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第20話 結界師は不正を目の当たりにする

「お父さん、お母さんじゃあ行ってくるね」


「リカルド様、シエル様、お世話になりましたわ。食事もとても美味しかったですわ。これから長いお付き合いとなるかと思いますので、日を改めまして父と共にご挨拶とお礼にまいりますわ」


「水臭い、お礼なんて気にすんな。キャサリンちゃんはミオとシドと命を預け合うパーティーメンバーなんだからうちの家族も同然だ。遠慮せずいつでも泊まりに来てくれ」


「そうね、キャサリンちゃんはもう家族の一員よ。だから、気を付けて行ってらっしゃい。キャサリンちゃんの帰りを私たちはいつも待ってるわ」


「リカルド様、シエル様、あ、ありがとうございますわ……。こんな時、なんて言葉を返せばよろしいのか分かりませんわ……」


「ハハ! そんなのただ『行ってきます!』で構わないんだよ!家族なんだから」


「はい、じゃあ行ってきますわ」


「おお、気を付けて行ってきな」


「ミオ、忘れ物は無い? シドちゃん、ミオをよろしくね」


「だから、もう子供じゃないんだって! それに何で私だけ忘れ物がないか聞くのよ!」


「それは、ミオがいつも学校に行くときに忘れ物をするからだろ」


「う! うるさい! 私も成長してるんだから、大丈夫よ!」


「ミオ、昨日ギルドからもらった獲物の預かり票は持ったか? あれがないと今日、換金できないぞ」


「そんなの持ってる………な、ない……。急いで取ってくる!」


「言ったそばから忘れ物してるじゃないか……」


出発時、そんなやりとりがあった後、俺たちはギルド支部へと出発した。


「キャサリン、昨日はあんまり何も考えずにお泊りを勧めちゃったけど、お家の方に連絡とかしなくて大丈夫?」


「ええ、大丈夫ですわ。昨日、西門に家の者が私を迎えに来ておりましたが、ミオのお家に宿泊することを父に伝言するよう申し付けましたから、問題ありませんわ」


「そうだったんだ。使用人の人?」


「ええ、昔から我が家に仕えてくれているメイドで、名前はマリーカですわ」


「また紹介してよ」


「ええ、よろこんで」


「見えてきたぞ。ギルド支部だ」


冒険者ギルド支部はこの街で二番目に大きな建物で、街の政庁の隣に建物がある。 建物の大部分は倉庫スペースと訓練場だが、非常時には街の住民の避難場所となるよう設計されている。


「改めてギルド支部に来るとなんか緊張するね。今日から毎日ここに通うんだね」


「ええ、これからはここが私たちの職場ですわ」


「入口近くで立ってると邪魔になる。さっさと入るぞ」


「シドは情緒ってものがないの? 情緒ってものが」


「俺は何度も資料室に通ってたから、見慣れた風景で何にも感じないよ」


「もう!」


そんなやり取りをしつつ、俺たちは会計部の換金受付の方へ歩いて行った。


まだ朝も早いため、換金受付は空いていて、並ばずに受付に声をかけることができた。


対応してくれたのはギルドの受付では珍しく男性職員だった。


「いらっしゃいませ。こちらは換金受付となりますがよろしいでしょうか?」


「はい、昨日、ギルドの新人試験で討伐した獲物の換金をお願いしに来ました」


「そうでしたか、では獲物の預かり票をご提示いただけますか?」


俺たちは預かり票を受付に提出したが、預かり票を見た一瞬、その男性職員は驚いたような表情を見せた。


「し、少々お待ちください。上司へ連絡してまいります」


そう言うと、その男性職員はカウンター奥の席に座る上司のところへ速足で歩いて行った。


「なんだ? 何かトラブルかな?」


「おかしいですわね……」


そうこうしている間に奥から上司と思われる初老の男性職員が出てきた。


「はじめまして、私は当ギルド支部で人事部長をしているヘルマンです。改めて、新人試験の新記録達成、おめでとう。今回の新記録達成の結果を受けて、当ギルド支部は君たちに特別褒賞を用意したので、その件について奥の会議室で話しをしたいと思っているのだが、良いだろうか?」


俺はなぜ特別褒賞の件で人事部長が出てくるのかと思ったが、ペナルティではなく褒賞と言うことなので、トラブルではないだろうと判断した。


「いいですよ。じゃあミオ、キャサリン行こうか」


「君はシド君だね。実は君には別件で時間を割いてもらいたいんだ。君の仕留めたホーンラビットとグラスウルフのリーダー個体はあまりに状態が良いので、納品先の業者で取り合いになっててね。業者の選定によっては昨日決まったギルドの基本買取価格に上乗せして支払える状態なんだ」


どうやら、昨日の獲物は予想以上の需要があったようだ。


「鮮度の問題もあるので、早急に君とも相談して納品先を決めたいと素材販売部長が言っててね、先ずはそちらに行って話し合ってきてくれないか?」


「分かりました。じゃあ特別褒賞の件は……」


「大丈夫。先ずはミオ君とキャサリン君にその件で話をしておくので、シド君はそちらが終わり次第、来てくれればいい。第一会議室にいるから」


「そうですか。じゃあミオ、キャサリン行ってくるよ」


「了解。ごゆっくり~」


「僕が案内します。どうぞシド君……」


「ありがとうございます」


俺は先ほどの受付の男性職員に案内され素材販売部の事務室へと向かった。



「――――ですから、今回の獲物はあまりに状態が良く、業者さんによっては四倍の金額を支払うと言われているところもあり、依頼を受けた順番は重視しますが、もう少し高めの買取価格を提示して頂きたく……」


「そんなこと言って、ギルドは値段を吊り上げて私たちに価格競争をさせようとしてるんじゃないのか?!」


「そんなことはありません。ギルドは良い素材を納めた冒険者に正当な対価を払いたいと思っているだけです」


「だから、五割増しの値段をつけてるじゃないか。うちはマナエル奪還直後に依頼を出して八年だぞ! うちは八年も納品を待っていたんだぞ!」


「了解しておりますが、厄災戦直前の十年前から待っておられる業者さんもおられます。それに、バルター商会様と同じ年数待っている業者さんでさらに高い価格を提示されている業者さんもあります」


「副支部長からはうちに便宜を図るよう部下に指示したと聞いているぞ。その指示に逆らうと言うのか?」


「副支部長からの指示があったので、あなたと直接話し合いをしましたが、便宜を図るとは約束していません。そもそも、それじゃあ公平性に欠けて他の業者さんから訴えられます」


「ふん、他の業者には嘘の価格を提示して、うちが高額で買い取ったことにしておけばいいじゃないか」


「そんなことできるわけないでしょ!!!――――」


なんだか、ちょうどもめている所に来てしまったようだ。


話の内容から俺の納めた獲物についての話のようだ。


あんなあからさまな不正をギルド職員に強要する業者がいるのに俺は驚いた。


どうやら、この支部の副支部長は問題がある人らしい。


「素材販売部長、お連れしました」


「え? ああ、納品した冒険者の子か。バルターさん、とりあえず今は控室でお待ちください。結論を出してお知らせしますから」


「なんだと?………君、ひょっとしてホーンラビットを納めた冒険者か?」


「え?」


「バルターさん! 冒険者との直接交渉は禁止されています。今すぐ控室に行って待機していてください!」


「いいじゃないかちょっとくらい。君、我がバルター商会は八年も納品を待っていたんだ。ホーンラビットの買い取りはうちの商会で ―――」


「バルターさん! 今すぐ控室に行ってください! いくら副支部長の口利きでも規約違反は困ります!」


「こんな時のために副支部長と懇意にしているんじゃないか。君、うちの商会で ―――」


「バルターさんを控室にお連れしてくれ!」


「はい、部長! さあ、バルターさん控室にどうぞ」


「な、何をする! 副支部長に言いつけるぞ!」


その後、バルター商会の代表と思われるバルターという初老の男は、俺を案内してくれた男性職員によって控室に連れていかれた。


連れていかれる間、彼は終始叫んでいたが、あんな男が商業ギルドの許可を得て商会の代表をできていることが正直、俺には信じられなかった。


「来て早々騒動に巻き込んですまなかった。君の名前は……シド君だったな。オレの名前はジャンだ。素材販売部長をやってる。よろしくな」


「はい、シドと申します。よろしくお願いいたします。先ほどの件はいい社会勉強になったと思っています。気にしないでください」


「とんだ社会勉強だが、まあ、世の中あんな連中は掃いて捨てるほどいる。あまり気にするな。疲れるだけだ」


「そうします」


「さて、本題だ。君の納品したグラスウルフのリーダー個体と子供のホーンラビットだが、複数の業者さんで取り合いになっている。グラスウルフのリーダー個体の方は三つの毛皮加工業者が手を挙げているが、これはさほど競争は激しくない。問題は子供のホーンラビットの方だ。十二の業者さんが買い取りを希望していて、十年納品を待ってる業者さんも複数いる」


「十年前というと、厄災戦の直前、規約の改定で非戦闘職冒険者が討伐クエストを受注できなくなった頃ですね」


「よく勉強してるな。そうだ、以前は非戦闘職でも冒険者になれて、多くの冒険者がホーンラビットの討伐クエストを受注していた。だが、厄災戦の直前、スタンピードの予兆が強くなり、非戦闘職の領民を避難させなくてはならなくなった。その際に、ギルドの非戦闘職の冒険者が一斉登録解除になったんだ」


「俺はギルドの資料室でその件を知りました。そして、非戦闘職の冒険者の方が書き残したと思える文献で、今回使用した討伐方法を知りました」


「そんな文献が残ってたのか……。ありがたいことだが、残念なことに今じゃあ君がその討伐方法のただ一人の後継者だ。新人の多くはホーンラビット狩りは早々に終えて次の難易度のクエストに挑戦する連中ばかりだからな」


「そうですね。ホーンラビットでは職業成長率という面で低いですからね……」


「そう言うことだ。すまない、話が逸れたな。で、どの業者に納品するか君の意見が聞きたい。本来なら、うちの部で決めることなんだが、珍しくヴァン支部長から業者選定に君の意見を取り入れるようにと指示があってね。それで来てもらったんだ。ヴァン支部長も何でこんな指示を出したのか……」


「そうでしたか……。たぶんですが、俺にこの討伐方法を受け継いで続けて納品する意志があるかどうかを知りたかったのではないでしょうか?」


「どういうことだ?」


「俺は不遇職の結界師で、冒険者としてはG級になれるかどうかギリギリの所なんです。でも、支部長は俺がG級になってこの討伐方法でホーンラビット狩りをすることを望んでて、その意志を持っているかどうか知りたかったんじゃないでしょうか?」


「不遇職……それは災難だな……。だが、確かにこの討伐方法なら比較的安全に狩りができる。なんせ昔は非戦闘職の冒険者がこの方法で狩りをしてたからな。で、どうなんだ? 君は受け継いでくれるのか?」


「すみません、今のところそのつもりはありません。俺一人のことならそれも良いのですが、俺がこの選択肢を取ると、俺の周りの子たちを巻き込むことになると思うんです。俺の従妹とその友人ですが、彼女たちは聖剣士と聖法術師でパーティーを組んでるんです」


「そりゃすごいな! 出世も早そうだ」


「ええ、だから俺は彼女たちの足を引っ張りたくないんです。今回の討伐では帰路にグラスウルフの群れに襲われました。多分、俺が一人で討伐に行くと言えば反対して、自分たちも一緒に行くと言うと思うんです」


「じゃあ、君が他の冒険者とパーティーを組むか、護衛を雇ったらどうだ?」


「多分、それも彼女たちは猛反対すると思います」


「それじゃあ、君はG級になってもホーンラビットのクエストは受けないつもりなのか?」


「心苦しいのですが、そうなります」


「そうか……ギルドとしては残念だが、自由な選択ができるのも冒険者の特権だ。君の思うままにすればいい」


「すみません」


「謝ることじゃない、気にすんな。じゃあ、今回の納品先は……」


「ええ、十年待っている業者さんには悪いですが、現状では継続した納品ができないですから、最高価格を提示している業者さんに卸してください」


「了解した」


「バルター商会と副支部長の件、ご負担をおかけします」


「いつものことさ。あの業者は転売屋でな。いろんなクエストを発注してるが普通品質の品物を納品すると必ず何だかんだと文句をつけてクエスト完了を認めない。高品質の品物が納品された時だけ買い取って、それを他の業者に高額で転売して利鞘を儲けてるのさ」


「そんなことが許されるんですか?!」


「ああ、あのバルター商会はギルド本部から研修でやってくる『副支部長ポスト』の幹部候補のお抱え商会でな。幹部候補が交代する度に先代から次代へ申し送りがあって、常に副支部長の口利きを受けているのさ。当然のことながら商会が得た利鞘から副支部長にキックバックがある」


「そんなこと新人冒険者に教えていいんですか?」


「いいさ、ベテラン冒険者はみな知ってることだ」


「それに、この程度かわいいもんさ。ギルド本部の幹部たちともなると、ギルドの銀行の資金を堂々と不正利用しているってもっぱらの噂だ」


「そうですか、あまり聞いて気分の良い話じゃないですね」


「ああ、俺もそう思う。でも、今回は支部長の指示があるから、君の意向に沿って納品できる。バルターや副支部長の懐に金が入ることはない。この後は文句たらたらだろうが、悔しがるバルターを見て少し留飲を下げることができるよ。ありがとう」


「お礼を言われるようなことじゃないですよ」


「それもそうか。じゃあ、今日のところは昨日聞いた金額を受け取ってくれ。後日、業者さんから入金が済んだら追加で支払うから。それと、グラスウルフの方も最高値の業者さんでいいか?」


「はい、よろしくお願いします」


「わかった、話は以上だ。さて、バルターの悔しがる顔を見に行くかな……」


そう言ってジャン部長は控室の方へ歩いて行った。


俺は冒険者ギルドの中にも不正を働いている連中がいて、半ば公然とそれが成されていることを知った。


大きな組織だから、不正が全くないなんてことはあり得ないことだが、トップの人間が公然と不正を働き、それを正せない状態であることを危惧した。


「とりあえず、ギルド銀行を利用するのは止めよう」


俺は自分の稼いだお金が不正利用されると思うと、ギルド銀行を利用する気になれなかった。


ミオとキャサリンはこれからあっという間に出世していくだろう。


だから、そう言った連中の悪行に巻き込まれないか少し心配になった。


「俺のできることは、ミオの実力を上げてやることくらいかな……。明日からの鍛錬、倍にしようか……」


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「っ!!! 」


「どうしましたのミオ?」


「な、なんかゾクゾクする!」


「風邪でもひきましたの?」


「ううん、そういうのじゃない気がする………」


「この後、ギルドホールに暖かい飲み物でも飲みに行きましょうか」


「うん、そうする……」



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