに渡す時に微調整するか」


「それがいいと思う」


「私もそれでいいと思いますわ」


「それでシド、私もこの剣使いたいんだけど、私用に一振調整してくれる?」


「ああ、かまわないよ」


「では、私も一振欲しいですわ!」


「キャサリンも?!」


「はい! 私も基礎剣術は結構自信がありますわ。法術が撃てなくなった時の護身用として一振持っておきたいですわ」


「分かった。じゃあ調整するから二人とも来てくれ」


俺は二人の手の大きさに合わせて握りの融合木材の太さを調整した。


「この後、巻紐をつけるから、少し細めに調整するぞ」


「「了解<ですわ>」」


「シド、流し終わったぞ!」


二人の握りを調整し終えたタイミングでおっちゃんが声をかけてきた。


「分かった」


俺は結界の上部の注ぎ口を閉じた。 これで無属性の法力の放出は停められる。


「次は何をしたらいい?」


俺は見まわして、弦に目を止めた。


「じゃあ、あの弦を三つりにしておいてくれないか?」


「いいぞ。やっておく」


俺はその後、八振の剣の握りを俺の手の大きさに合わせて調整した。


おっちゃんはさすが日用品専門で鍛冶師をしているだけあって、とても器用に撚糸を作っていた。


「おっちゃんさすがだな!」


「こんなもん、できて当たり前だ。俺みたいなよろずの鍛冶師は何でも作らないと食っていけない」


俺はメイさん用の一振を除いて、九振の剣の握りにおっちゃんが作った撚り紐を巻く作業に入った。


撚り紐もダンジョンドロップだけあって、無属性の法力と良くなじんだ。


俺は、紐がずれないよう、撚り紐に無属性の法力を流し入れつつ、握りの融合木材と紐を接合して巻いていった。


「ミオ、キャサリン。剣を振って握りを確かめてみてくれ」


「分かった」


「了解いたしましたわ」


ミオ、キャサリンは鍛冶場の中庭で剣を振って具合を確かめ始めた。


「シド、鯉口こいくちこじりをそろそろ水で冷やすぞ」


おっちゃんはブロンズの状態を確認して、冷却する水を用意してくれた。


「分かった。俺がやる」


俺は結界を変形させ、おっちゃんが用意した水樽の中へと順番に鯉口こいくちこじりをセットで投入していった。


「お前の結界は便利だな。ヤットコを使わなくても熱い金属を持てる。俺も結界師に成りたいくらいだ」


「まあ、職業は変えられないし、変えられたとしても止めといた方がいい。俺の方法はすごくしんどい鍛錬を積まないといけないからな」


「そうかい」


おっちゃんは水から取り出した鯉口に今日の日付と十振中の何振目かを彫刻した。


俺は彫刻が終わった鯉口と鐺を鞘に取り付けていった。


一部、ヒケが生じたのでおっちゃんが研磨してくれた。


「ミオ、キャサリン。鞘ができた。来てくれ!」


俺は二人に声をかけた。


「どうだ握りは?」


「良い感じ! 違和感ない。剣との一体感もさっきと同じよう」


「私も良い感じですわ」


どうやら、法力の流れの断絶感は無いようだ。 俺も軽く振ってみる。


「良い感じだな。一体感も薄れてない」


「ばっちりだよ!」


ミオも気に入ったようだ。


「鞘ができたから、納剣してみてくれ」


俺はそれぞれの剣の鞘をミオとキャサリンに渡した。


俺も持っていた剣を納剣してみた。


「キン」と言う音が心地よい。


ガタツキもなく、しっかり納剣できている。


俺は何回か抜剣と納剣を繰り返し、具合を確かめたが良い感じだった。


「二人ともどうだ?」


「いい感じ!」


「問題ありませんわ!」


俺は二人の様子を見た後、残りの剣も納剣具合を確かめていった。


俺はメイさん用以外の全ての剣を仕上げた後、それを並べて全員に見せた。


「完成だ!」


「おお! こんな短時間で完成か! すごいな!!」


「やったね! 早くモンスター狩りに行きたい!!」


「ハァハァ、し、シド、素晴らしいですわ! こんな! こんな!…………」


少し、キャサリンの様子がおかしい。


興奮しすぎの様だが、まあ、俺としても興奮する光景だ。

キャサリンが興奮していてもおかしくない。


俺は並んでいる剣の内の一振を持って、ミオとキャサリンに目で合図を送った。


「ミオ、キャサリン。これいいかな?」


「いいわよ!」


「良いと思いますわ」


二人の了承を得たので、おれはおっちゃんに話しかけた。


「おっちゃん、今回はありがとう! 無事、剣が仕上がった!」


「なに、いいってことよ! 俺も一緒に仕事ができて楽しかった!」


「それで、おっちゃん。この一振はおっちゃんに受け取ってもらいたいんだ!」


「なに?! おいおい、俺はそんなもの受け取れるほどの仕事はしてないぞ!」


「いや、俺たちの気持ちだ。受け取ってほしい。それに、この街はいつもスタンピードの危険性がある。この剣ならだれが振るっても魔物特効がある。おっちゃんも基本剣術ぐらいはできるだろ?」


「まあ、なまっちまってるが、できないことはない。また鍛錬しなきゃならんがな。だがいいのか? 売れば相当な額の値段になるぞ」


「これは『聖属性』の剣だ。これを売ってしまうと教会を儲けさせることになるだろ?」


「確かに教会の庶民派の連中になら喜んで寄進するんだが、庶民派の連中は信仰を守って絶対に嘘をつかない。どれだけの寄進があったかを正確に教会中央へ報告して上納しちまう。結果、庶民派の連中には全く金が回らず、中央の豚どもを肥やすだけになっちまう」


「その通り。だからプレゼントしたいんだ。無料なら強制的な寄進は迫られないだろ?」


「まあ、原則はそうだが、やっかみは買うだろうな」


「じゃあ、口止め料も込みと言うことで」


「分かった。ありがたく受け取っておく」




後の世に、この作成者不明の十振の剣は「始まりの聖剣シリーズ」として好事家たちの間で天文学的値段で取引されるようになるのだが、それはまた別のお話。




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