第13話 受付嬢は偏見と戦う
「納得いきません。受験番号88番の彼は討伐任務を立派にこなすだけの実力を示しました。彼をG級冒険者として認めるべきです!」
私はある新人冒険者のG級冒険者認定について今、議論をしている。
この新人冒険者はいわゆる不遇職と呼ばれる職業で、従来なら討伐クエストを受注できるG級冒険者には認定されない。
しかし、本日持たれた新人冒険者試験で彼はなんとパーティー納品数において、ホーンラビット六十七羽、グラスウルフのリーダー個体一匹を納品し、冒険者ギルド新人試験の新記録、買取価格銀貨百七十枚を達成したのだ。
「彼が所属していたパーティーには聖剣士と聖法術師がいたと報告にあります。そのおこぼれに与っただけとは考えられませんか?」
「ヘルマン人事部長、それはありません。そのパーティーに付き添ったD級冒険者の証言で、今回の討伐では、彼がパーティーリーダーとして作戦を考え、二人に指示を出し、この季節にしか討伐できない高級食材である子供ホーンラビットを狙った狩りを行ったとあります」
「新人冒険者でそれほどの見識があるというのも、信じられないのだが、実際は付き添いのD級冒険者がアドバイスした可能性は無いのですか?」
「いいえ、私も彼と言葉を交わし、評価を付けていましたが、観察力、対応力に非常に優れた才があるように感じました。 また彼は、得物としてホーンラビット狩り専用の槍を選び、現在では失われた方法で、子供のホーンラビットを巣穴からおびき出し、全ての子供のホーンラビットを槍で仕留めたと報告されています」
「だが、結界師ではG級冒険者として戦闘力と言う面で不安があると思いますが⋯⋯」
「その点も心配ありません。彼らが帰路で遭遇したグラスウルフとの戦いで、彼は先輩のD級冒険者に代わりリーダーを務め、十匹の内、五匹を自分に引き付け、D級冒険者を含む他の三人が五匹のグラスウルフを討伐するまで時間を稼いだばかりか、グラスウルフのリーダー個体をホーンラビット狩り専用の槍で仕留めたとあります。指揮能力、戦闘力双方で問題ありません」
「付き添いのD級冒険者は戦闘状態だったので、事実誤認があったのではないでしょうか? 槍士でもない不遇職の結界師が槍でグラスウルフを仕留めたなどと信じられません」
「解体班からの報告では彼の使った槍は返しの無い細身の槍で、子供のホーンラビット及びグラスウルフのリーダー個体の刺し傷は全て一突きで急所を貫かれていたとあります。なぜ槍が使えたかは不明ですが、彼が槍で仕留めたのは確実です」
私がこれほどまでに説明しても、なおもヘルマン人事部長は納得していない様子だ。
これほどの実績を前にしてなお、職業名だけで判断される現実に、私は歯噛みした。
今回の彼の功績は明らかだ。
最近のホーンラビット狩りは、剣士職の場合、大盾で突進を止め、スキルで仕留めるというスタイルが主流となっており、どうしても獲物の損傷具合が激しく、満額での買い取りは少ないと聞いている。
まして、毎年の新人試験では、スキルの使用に慣れていない新人が一撃ではホーンラビットを仕留められず、何度も切り付けて、通常では買取を拒否する素材が持ち込まれる。
しかし毎年の恒例として、新人たちの初討伐のご祝儀として、持ち込まれる素材は全てギルドが赤字を出す形で買取を行っている。
そんな中、彼は全ての買い取り素材が最高品質かつ、滞っていた高級レストランからの塩漬け依頼を一気に解消するという快挙を成し遂げたのである。
現在、納品班がレストランや食品業者へ納品交渉に回っているが、おそらく、あの品質の品となれば、価格の上乗せが期待できるだろう。
そして、その後も継続依頼、それも報酬を上乗せした依頼が殺到することだろう。
子供のホーンラビットが狩れる時期は短く、あと数週間もすると肉質は固くなり納品は困難となるはずだ。
今なのだ、今がその時だと言うのに――――
「シルビア嬢、現在のギルドの方針では戦闘に不向きな結界師のG級冒険者認定はしていません。それを、上層部に調整することなく当支部が認めたとなれば、何かあった際に我々の責任問題となります」
やはりヘルマン人事部長の本音はそこにあった。
彼は責任問題になるのを恐れているのだ。
「ヘルマン人事部長、おっしゃることは分かりますが、問題とすべきは冒険者の職業ではなく、その戦闘力であるのではないですか? ギルド規約では結界師をG級冒険者にしてはいけないという規約はありません。不遇職でも結界師は戦闘職です」
「結界師では戦闘職として将来性が見込めないのではないですか?」
「職業的に将来性が無くても、ふさわしい戦闘力があればG級冒険者とするのに何の問題もないはずです。それに彼は現に実績を示し、魔物を討伐し、最高品質の素材を納品しているのです」
「たった一日の実績では、前例の無い結界師をG級にする判断材料としては乏しいと思いますが」
「私が調べたところ、子供のホーンラビットの塩漬け依頼の最も古いものは厄災戦直前の十年前に受注したものでした。十年ですよ! 十年も納品されていなかった素材を彼は最高品質で四十七羽も納品したんですよ! その実績を認めず、前例がないと言うだけでG級認定をしないなんてどう考えてもおかしいです!」
「シルビア君、いい加減にしたまえ――」
議論が平行線になっている所に、ある意味、最悪の人物から声がかかる。
声の主は私と同じ、冒険者ギルド本部から研修として派遣されているサイロス副支部長だった。




