第22話 結界師は説得する
「だから、私よりもシドの方が強いんですって!! なんで、私がG級になれて、シドがH級なんですか!」
「だから、何度も言っている様に不遇職である結界師の職業を持つ彼をそのままG級にはできないのだ。支部長は彼が戦闘訓練に参加し、再試験を受けるならば、支部長直々に彼の実力を確認し、G級に昇格させると申されているんだ」
素材販売部の用事を済ませて第一会議室に来たら、ミオとヘルマン人事部長が口論中だった。どうやら、俺の等級についてミオが納得いかず、ヘルマン人事部長に食って掛かっているようだ。
「えっと……」
「ああ、シド、良い時に戻られましたわ。実は……」
俺が戸惑っていると、キャサリンが俺の入室に気づき、そばに来て事情を説明してくれた。
ざっとまとめると、ヘルマン人事部長は特別褒賞としてキャサリンとミオに特別新人育成制度による育成と一年後の飛び級の昇級を提示し、彼女たちは喜んでその提示を了承した。
が、そこに俺の名前が無いことに気づいて、ミオは俺の等級がH級となることを知った。
ミオは自分より俺の方が強いのに、自分が特別新人育成制度を受け、俺がパーティーから除外されH級から開始することに激怒したと言う経緯だった。
「あ、あのぉ」
「シド! 酷いのよ! シドは私よりも強いのにシドはH級から開始して、私たちは一年後には飛び級でE級に昇格できるって言うんだよ!」
「シド君、ギルドは決して君を低く評価しているわけではない。今日も君に対する褒賞を用意したし、支部長は君が訓練を受け、支部長直々の再試験を受け、合格するならG級へ昇格させると申されている」
(さて、どうしたものか……。とりあえず、ミオから話すか)
「ミオ、新人試験の模擬戦の話をしたのを覚えているか?―――」
「ひっ!!」
俺がミオに話しかけた時、ヘルマン人事部長の隣に座っている女性が悲鳴を上げた。
あの人って確か、俺が対戦した教官だったような気がする。
「あ、あのう……。ひょっとして模擬戦でお相手いただいた教官の……」
「は、は、ははははぃぃいいい。わわわ私はぎ、ギルドのきょ、教官のめ、メイ と申しますぅ!」
何か青ざめた顔で自己紹介された。相当、模擬戦時の法力操作が堪えたらしい。
悪いことをしてしまった……。
「ご丁寧なご挨拶をいただき、ありがとうございます。改めまして私はシドと申します。昨日は模擬戦にて私が迂闊に使ってしまった技でご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません」
「い、い、いいえ。わ、私が未熟だったことがげ、原因ですのでお、お気になされないでく、ください……」
「シドぉ、こんな奇麗な人になんて酷い技をかけるのよぉ。鬼畜の所業だよ」
「き、鬼畜とか、そんなことはないだろ」
「あのねぇ、シドの法力操作を耐えられる女の子なんて私くらいだよ。私は訓練して強くなりたいからどうにか耐えてるけど、普通の人は絶対無理だからね!」
「そ、そうか。重ねてお詫びいたします」
「い、いえ、恐縮です」
そう言うとメイ教官は縮こまってしまった。
(本当に悪いことをしたな……。今度何かお詫びの品を用意して持って行こう……)
俺はそう思いつつ、逸れてしまった話を本題に戻した。
「話を元に戻すぞ。ミオ、新人試験の模擬戦の話をしたのを覚えているか?」
「えっと、何だったっけ?」
「ミオ自身が言ってたじゃないか。俺の武装解除の技が地味すぎて、ひょっとしたら試験を評価してた審査官が、単に教官側の問題で俺が不戦勝したって思われたかもしれないって」
「ああ、そんなこと言ったわね」
「で、そんな評価がなされていたら、ミオがどれだけ俺が強いと言ったところで、ギルド側は納得いかないんじゃないか?」
「え? あっ、あああぁ、そ、そうかもねぇ。でもホント、何でシドは地味な勝ち方するのよ! 話がややこしくなったのは、シドのせいじゃない! 訓練とか必要ないから今すぐにでも支部長をぶっ飛ばして来たらいいのよ!」
「ミオ君、それは何でも言い過ぎではないかね。支部長はあの厄災戦の生き残りで、歴戦の猛者だ。実力、実戦経験ともに本支部最高、最強の冒険者だ」
ミオの発言が行き過ぎたと判断したヘルマン人事部長がすかさずミオをたしなめた。
だが、ミオは我関せずと言う表情で発言を続ける。
「支部長がどんな実力者か知らないけど、たぶん、実戦経験ではエル爺の方が上だと思うのよね。シドはエル爺をぶっ飛ばしちゃったんだから、きっと支部長もぶっ飛ばせるよ」
「ミオ、エル爺のことをギルドの人たちに言っても分からないよ。それに、俺はしばらくの間、H級冒険者として活動しようかと思ってる。だから、支部長の再試験もしばらくは願い出ない」
「そんな! なんで!?」
「シド、私も再試験は受けた方が良いと思いますわ。等級に差がありすぎると、一緒にパーティーを組めなくなりますわ。私、結界師のシドと一緒に冒険できなくなるのは嫌ですわ!」
俺の言葉にミオだけでなく、キャサリンも反対してきた。
キャサリンは相変わらず結界師に憧れてのことだが……。
「二人とも聞いてほしい。結界師は剣士のような常時身体強化はないし、法術師のような常時周辺警戒能力もない。だから、探索時に俺はパーティーのお荷物になる」
「そんなことないよ! 職業特性が無くても、シドは身体強化できるじゃない!」
「ああ、だが常時ではない。探索では野宿することは避けられない。起きている時は身体強化できるが、寝ている時はそうじゃない。パーティーで行動する場合は良いけれど、何かのトラブルで俺が孤立した際には眠れなくなる可能性がある。これは致命的だ」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「心配するな。俺はパーティーを組むのを諦めたわけではない。結界は俺の意識とは関係なく常時発動する。この結界の特性を生かして俺もパーティーのお荷物にならないようにできる。ただ、今は結界の能力が未発達で十分な安全が確保できない。俺はこの結界を強化する訓練をH級冒険者に留まって行いたいんだ」
「シドの言うとおり、結界は素晴らしい防御手段ですわ! ですが、訓練でしたら別にG級でも可能なのではありませんの?」
「いいや、キャサリン。俺の計画した訓練方法はH級でなければ実行できない」
「え!? そ、そんなことって……」
俺は向き直り、ヘルマン人事部長に話しかける。
「ヘルマン人事部長、ドブさらいはH級冒険者のみ受けることができるクエストですよね」
「え?! あ、ああ、H級冒険者のみというか、ドブさらいは冒険者ギルドに限らず、各種ギルドの最下級の者が受けることができる共通クエストで、これは領主から各ギルドに出されている常時クエストだ。ギルドの中で仕事が割り振られない者が出ないようにする救済措置でもある」
「シド、そんな救済措置に頼らなくてもシドなら討伐クエストで十分に食べていけるよ」
「そうだぞ。支部長も十年前に廃れてしまったホーンラビット狩りの討伐方法を君が復活させてくれたことを大きく評価している。ギルドは君にこのホーンラビット狩りを継続してもらいたいと思っている。安定した収入も得られる」
(やはり、素材販売部だけでなくギルドが俺にそれを望んでいたか……。素材販売部でのやり取りで感じたことは事実だったようだ)
「すみませんが、俺はホーンラビット狩り専門の冒険者になるつもりはありません。ホーンラビット狩りでは職業成長率が低すぎます。それでは俺は彼女たちに追いついて、一緒のパーティーに入ることはできません」
「だが、それはドブさらいでも同じではないか? むしろ、職業成長なんて望めないだろ?」
「詳しくは言えませんが、ドブさらいは結界師の初心者の訓練には最適な環境だと思います。まあ、論より証拠で今後の成果を見ていただければと思います」
「意志は固いようだな……。仕方ない、冒険者にはクエストを選ぶ権利があり、ギルドは冒険者の権利を保護しなければならない。それが君の決定であるなら、その通りやってみると良い」
「ありがとうございます。ヘルマン人事部長」
「私はまだ納得してないけど、シドが一度決めたことは絶対にやり通す性格をしてるのは小さいころから良く知ってるから、これ以上は何も言わない。でも、絶対に私たちに追いつかなきゃダメなんだからね!」
「ああ、絶対に追いついてみせるよ。ミオも探索にかまけて鍛錬をサボるなよ! サボっていると分かったら鍛錬を増やすからな!」
「わ、分かってるわよ!!」
「シド、しばらく別々の活動になり残念ですわ。でも、私もミオと一緒に自分を鍛えてシドの合流をお待ちしていますわ」
「キャサリン、ありがとう。ミオをよろしく頼むよ。ミオがサボってたら俺に報告してくれ」
「ちょ! 何よそれ!」
「ふふふ、承りましたわ」
「キャサリンも酷い!」
「メイ教官」
「ひゃ、ひゃい!」
(まだ怯えているようだ……。申し訳ない)
「メイ教官、ミオとキャサリンをよろしくお願いいたします。ミオがわがままを言う様なら俺に言ってください」
「え? え? は、はい、仰せのままに」
(俺はH級冒険者で彼女はギルドの教官で立場が上なのに、彼女の中ではすっかり俺が上位の存在になってるようだ……)
「シド、何で私ばかり監視する様に二人に頼むのよ!」
「なんかムカつくからって、試験で教官を吹っ飛ばしたのって誰だっけ?」
「そ、それは私だけど、シドだってメイ教官に酷いことしたでしょ!」
「まあ、そうだな……。それは認めるが、ミオが俺のいないところで何かをやらかすと二人に面倒をかけるからな。尻ぬぐいできる俺がいないんだから、十分に気をつけろよ」
「ふん! 私だって成長してるんだから! シドなしでも何とでもできるわよ!」
「まあ、まあ、二人とも痴話げんかはそれくらいにしてくれ」
「「痴話げんかではありません!!」」
「シド君、君には今回の試験の成果を踏まえてギルドから褒賞金が出る。この後、会計部で受け取ってくれ」
「分かりました。ヘルマン人事部長」
「シド、昨日のパーティーでの討伐報酬はいかがされますの?」
「そうだな。俺は当面何かに使うつもりはないから、パーティー資金として貯めておけばいいと思うけど、二人はどうだ?」
「私はかまいませんわ」
「私も今は何も買う予定ないから、それでいいと思う」
「じゃあ、キャサリン。報酬は亜空間バッグの中に預かっておいてくれないか?」
「いいんですの? これは探索の時に持ち歩きますから、最悪、無くしてしまうこともありますわよ?」
この話を聞いていたヘルマン人事部長が俺たちに提案する。
「シド君、その資金はギルドの銀行に預けてはどうかね? ギルドの銀行なら探索で無くすこともないし、どこかの街に行った際にもその街の支部で資金を引き出すことができる」
俺は先ほど決めた通り、ギルド銀行を利用しない方針だが、そのことを直接語ることを避けた。
「いえ、資金と言ってもまだ少額ですから。今はキャサリンに預けておきます。ミオもそれで良いか?」
「いいよぉ」
「と言うことなので、キャサリンお願いするよ」
「分かりましたわ」
お金のことも一段落したので、俺もそろそろ退出と思っていたら、ヘルマン人事部長が立ち上がった。
「メイ教官、この会議室は引き続き使っても良いので、キャサリン君とミオ君の今後の計画を立ててほしい。人事部としてもバックアップは惜しまない」
「あ、ありがとうございます!」
そう言い残すと、ヘルマン人事部長は退室して行った。
(では俺も……)
「じゃあ、俺もそろそろ行くよ。早速ドブさらいのクエストを受けてくる」
「いってらっしゃい! クエストの後はしっかりと体を洗ってから帰ってよね。臭うとうちの店の評判が悪くなるから」
「分かってるよ。臭いが残らないよう工夫するから心配するな」
「どうぞお気をつけて。またミオのご両親の店でご一緒しましょう。シドの結界師としての成果も聞かせてください。しっかりと書き取りますから」
「キャサリンはブレないな……。分かったよ」
「し、シドさん。キャサリンさんとミオさんのこと、お任せください。きっと一年後にはお二人をE級に昇格させてみせます」
(おどおどしつつも、俺に気を遣ってくれている。責任感の強い教官なんだろうな……)
「よろしくお願いいたします! 試験のこと改めてお詫びいたします。また機会を見つけてお詫びの品を持参させていただきます」
「ど、ど、どうぞお気遣いなく! ほ、本当に私の未熟さが原因だと思っていますので!」
(まあ、あまり話を長引かせてもメイ教官の負担になるか……)
俺はそう思って立ち上がった。
「じゃあ行ってきます!」
「「「行ってらっしゃい(ませ)(ですわ)」」」
(必ず追いついてみせる!)
そう決意しつつ、俺は三人の見送りを受けて会議室を後にした。
【作者コメント】
第22話までお付き合い下さり、誠にありがとうございます。今話までで序盤の基礎固めが終わり、次話からはいよいよシドたちの活躍が始まります。どうぞ、これからもよろしくお付き合いください。皆様の応援も頂けますと幸いです。また、ご感想などもお寄せ頂けますと今後の励みになります。シドたちの活躍をご期待ください。
また、同じ内容で、カクヨムにて裏設定などのうんちく付きの話が掲載されています。ご興味のある方はぜひカクヨムにもご訪問ください。
https://kakuyomu.jp/works/16817330649483736017




