第15話 二人の付与術師は新人試験を振り返る
「ふむ、精神安定の術式が効いたみたいじゃな。もう恐怖心や、体の違和感などはないかの?」
「はい、穏やかな気持ちになり、楽になりました。診察ありがとうございました。ダイゴさん」
「お大事にな、メイ君。また恐怖心が大きくなったらいつでも来るといい」
「わかりました。ありがとうございます」
私は新人冒険者の試験で精神にダメージを受け、精神治療師のダイゴさんの診療所で診察を受けた。
このダイゴさんはこの国でも珍しい精神を治療できる治療師で、冒険者ギルドの認定治療師として、冒険者たちや私たちギルド職員のメンタルケアを行ってくださっている。
私は今日、ある新人冒険者との模擬戦闘時に突然身体の制御ができなくなり、恐怖のあまり試験中に発狂してしまったのだ。
精神はどうにか落ち着いたが、あの経験はもう思い起こしたくない。
しかし、あの経験を振り返って、何が原因でああなったのかを知らなくては、私は自分の付与術に自信が持てなくなるとも感じている。
私はそう思いつつダイゴさんの治療院を出た。
「メイ、終わった?」
「カレン、迎えに来てくれたんだ。ありがとう。待った?」
「大丈夫、私もアマンダさんの治療院で診察を受けて来たところだから、そんなに待ってないよ」
「そう、それなら良かった」
「それで、治療を受けてどうだった?」
「精神安定の術式をかけてもらったので、落ち着いたよ」
「良かった。心配しちゃったよホント。私が気絶させられてる最中にメイが発狂したって聞かされた時には……」
「ははは、お互いに今回の新人試験は大変だったねぇ」
「そうね。でも、私は何が何だか分からないうちに気絶させられちゃって、気付いた時には治療班のテントで寝かされてただけだから、メイほどじゃなかったよ」
「………それにしてもカレンの相手の子、強かったね。あの身のこなし、ただものじゃなかったよ。対人戦のエキスパートじゃないかな?」
私はギルド支部に帰る道すがら、カレンと新人試験について振り返ることでどうにか私の中にある恐怖心を克服したいと思った。
だけど、どうしても直接私からあの経験を語り出すことに躊躇してしまい、カレンの模擬戦闘の話を出すことで間接的にあの新人試験について振り返って、何か救いとなる言葉をカレンから引き出せないかと願ってしまった。
「そうそう、さっきアマンダさんが、私の相手の子はたぶん宮廷関係者で、王家に伝わる暗殺術の使い手じゃないかって言ってた」
「なにそれ?! 王族って暗殺術なんて使えるの?! どうして!?」
「アマンダさん曰く、王族は暗殺術を学ぶことで暗殺者の思考を読んで、暗殺者から自分の身を守るそうだよ」
「そ、そうなんだ。王族って大変だね。でもアマンダさん、カレンを診ただけでよくそこまで分かったね」
「素手で体術を使って戦う職業は拳闘士だけど、拳闘士には絞め技のスキルが無いんだって。絞め技は暗殺者の技なんだけど、特に相手を殺さず絞めて気絶させる技は暗殺者じゃなくて、王族の使う暗殺術独特のものなんだって」
「へぇ~、じゃああの子は王族関係者なんだ」
「メイ! これ以上の詮索はダメなんだからね」
「分かってるわよ、カレン。私たちギルド職員は冒険者を平等に扱わないといけないからね」
さすが治療師として経験豊富なアマンダさんだ。
彼女はカレンを診ただけでこれだけのことを語ってくれたのだ。
どうにか、私のことについても何か解決のヒントになる言葉を聞かせてくれないだろうかと思っていたら―――。
「そうそう、メイが戦った相手のことも少しアマンダさんから聞いてきたよ」
「え? そうなの?」
正にこれは私が望んでいた言葉だったが、私はカレンの話を聞きたいと思う反面、またあの恐怖体験を思い起こすことを恐れた。
でも、一歩勇気を出して聞かないと、私は付与術師として、ギルドの教官としてこれから自信をもって仕事ができないと思った。
「教えてくれる? カレン」
「大丈夫? メイ 。無理に聞かなくても良いんだよ?」
「無理してないって言うと嘘になっちゃうけど、今聞いとかないと私は付与術師として、ギルドの教官としてやっていけない気がするんだ。だから教えて」
「分かった。でも、アマンダさんはメイの相手が何をしたかまでははっきり分からないって言ってたけどそれでもいい?」
「いい、少しでもヒントになるなら聞きたい」
「メイは先代の剣聖のエルンスト・ハイドル様は知ってるよね?」
「ええ、有名な方だから」
「そのエルンスト様の剣技で無属性の法力を斬撃に乗せて、身体強化中の相手にぶつけて、身体強化の術式を誤作動させる技があるんだって。その技を受けた人は攻撃をずらされたり、立てなくなったりするんだって。メイの戦った相手の子、もしかすると同じような技が使えるのかもしれないってアマンダさんが言ってたわ」
「そ! そんな技があるの?!」
そうだ、確かに私が身体で感じた感覚はそんな感じだ。
でも、精神面の異常な恐怖とは違うような気がする。
「カレン、アマンダさんは精神面のことは何か言ってなかった?」
「いいえ、それ以上は何も。参考にならなかった?」
「いえ、何も知らないよりは良かった。精神的な病気が原因で身体が動かなくなったという可能性が低くなって少し安心した」
「そう、良かった」
「ありがとう、気を遣ってくれて」
「水臭いよ。私たち同じ付与術師仲間じゃん。メイが苦しい時はいつでも助けるから一緒に頑張ろ」
「うん、私もカレンが困ったときは助けるね」
「それにしても、今年はすごい新人が入った年だね。私たちもうかうかしてられないね」
「そうだね」
ダイゴさんの治療を受けただけでなく、カレンと話せて良かった。 少し前向きな気持ちで再出発できそうだ。
そう思っていると後ろから野太い声がした。
「おお、カレンとメイではないか! 」
「げ! ゴーリキー先輩」
「カレン、『げ!』はないのである『げ!』は」
「だって先輩、顔を見かければすぐに特訓に引きずり込もうとするんですから!」
「当然である。筋肉は一日休むと元に戻すのに二日かかるのである。気を抜くと筋肉が贅肉になるのである」
「なりませんよ! 私、最近ムキムキになってきて、若い男性職員からは『男の様なガタイで女を感じない』とか言われてるんですよ! これ以上ムキムキになったらお嫁に行けません!」
「そんな筋肉美の分からない連中など無視すれば良いのである。真の美しさを理解できる優れた価値観の男を見つけるのである」
「そんな価値観を持った男なんてゴーリキー先輩ぐらいですよ!」
「フフフ、あははははは!」
「な、何よメイ! 笑うなんてひどいよ!」
「メイ、今日はなにやら肩を落として歩いているようだな。メイもカレンと一緒に筋肉美を追求すれば、悩みなど吹き飛んでしまうのである」
(ゴーリキー先輩って意外と人のこと見てるのね。 でも、このまま筋トレに付き合うのは勘弁願いたいな⋯⋯)
「あ! 私、診療費を公費で落としてもらわなくっちゃ。私、行くねカレン」
「ちょ! それ私も!」
「さあ、訓練に行くのである」
「せ、先輩離して~! ひどいよ置いてかないでよメイィィ!」
なんだか日常の風景がまた私を励まして前向きな気持ちにさせてくれた。
私も早く結婚して安住の地を得たいな。 誰かいい人いないかなぁ。




