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第11話 結界師は帰るまでが冒険であると実感する

「フィーネさん、囲まれてませんか?!」


「そうね、たぶんグラスウルフだと思う。十匹くらいかな……ちょっと血を流しすぎたね……」


俺たちは丘陵地帯で狩りを終え、低地の草原地帯を本部へ走って戻っているところを、グラスウルフと思われる魔物に並走され、囲まれてしまっている。


どう考えても本部までの間で襲われるタイミングである。


俺は意を決して草原の中で少し開けた戦いやすい場所を見つけ、迎撃することにした。


「フィーネさん、このままでは本部までは持たないと思います。あの少し開けた場所で迎え撃ちましょう。ミオもキャサリンもいいかい?」


「「「了解ですわ!」」」


俺たちは視界の開けた場所の中央に陣取り、それぞれ背中を預け合うように四方向に向かって立った。


「おそらく、全方向から襲ってくると思いますから、通常の前衛、後衛という配置取りはできないと思います。ですから、俺の正面方向半分は俺が足止めをしますから、その間に三人で半分を始末してください」


「シド君、本当にそんなことできるの?」


「まあ、やってみないと何とも言えませんが、たぶん大丈夫です。キャサリン、俺の正面方向にグラスウルフが顔を出したら聖波動ホーリーウェーブで奴らの足を一瞬止めてくれるか?」


「かまいませんが、聖波動ホーリーウェーブではダメージは与えられませんわよ……」


「大丈夫、足を止めてくれるだけでいい。それが終わったら三人でそちら半分を迎撃してくれ。その間は俺が三人の背中を守る」


「シド君、気を付けてね」


「シド、背中は任せたわ! こちらを早く終わらせてすぐに助けに入るから待ってて!」


そうこうしている間にグラスウルフが周りから現れ始めた。


やはり数は十匹で、一匹は体躯が一回り大きく、この群れのリーダーのようだ。


そのリーダーは俺の正面に位置していた。


「キャサリン、頼む!」


「分かりましたわ! 聖波動ホーリーウェーブ!」


聖波動ホーリーウェーブは俺の正面方向に同心円状に広がっていき、グラスウルフの動きを止めた。


「今だ!」


俺から伸びた無属性の法力は扇状に五匹のグラスウルフに到達し、奴らの足元から無属性の法力が流れ込んだ。


すると、グラスウルフたちはその場で釘付けになり苦しみ始めた。


どうやら、法力は彼らにとって毒のようだ。


それは俺たち人間にとって魔素が毒であるように、彼らにとっては法力がそうなのだろう。


無事、群れのリーダーを含め五匹のグラスウルフの足止めに成功した。


「こちらは足止めに成功した。そちらは頼む!」


「「「了解<ですわ>!」」」


三人は返事をすると迎撃を開始した。


俺はこの間にリーダーだけでもどうにかしようと考えた。


(さっきのホーンラビット討伐で何度も結界を使った感触だと、たぶん、結界の形状をある程度変化できる様になった気がする。試してみよう)


結界シールド!」


無属性の法力を流したまま、俺は輪型の結界をグラスウルフのリーダーの上に押し付けるように生成し、奴を横倒しに抑え込んだ。


(ホーンラビット用の槍でも腹側の柔らかい部分から骨の隙間に突き入れたら刺さるはずだ!)


俺は槍をしっかり構え、輪型の結界の穴の部分から槍をグラスウルフの心臓の位置に突き入れた。


すると、グラスウルフのリーダーは「ギャン!」というかん高い断末魔を上げ、絶命した。


「これで、他の個体の戦意が削がれるはずだ」


俺が見回すと、俺が釘付けにしている四匹の個体たちはうずくまり、震え、明らかに恐怖して戦意を失っていた。


その直後、後ろからミオが俺の目の前に飛び出してきて、グラスウルフに向かって剣を構えた。


「シド、お待たせ! 聖斬撃ホーリースラッシュ!」


「おい! スキルを使わなくても……って遅かった……」


いうが早いか、ミオは明らかにオーバーキルの威力の聖斬撃ホーリースラッシュであっという間に残り四匹のグラスウルフを仕留めた。


「シド君、お疲れ様。おかげで、正面の個体に集中して迎撃できて助かったわ」


「お疲れ様ですわ。あれ? あの一回り大きな個体はシドが討伐しましたの? 心臓を一突き、綺麗な状態で絶命してますわね」


「ああ、あれは多分、この群れのリーダーだよ。あの個体を倒せば他の個体の戦意が削がれると思って、結界で体を押さえつけて、この槍で心臓を突き刺したのさ」


「他の個体は……酷い状態ですわね……」


「仕方ないじゃん! 討伐スピードを優先したんだから!」


「ミオ、俺が既に四匹を無力化してたから、急ぐ必要はなかったんだよ。もっと冷静に行動して、素材を売れる様に討伐しないとな。でもまあ、リーダー個体が討伐済みだったのを一瞬で見て斬撃が当たらないようにしたのは上出来だった」


「ご、ごめんなさい……」


「シド君、ごめんね。君を信じてなかった訳ではないんだけど、私も討伐速度重視で狩っちゃった。グラスウルフの肉は臭くて売れないから、買取対象は毛皮だけなのにこの状態じゃあ買い取ってもらえないね」


フィーネさんがそう言ったので、三人が担当したもう半分のグラスウルフの状態を確認したら、斬撃でバラバラだったり、焼け焦げていたりと、とてもじゃないが買取してもらえる状態じゃなかった。


「仕方ありません。リーダー個体はきれいな状態で残ってますから、この個体だけ持って帰りましょう。他の個体より一回り大きいので、その分、毛皮の面積も大きいですから通常の個体より高値で買い取ってもらえるかもしれません。キャサリン、亜空間バッグの容量はまだ大丈夫かな?」


「大丈夫ですわ」


「じゃあ、この個体も運搬をお願いするよ」


「分かりましたわ。肉は売れませんが、浄化しておいた方が良いですわよね?」


キャサリンがそう尋ねると、フィーネさんが答えた。


「そうね、浄化しておいた方がギルドの解体担当の人に喜ばれると思うわよ。魔物の血は人間にとって毒だから、解体の時に血が体についたらただれちゃったりするからね。解体する人だけじゃなくて、特に前衛職は返り血を浴びやすいから、常に浄化水などの浄化アイテムは必ず携帯しておく必要があるって覚えておいて」


「ありがとうございます、フィーネ先輩。でも、私は聖剣士で、キャサリンは聖法術師なので自分たちで浄化できますから大丈夫だと思いますけど……」


「ああ、そうだったね! やっぱり羨ましいなぁ。聖属性持ちがパーティーにいるのって……」


「じゃあ、浄化しますわよ。浄化ピュリフィケーション!」


キャサリンはリーダー個体を浄化すると、そのまま亜空間バッグに収納した。


「それにしても、ミオもキャサリンもすごいわねぇ。これだけスキルを使ってもまだ法力切れしないなんて。表情を見てもまだ余裕がありそうだし、すでに熟練冒険者並みの法力容量だね」


「私は小さいころから伯母夫婦に鍛えられましたので……」


「わ、わたしはシドの地獄特訓につきあってたらいつの間にか……」


「へ、へぇ~そうなんだぁ」


ミオの青ざめた表情からフィーネさんは何かを察したようだ。


(そんなに地獄な特訓はしてないんだけどなぁ)


そう思った俺の考えを読んでか、ミオが涙目で俺を睨みつけた。


討伐後の弛緩した雰囲気の中、俺はふと我に返る。


「フィーネさん! 時間!」


「あ! そうだった!」


「みんな全速力で帰るぞ!」


「「「了解ですわ!」」」


俺たちはその後、全速力で本部へ帰った結果、制限時間ぎりぎりに帰着できたが、ゴールと共に四人とも倒れてしまい、買取受付に行くのが遅くなってギルド職員に迷惑をかけてしまった。


その結果 ―――


「冒険者にとって時間管理は必須です! 良い結果が出ている時こそ危険なんです! 多くの冒険者は、あと少しと欲をかくことで死亡しているんです! 家に帰るまでが冒険ですよ! 油断せずに予定通りの行動を取ってください!」


と、シルビアさんからお小言をもらってしまった。


全くおっしゃる通りで、俺は家に帰ったら「冒険者は家に帰りつくまでが冒険」という言葉を書いて自分の部屋の壁に貼り付けることに決めた。


迷惑はかけたものの、買取受付に獲物を提出した際、俺たちはギルド職員から礼を言われた。


実は最近、子供のホーンラビットを狩る冒険者が非常に少なくなっており、ギルドに依頼を出している高級レストランなどからの催促が絶えなかったそうだ。


子供のホーンラビットは繁殖期にしか手に入れられない高級食材なので、大人のホーンラビットが銀貨一枚なのに対し、三倍の銀貨三枚で買い取ってもらえた。


最後に狩った血抜きしていない獲物も、ギルドで血抜き専用のアーティファクトがあるとのことで、その場で簡単に血抜きをするのを見せてもらった。


新人の試験では多くの参加者が、普通の方法では血抜きできないほど酷い状態で獲物を持ち込む場合もあって、毎年このアーティファクトをギルドは用意しているとのことだった。


通常では買取拒否する様な状態でも、新人冒険者が初めて自分で仕留めた獲物を例え銅貨数枚程度の値段であっても、どうにか買い取ってあげたいと言うギルド側の配慮なんだそうだ。


その点、俺たちの持ち込んだ獲物は状態が非常に良く、浄化まで済んでいるため、全て満額買取だった。


帰り道に討伐したグラスウルフのリーダー個体も状態が非常に良く、毛皮面積も広く、また無駄なく毛皮がはぎ取れることから、通常のグラスウルフの買取価格、銀貨三枚の三倍、銀貨九枚で買い取ってもらえた。


その結果、俺たちの本日の買取金額の合計は銀貨百七十枚、すなわち小金貨六枚と銀貨二十枚となり、冒険者ギルドの新人試験の新記録を達成したのだった。


「本日は皆様お疲れさまでした。本日は野外のため、銀貨十枚を超える方の報酬支払いは明日以降、ギルド支部にて行わせていただきます」


当然俺たちの支払いは明日になった。


「試験結果は明日の朝より、ギルドの受付に来られた方から順次お知らせいたします。その際、ギルド証を発行いたします」


(まあ、俺はどうせH級冒険者だろうけど⋯⋯)


「明日から皆さんは正式な冒険者ギルドのメンバーです。私たちギルド職員は皆様を全力でサポートいたしますので、どうか一日でも長く、魔に属する者たちとの戦いの最前線を共に担っていただきたくお願い申し上げます」


シルビアさんがその様に話し終えると、ギルド職員が一斉に新人冒険者たちに頭を下げた。


俺はその真摯な姿をとても印象深く見つめていた。


明日から、たとえ雑用しかできないH級冒険者であったとしても、このギルドに最善の貢献ができるよう努めようと、俺は決心したのだった。



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貨幣の換算

聖金貨1枚=白金貨10枚

白金貨1枚=大金貨10枚

大金貨1枚=小金貨4枚

小金貨1枚=銀貨25枚

銀貨1枚=銅貨25枚


この世界では一般庶民の生活がよく使う貨幣は小金貨、銀貨、銅貨で、使用頻度は銀貨が最も多いため、報酬の受け取りは銀貨でなされることが多い。



【作者コメント】

ここまで本小説をお読みいただきありがとうございます。今話で冒険者ギルドの新人試験は終了となりますが、皆さんいかがでしたでしょうか? 作者はこの小説が初めての長編小説となりますので、読みにくい箇所もあったかと思います。良い点、悪い点も含め、皆さんのご感想をいただけましたら励みになります。今後とも本小説にお付き合いいただけましたら幸いでございます。なお、カクヨムでは、本小説の裏設定などのうんちくがお読みいただけます。そちらもお楽しみいただけましたら幸いです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330649483736017

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