第19話 結界師は知りたくなかった可能性に気付いた
「と、トレーニングゥ?!」
「ああ、毎朝の日課で俺とミオは無属性の法力を操作する鍛錬をしているのさ」
「え?! あ、あれがですか?」
「『あれがですか?』って?」
「い、いえ、私は決して覗き見なんてしておりませんのよ……ほほほ」
「いや、別に俺たちは見られても全然かまわないんだが……」
「シドちゃん、このお年頃の乙女はとっても想像豊かなのよ。きっとキャサリンちゃんはシドちゃんとミオちゃんがエッ(わー!わー!わー!わ、私このポトフとても気に入りましたわ~。シエルさん~)ふふふ、ありがとう」
「『エッ』って何?」
「それはね、シドちゃんがミオちゃんの(お、お母さんは店の準備があるでしょ! ここは私たちで片付けるから、お父さんを手伝ってあげて!)ふふふ、お母さんもお父さんも早く孫の顔が見たいと思ってるからね~」
「鍛錬と孫と何の関係があるんだ?」
「シド、あんまり鈍いと嫌われるよ。この鍛錬を始めたころ、お父さんとお母さんに勘違いされたことがあったでしょ?」
「え? あ! ああ、そう言うことか! ははは、あの時は何か豪勢な食事が用意されてて『お祝い』だとか言われたっけ。まさかキャサリンが隣の部屋で寝てるのに俺とミオがエッ、ぐは!(そういうところが鈍いって言ってんのよ!)飯食ってるときにボディブローはやめろ! ミオ」
「シドが悪いんでしょ! それに、そういう言い方をすると私が勘違いしちゃうじゃない。キャサリンが隣の部屋で寝てなきゃシドは私とエッ(ミオ! わ、分かりましたわ。もういいですわ。これ以上は……)え? あ? わ、私なんてこと……」
「キャサリン、説明するより鍛錬の内容をそのまま見てもらった方が分かりやすいのでこれを見てくれ」
「え? シドの座ってる椅子を見ればよろしいかしら? あれ? シドの椅子がありませんわ。あ! 聞いたことがありますわ。筋力トレーニングで空気椅子という訓練があるそうですわね。椅子があるように腰と膝をまげて立っているということですわね。すごく安定して立っていますわね。さすがシドですわ」
「ちがう、ちがう。これは空気椅子じゃなくて、無属性の法力の塊に座っているんだ」
「ほ、法力にですか?! 法力って座れますの?」
「ああ、無属性の法力を高圧縮すると座れるんだ。結構な硬さがあるんだぞ。座ってみるか?」
「良いんですの?」
「いいぞ、透明だから手を置いて位置を確かめて座れよ」
「はい、分かりましたわ………な、なんだか不思議な感覚ですわ……」
「な? 普通に座れるだろ?」
「そうですわね。で、これが鍛錬ですの?」
「キャサリン、無属性の法力って職業特性で使う属性有りの法力と違って全部自分で操作しないといけないのよ。そして、無属性に限らず体外に出した法力は常に拡散して減っていくのよ」
「ミオ、それって……」
「そう、キャサリンが座ってる無属性の法力は常に減り続けているけど、座ってる高さは変わらないでしょ? それは、減った分だけシドが法力を注入してるからなんだよ」
「え? じゃあシドは常時法力の操作をしながら私たちと食事をしたり、会話をしたりしてたんですか?」
「そう、それも超精密な操作でね。法力の減る量と注入する量を同じにするってとても難しいのよ。大抵は注入しすぎるか、少ないかのどちらかになって、波立っちゃうのよ」
「え?! じゃあ、今私が全く揺れを感じないというのは、す、すごいことですわね!!」
「そう、法力はコップに入った水みたいで、一度波立つとこぼれる量が増えたり減ったりしてさらに操作が難しいの。だから、一旦揺れ出すともう操作が追い付かなくなって頭が沸騰しちゃうし、余分な法力を使ってあっという間に法力切れして失神しちゃうんだよ」
「じ、じゃあミオが上下に揺れて、最後は倒れてしまったのも……」
「やっぱり見てたんだ……」
「え?! あ! あ! は……はい、ごめんなさいですわ……」
「まあまあミオ、キャサリンに見られても問題ないだろ」
「そ、そうだけど……やっぱりなんか恥ずかしくって……。シドだけなら見られても……ごにょごにょ」
「ほ、ほんとにごめんなさいですわ……。そ、それで、この法力の塊ですが、これだけ固く法力を圧縮しているということは、操作をミスしたり、気を失ったりすると一気に法力が拡散して爆発してしまうってことはありませんの?」
「あるよ」
「え!!<ガタッ!>」
「ああ、大丈夫、大丈夫。今は俺が操作してるし、それにほら!」
「え?」
「さっき座っていた位置をさわってごらん」
「な、無いですわ。さっきまでの塊が無くなってますわ」
「それはシドが法力を抜き取ったからだよ。昨日、キャサリンも経験したでしょ?」
「あ! そうでしたわね。昨日は驚かされましたわ」
「それに、シドは逆に注入することもできるんだよ」
「注入ですか? それって法力切れした人に外部から法力を注入して回復させることができるってことですか?!」
「そう、シドはそれができるの。そうじゃないと、鍛錬で法力切れした私は今、平然と食事ができてないと思うよ」
「そう言えば……ミオが倒れた後、シドが『今、注いでやるから待ってろ』って言われて、その後ミオは『シドの熱いのが入ってく』(わー!わー! わー! そ、それは、それは、それは…… )す、すみませんですわ。少々デリカシーに欠けたことを言いましたわ」
「ミオ、すまなかった。俺は鍛錬だと思って、あまりミオがどう感じてるかとか考えないで法力を注入してた」
「え?! い、いや、そ、そうじゃなくて……シドの注いでくれる法力はむしろきもちよくて…………ごにょごにょ」
「シド、ミオに法力を注入したってことはシドの法力は大丈夫ですの? 今日はこれから冒険者ギルドに参りますのよ。さっき塊から吸収した法力で十分ですの? 見たところ平気そうですが、法力に余裕がないと危ないですわよ」
「ああ、それは大丈夫。補充できるから」
「補充って、法力ポーションでもお持ちですか? あれはいざという時に……」
「いや、法力ポーションじゃないよ。あれを見てくれ」
「どれでしょうか? え?! 何ですのあれ? 椅子の上に……植木鉢が浮いてますわ!!」
「ああ、あれは俺のスキルで作った結界だよ。正確に言うと俺の無属性の法力の塊を結界で覆ったものだ」
「結界ですか? 結界も無属性の法力も透明ですから全く見えませんでしたわ。でも、いつあんなものを作られましたの?」
「あれは昨日の晩に作っておいたんだ。昨日の帰り道にいろいろ結界の性能を試してみたんだけど、結界と無属性の法力は相性がいいみたいで、無属性の法力を結界で覆うと法力の減少が止まって、なおかつ無属性の法力を絶えず操作し続けなくても圧縮された状態で維持できたんだ」
「シド、それってずるい! 私はあんなに苦労して操作してるのに!」
「別に法力操作の訓練の時に結界を使ってるわけじゃないからいいだろ!」
「じゃあ、あの結界はシドの法力を貯めておくことのできる保管庫みたいなものですの?!」
「そういうこと。法力ポーションみたいにお金もかからないし、お腹もタポタポにならないから良いだろ」
「画期的だと思いますわ! こんな結界の使い方、オスカー様の物語でも出てきませんでしたわ!」
「シド、もしかしてだけど……シドが結界師になったのって法力の鍛錬と関係があるんじゃない? いえば、無属性の法力も結界と同じみたいじゃない」
「え?…………………………あ、あああああああああああああああああああ!」
「素晴らしいですわ! シドと同じ鍛錬をすれば結界師になれるんなら、将来、私の子供にも同じ鍛錬をさせますわ!」
「世の中、気付かなかった方が幸せなことってあるよねぇ………」




