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第26話 結界師は初めての共同作業をする

「それで、メイさんってとっても優しくて、私たちのためにゴブリン迷宮を貸切にしてくれるよう支部長に交渉してくれたり、自分の儲けにならないのに囮役を引き受けてくれたり、黙々と魔石とドロップ品集めを手伝ってくれたり、魔石が多かったので、査定に時間がかかるから納品は自分がするって言ってくれたりしたんだよ!」


「ふぅぅん、目立たず支えてくれる立派な教官だな」


「そうなの!」


俺は帰宅し、夕食をとりながらミオとキャサリンの今日の成果を聞いていた。


今日の成果はゴブリン魔石がたくさんとのことで、換金は明日の朝になるようで、もっぱら、どんな作戦で狩りをしたか、教官のメイさんが優しかったなど、様々な話題で盛り上がっていた。


「でも、今日はメイさん獲物を私たちに全部譲ってくれたので、今日のメイさんの報酬はないと思うんだよねぇ」


「そうですわね。メイさんはギルドから指導分の給料は出ているからと言って、獲物を全部譲ってくださいましたわよね」


「なんか、申し訳ないよね……。何かお礼できないかなぁ」


ミオとキャサリンはメイさんが自分たちに獲物を全部譲ってくれたことに引け目を感じているようだ。


「今日ドロップした品物は他に何があるんだ? 全部換金に回したのか?」


「いいえ、他のドロップ品は売れなかったので、魔石とボスが使用していた鋼鉄のグレートソード以外は、亜空間バッグに入れてありますわ。不要ですので、今度ダンジョン内に捨てようかと思ってますわ」


「何があるんだ?」


「そうですわね、一つずつ出してみますわ」


そう言うと、キャサリンは今日のドロップ品をテーブルの上に出し始めた。


ゴブリンの牙、角、こん棒、ナイフ、短弓が並んだ。


「こんなものですわね。数的には牙が四千ほど、角が二千ほど、こん棒は千、ナイフが七百、短弓は六百ほどでしょうか……」


「そうか……メイさんは剣は使うのか?」


「ええ、使われますわ。鋼鉄のロングソードでしたわ。お礼にボスドロップした剣をお渡ししようかと思ったのですが、ドロップ品はグレートソードで重すぎたため、お礼にはふさわしくないと思い断念いたしましたわ」  


「そうか……」


俺もメイさんにはご迷惑をおかけしたので、何か贈りたいと思っていた。


前から構想を練っていた案があるのだが、鉄を結構な量消費するので、見合わせていたものがある。


良い機会だから試してみよう。


「ミオ、キャサリン、俺がメイさんへのお礼の品を作ってみようかと思うんだが、今日ドロップしたこん棒とナイフを使わせてもらってもいいか?」


「いいよ。喜んで!」


「はい、ぜひお願いしますわ」


「今の時間、裏の鍛冶場のおっちゃんの所はもう仕事を終わったころだと思うから、ちょうど良い時間だと思う。行ってみよう」


「鍛冶場って、シド、剣を打つの?」


「まあ、普通に剣を打つわけではない。見てのお楽しみだ。それと、ミオ、今日まだ十分に法力を消費してないだろ?」


「え?! な、何でわかるの?!」


「顔色見てたら分かる。ちょうどいい、ミオの聖属性の法力を使うから手伝ってくれ」


「え?! 私の法力?!」


「来ればわかる」


俺はそう言うと、家の裏にある鍛冶場へミオとキャサリンを連れて行った。


鍛冶場の主はドノバンと言う初老の中級鍛冶師で、生活用品を主に制作している。


俺やミオは気軽に「おっちゃん」と呼んでいる。


「おっちゃん、いるか」


「なんだ、シドか。今日はもう終いだ。これから火を落とすから、何か作ってほしいならまた明日にしてくれ」


「いや、ちょっと鉄を溶かす窯を借りたくて来たんだ」


「なんだ、シド、鍛冶師にでもなるのか?」


「いや、鉄を溶かして固めるだけだ。燃料の炭も譲ってくれないか?」


「炭を譲るって、金でか?」


「いや、炭の原料になる木を大量に渡すつもりだけど、どうかな?」


「見せてみろ」


「ああ、キャサリン、こん棒を出してくれるかな?」


「分かりましたわ」


そう言うと、キャサリンは亜空間バッグからこん棒を出して、おっちゃんに手渡した。


「ほう、固い木質のこん棒だな。これは硬くて良い炭になりそうだ。いくらくらいあるんだ?」


「千ほどありますわね」


「千?! そりゃ、またたくさんあるな。いいぞ、今うちにある炭なら使ってくれていい。明日の仕事分は炭屋に言って朝に持って来させよう。その時にこん棒を炭屋に渡す。そこの倉庫の軒下に出しといてもらえるか?」


「分かった。キャサリン頼む」


「分かりましたわ」


キャサリンは言われた通りこん棒を並べて行ったが、千本となると結構な量があった。


キャサリンの亜空間バッグはとても高性能なものらしい。


「シド、鉄を溶かすのは初めてか?」


「ああ、やったことない」


「じゃあ、俺が一緒にやってやるよ」


「おっちゃんありがとう!」


「まあ、素人が扱って失敗すると怪我じゃあ済まないからな。ここに原料を出しな」


そう言うとおっちゃんは窯の近くを指さした。


「キャサリンここにナイフを出してもらえるか?」


「分かりましたわ」


キャサリンはナイフを出した。


「こりゃ、魔物が使ってたナイフか?」


「ああ、ゴブリンが使ってたナイフだ」


「そうか、鉄としては悪くもなく良くもないって感じだな。じゃあ、窯に放り込んでいくぞ。シド、炭をくべていってくれ」


「分かった!」


俺は次々と炭をくべた。 ふいごは法力道具で、自動で空気を送ってくれる仕組みのようだ。


いい感じに熱が上がってきた様子が見える。


おっちゃんは次々にナイフを窯に放り込んでいった。 全てのナイフが放り込まれて、良い具合に鉄が溶けてきた時、俺はミオに声をかけた。


「ミオ、俺の隣に来てくれ」


「え?! いいけど、どうするの?」


「合図したら、ミオは俺に向けて一定の速度で聖属性の法力を流し出すイメージで法力を放出してくれ」


「分かった」


俺はそう言うと、溶けた鉄に俺自身の無属性の法力を伸ばしていき、鉄に法力を注ぎ始めた。


俺は今日のスライム討伐の時、漫然とスライムを殺すのではなく、スライムの流体に均一に法力を流し出す鍛錬を行った。


俺は今日、万を超えるスライムを討伐したが、その間、流体に俺の法力を均一拡散する術を身に着けた。


温度は違えど、スライムも溶けた鉄も流体。


自然界で法力が強い環境に長い期間、鉄が置かれてできたのが法鉄だ。


それを考えると、解けた鉄に俺の法力が馴染まないなんてことはないはずだ。


俺はしばらく鉄に法力を流し込んで、馴染ませ続けた。


すると、俺は感覚で鉄に良い具合に法力が馴染み始めたのを感じた。


「ミオ、じゃあ手をつないで俺に聖属性の法力を流し出てくれ」


「分かった」


そう言うと、ミオは俺の手に聖属性の法力を流し始めた。


無属性の法力とは違い、聖属性に法力を変換しつつの放出なので、ミオも慣れておらず、ムラがある流れだ。


しかし、俺は一旦、自分にミオの法力を貯め、その法力を溶けた鉄に流し込んでいった。


おっちゃんは驚いたというか、何か不安な表情をしている様に見えるが、さすが職人で、俺が集中して作業をしていることを知って、声をかけて集中を乱してはまずいと思ったのか、ただ炭を焼べ、鉄の温度が一定になるようにコントロールしてくれた。


「ミオ、大丈夫か?」


ミオは集中と暑さもあって玉のような汗を額に浮かべている。


「う! うん。だ、大丈夫。量はこれくらいでいい?」


「だいぶ、馴染んできた。もっと流量をふやしていいぞ」


「助かったぁ……。やっぱり少しづつ一定で放出するのって苦手よ!」


「もう少しだ。がんばれ!」


だいぶ、鉄が法力を帯びてきたのが感覚で分かる。


そろそろ限界だろう。


「俺が合図をしたら放出を止めてくれ」


「分かった」


俺は感覚を研ぎ澄まして、その時を待った。


「今だ! 止めてくれ!」


「はい!」


ミオは放出を止めた。


俺は俺に貯めていたミオの法力を慎重に、徐々に細くしていった。


「いいだろう」


俺は完全に法力を停止した。 その途端、おっちゃんが俺を怒鳴りつけた。


「シド!! 何てことしやがる!」


「え? 俺なんかまずいことしたか?」


「まずいも何も、溶けた鉄に法力を流し込むなんて、上級の鍛冶師でもせんぞ!! 法力過剰でマテリアルブレイクしてみろ、溶けた鉄が飛び散ってみんな無事では済まんぞ!」


「そ、そうだな。説明もせずに申し訳ない。途中で止めて声をかけてくれれば良かったのに……」


「俺じゃあ、シドがどれだけの法力を流し込んでいるのか分からなかった。下手に声をかけて集中を乱して予定量よりも大量の法力を流し込んだら、ただじゃ済まん。お前を信じて待つしかなかった」


「信じてくれて、ありがとう。おかげで思っていた通りの量を流し込めたよ」


「だが、これからどうするんだ? 俺は法力を込めた鉄なんて鍛えたことはないぞ」


「大丈夫。この後も考えてる。今、型を作るからそれに溶けた鉄を流し込んでくれ」


「分かった」


俺は色付きの結界でロングソードの形状を形作った。


結界は一度形作ると俺が解除しない限りはその形状を保ってくれる。


俺はその形作った結界の表面に均一に無属性の法力を圧縮してコーティングした。


「おっちゃん。これに流し込んでくれ」


「これは何だ?」


「結界だ。俺、成人して結界師になったんだ」


「結界師?! あの不遇職のか? それも成りたての結界師だろ。大丈夫なのか?」


「成りたてだけど、大丈夫だ。この結界は絶対に壊れない。信用してくれ」


「まあ、ここまで来れば信用してやる。行くぞ!」


おっちゃんは俺が指定した位置に溶けた鉄を流し始めた。


すると、剣の形に鉄が流し込まれた。


ミオもキャサリンも「わぁぁ!」っと歓声を上げた。


だが、作業はここからだ。


「おっちゃん、俺が鉄を圧縮していくから、鉄が減ったら流し込んでくれ」


「圧縮?! 大丈夫か!」


「大丈夫。感覚は掴んでいるから問題ない」


俺はトレントで木剣をたくさん作ってきた。


その際にトレント材を法力で圧縮しつつ、トレント材の繊維の流れを法力で整えつつ整形する手法をとってきた。


重要なのは法力の流れを整え、並べていくことだ。


俺は木剣と同じ要領で鉄の形状を整えていった。


「いいだろう。おっちゃん止めてくれ」


「分かった」


俺はおっちゃんに合図を送り、鉄の流入を止めてもらった。


後はこの形状を維持するために注ぎ口を塞ぐだけだ。


俺は、鉄の注ぎ口を無属性の法力で塞いだ後、その上を結界で覆った。


「ふぅ、とりあえず、一本目はこんなもんだな。後はこのまま冷やせばいい」


俺の結界はまだ温度遮断機能がない。


だから、このまま放置すれば次第に温度が下がり、鉄は固まる。


「法力満載の鉄なんてどんな刺激で爆発するか分かったもんじゃないからヒヤヒヤしたぜ」


「はは、信用してくれって言っただろ」


「残りの量だとあと九振くらいはできるだろう。やるか!」


「やってくれるのか?」


「俺も鍛冶師の端くれだ! ここまで来たら最後の完成まで付き合ってやる!」


「ありがとう」


俺は一振目の型枠の結界を複製するように次々と型枠を増やし、追加で九振分の型枠を用意した。


俺も本日のスライム討伐でだいぶ成長したみたいで、強度は変わらないが複数の結界を作り出すことができるようになった。


結界の数は魔物の討伐数によって増えるのかもしれない。


俺たちはその後、協力して九振の剣を成形した。


鉄が少し余ったので、それはインゴットにしておっちゃんにプレゼントすることにした。


「じゃあ、また明日の朝にな!」


「ありがとう、おっちゃん」


「いい勉強になった。礼を言う。だが、自分では到底再現できないがな!」


「はは、必要があったら俺に言ってくれ」


「分かった。報酬は弾むぜ」


そう言って俺たちは家に帰った。


キャサリンは剣が気になると言って、今日もうちに泊まることに決めた。


「ミオ、成人してシドとの初めての共同作業ですわね!」


「は、初めての!!」


まあ、確かに木剣の時には俺一人で作ってたので、ミオと一緒に剣を作ったのは初めてだ。


なんだか、このキャサリンの一言でミオのスイッチが入ったようで、しばらく「お嫁さん」「結婚式」とか真っ赤になってぶつぶつとつぶやいていた。


まあ俺もミオと初めて作った剣を見るのは楽しみだ。


俺は二人と、伯父さん伯母さんに就寝の挨拶をしてから、ワクワクしつつ、寝床についた。


「おやすみ……」



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