第25話 付与術師は理不尽な現実を突きつけられる
「はぁはぁ、キャサリンさん、ご、ゴブリンの誘導、か、完了しました。およそ三十秒後に十五匹ほどの群れが到着予定です!」
(私は一体何をしているんだろうか。支部長から二人の新人冒険者の面倒を見てほしいと言われて、二人をE級ダンジョンに連れてきたのはいいけれど、今の状況はあまりに異常すぎる。ダンジョンに潜る冒険者の一番の禁じ手、「トレイン行為」。私は今、その片棒を担いでいる。私、ギルドの教官なのに……)
「お疲れ様ですわ。まもなくミオも来るでしょう……、あ! 来ましたわね」
「二人ともお待たせぇ! 三百匹は釣れたと思う」
「大漁ですわね!」
「じゃあ、私が右でキャサリンは左、八対二くらいでいいかな?」
「いいですわ。私は左の二割をいただきますわ! メイさんは私たちの後ろで、周辺警戒をお願いしますわ!」
「わ、分かりました!」
(あぁ、私、教官なのに戦力外……。付与術師なのにバフ掛けも求められないなんて……。私の仕事はゴブリンを釣ってきて、あとは周辺警戒だけ……)
「じゃあ、いっせーのーで、聖斬撃!!」
「聖爆風!!」
「―――――残り二割ってとこかな。二撃目! 聖斬撃!!」
「私ももう一撃、聖爆風!!」
「―――――残敵、ゼロ!」
(三百匹以上いたゴブリンがたった四撃で全滅?! 聖爆風は範囲攻撃法術だから分かるけど、 聖斬撃って普通、剣の間合いの二、三倍ぐらいが効果範囲でしょ?!! どうして、斬撃が波状に飛んで行って、広範囲の敵を薙ぎ払うのよ!! それに斬撃飛ばしてる剣って木剣だよねぇ?!! 何をどうしたら木剣であんなことができるのよ!!)
「お疲れ様ですわ!」
「えぇ、全然疲れてないよぉ。こんなのシドの鍛錬に比べたら準備体操にもならないよぉ」
(私は散々走らされて、もういっぱいいっぱいなのに、何そのバカげたスタミナは! これが準備体操にもならないって、普段どんな鍛錬してるのよ!)
「そうですか。私もまだまだ法力に余裕がありますので、大丈夫ですわ。早く魔石とドロップ品を集めて次を開始ですわ!」
(ま、まだやるんですか! あんな強力な法術を放っておいて余裕ですか?! このお嬢様も大概よ!)
「二人とも箒と塵取りをどうぞですわ」
「ありがとう」
「あ、ありがとうございます……」
(ま、魔石を箒と塵取りで集めるの?! まあ、魔石は直接触れると手が爛れるから、普通は皮の手袋をつけて拾うけど、討伐に関係ない箒と塵取りをいくつも入れておく余裕があるってどれだけ大容量の亜空間バッグなのよ!)
「それにしても、ダンジョンって便利よね。倒したモンスターは全部魔石になるから、死体処理に時間が取られなくて、効率よく討伐できるね」
「そうですわね。メイさんも支部長に交渉してこのゴブリンダンジョンを貸切にしてくださって、感謝いたしますわ」
「い、いえ。ゴブリンダンジョンは有用ドロップがほとんど魔石だけの不人気ダンジョンですから、交渉も簡単に済みましたので……」
「そうね。ゴブリンの牙だとか角だとか、こん棒や粗末なナイフや短弓だとか全くお金にならないよね」
「まあまあ、それもあって私たちが貸切で好き放題できるのですから、悪くはないですわ」
(いや、貸切にしたのって、あなた方を目立たないようにするためだから! こんなに魔石を納品したら嫌でも目立ってしまうじゃないの!)
「あ、あのう……、こんなに魔石があると換金に時間がかかりますので、私がギルドに持ち帰りますから、お二方は直帰してくださって結構ですよ。お金は明日の朝、ミオさんのお家に持って行きますから……」
「ありがとうございますですわ!」
「ありがとう! メイさん親切だね!」
(こんな無邪気に笑って……、逆に換金係の引き攣った笑顔が目に浮かぶわ……)
私たちはその後もくもくと魔石を箒で集め、ドロップ品を拾い集めた。
「これでよし! キャサリンの亜空間バッグやっぱり便利だねぇ」
「そうですわね。まだまだ入りますわよ!」
(何よそのバカげた容量の亜空間バッグ! 普通は高レベル冒険者が背嚢数個分の亜空間バッグを持てるかどうかなのに! まあ、公爵家ともなると使えるお金の額が違うんでしょうが……)
「じゃあ、次のゴブリンが湧くまで、暇つぶしにボスでも狩ってようか」
(なによ! ボス戦を暇つぶしって!! ダンジョンをなめてると痛い目に遭うんだからね!!)
「そうですわね。でも、ボス戦でも時間が余りそうですわ。何か良い暇つぶしはないでしょうか?」
「あ!! わ、私その時間に鍛錬をしておくよ……。こんな楽な仕事して、このまま帰ったらシドに怒られそうだから……」
(な! この子、何言ってるの?! ダンジョン探索中に鍛錬って!! ダンジョンの中で無駄に体力を削るなんて、非常識すぎる!!)
「そうですわね……。では、私も少し鍛錬にお付き合いしますわ」
(え?! え?! お、お嬢様まで?!!)
「あ、あのう……、私はその間、周辺警戒をしておきますね……」
(私まで付き合わされてはたまったもんじゃないわ!!!)
「え? 討伐後のボス部屋で鍛錬するから、別に周辺警戒いらないと思うけど…」
(そ!! そうだったぁ!! な、何か逃げ道は……)
「メイさんは遠慮なく休んでいただいて結構ですわ」
(と、年下の新人に気を遣われたぁぁ!! 教官の威厳もなんもないわぁぁ!! そんなの落ち着いて休んでられるわけないでしょぉぉ!!)
「いえ、私もちょうど筋トレをしたかったので、鍛錬にお付き合いします」
(あぁ、なんて流されやすい私……明日、筋肉痛確定よ!)
「じゃあ、さくっとボスを倒してしまおう!」
「はいですわ!」
その後、ゴブリンジェネラルを一撃で瞬殺。
ボス戦は本当にさくっと終了……。
次にゴブリンが湧くまで、延々と筋トレをさせられた。
二人の鍛錬は何をしてるのか訳がわからなかったが、とてつもない量の法力を出力していたのは分かった。
(あんなの、もう人じゃないわ!!)
その後、トレイン戦を六回繰り返させられた。
(こんな理不尽な存在たちとあと一年……、私の身は持つんだろうか……?)
帰路ではしゃぐ二人を無言で見つめつつ、振り返る。
(結局私は、心の中で激しく突っ込みを入れるだけで、一言も発することができなかった……)
「だって、こんな新人たち怖いじゃない!!」
「メイさん、何かおっしゃいました?」
「いえ、何でもありません……」
その後、ギルドに帰った私は、カレンを捕まえて酒場に直行。
盛大に愚痴をこぼしつつやけ酒をあおったそうだが、よく覚えていない。
ただ後ほど、ヘルマン人事部長に呼び出され、不用意な発言を酒場でしないよう、こってりと絞られた。
「ああ、頭と胃が痛い……」




